その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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断章 22

 閑話 暗渠からの想い

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 王城コンクエストム 第三階層。 宰相府がある区画。 外周に近いその場所。


 人の出入りの無い、掃除用具室があった。


 部屋には廃棄寸前のブラシやモップが無造作に積み上げられている。 そんな、あまり綺麗とは言えない小部屋に二人の人影があった。 一人は未だ青年とは言い難い者。 もう一人は官服をきっちりと着こなした老人。



「貴方の指導役とか、首席情報担当官としては、未だに善き考えとは思えませんが、御小さき時よりお側に居た、” 爺 ” としては、坊ちゃんの心情は痛いほど理解できまする。 よって、個人の権限を持ち、最大限努力した結果…… 一名のみ、王宮学習室への入室の許可をもぎ取りました」

「悪かった…… 相当に無理を押してくれたのだろうね」

「坊ちゃん……」

「爺ならばと、頼んでよかった。 此処からは、私一人で行くのだろ?」

「はい。 あちらには既にお知らせしております」

「王城コンクエストムには、この様な秘密の通路が他にも?」

「全貌は王家に関わる、闇の住人達しか存じません。 また、全てを知る者は…… 現在は居ないかと」

「そう……ですか。 しかし、それでは警備上、問題になるのでは?」

「王城コンクエストムから外に出る分には、誰でも脱出出来きますが、王城外側からの入城となりますと、厳重な魔法術式の結界とも云える物が存在しております。 王族以外に外からの侵入は不可能でしょう。 …………万が一、途中通路が一か所でも破られた場合は、通路全体が一気に崩落するようになっているとか……」

「その術式を編まれ設置されたのは…… 『海道の賢女ミルラス様』ですか」

「まさしく。 獅子王陛下親征のおり、万が一王城コンクエストムに敵が侵入してきた場合の王族の方々や重臣の方々の脱出路として…… そして、万が一王族や高位貴族が王城内で拉致監禁された場合、奪還の手段としての進入経路として…… ミルラス様が防壁と一緒に敷設されたと、記録に有ります」

「そうですか…… 運用を任されたのが、宰相府が管轄する『月夜の瞳わたくし達』という訳ですか?」

「一部は…………。 そうで御座いますね、坊ちゃん。 しかし、管轄権は、わたくし達の手の者だけでなく、影働きする組織の、選抜された者達が共同で担っていると、そうお思い頂ければ宜しいかと。 『王家の見えざる手』が取り仕切る内容ですので」

「判りました。 …………では、行きましょうか」

「ロマンスティカ嬢が待っておいでです。 中は暗いので、お気を付けて」





 薄暗い小部屋の中での、密やかな会話。 老官吏は、積み上げられた古い桶の横に有る、燈されていない魔法灯の燭台をクイッと廻す。 何かが動く気配があり、やがてぽっかりと壁に穴が穿たれた。 若い漢が身体を横にしては入れる程の、隙間の様な開口部。

 漆黒の闇の中足元に有るのは螺旋階段の一部。 上下に続くそれは、先も見えない。




「灯火は全くありません。 この脱出口は王宮学習室と、王城コンクエストム外部への通路です。 上階に繋がる螺旋階段が終わる場所が、坊ちゃんの目的の場所となります」

「ありがとう。 ……下はどうなっている?」

「王城下部に、そして地下に入ります。 が、残念な事に脱出経路の横穴が一部損壊した為、地下部分は全て崩落し使用不可能となっております」

「補修は…… 無理なのですね」

「はい、残念ながら。 しかし、脱出路は一本では御座いません。 他の経路は保全されております。 この通路を使う者はもういませんし、王家の承認さえ有れば、極秘の通路として宰相府と王宮学習室の経路としての使用の許可を得ました」

「……ありがとう。 私の為に……」

「坊ちゃん。 無理は押し通しました。 ウーノル王太子殿下も、貴方ならばと、御許可を出されました。 ……殿下より御言付があります」

「なんだろうか?」

「” エドワルド=バウム=ノリステン子爵に伝えてくれ。 ティカを頼む。 アレの心の碇石いかりいしに成ってくれ ” と」

「…………難しい。 本当に難題を殿下は与えて下さいますね。 爺…… いいえ、クラークス卿。 私は、殿下の御心に叶うように、努力いたしましょう。 ……では」




 身を翻し、暗闇の中に上へと続く螺旋階段に身を躍らせたエドワルドは、老官吏クラークス伯爵と別れ、一路王宮学習室の小部屋への経路を辿った。 どこまでも続くと思われる螺旋階段は、その足元すら怪しい程の闇に包まれていた。 

 外部からの光は全く入ってこず、ただ、ただ、ひたすらに続く階段のみ。

 その螺旋階段を、ひたすらに、ひたすらに上っていくエドワルド。


   その姿は、まるで巡礼者如く

  



       ――― 求道者の如く






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