その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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従軍薬師リーナの軌跡

思いがけない、歓喜。

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 その日から……



 第四四師団の皆さんと、森に帰ると意思表示をした獣人さん達の移送方法を、考えていたの。 輜重隊の追加物資運搬時に、一緒に行くのが妥当だと、まぁ、そんな感じに意見が纏まったわ。 アントワーヌ副師団長様が、オフレッサー侯爵閣下に持って行って、ご許可を戴いたみたい。


 これで、道筋はついた。 


 森に帰る人は、森へ。 そして、私と行動を共にする人は、義勇兵として一緒に。 今までとは違った、「責任」が、私に与えられたのよ。 責任の一端に、獣人さん達の健康管理があるわ。 だって…… 消耗し尽くしているんですもの。


^^^^^



 ちょっとね、苦情が入っていたのよ。 第四四師団の方から。 



 王城外苑に獣人さん達が来てから、色んな虫が増えたとか、匂いがキツイとか…… だって、仕方ないじゃない、それまで、水浴びを週に三日しかしてないのよ? それも、十人単位でエスコー=トリント練兵場近くの川で……

 獣人さんの毛皮…… ゴチゴチになっていたの。 当然、色んな虫さんも……ね。 それは、体内も同じ。 調子が悪いと訴えてこられた方々を【鑑定】したら、それはもう酷い状態なの。 内臓の動きは悪いし、寄生虫だって……ね。 

 慌てて、色んな対処薬を錬成して、各人にお渡ししたの。 直ぐに飲んでもらったわ。 しばらくは、厠が大変な事に成ったけれど…… 仕方ないわよね。

 抜本的にどうにかしないといけないと思って、用意したのは、簡易お風呂。 そう、ラムソンさん、シルフィー専用に錬金した、あのお風呂よ。 大きな穴熊族のプーイさんも居るから、かなり大きめの物と、中くらいの、そして、兎人族のウーカルさんみたいに小さい人用の三種類を作って、薬品備蓄庫に設置したの。 勿論、目隠しはちゃんと作ったわ。


 練成する時に、消毒とか、洗浄とか、必要だから、色んな薬草を詰め込んだ特製のモノね。


 ――― 食べるものだって、そうよ。


 肉食の人もいれば、草食の人もいる。 雑食と云える人族とは違うもの。 ラムソンさんにお願いして、王都近くの森で、レッドボアとか、食用に耐えるお肉の調達をしたの。 それと、人族は食べない森の草とか果実とかも、用意したわ。 もうね…… 大変なのよ。 五十人分でしょ? 採取、狩猟で賄うしかないし…… 

 これ…… 王都冒険者ギルドに、継続依頼かけても…… 良いかしら?




「いいのではないか? 知らなかった。 獣人の食べるものなど…… 知識に無い。 市場にも無いならば、王都冒険者ギルドに依頼するのも手だ。 薬師リーナ様は、そっちにも顔が利くのだろ? 第四四師団の庶務主計としては、購入先として王都冒険者ギルトを含める事に異存はない」




 シャルロット様は、そう仰って下さったの。 よかった。 ラムソンさん一人じゃ限界があるもの。 食料になる草や果実、そして、出来れば食肉を、王都冒険者ギルドにお願いする事に成ったの。 継続依頼としてね。 代金は、例の予算から引き出される事になった。 名目は糧秣費。 専用の糧秣って事で、第四軍司令部にもご許可頂いたわ。


 これで、なんとか、息が付けた。

 だって、五十人分よ、五十人分!


 そのうち、何とかしないとね。 戦闘糧食なんか…… どうするんだろう。 とりあえずは、糧秣の備蓄も始めないと…… 飢えちゃうもの。

 獣人さん達の健康状態も、徐々に改善して、美しい毛並みに戻って来たの。 それを見て、師団の人達もホッとしていたわ。 匂いもね…… 獣臭さなんて、無くなって来たしね。 それに伴ってね…… 面白いくらい、獣人さんの表情がね…… だんだんと明るく、笑顔すら浮かべ始めているんですもの。




^^^^^



「薬師リーナ。 お話があるの」




 兎人族のウーカルさんが、忙しくしている私の所に来てくれた。 なんのお話か分からないけれど、結構思いつめた顔をしているの。 どこか、痛い? 誰かに、なにか言われた? 心配している顔になった私に、彼女は首を横に振るの。




「人族の薬師なんでしょリーナは。 私は…… 森では、呪術医ソーサラー見習いだったの。 それでね、色んなお薬や治療法を知っているの、私。 プーイが私に良くしてくれるのも、以前、彼女が怪我をした時に、治療したからなの。 ……リーナは、私達に良くしてくれる。 珍しいお薬を惜しげもなく渡してくれた。 みんな、元気に成って来てる…… それでね…… それでね…… もし…… よかったら…… 呪術医ソーサラーの力…… 使う?」




 とんでもなく、重大な告白。 私一人で、五十人の獣人さんの健康管理は難しいって、思っていた所なの。 嬉しい!! ウーカルさんの申し出を受けない選択なんて、私には無いわ!




