その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

文字の大きさ
391 / 714
引き寄せるのは、未来。 振り払うは、魔の手。

錬金室のお仕事



 錬金釜…… どうしようか。 まぁ、ね…… 最終段の魔方陣に関しては、私が置いたものだから、どうでもなるのよ。 でも、奴等が弄くった、本体側。 本当にめちゃくちゃ。 一応は、その原本たる術式は公開されているから、修復は可能よ。 簡単じゃないってだけ。

 それにさ、第十五号棟に放置してあった、小型の錬金釜もあるでしょ。 あれの基本術式って、この大型のものと大差ないの。 基本術式は同じものだから、書き換えによって潰れちゃっている場所は、小型の錬金釜の術式をそっくり転写するだけで、どうにかなりそうなんだけれでもね……

 大錬金釜の前に佇んで、色々な方策を練っていたのよ。




「リーナ、これ移動させるのか?」

「うん、そう。 プーイさんにお願いしたいな」

「まぁ…… 重量的には問題はないけどさぁ…… どっかに当てちゃったりしそうだね」

「だから、これを用意したのよ」




 何枚かの羊皮紙を懐から取り出すの。 いいよね、軍装って、地図とか命令書を入れる大き目のポケットが、上着の内側に備え付けられているから、結構、嵩張る羊皮紙の束だって、簡単収納よ。 指揮官の軍装を貰っていて、良かったって、思えるのはこんなところだなんて、知られたら怒られるかな? まぁ、言わなければ、誰も判んないし、いいかッ!

 でね、取り出した羊皮紙には、【浮揚】の術式が描かれているの。 私が魔力を注ぎ込んだら、即起動するようになっているし、術の強度も継続時間もかなり長いわ。 今日一日だったら、継続使用が可能よ。 簡単な…… 本当に簡単な、魔道具よ。 符呪式に則って、定着させているからね。 魔道具としては、限定的な使い方しか出来ないけれど、こんな場合には特に有効なのよ。

 大錬金釜の足の近くに同じ方向にずらして、羊皮紙を置くの。 そして、プーイさんとかにお願いして、錬金釜を持ち上げて、ちょっとずらして、その羊皮紙の上に足を置く。 で、羊皮紙に魔力を注ぎ込むと……


 あら不思議。 私の片手でも、ズイって感じで横にすべるように動くのよ。


 だって、床からちょっとだけ浮かんでいるんだものね。 重量はあるのよ。 相当に重いの。 だから、ぐいぐい押しちゃったら、それこそ止められないし、止めようが無い。 だから、プーイさん達にお願いするよね。 彼女だったら元から力が強いし、重いものでも簡単に動かせる。 力加減だって良くわかっているもの。 

 にやりと笑うプーイさん。




「なかなか面白いものだね、コレ。 滑るように動くけど、重さがなくなった訳じゃない。 坂道とかで、上から落としたら、どんどん早くなって、止まんないだろうね」

「そうなのよ。 だから、力の強いプーイさんにお願いしたいの。 持ち上げる力は必要ないから、ゆっくりと運んでもらえるでしょ? 万が一、行き足が付いて、止まんなくなっても、プーイさんなら止められると思うのよ」

「そうだねぇ…… まぁ、そんな事に成らないように慎重に動かすか。 で、何処にもって行くんだい?」

「うん、裏側のお部屋。 あんまり日が差さない、アノお部屋に入れようと思うの。 お日様の光に直接当てちゃうと、お薬類が変質しちゃったりするもの。 だから、冷暗所での作業が必要なのよ。 特に大型の錬金釜はそれ自体が発する熱も馬鹿にならないから」

「そうかい。 判ったよ。 じゃぁ、ゆっくりと動かすからね。 ねぇ、ウーカル、前、見ててくれないかい?」

「いいよ、判った。 よし、そのまま、部屋の中央に。 出口は狭いから気をつけて!」



 ゆっくりと、でも確実に大錬金釜は移動して、予定していたお部屋に入れることが出来たの。 思っていたより、簡単に済んでよかったわ。 羊皮紙から魔力を抜いて、そのまま着床。 もう、簡単には動かないわよ。 

 後は…… 残っている、ごみの様な魔法草を箱ごと持ち込んでもらったのよ。 試験運転にはもってこいな感じの古い薬草なの。 まぁ、これで医薬品作るっていうのもなんだしね。 第十五号棟から持ち出した、錬金関連の器具は、全部この部屋に持ち込んでもらったわ。



