手の届く存在

スカーレット

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本編

~Girls side~第11話

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とうとうこの日がきてしまう。
私は選ばなければならない。
もちろん答えは決まってる。

一応、別の答えを選択することも可能ではある。
その場合、大輝が死ぬことになる。
なので実質答えは一つとなるわけだ。

桜井さんや大輝とのメールの時点では割と気楽に考えていたものだったが、その直後に神界からの伝令がきた。
私は一つの未来を目指してこの人生を送っているが、ターニングポイントになり得るところでは必ず神界からの伝令がくる。
無視することもできるが、その場合大体は伝令の、それも悪い方に運命が動いてしまう傾向が強い。

今回も、悪い方がちゃんと用意されていた。

『宇堂大輝を生かす選択をする場合、桜井朋美をパーティーに加えてください。また、宇堂大輝を殺す選択をする場合には、桜井朋美をパーティーに加えないでください』

淡々とした女性の声。
パーティーって、ゲームじゃないんだから……。
オブラートにでも包んだつもりだろうけど、大輝に二股かけさせろってことじゃん。
それとも何だ、乱交パーティーってこと?

だとしたらトンチが利きすぎてる。
間違いなくそうなるから。
仮に戦闘をするパーティーだとしたら、このパーティーじゃ魔王だの邪竜だのを討伐するのはまず不可能だろう。

いや、最悪私一人で何とかなりそうだが、それだとパーティーの意味は皆無だ。
どの道この運命の選択からは逃れる術がない。
ならば今は大輝を生かす道を選ぶ。

桜井さんはいい子だ。
あの様子を見る限り、大輝に対して本気なんだろう。
少女の移ろいやすい感情を加味しても、恐らく簡単に揺らぐものではないと推測される。
いざという時には、大輝を任せることも出来るかもしれない。

授業に耳を傾けながら、大輝との出会いを振り返っているが、割と長い間私は大輝を一人占め出来ていたのだなと思う。
お裾分けって言うと聞こえは悪いが、一人の少女の望みを叶えるのも悪くはないと思えた。
ただ、あの胸くそ悪い伝令の言うパーティー。

あれに桜井さんを加えるとしたら、間違いなく私は大輝だけでなく桜井さんも愛して行くことになる。
というか、そうしなければただのギスギスパーティーになってしまうだろう。
私は多分あの子も愛していける。

問題は桜井さんだ。
やり方を間違えたら酷いことになりそうではあるので、その部分だけは心配の種だ。
……このまま行くと、着々と大輝にハーレムを作らせることになったりしないだろうか。

ただでさえ可愛らしい見た目に、愛され体質で基本的に人を拒絶したり出来ないタイプの大輝。
私が以前盗み見たアーカイヴの記述では、まだ数年先だったはずだが……。

見てる途中で見張りに見つかってしまってうろ覚えなんだよなぁ……。
ズルはやっぱりダメか。

大輝の学校までは一時間前後。
朝の内に担任には早退する旨をつたえてある。
私は随分信用されている様で、特に異を唱えられることもなくすんなりと早退できることになった。
向こうは確か六時間めまで授業があるから、こっちは五時間めが終わったら行けば間に合うか?

給食の時間がやってきた。
給食を食べていると、やはり中学生ってまだ子どもだよなぁと感じる。
今日はわかめご飯と肉じゃががメイン。

デザートに冷凍みかん。
この組み合わせは結構好きだ。

「姫沢さん……食べるの早くない?」

隣の席で食べていた女子が目を丸くする。
昨日の午後席替えがあって、この子とはそういえば初めてだったか。

「美味しかったからね」

一言返して瓶の牛乳を飲み干す。
普段家で食べる量の半分にも満たないし、私にとってはおやつ程度だ。
私の早食いは、クラスでは有名なはずだが、その子が実際に見るのは初めてだった様で、それはもう衝撃的だった事だろう。

「みんなでいただきます、の号令をしたと思ったら、もう姫沢の皿は空になっていた」

こんなことを言う生徒もいる。
まぁ、大体合ってる。
諸君、時間は有限なのだよ。

有効に使う為には、効率よく食事をとらなければ。
とは言っても、普通の人間には無理な速さだろうけど。

五時間めは保健の授業。
タイミングよく人体の仕組みについての授業だった。
みんな初々しい反応をしている。

ちょっと微笑ましい。
男子の一部は過剰に反応して女子の方を見て、変態などと罵られて喜んでいる。

私も視線を感じたが、このプロポーションなら見られても仕方ないよな、と開き直る。
久し振りに聞いてて面白いと思えた授業だが、惜しくも終わりの時間はやってきてしまう。

