その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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北の荒地への道程

北の荒地への道程(3)

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 ――――― 王城コンクエストム。 





 白亜の巨城。

 蒼い尖塔の屋根。

 穿たれている、多くの細長い窓、窓、窓……

 今日は、秋季大舞踏会が挙行される日。 日もまだ高いうちから、窓から魔法灯の明るい光が漏れているの。



 近くに寄ると、首が痛くなるほど、高く聳えて建っているのよね。 このファンダリア王国の象徴。 威厳と権能を見せつける様な、そんあ威容を誇る居城コンクエストム。



 その巨城に真正面から、登城するなんて……

 ほんと、気後れがしてしまう。




 ^^^^^



 王城王門とは反対側の『王城外苑』接続扉からの登城とは、訳が違うものね。 いつもは、まぁ、言ってみれば、コソコソ、王城に入るって感じなのよ。

 今日は、正式な招待状を持っているから、その道は通れないのよ。 行っても、王門へ向かうように言われるわ。

 いつもとは、反対側の王門を抜けようと、王都ファンダルの大街路…… 正式名称を、王通りロード・オブ・ロードって云う道を、豪華な馬車で向かっていたの。

 とても、混雑しているの。

 今日が、秋季大舞踏会だからだよね。 本夕刻。 第七刻に、国王陛下が御臨席になるのよ。 それまでに、貴族の皆さんは王城に入らねばならないの。 当然、並みいる王国の貴族様方が、一斉に王城コンクエストムに向かうか、混雑具合は、ひどい物よ……



 ―――― まぁ、街も ”秋のお祭り収穫祭 ”だしね。



 混雑が酷い理由がもう一つあるの。 お昼から、夕刻に掛けて、王通りロード・オブ・ロードは、王城に向かうために一方通行。 さらに、一般の通行は禁じられているの。

 道の左側から右側の区画に行く為には一度、王城コンクエストムを大きく回り込む必要も在るの。 とても不便だから、市街地の市場はお休みになるくらい。


 そんな、王通りロード・オブ・ロードは、貴族様方のお乗りになった馬車で、一杯になるのよ。 まるで、高級馬車の品評会の様にね。 普通に通れば、それこそ、歩く方が早いくらいなの。 でも、王城には馬車での登城が義務付けられているし、貴族様方が ” 歩いて登城する ” なんて、選択肢は無いわ。

 官吏の方々は別よ、あれは、お仕事に向かうんだもの、時と場合に寄ったら、徒歩でも登城されるわ。 でも、今日は、正式な国王陛下主催の大舞踏会。 だから、格式も見栄も、自分の置かれている立場をきちんと表明するためにも…… 馬車での登城が義務付けられているのよ。



 ――― 混雑がとても ” 酷い ” 理由よね。



 ……でもね、そこはやっぱり、色々と例外もあるわ。 特に特権階級の高位の貴族様方にはね。 この王通りロード・オブ・ロードでもそう。 一番に込むのは、道の両端。 箱馬車が七台くらい並走出来る程の道幅が在るのだけれど、道の両端は下位の貴族様方が通る道。

 王通り中央部分は…… 当然の事の様に、高位の貴族様方の通り道。 それも中央部分に行くに従い、通行できる方々は限られているのよ。



 四家の大公家なんかは、その筆頭。



 中央部分を通ることが出来る家格は、公爵家以上の家格の方々。 その両脇が侯爵家、辺境侯爵家、辺境伯家。 その外側にぐっと数が多くなる、伯爵家。 再外側の道を通らざるを得ないのが、その他の…… 莫大な数の、子爵家、男爵家、そして、騎士爵家の皆々様方。

 秋季大舞踏会のある『今日』は、庶民が通れる場所では無いもの。 でもね、今、私は長い馬車の行列の真っ只中に、居るのよね……

 王城コンクエストム、王太子府よりの招待状…… というか、召喚状を持っているから、私は馬車で王城コンクエストムに向かっていけるわけなのよ。 そうでなくちゃ、庶民の私が、” 今日 ” 王通りを ” 馬車に乗って ” 向かえるわけもないわ。



