その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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北の荒地への道程

その日(3)

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 大きく王城を回り込んで、『処刑場』に到着したわ。



^^^^^

 衛門も無く、王国民は誰でもその場所に入ることが出来る、そんな施設。 ” 見せしめ ” の効果も狙っているのかしら? 悪いことをしたら、刑罰として処刑されると云う事は、それだけ、治安の安定化に効果を発するから?

 性善説を取りたい私だけど、それでも一定の効果が出ていることには、同意するわ。  本格的に悪事に手を染める前に、ちょっと考えるもの。 最悪が…… 前世で私が受けた、『丑引きの刑』…… なんだものね。


 ”  ” の効果を最大限に有する、『丑引きの刑』。


 そんな刑罰を受けるなら…… って、犯罪を犯す人は躊躇いを覚えるのよ。 はぁ…… 私が云うのも何なんだけど…… あれも…… ある意味、有意義だったのかしら……


^^^^^


 営門もない、そんな『 処刑場 』の入り口で、時を待つことにしたの。 ティカ様が指示されたのか、大きな荷馬車に、まっさらの磨き込まれた ” 黒輝石の聖壇 ” も、到着していた。 


 神聖な雰囲気を周囲に醸しているその聖壇を見て、みんなも緊張の面持ちね。


 それだけじゃ無さそうなのは、シルフィーとラムソンさん。 前にこの場所に来た時の事を覚えているものね。 私が魔力枯渇で倒れてしまったのだものね。 あの黒い鎖に魔力を奪われて…… 

 でも、大丈夫よ、今回は、その根本原因を分解昇華するために来たんだもの。

 そして、彼らも、その手順を知っている。 緊張の面持ちの二人だけれど、今は只々、静かに ” その時 ” を、待っているのが、その証拠。



 さぁ、準備を始めるわ。



 手に【解呪】の魔方陣を紡ぎ出して、”  ” を、待つの。 起動魔方陣には、当然のごとく、「魔力変換術式」が挟み込まれているの。 ティカ様に見てもらって、問題点を洗ってもらってから、とても美しく、そして効率的になっている術式。

 この術式は、変換効率もよくって、ほぼ完全に私の魔力を変換してくれるわ。 だから、魔方陣の運用に必要な魔力量に上乗せは必要なくなったのよ。 幾枚かの【解呪】の魔方陣を私たちを取り巻くように、設置して、そして、時を待つの。


 そして、合図の鐘の音が、王都ファンダル一杯に広がるの……





 ゴーン、

   ゴーン、

     ゴーン…………





 荘厳な鐘の音。 聖堂教会の鐘塔から、美しくも神聖な ” 刻、告ぐる ” 鐘の音が、王都ファンダルに響き渡ったわ。 この時点を以て、ティカ様が今の「ミルラス防壁」への最後の命令を下された筈。

 遠目に見る、処刑場の「魂の捕縛術式」がのたうつ。 とても苦し気に…… 励起状態ぎりぎりの魔力が、ティカ様の命令によって、どんどんと消費されていくのが見えるわ。 王都全体を取り囲む、強度の防御術式が、まるで点滅するように揺らぐんだもの。 そして…… 



 ――――「ミルラス防壁」が停止する。




 穴の開いたように…… あちこちの防御術式が綻び、空に点々と染みのような穴が穿たれていく。 魔力を持った人が、【鑑定】の術式を展開していれば…… それが何か判ったかもしれないわ。 でも、普通の人には……

 なにも…… そう何も感じられないはずよ。

 染みのような穴は、その大きさを増し、そして…… すべてが崩れ去った。

 今、この時点で、どこかの勢力が王都ファンダル、王城コンクエストムに対して大々的な魔法攻撃を仕掛けてきたら…… なんの抵抗も出来ず、着弾するわね。 大きな被害と、莫大な人命が失われるわ。



 ―――― させないわよ、そんな事。 



 出来るだけ短時間で、終わらせるわ。

【解呪】の魔方陣を周囲に展開しつつ、私は護衛の人たちに残るように言い、一人で突入するの。 魔力が欠乏した、「魂の捕縛術式」がどんな挙動に出るかわからないんだものね。



 ―――― だから、私ひとりで行くの。 



 私だけが、そう、私だけが、この異界の魔力で構成された【解呪】の魔方陣を使うことが出来るんですもの。




    さぁ! やるわよ! 