さて、行かなくては。

「あれ、姫沢さん早退?」
「うん、ちょっと家の用事で。お先ね」
「気をつけて帰ってね」

クラスメートとのこんなやりとりも、最近では悪くないと思える。

電車に乗ると、時間が時間だけにほぼ乗客はいない。
買い物帰りだろうか、大きめのビニール袋を持っている中年の女性や、老夫婦。
子連れの若い女性。

それと私。
他の車両も似た様なものだろう。
ご飯を食べた後だからか少し眠くなる。
乗り過ごす心配はないし、軽く寝ておこうか。

「春海ちゃん、私も大輝を食べていいの?」

何故か野口さんが私に問う。
野口さん?
桜井さんじゃないの?
ああ、そうかこれは夢か。

「ガムシロップかけると美味しいよ」

何故か私は業務用の、特大パックのガムシロップを野口さんに手渡す。
大輝は皿に盛られていて、食べられるその瞬間を待っている。
どういうわけか満面の笑みだ。

野口さんは大輝を丸かじりする。
かじったその箇所にガムシロップをかける。

「うう~ん!最高にフルーティー!!」

フルーツの要素あったっけ。
あ、下半身にバナナがあったかな。
私も大輝をかじる。
いつの間にか桜井さんも井原さんも加わり、みんなで大輝を食べていく。

「大輝、おかわり」

桜井さんが言う。

「あいよ!」

普段の大輝の声じゃない。
鼻をつまんで言う、電車の車内アナウンスみたいな声だった。
大輝が大輝を運んでくるというシュールな絵面。

「春海、はいあーん」

と言いながら大輝は桜井さんにあーんしている。
あーん、と言いながら私は桜井さんの頭をかじっている。
何なんだこれは。

私の見る夢は何故いつもこんな猟奇的なのか。
頭をかじられた桜井さんは、体をプルプル震わせている。

「ふおおおぉぉぉ……」

気合いを入れると、何故か尻から頭が生えてきた。
それをもぎ取って再び首に戻す。
桜井さんにこんな特技があったなんて。

「次は~……」

大輝の学校の最寄り駅がアナウンスされ、私は目を覚ます。
カニバリズムはさすがに私の望むところではない。
性的な意味で食べるのは今後あるにせよ、頭から丸かじりとかちょっと危険な香りしかしない。
いや、そんなこと考えてる場合じゃない。

降りなければ。
改札を出て、学校の方向を確認する。
どうも良くないことになりかけてる気がする。
急ごう。

「ちゃんと、言って……」
「さ、桜井……」

学校に着いて、玄関に行くと大輝が桜井さんに壁ドンされてた。
あー、ギリギリセーフ?
ちょっと泣きそうな顔の大輝。

大輝を泣かしていいのは私だけだ。
その役目は、そう易々と譲ってやるわけにはいかない。

「おっとォ!ここから先は一方通行だァ!!」

超高速で二人の間に割り込み、第一位さんの物真似をしてみせる。
ちょっと似てると自分では思った。
大輝を背にして、庇う様に立ちはだかる。

呆気に取られる二人。
ドヤ顔の私。

「春海ちゃん……ごめん」

はっと我に帰り、桜井さんが俯く。
ちょっと意識して見ると、この子可愛いかも、なんて思える。

「いいの、わかってはいたから」
「あ、あの……俺いつまで庇われてればいいの?」

中腰になって空気椅子気味でプルプルしてる大輝が言う。

「あなたは……私が守るから」
「カッコいいなおい、けどとりあえず場所変えないか?人目が気になりすぎる」

確かに人が集まりつつある様だ。
私の超常的な動きを見た人や、この状況に興味を持った人と、続々人が集まっている。
これがゾンビ集団とかなら蹴散らして終わりなんだけど、生身の生きた人間相手にそうはいかない。

「大輝は見られると燃えるM男だから大丈夫かなって思ってたんだけど」
「カッコいいお前には悪いが、俺にそんな性癖も設定もない」

ひとまず学校を出て、それから考えようということに。
私みたいな他校の制服着た美少女と、もう一人女の子を従えて修羅場を演じていれば、そりゃ人も集まることだろう。
あのままだと大輝は最悪生徒指導室行きでもおかしくない。