^^^^^


 王通りには、いくつかの検問所が在るの。 


 下位の貴族さん達は、上位貴族さんに覚えてもらおうと、色々な ” 贈り物 ” を準備して、王城に押しかけているわけなのよ。 勿論、王城に持ち込める物には、色々な制限があるの。

 それを確認するため、そして、王城に本当に招かれているかどうか、招待状の確認も必要な事なの。 警備側としては、当然の処置ね。 目を盗もうとする輩もいるから、王都ファンダルの端っこから、王城コンクエストムまでの間に、都合三か所。 検問所は在るのよ。

 今日、” 王通りロード・オブ・ロード ” に、横入り出来るのは、大公家、公爵家の方々の馬車しかないものね。 だから、私の乗っている馬車も、一旦王通りロード・オブ・ロードの端っこまで、行くのよ…… ほんと、面倒な事なんだけれど…… 警備を考えたら、妥当…… かな?


 これだけの貴族様を検問する場所は、開けた場所が必要ね。 そこは、広場になっている処。


 そうでないと、馬車を一時的に停めて、馬車の中を改め、施行される方々の照会を掛けるなんて、出来っこないもの。 だから、長い長い行列にもなるんだけれどね。

 そう云う私もその列に、馬車ごと並んでいるの。 ゆっくりと…… 歩くような速度で、進行していく馬車の列。

 街並みにも、人影は少ないの。 だって、通行禁止と ” 王通り ” に、接近する事に厳重な制限がかけられているんだものね。 街中のお祭り騒ぎとは裏腹に、とても静かなのよ。 見るべきものは…… あまり無いわね。 ただ、軍属の私の目からすると、要所要所に立哨に立つ兵隊さんの姿がねぇ……

 誰がこの警備体制を敷いたのかは知らないけれど、きちんと考えられていたのよね。 立場のある方々を護る為に、相当苦労されているのが、手に取るように分かったの。

 長距離で狙撃できそうな、小さな教会の尖塔の窓には、板が打ち付けられ射線が通らない様にされているし、武装集団が潜伏し、一気に押し出せそうな倉庫の扉には、歩哨さんが立ってらしたもの。

 ゆるゆると進む馬車の窓から、その様子を眺めていたの。 ピンと背筋を伸ばしたままね。




「リーナ様。 馬車の中です。 御寛ぎ下さいませ。 まだ、時間は掛かるかと……」

「いいの。 ドレス姿だと、自然とこうなってしまうから。 誰が見ているかもわからないし、わざわざ、悪罵雑言の種を撒くわけにはいかないでしょ?」

「ですが……」

「シルフィー。 ここは、私の好きにさせて。 きっと…… 王通りロード・オブ・ロードの警備の厳しさに、身体が自然に反応しているだけだから……」

「左様にございますか…… 厳しい警備体制を取られておりますね」

「シルフィーの目からしても、そう判断できるようね。 ええ、とても厳しい警備よ。 検問所で何を言われるか…… ちょっと心配になってきたわね」

「リーナ様、そちらの方は、わたくしが対処いたしますので」

「お願いするわ。 頼りにしているから」

「……勿体なく」




 辺りの空気感に自然と口も重くなるわ。 だってねぇ…… 豪華で気品がある黒塗りの箱馬車なのに、” 無紋 ” なんて、この行列には居ないもの。 ” 誰だ? ” って、そういう視線があちこちから掛かるんだもの。

 そういえば、そこに、嫌悪や蔑みは無いのよ、不思議な事にね。 ただ、興味を持たれている…… って感じかしら?  すこし…… いいえ、随分と居心地が悪いのよ。




 ――――― そう、貴族の方々の乗る、馬車からの視線がね。




 値踏みされるような……


 射貫くような……



 その居心地の悪さの原因は…… 窓から見える私の顔を、食入る様に見つめる、” 若い貴族 ” の方々。




 なんだか、見世物の ” 魔獣 ” にでもなった気分。




  なにが、そんなに………………




               気になるのかしら?





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