手の届く存在

スカーレット

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本編

~Girls side~第7話

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パパが乱入してくれたから、これでもう、私の勝利は決まった様なものだ。
大輝が用意できる程度の逃げ口上など、軽く封殺出来るだろう。
そういえばまだ大輝の携帯、初期設定からほとんどいじってなかったな。

試しに私の携帯にメールでも送っておくかな。
すっごい下らないあいうえお作文。

あなたのことがーチュキだからー
いんぐりもんぐりしたいです
宇堂大輝は誓います
エロい妄想は現実に変える!
オ○ニーは一日五回まで

うん。
ネタに新鮮味はないけど、逆にいいかもしれない。
一日五回じゃ利かないかもしれないけどね。

「あの……何してんの?」

私が大輝の携帯をいじってることに不安を感じたのか、大輝が恐る恐る尋ねてくる。

「携帯ってさ、メールって機能があってね」
「うん」
「大輝の携帯から、私の携帯にメールを送っときました」
「ちょっと待て、何を送った!見せろ!」

大輝は顔を青くして私から携帯を奪おうとした。
赤くなったり青くなったり、忙しいなぁ。
信号じゃないんだから。

「残念、大輝の送信履歴はもう消しちゃいました」
「くっ……何てことしやがる……内容はわからないけど……いい子だからその携帯寄越しなさい」

しめた。
計画通り……。
寄越しなさいと言われればそりゃ渡しますがな。
素直に受け取っちゃう大輝可愛い。

「なぁんだ、案外簡単に受け取ってもらえたみたいじゃないか」

パパの出番なかったな。
大輝はしまった、って顔してるけど、パパは笑顔だ。

「そう重く捉えないでくれよ。俺も春海の父親として、大輝くんに期待してる部分があるんだから。二人の交際にあたってはいずれ必要になるだろうし、あっても困らないと思うよ。お金取ったりもしないし」
「…………」

まだ何か思うところがある様だ。
甘え下手だなぁ、と思う。
そこがいいんだけどね。

「ねぇ、これからは毎日連絡取れるんだよ?嬉しくないの?」

少し背中を押してあげる。
私だって大輝と毎日でも連絡取りたいっていうのは本音だし。

「甘え方がわからないだけ、なのかもしれないわね」

ママから見てもやっぱりそう見えるんだな。

「受け取るだけの理由があれば良い?」

私は、大輝に納得させる様に仕向けることにした。
そうじゃなかったら、後々禍根を残したりしていいことにならない気がしたからだ。

「理由か……」
「私が、離れてても連絡取りたいから持っててほしい。これじゃダメ?」

本音ではあるけど、有無を言わさぬ方法ではない。
それじゃ大輝が自分で納得する結果にはならないからだ。

「あっ……」

大輝は漸く気づいた様だ。
詰みです、とか参りました、とは言わなかった。

「……わかりました。ありがたく、使わせてもらいます。この恩はいずれ必ず返せる様努力しますので」

潔い男って素敵。
割と葛藤あったみたいだけど。

「いいっていいって。とりあえず、使い方ある程度覚えて早く春海を安心させてやってよ」

パパもママも、笑顔で大輝を見守る。

「ああ、このあと仕事があるんだった、これにて失礼するよ。大輝くん、ごゆっくり」

そう言うとパパは支度するべく自室へ。

「ありがとうございます」

大輝は深々と頭を下げる。

「さて、あとは若い二人に任せて……と」

見合いしてるわけじゃないけど、任されたら色々頑張っちゃうかも、私。
これからの私たちに必要だったとは言え、割と一方的だったなと少し反省した。
サプライズ好きな私としては、勝手に決めちゃうのがデフォだけど、今回は軽く相談しても良かったかもしれない。

「何かごめんね?ちょっと強引だったかな」
「今更だろ。それにいずれ買おうと思ってたものではあるしさ」

やっぱり優しいなぁ。
気にしてない、という態度を前面に押し出してくるあたり、やり方はまだ子供だけど、優しい子ならではという感じがした。
手の上で携帯をクルクル回したりして、大輝はちょっと嬉しそうだ。

「正直いじりたくてうずうずしてるんだよな」

うずうず?
何をいじるの?
私にもいじらせてほしいんだけど! 