「駅前の喫茶店でいい?それともファミレスか?」

大輝が提案する。
無難なとこではあるかな。

「音とか声気にならないし、カラオケとかは?」
「カラオケは却下」

私が即斬り捨てる。
私は、自慢じゃないが歌が壊滅的に下手だ。
音程って何だよ……これがいつまで経っても理解できない。

歌うとメロディーが、音程が、リズムが、ズレまくる。
きっと、歌が私についてこられないだけなのだ。
私は悪くない。

「カラオケ嫌い?」

桜井さんが心配そうに言う。

「歌が苦手なだけだけどね。歌いに行くんじゃないし、別に良いけど」

とは言っても行けば一曲くらい歌う雰囲気になるかもしれないじゃない。
ハーレム作成の第一歩の話し合いで別方向に無様を晒す必要はないと思うの。

色々考えた結果、以前私達が鉢合わせしたファミレスに行くことにした。

「ドリンクバーとケーキでいい?」

私は、主導権を握るべく注文も適当に済ませてしまう。
そして、以前飲んでいたものと同じものを私が自ら持ってきた。
意思確認などあってない様なものだ。

「さて」

普通に言ったつもりなのに、固唾を呑む音が聞こえた。
心外な。
私、そんなに怖がられてるわけ? 

「桜井さん、大輝のことどう思ってるの?」

一応もう聞いてはいるが、本人から大輝に伝えさせるのが、大輝に現実を認めさせるには一番だろう。
やり方としては直球過ぎるかもしれないが、あまり時間をかけてもいられない。 

「あ、あのさ春海」

直球過ぎると大輝も思ったのだろう。
しかしここで甘えを許しては、話が進まない懸念がある。

「今は桜井さんのターン。ちょっと黙ってて」

ピシリと大輝を制する。
ここで逆らうことがどんなに愚かしいことかを、大輝はよく知っている。

「あ、はい」

大輝は俯いて飲み物をすすっている。
今はいい子だから大人しくしていてね。
痛くしないから。

「私……私は……」

桜井さんは言いたいことが纏まっていないのか、それとも迷っているのか。
言いにくいみたいなので、もう私がこのまま流れを持ってしまおう。

「聞き方が悪かったなら、質問変えるね?大輝のこと好きなんだよね?」

これなら答えやすいだろう。
責めるつもりはない。
ただの質問を淡々としているに過ぎない。
桜井さんがどれだけのプレッシャーを受けているかはわからない。

「コムギ……?」と王の前で答えた狼みたいにハゲたりしないとは思うけど。

「……うん、好き……なの」

躊躇いがちに答える桜井さんを見て、大輝がややときめいているのがわかる。
私のときそんなじゃなかったくせに……ああ、そもそも告白は大輝からでしたね。

「うん、わかった。で、大輝は今のを聞いて、どう思ったの?」

ズバリと斬り込む。
ここで遠慮してたら大輝の為にならない。
大輝の理想は結局、自分を思ってくれるなら斬ったりしたくない、みたいなことだったりするんだろう。

しかしそれは裏返せば、俺は誰の想いも裏切らないしいつでもウェルカムだぞ、みたいなことになる。
本人は否定するだろうが、実際断らないとなればそういう結果になるんだと言うことを大輝本人が気付いていない。
誰も傷つかない、くらいにしか思っていない、このお子ちゃま思想の坊やには少し思い知らせてやらねばならない。

「あ、俺?えっと……」
「はっきり答えてね。それによって対応変わるから」

対応というのは、殺すとか痛めつけるとか、そういうものではない。
ハーレムにするか否か、ということである。

「何とも思わなかったの?」

今回は一切甘やかしなしで行く。
大輝が甘える隙は作ってやらない。
何かムカつくから。

「いや、そんなことは」

煮え切らない男だ。
それでも嫌いになれない私が、私にイライラする。
これは半分八つ当たりみたいなものだ。

「ヘタレもいい加減にしないと、身を滅ぼすことがあるんだよ?」

つい感情的になる。
言い方は冷静そのものだが、それが却って恐怖を煽った様だ。

「正直なことを言えば、驚いた。嬉しいって感情もあると思う」

嘘つけ!嬉しいって感情しかないでしょうが!
……どうどう、私。
これも大輝が生きる為の選択なんだから。

「そうだよね、よく出来ました」

頭の中はちょっとグツグツと煮立ちそうな勢いだが、顔に出さない様に必死で抑えつける。
これもうちょっとじゃないな。
チ○コもげろ!!と心の中で叫ぶ。
いやいや、もげたら使えなくなっちゃうしやっぱり無しで。

