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引き寄せるのは、未来。 振り払うは、魔の手。
闇の源流 闇の中の光 (2)
ちょっと煤けた感じはするけれど、建っている場所が場所だから……ね。
しっかりと、精霊様に祈りを捧げ、教会の中に入るの。 天窓から降り注ぐ、大晦日の光は聖壇を明るく照らし出して、それはそれは荘厳な空気を纏っていたわ。
まずは、聖壇の前に行き、両膝を突き精霊様に祈りを捧げる。 礼儀とかじゃなくて、本心でね。
” 今年も善き年でありました。 人々の安寧、平和な時を護って頂いた、大いなるご加護に対し、感謝の祈りを捧げ奉ります。 ”
心の内で、そう呟くの。 頭をね…… そっと撫でられたそんな気がしたの…… 薄っすらとだけど、精霊様の息吹も感じるの…… 祈りはね、真摯に誠を捧げる事によって、精霊様と繋がる事が出来るわ。 薬師として…… 治癒師として…… これは、絶対なの。
そんな私を見て、フルーリー様も、デギンズ助祭も同じように膝を折って、聖壇に向かい祈りを捧げておられた。 ちょっと、慌てていた感じね。 忘れてたでしょ…… 駄目よ、それは。
「さて、デギンズ助祭。 何処にご招待していただけるのでしょうか? わたくしを招くと云う事は、お怪我か、病魔に倒れた方が居られると云う事で間違いは無いのでしょ?」
「ええ、そうなのです。 どうぞ、こちらに。 足元にお気をつけ下さい」
「はい」
聖壇の裏側に誘導されたの。 予想通り、地下へと続く階段があったわ。 トントンと降りて行き、さらに狭い廊下を歩くと、厳重に封じられている一枚の扉。 デギンズ助祭が、懐から呪符を一枚取り出し、扉に押し当てると、音も無くその扉は開いたの。
まぁ、そうね、そうなるわよね。
扉の先の廊下は石造り。 等間隔に魔法灯火が並んでいる。 どこかで見た情景とそっくりよ。 デギンズ助祭がちょっと驚かれた様に口にされるお言葉。
「驚かれないのですね」
「ええ、まぁ…… この地下道を辿ると、聖堂教会、本聖堂の地下に通じているのでしょ? そうでは御座いませんか?」
「そこまで、ご存知なのか……」
「あくまで、予測しただけに御座います。 フルーリー様? どうされましたの?」
「い、いえ、そ、その…… 王都ファンダルにこのような場所があるなど…… 知りませんでした。 とても驚いております」
「緊急の脱出路なので御座いましょう。 高貴なる方々、聖堂の枢機卿様も含め、いざと云うときには王城を捨て去ることもまた…… 王国国体を護る上で必要な処置なのです。 悲しいことなのですが、現実は厳しいもの。 この地下道が本来の目的を果たすときには、王国民の大多数が塗炭の苦しみに苛まれるとき。 そんな時が来ないように、祈るしか御座いませんわ」
「リーナ…… そうね…… そうならないようにね……」
地下道を足早に歩くコツコツという私たちの足音。 数は二つ。 シルフィーも、ラムソンさんも 私と同じように、足音を立てずに歩けるものね。 シルフィーたち二人は、気配すら薄くしているもの。 この地下道が終わる頃、デギンズ助祭もフルーリー様もきっと彼女達の事は認識できなくなっている筈よ。
狭く長い地下道の先。 やがて一枚の扉が見えてきたの。 これまた厳重に封印されていたけれど、同じように、デギンズ助祭様が呪符を押し当てることによって、開封された扉が大きく開いたのよ。 まぁ、そう云う事ね。
扉の先の景色は…… とても穏やかな空気が流れ、優しい精霊様の息吹が溢れんばかりの…… 寝室だったの。
^^^^^^
「エクスワイヤー枢機卿様、薬師リーナ様のお越しを願いました。 ココに」
豪華な寝台脇に、沈痛な面持ちで座って居られた、壮年の神官様。 着用されているモノから、高位の神官様であることに間違いないし、デギンズ助祭様が、枢機卿様って仰ってたから、間違いは無いと思うの。
エクスワイヤー枢機卿様。
聖堂教会の首座である、枢機卿様のお一人なのよ。 神様と精霊様に祈りを捧げられる、大切なお役目を負う、聖堂教会の大切な方。 聖堂教会が聖堂教会である為の、創造主様と、精霊様達に捧げる儀式 ” 全て ” を、取り仕切ると、そう云われているお方だった。 でも…… なぜ? この大晦日に?