「喜んで! もしかしたら、兎人族の人って、皆さんそうなの?」

「うん。 大体はそう。 種族的に…… ” 草喰い ” って呼ばれる事も有るけど、それでも……ね。 大体の獣人の事は判る」

「なら、今いる種族の人達の事は?」

「うん、判るよ。 穴熊族、狐人族、森狼族、森猫族。 其々の禁忌も、食性も、それから…… 呪術的な事も……」

「そうなのね! 嬉しいわ。 もし、貴女達が手を貸してくれるのなら、兎人族の人達はこの部隊の治療士として登録するわ!! 凄い!! 凄い事よ! でも、ほんとにいいの?」

「…………人族は嫌い。 でも………… リーナなら、手を貸してもいいと思った。 それに、獣人族の事を知らないと、治療も上手く進まないもの」

「ありがとう!! 本当にありがとう!! 早速、お願いしてくるわ!!」




 心の中が、ぽかぽかして来たの。 少しだけ…… ほんの少しだけ…… 信頼を勝ち得たのかもしれない。 ウーカルさんが、申し出てくれた事を、さっそくアントワーヌ副師団長様に報告したの。 ニコニコしながら、了承してくださったわ。




「部隊内の事は、君が決めなさい。 第四四〇特務隊の指揮官としてね。 獣人の彼等に関しては、我らは何も知らない。 義勇兵として、どのくらい役立つのかもわからない。 君が決めて、君が運用しなさい。 それが、彼等にとっても良い事になるといいね」




 私からのお願いは通るの。 ウーカルさんを初めてとして、兎人族の人達が治療士として、部隊に登録されてから、一気に皆の健康状態は上向いたわ。 怪我も、疾患もね。 あれほど、敵意を向けてきていた、森に帰ると決断した人達も、表情が柔らかくなったの。


 とても、嬉しい出来事だったわ。


 ニ、三日は、そんなこんなで、とても忙しかったの。 色んな部署を巡り、獣人さん達の住環境や、健康状態をまともにするのに、ほんとお話バッカリしていたわ。 でも、第四四師団の皆さんは、とても協力的に対応してくださった。 

 獣人さん達への対処はすべて、私が執り行うと云う事で、指示がアントワーヌ副師団長様から、師団全体に通達されていたらしいの。 シャルロット様も、イザベル様も最初は心配そうにしていらっしゃったけれど、私が嬉し気に走り回っているのを見て、安心してもらえたみたい。

 だって、何でも相談に行くんだもの、私。

 第四四師団の一部隊として、どうにか動き出せそうな、そんな感じがしたわ。 まだまだ、これからなんだけれど、少しは…… ほんの少しは…… どうにか出来そうな気がして来たもの。

 薬師の部隊としてね。

 お薬を作るだけじゃなくて、治療もする…… 辺境の薬師だもの。 関わった人の安寧を護りたいもの。 

 私の想いは、アントワーヌ副師団長様にも伝わった。 だって、確約じゃないけれど、ボソリと呟かれた言葉があったから。

 ” 薬師リーナ殿は、命を守るためにこそ居るからな。 戦闘には、絶対に関わらせては、いけない。 アイツにもきちんと、釘を打ち込んでおくかぁ ”

 ってね。 




 そして……

 ついに、その日が来たの。



 ええ、そうよ。

 予定されていた視察の日がね。


 ――― 聖堂教会の神官長補佐、フェルベルト=フォン=デギンズ枢機卿。
 ――― 聖堂薬師処、ゴンザレス=バリント=デギンズ教会薬師長

 そして…… 

 ――― ヘリオス=フィスト=ミストラーベ大公 財務大臣閣下


 の、お出ましなのよ。 私に会いに来るわけじゃないわ。


 オトナシク……

 オトナシク……


 やり過ごす事にしようと……


 心に決めたの。


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