「で、大輝のことが好きな桜井さん」

つい言葉にトゲが。

「大輝と、どうしたいの?私がいるのをわかっている前提で聞かせて?」

ここで嘘をつく様なら、たとえ大輝を死なせることになろうと大輝を渡したくない。
また長い年月をやり直すだけだ。
簡単なことではないが、何となく我慢できなかった。

「それは……」
「それは?」

大輝が私と桜井さんを交互に見る。
私と目が合って、慌てて逸らしていた。

「私も、宇堂と付き合いたい!だって、好きなんだもん!どうしようもないんだもん!」

あーあ、何でこんなにいい子なんだろこの子。
こんなに素直に打ち明けられたら、半分こするしかないじゃない。

「桜井さんの気持ちはよくわかった」

さっきまでグツグツと煮え立ちそうだった頭が一気に冷え、私はケーキをつつく。
既製品は作りが安くて、あんまり美味しくないなぁ。

「大輝は?どうしたい?どっちかを選ぶ?どっちも選ばない?」

一応大輝にも選択肢を与える。
私が全部決めちゃったら、それはもう大輝の意思じゃないし。

「俺は……」

まぁ、これまた答えにくいよね。
わかるよ。

「それとも」

だから私は、導くのだ。
大輝が選びやすい選択肢を。

「二人ともと付き合う?」

結局これしか答えはない。
今すぐ桜井さんとちゅっちゅしろって言われたら、ちょっと躊躇い……いや別に躊躇わないな、私は。
大輝が生の百合を見たい、なんて言い出すならそれはそれで成長と受け止め、出来る限りエロく見える様に桜井さんとちゅっちゅするだろう。

けど、時間があれば人間っていうものはある程度、環境に適応できるだけの力を持っているのだ。
桜井さんにも私を愛してもらえる様にしないといけないわけだが、この辺は簡単だろう。
大輝は私に負い目を感じたりするかもしれないが、これに関しては桜井さんに猛プッシュをかけてもらう必要がありそうだ。

「さっき桜井さんは、宇堂と付き合いたいって言ったのよね。これって、例えば世間的に言う二号さんとか二人目の彼女として、って意味じゃないの?」

敢えて、「も」を強調して言う。
大輝は口をポカーンと開けて目を見開いていた。

「……それでも、いい。宇堂が私を、女の子として見て付き合ってくれるなら」

何か雷にでも撃たれた表情の大輝。
何か恐れることでもあるんだろうか。
今以上の修羅場とか?

「おい桜井、正気か?俺たちまだ中二なんだぞ?無責任な言い方にはなるかもだけど、俺なんかよりずっといい男と知り合えるかもしれないんだぞ?」

一理ある。
自分の人生の幕を、自分で下ろすことに繋がる発言ではあるが。

「わかってるよ!けど、今は宇堂しか見えないの……」

桜井さんの悲痛な叫びが大輝には届いたのだろうか。
何かちょっと蚊帳の外な感じに耐えられなくなり、口を挟む。

「桜井さんは答えを出した。それがどれだけの痛みか、大輝にわかる?」

麗に栄光あれ、という言葉が聞こえてきそうだ。
天堂さんを焼き尽くさないと。

「私ね、大輝」

気の抜けたコーラをすする。
炭酸ものを選んだのは失敗だったな。

「桜井さんとなら、一緒に付き合うのもありかなって思った。だって、桜井さんは絶対私と同じくらい大輝のこと大事にしてくれる」

これは今まで、短い時間ではあるけど桜井さんを見てきての素直な感想でもある。
きっと桜井さんは私の想いに応えてくれる。
そんな予感がした。

「だからって……」

まだ決めかねている大輝。
もちろん、はいわかりました、なんて考えもせずに言われたら、そこのガラスぶち破って大輝を投げ出してしまいそうだからやめてもらいたいわけだが。

「大輝、よく考えて。ここで桜井さんを友達に押し留めることが、桜井さんにとって本当に幸せだと思う?」

ねじ曲がって暴走された挙げ句逆レ○プなんていう悲惨な結果を招いたり、なんていう誰も幸せになれない結末しか想像できない。

「それは……」
「何処かでねじ曲がってしまうかもしれない。確かに、二人で大輝と付き合うのも、そうなる可能性がないでもないかもしれない。けど、私と桜井さんの理想が一致する部分があるんだったら……上手く行くと思うし、その可能性に賭ける方がよっぽど前向きだと思う」