 検査器具とか、小さい錬金釜とかね。



 みんな、何処かしら壊れていたんだけど、主な故障の原因は、内包魔力の消耗だったりするの。 はめ込んである魔石が劣化しちゃって、魔力が貯められないから、使えないってのが多いのよ。 でね、ウーカルさん。 この人、呪術医ソーサラー見習いだったのよ。 だから、魔石の扱いがとてもうまいの。

 更にね、消耗して劣化した魔石の【再活性リアクタル】なんて、術式を知ってて使えるのよ。 お願いして、試しに検査器具の魔石に掛けてもらったの。 本来の八割くらいの能力が出るようになったわ。




「凄いわね、コレ」

「そうですか? 森で結界に使う魔石の【再活性リアクタル】が必要だったので、習い覚えた見習い必須の魔法ですよ?」

「そうなの?」

「ええ、何度も繰り返して、【再活性リアクタル】していると、そのうち使えなくなります。 でも、この魔石はまだまだ使えますよ?」

「ありがたいわ。 ……その知識は、森の人達の知恵なの?」

「う~ん、どうなのでしょうね。 秘された魔法では…… 無いと思うのですが、獣人は魔法が苦手であると、人族は皆そう思い込んでいますが、一部の者はそうでもありませんね。 古来からの英知は、その人達によって、護られて受け継がれ居ますから」

「それが、呪術医ソーサラーなの?」

「まぁ、そうですね。 後は呪術者シャーマンとかもいらっしゃいますけれど…… そんなには……」

「そうなのね。 また、色々な術式教えてくださらないかしら?」

「えっ? 私がですか?」

「そうよ、ウーカルさん。 貴女がですよ? だって、こんなにもすばらしい術式をご存知なんですもの。 人族の認識など、当てに出来ませんわ。 貪欲に、色々な術式を求めるのは、魔術師としての本能ですから」




 ニッコリと笑うと、ウーカルさんも頬を染めて、はにかんだ笑いを浮かべてくれたの。 そうよ、何事も勉強なのよ。 だったらね、この大錬金釜の再起動のための術式解析にも、彼女を巻き込むのは必定よ。

 大錬金釜の前に立って、内包されている術式を次々と展開してみたの。 基本構造式なんだけどね。 ウーカルさんにも見てもらったの。 よくわからないって、そんな御顔なんだけど、細かい部分の説明をしてあげると、ストンって感じで理解してくれたわ。

 そんな感じで、夕方まで、色々と弄くったの。 焼き潰されたような場所は、小型の錬金釜を見本に新たに書き直ししたり、魔力の制限回路がおかしく記述されている所を直したり。 検査器具を使って、一部回路を起動して、検査したり。 まぁ、色々とね。

 これだけ、ひっちゃかめっちゃかに弄くられ、壊されていたのなら、王宮魔導院が手を引いたのは判る気がする。 直すと成れば、相当な時間と人が掛かるし、私みたいに書き換えに苦労しない人なんか、かなり希少だって聞くものね。 高位の魔術師は本当に希少なのよ。

 まぁね、私はそんな王宮魔導院に登録された魔術師じゃないし、あっちからの要請も無いだろうしね。 あっ、ティカ様は別よ。 あの方の要請だったら、第一にお伺いするわ。 

 冬の夕暮れは早いの。 退勤時間ともなれば、あたりは薄暗く夜の帳は落ちているのよ。

 護衛の皆さんと一緒に、お家に帰るの。 第十三号棟にね。 

 明日からは、クレアさんか、スフェラさんも一緒に行く事に成るのよね。 事務方のお仕事…… お願いしなきゃね。 あと、お昼ご飯の件も相談しなくちゃね。

 色々と…… 本当に色々と有った、今日一日。 大変だったけど、それなりに充実してたし、大錬金釜の再起動に目処も立った。



 いい日だったじゃない……



 アノ人は、そうでもなかったかもしれないけど…… 

 命が助かっただけでも、もうけものよね。

 空に掛かる大きな月を見上げながらの帰り道。

 冷たい夜風が、心地いいの。

 明日からは、本格的に大錬金釜の再起動試験。

 うまく動いてくれる事を期待して……





 こんばんは、眠りに付こうとそう思ったのよ。





感想 1,881

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。