 足早に『 処刑場 』 中央にある、「魂の捕縛術式」の元に向かうの。 ちょうど、処刑台から、黒い鎖が生えてきているように見えるの。 瞳に張り付けてある、【限定詳細鑑定】の術式から、限定部分を緩和してあるから、とてもよく見えるのよ。

 うねうねと動き、周囲に取り込める魂が無いかと、探しているその黒い鎖が、私に気が付いた。 私は、お母さまから「血の継承」を、受けている為、黒い鎖の標的になっているの。

 残余魔力を振り絞るようにして、黒い鎖が私に向いて走るのが見えたわ。


 そして……


 私の前に展開する【解呪】の魔方陣に接触すると同時に、” 昇華 ” したの。途轍もなく、甲高い音を振りまいて、まるで、吸い込まれるように…… ばらばらになりつつ、金色の光の粒になって、高く蒼い、秋の空に向かって…… 消えていったのよ。


 ―――― ギャァァァン


 って、鳴き声のような、そんな音が周囲に響き渡る。 音も情景も無視した私は、足早に、処刑台中央に向かい、到着したの。 【解呪】の魔方陣をすかさず、ぶつけるの。 「魂の捕縛術式」本体の一部が分解昇華され、黒い鎖の生成が終わりを告げたの。 

 半壊した、「魂の捕縛術式」は、自身を補修しようとするけれど、それを許すだけの魔力はすでに失われているわ。 修復術式が刻まれている部分に、【解呪】を投入。 それで、もう二度とこの術式は再生する事が出来なくなったの。




 ―――― 分解は進み、辺りは金色の光の粒に覆われていったの。




 でも、このままではまだまだ不完全。

 右手に魔法の杖を持ち、左手に魔方陣を紡ぎ出すの。 使用する魔法は【聖浄浄化】 あの、「穢れし森」の中で、偉大なる王を捕らえていた、魂の捕縛術式を昇華させた、浄化魔法。 起動魔方陣に「魔力変換術式」を組み込んだわ。 そう、例の綺麗な術式ね。

 生成した起動魔方陣に魔力を注ぎ込み、そして起動。



    ” 発動、【聖浄浄化】 ”



 口の中でそっと呟くように、そう唱えるの。 励起魔力が注ぎ込まれた【聖浄浄化】の魔方陣が発動する。 どんどんと大きくなる魔方陣。 網がかかるように、「魂の捕縛術式」に覆いかぶさるの。 そして、囚われて、魂が削られていた者たちが、遠く時の輪の接する処にむかって…… 解放されていったわ。


 ”罪人つみびと” とはいえ、その魂が削り消滅する事は、世界の理を崩す原因になる。 だから、それは…… それだけは譲れない。 また、魂の還る場所に戻り、生まれ直して欲しい。 魂の輪廻は、この世界にとっても、必要な事なんだもの。


 ふと、頭を撫でられたような気がしたわ…… 優しく、慈しみに満ちた御手。

 ノクターナル様…… 解放された魂を引き連れるために、おいでになったのね。 そして、とても、とても、満足されているわ。 お慶びの様……




 ” 願わくば、迷いし頑迷なる魂を、時の輪の接する場所へ導き給え…… 彼らの魂に、平安と安寧を…… ”



 そう…… 祈りを捧げるの……

 幾つもの、幾つもの光の珠が空に向かって浮かび上がって行く。

 分解昇華された、「魂の捕縛術式」の欠片が光の粒になっていく、幻想的な光景の中。

 囚われていた『  』が、【魂の故郷遠き時の輪の接する処】へと還っていくのを……




 ノクターナル様に、感謝と祈りを捧げつつ、その光景を見詰めていたの……




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