私も割と余裕がない。
この男を如何にして納得させるか。
それによって運命が左右されるという、現実の重さ。

「そうかもしれないけど、俺にとって都合良すぎないか?」

だから、あんたに都合良い結果選ばないとあんたは死ぬんだよ!
とはさすがに言えない。
これだと、大輝に都合が良くないと大輝が死んじゃう病気みたいでもあるのがちょっとおかしい。

ふと桜井さんを見ると、桜井さんもこちらを見ていた。
一瞬のアイコンタクト。
トドメは任せた。
桜井さんが頷く。
本当に通じたのだろうか。

「二人がそうしたいから、そうする、って言うのじゃ納得できない?」

桜井さんが、一言。
今の言葉で大輝がどう動くか。
これが運命を決める一言になり得るか。

大輝は両肘をテーブルについて、両手で前髪を押し上げる仕草をしながら考えている様だ。
前髪上げてる大輝、ちょっと新鮮。

「大輝はきっと、俺は桜井を大事に出来るのか、って思ってるんだよね?」

大輝が考えているであろうことを口にする。
大輝ははっとした表情になった。

「大輝は、多分出来る。私と同時進行でもどっちも蔑ろにはしない。というか出来ない」

ここですかさず追撃。
余計なことは考えさせない。

「何故、そう言い切れる?」

もう半分、答えは出てるんだろう。
そんな表情。
諦めとも降参とも取れる、そんな顔をしていた。

「それが、大輝だから」

だから、そんな情けない顔はもう、やめよう?

「今はまだ、春海ちゃんに敵わないと思う。でも、これからもっと宇堂のこと、知って行きたい。だから、宇堂さえ良いなら……」

桜井さんが続く。
きっともう、桜井さんにも大輝にも迷いはない。
心配はない。

「……わかった。努力する。あと、春海」
「どうしたの?」

大輝が神妙な面持ちになる。
ちょっと泣きそうな顔になっている。

「独り占めさせてやるつもりだったのに、ごめん、こんなことになって」

ここへきてやっと自分の選択の意味を理解したのか、深々と頭を下げた。
ここだけ見てしまうと、浮気バレしたダメ男が彼女に全力で頭を下げている構図に見えるかもしれない。
当たらずとも遠からずってところか。

「それなんだけどね」
「何かいい案でもあるのか?」

大輝が少し、顔色を元に戻しつつある。

「桜井さん、いくつか条件があるんだけど、いい?」

タダでこんな美味しい思いをさせるのは私の望むところではないし、二人の為にもならないだろう。
ならば、と私は提案する。

「い、痛いのとかじゃなければ……」

・大輝の初めては私が頂く。
・桜井さんと二人で会うときは、予め私に連絡を。
・週に一度は三人で会う。
・週末は私の日。

大まかにこんな感じの条件を突きつける。
結構しんどいんじゃないかと思ったんだけど。
もちろん、例外は相談に応じる。

「随分優しい条件だな」

あら、心外だ。
もっときついのがお望みならそうすることもできるんだけどね。

「私の生活は大輝が全部なの。だから、大輝の為になることなら何でもするよ」

というか大輝のことがないとほとんど何もしない、っていうのが正解か。

「あとは……みんな名前で呼び合おうか」

互いの絆を深める一歩として、必要なことだろう。
慣れるまでは多少恥ずかしい部分もあるかもしれないが。
私は特に躊躇ない。

それから少し話し合って、大輝と朋美のことに関しては現状維持で落ち着いたことにするのが良いと提案した。
こんなことが周りに知れれば、自然と大輝の立場が悪くなってしまう。
自業自得ではあるが、そうなっては元も子もない。

「朋美、スキンシップ程度なら良いけど、学校ではなるべく控えてね?」

一応釘は刺す。
学校でバレそうになったら、私が今日みたいに参上って訳にいかない。
二人で何とかしてもらう他ないのだ。

今日のところは平日でもあるのでここで解散とすることにした。
小心者の大輝はきっと、幸せ過ぎて爆発するんじゃないか、なんて考えていることだろう。
確かに非現実的ではあるこの結果。

しかし、上手く回せればこれ以上なく大輝の為になることではある。
ひとまず一つの分岐を無事にクリア出来たことを、私も素直に喜ぶことにした。
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