「え、さっきの会話のどこに、欲情する要素あったの?」

欲望を隠し、大輝に問う。

「ちっげーよ!携帯!いじりたいのは携帯だから!うずうずしてんのも下半身じゃないから!!」

また顔赤くしてる。
私の返しにまだまだ慣れる様子がない。

「なぁんだ、つまんないの」
「つまんないとか言うな!お前は中一女子だろうが!少し慎みを持ってくれ!」

慎みなんてご飯の足しにもならないものはもう捨てた。
それに、そんな慎ましくしおらしい私とか大輝は、受け入れられないんじゃないかな、気持ち悪くて。

「それこそ今更だよ。私は大輝の前で取り繕ったりしたくないし」
「……ずるいだろ、その返しは……」

正直に言っただけなんだけど、赤くなった顔を更に赤くして大輝は黙ってしまう。

「春海ー?お母さん、買い物行ってくるからー!具体的には二時間くらい!何かあっても知らんフリ出来るわよー!」

廊下から声がした。
ママ最高。
大輝はもうトマトみたいになってる。

「わかったー!気をつけてねー!」
「避妊はちゃんとするのよー!」

避妊か、そんなものは必要ない。
私は、大輝の全てを頂く……!

「だってさ、どうする?」

とは言え一応大輝の意志を確認しないとね。
あとで強姦された、とか言われたらさすがに不名誉だし。

「待て、どうもしないから落ち着こうか」

じりじりと大輝に詰め寄る。
それに合わせて大輝も少しずつ後ずさる。

「うん、それ無理♪」
「おいやめろ、懐かしいとこからセリフ持ってくんな!あと今からそんなことしてたら、俺受験の頃には脳みそなくなってんじゃないの?それじゃ困るだろ」

確かに大輝を骨抜きにしてメロメロにすることは簡単だろうと思う。
それこそ私の女の子の部分をフル活用して、女体の神秘を教え込んで……なんてことも。
大輝は思い込み激しいタイプかもしれないから、そうなるとちょっと厄介か。

「む、大輝にしてはいい返ししてきたね」
「そりゃどうも……」
「じゃあさじゃあさ」

私はちょっと目をキラキラさせて大輝を見る。

「あん?」

何そのヤンキーみたいな返事。
ポイントひっくーい。

「四つの高校全部射程圏内に入ったら、エロいことしよっか」

取り繕ったりしたくない。
まぁ、表現はもう少しオブラートに包んでも良かった気がしなくもないが。

「おい……言い方……エロいこととか言うなよ」

いっちょ前に照れてるわけね。

「何?セック」
「おっと!その先は禁則事項だ!!」 

行為の具体名を挙げようとしたら、言わせねぇよとばかりに止められた。
別にこのくらいの単語、テレビでもたまに見かけるでしょ。

「とにかく!これからは受験に集中するザマス!エロいこととかほしがりません、勝つまでは!」
「えっ……精通してるんだったら、受験おわるまでの二年近く溜めとくってこと?死ぬんじゃない?」

その言い方だと一切エロいことしないってことになるけど。
自家発電もしないとか、修行僧にでもなりたいの?