新年の祈願祭が直ぐそこに迫っていると云うのに?
それに…… 枢機卿様が寝台の側で祈られていると云う事は、寝台に横に成っておられるのは…… 御倒れに成ったっていうのは……
パウレーロ=チスラス神官長様 なの?
祈りを捧げられていたエクスワイヤー枢機卿様がお顔を上げられたの。 端正で物静かな御顔。 方眼鏡が、キラリって光るの。 紡がれるお言葉は、さながら聖句の様。 神聖な御方にしか見えないわ。
「貴女が薬師リーナ殿。 お噂はかねがね。 辺境の教会、そして、王と周辺の教会からも、貴女への賛辞が書状にて此方にも伝わっております。 ファンダリアの民への献身に感謝を。 貴女をこの世にお遣わしになった、創造主様へ、感謝の祈りを捧げます。 ユーリ。 君が思う、最良とは、彼女の事ですか?」
「はい、枢機卿様。 わたくしは、チスラス神官長様が、全てを終えたとは思えません。 神官長様が遠き時の輪の接する所に赴かれるのは、まだ、早いと…… そう愚考いたします。 もし、その時が今であれば、非才成るわたくしが何をしようと、神官長様は旅立たれます。 故に…… 一つの試みに御座います。 薬師リーナ様の本分である、創造主様より分け与えられた、「癒しと治癒の御力」を持って、その時かどうかを諮りとう御座います。 今の聖堂教会には、神官長様が必要なのです。 何卒、なにとぞ、お許しの程を」
フゥと溜息が一つ落ちる。 エクスワイヤー枢機卿からね。 そうね、私を連れてきたのは、デギンズ助祭の意思だと云う事。 そして、エクスワイヤー枢機卿もその事を判ってらっしゃる。 見るに、チスラス神官長様は、何かしらの病魔にとりつかれているわ。 そして、其れを天命として、受け入れられている。
寝台に横たわる、神官長様の周囲に、幾多の精霊様が飛び回っているのが見えるの。 抜けそうに成っている魂を押し留めようとされている。 そうね、これは…… 天命では無いわ。 でなきゃ、精霊様があんな風に、押し度止めようとはされないもの。
「非才なる薬師、ココに参じました。 ご許可頂けるのであれば、彼の方のお側に。 そして、治癒師としての本分を全うする事を、お許し頂きたく」
私の言葉に、暫しの沈黙を護った後、エクスワイヤー枢機卿は頷かれた。
「何分ご高齢でもある。 覚悟は出来ている」
「ご冗談を。 ご高齢でも、このような状態になるのは、病魔に冒されている為。 わたくしの知る、ご高齢の方は、矍鑠と誇り高くおいでになっておられます。 時がこの方の天命を全うしたと、そう判断される時は、病魔ではなく、眠るように旅立たれる事でしょう。 まだ、その時では無いと、そう思います」
「小気味良いな。 判った。 脈を取って欲しい」
「御意に」
これは、私の矜持。 やるべきを成せず、道半ばで倒れたるモノ達の怨嗟の声が、思い出される。
やりたくても出来なかった者たち。
生きたくても、失われてしまった者たち。
私の『薬師』、『治癒師』としての力が足りずに、失ってしまった、数多くの命。
研鑽を積み、知識を蓄え、天命を全うできるように手助けをする事。
それが、私の矜持なの。
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