「話の腰をいちいちそっちに折るんじゃないよ、お前は……」

ちょっとぐったりした様子の大輝。
もしかして一回くらい出ちゃったのかな。
そんな匂いしないんだけど。

「なぁ、まさかお前学校でもそんなに下ネタに躊躇ないの?」

学校では比較的おとなしくしてる。
それでも目立つことはあるみたいだけど、大輝以外に色目使う意味ないし。

「は?そんなわけないじゃん。さっきも言ったでしょ、大輝の前では取り繕ったりしたくない、って。学校じゃそこそこおぜうさまってやつだし」

お嬢様ってか本の虫みたいな感じに見られてるっぽいけどね。
それを聞いた大輝が何やら吹き出した。
まぁた下らない妄想してる、この顔。

「今、ちょっと失礼なこと考えなかった?」
「いえ全く、これっぽっちも」

嘘つけないタイプだよね、大輝は。
顔に九割書いてある。
そこが可愛いとこでもあるんだけど。

「まぁいいけど。お嬢様とかガラじゃないんだけどね。知っての通りのじゃじゃ馬だし。ゴリラだもんね」

今もそう思ってる訳じゃないのはわかってるが、少し拗ねた様な顔をしてみせる。

「よく覚えてんな、そんな昔のこと……」
「言われた方は忘れないんですーだ」

べっ、と舌を出しておどけて見せる。
ふっと笑って少し嬉しそうな顔をしている。
大輝はこういう顔が好きなのか。
今度から会うときはずっと舌出しとく?


「ねぇ、大輝」

やや勉強に飽きてきた私はおもむろに大輝に声をかける。

「んー?」

生返事気味に答える大輝。

「私のこと、好き?」 

わかってはいるが、敢えて聞く。

「何だよ突然。決まってんだろ」

ドキッとした様子。
でもそんなことありませんよ、と態度で示す。
強がりちゃんだなぁ。

「好き?」
「あ、ああ」

徐々にしつこいなぁ、みたいな顔になってきてる。

「ちゃんと言って。好き?」

少し真面目な顔になって言う。 

「何だよ、どうしたんだ?」

ちょっと困惑してきてるみたいだ。

「いいから、言ってよ」

駄々っ子みたいに、腕にしがみつき、揺さぶる。

「わ、わかったよ……好き……だよ……これで満足か?」

やれやれ、と言った感じだが、躊躇いがちに言う大輝。

「まだー。それでね、受験終わるまでの間、大好きな私と何処までならしてくれるの?」

私はあんまり我慢が好きじゃない。
得意でもない。
ある程度の妥協はしても、エサがないと何処で暴走するかわからない。
頑張ってるご褒美くらい、たまにはほしいじゃない。

「何処って……お前何言ってんの?」

呆れた様な表情。
そんなつれないこと言うなら、意地悪しちゃう。

「だって、エロいこととかなしって言うから」
「元々エロいことなんかしてないだろ」

まだね。
ちょっと先にはきっとやってる。

「キスってやり方によってはかなりエロいよね」

主に舌入れたり、それこそお互いの口の中をお互いの舌で……考えただけで涎垂れそう。

「ぶっ!」

最近キスしてないなぁ、とか考えてたんだろうな。
私も考えてたけどね。

「舌、入れたりまではいい?」

妄想をそのまま口にしてみる。
答えはもちろん。

「だ、ダメ……」

ですよね。
女の子みたいな声出して、可愛い。
もっと苛めたくなっちゃうな。

「お、俺は春海と同じ高校行きたいんだよ」

何だ、そんなことか。
容易い願いだ。

「行けるよ。私が教えるんだもん」
「それでも、俺はお前をもっと、大事にしたい」

自分に歯止めをかけようと必死な大輝。
大事にしたいって言うのは嘘じゃないんだろうと思った。
だけど、そんな幻想はぶち殺す!

「大輝……女の子に幻想抱き過ぎじゃない?女の子って男の子が思ってるより、ずっとエッチよ?」

実際、クラスで男とエッチした、とか言ってる子もいたりする。
本当かどうかまで確認したりしないけど。
私だってこの体を持て余す瞬間が普通にあるのだ。

大体、男の子だけがエッチだったら世の中強姦事件だらけのカオスな世界の出来上がりだ。
少し現実を教えてやる必要はあるだろう。

大輝は物凄く意外そうな顔をしている。
みんな、口にしないだけで割と頭の中はエッチなこと考えてるって子多いよ?
全員がそうだとは言わないが。

「幻想なんか抱くよりも、私を抱いた方が……」

何か起立しちゃってる大輝の一部が主張し始めそうだし、フォローを入れる。
礼、とか言ったらちゃんと着席するんだろうか。

「はいストップ。お前が一言余計なおかげで少し冷静になれたよ、ありがとう!」

見透かされてることにもきちんと気付けるなんて、成長したね。
これからどれだけ耐えられるのか、私は楽しみで仕方ない。
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