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本編
大輝編24話~純潔の女戦士~
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睦月にたっぷりと搾られて、その翌日。
あんまり睡眠は取れなかったのだが、睦月が俺の疲れを癒してくれた。
詩的表現とかではなく、本当に。
すっと、俺の頭に手をかざして、少し経つと眠気はどこへやら、連戦の疲れも全くなくなっていた。
「便利だけど……あんまり多用しない様にな」
睦月はほっとくとハチャメチャなことをしそうだし、そこだけが心配だった。
「わかってるよ。大輝とせっかく会えたんだもん。それをなかったことにしたくないから」
睦月はむくれたりする様子もなく、素直にそう言ってくれるあたり、ちゃんと俺のことを大事に想ってくれているんだと感じる。
「じゃあ、学校行ってくるから」
「うん、私ももう少ししたら出るよ」
本当はもう少しのんびり、睦月との時間を過ごしたかったのだが、学生の身分ということもあってそう贅沢ばかりを言ってはいられない。
学校に着くと、明日香と桜子が俺を待っていた。
いや、待ち受けていた。
「どしたの、お前ら」
「昨夜は随分お楽しみでしたね?」
「ぶっ!!」
朝っぱらから桜子が全力だった。
「ま、まぁな……何か気を遣わせたみたいで悪かったな」
「いいってことよ、今度ちゃんと埋め合わせしてもらうし」
にしし、と笑う桜子。
微笑ましげに見つめる明日香だったが、キリっと俺に向き直る。
「それより大輝くん、望月には連絡した?」
あ、してなかった。
昨夜は睦月と盛り上がりすぎて、正直忘れてしまっていた。
そんな俺の心情を見透かしたのか、明日香は肩をすくめる。
「そんなことだろうと思ったわ。今日、絶対に連絡するのよ?絶対よ?」
しつこいくらいに念を押す。
「わ、わかった。あの人のこととなるとめちゃくちゃ一生懸命だなお前……」
「当たり前でしょ。かけがえのない人間の一人なんだから」
明日香の後押しもあって、俺は昼休みに二人と飯を食いながら望月さんに連絡をした。
電話というのも何だか気が引けるので、メールを入れる。
メールを入れると、何故か明日香の携帯も反応する。
「?」
「……望月からだわ。あいつから連絡がきちゃいました!どうしましょうお嬢!だそうよ」
「はぁ……?」
何だって明日香にメールしてるんだ?
俺にすりゃいいのに。
「察してあげてよ。男性経験どころか恋愛経験だって皆無なんだから」
「そういうもんか……?」
「私はね、幸運だったのよ大輝くん」
「何だよ、突然」
「大輝くんと知り合って、ああいうことになったけど……あれがなかったら今も男性経験とか多分なかったと思うから……」
「ああ、そういうことね……けどあの人だって、遠からずそうなるんだぞ?」
「これだから女の気持ちがわからない朴念仁は……」
「はぁ?お前、今のはちょっと傷ついたぞ」
「もっと傷ついて女の子の気持ちとか理解できる様になった方がいいんじゃないの?」
何だか二人とも、イラついてないか?
当たりがやたら強い様な……。
「いいから追撃メール入れなさいよ。あと、望月に決めさせようなんて思わないこと。大輝くんがちゃんとリードするんだからね。わかった?」
「ええ……向こう年上なのに……」
「グダグダ言わない!!」
「い、イエスマム!」
ついビビッておかしな返事をしてしまった。
春海の病室のときにも思ったけど、明日香ってやっぱおっかないな。
普段は清楚っぽい感じなのに。
二人が見守る中、俺は望月さんに送るメールの文面を考える。
『ところで、デートの日程なんですが。空いてる日ありますか?できる限り合わせるんで、教えてください』
これなら。
そう思って送信しようとしたその時。
「待ちなさい。ちょっと見せて」
言いながら携帯を奪われる。
「……やり直し。こんな聞き方したら、忙しいとか返ってくるのが関の山よ」
「ええ……。どうすればいいんだよ…」
「望月にああいうことしたときの強引さはどこ行ったの?」
「おい、何でお前がそれ知ってるんだよ……」
「望月が真っ赤になりながら教えてくれたのよ」
「マジか……公開処刑かよ……」
『今日、空いてますよね?空いてなかったら、空けてください。デートしましょう。昨日言ってたことしますんで』
こうなったらもうヤケだ。
「見せて。……八十点てところかしらね。でも、望月相手なら直球の方がいいのかもしれないし……これで行きましょう」
お前はどの目線から言ってるんだよ……。
仕方ないので、そのまま送る。
すると、割と早めに返信がきた。
『空いてないこともない。あと、何をするにしても可愛らしい下着だのを用意しているなんて思わないことだ。待ち合わせ場所を言え』
何て色気のないメールだ……嫁入り前の年頃の娘が打つメールとは思えない。
「返信きたの?何て?」
桜子が興味津々に覗き込んでくる。
「……これ、何てツンデレ?」
「は?ツンデレ?」
「ツンデレでしょ、どう見ても」
「いやいや、ただの色気のない文面にしか……」
「バカ!朴念仁!!」
教室の視線が一斉に俺に向く。
「おい、声がでけぇよ……」
「ああ、ごめんね、ついこの朴念仁の顔見てたらケツ毛燃えそうになって」
「意味わかんねぇ……」
お前燃えるほどケツ毛とか生えてねーじゃん……。
「まぁでも、桜子の言うことも一理あるわね。このメール、これ以上ないくらい望月は楽しみにしてるわよ」
「何処がだよ……」
「最後以外全部逆のこと言ってるよ、間違いなく」
その様子を想像してみる。
赤くなりながら、どう返そう、などとあたふたする望月さん……悪くない。
「さぁ、ほら早く返信返信」
楽しそうで何よりだな。
待ち合わせ場所を設定して、返信する。
『了解した。遅れてくる様なことがあったら許さないからな』
やっぱりどう見ても色気のないメールにしか見えない。
「これがそうにしか見えないから、大輝くんは朴念仁なんだよ」
「そうね……でもそれが大輝くんのいいところでもあるのかもしれないわ」
「おい、少しは手加減しろ。俺はM属性じゃないんだよ」
「わ、わかった……遅れてきたら……許さないんだから…っ。これだったら萌える?」
「……お前、すごいな。ちょっとグッときた」
「物事は多面的に見ることが大事なこともあるのだよ。覚えておきたまえ、朴念仁くん」
放課後になり、望月さんとの待ち合わせ場所に行くので二人と別れる。
制服のままでは、ということで上着だけ近くの洋服屋で購入した。
「あ、いたいた」
春海との初めてのデートを思い出す。
向こうは文字通り初めてなのだろうが、懐かしい感じがする。
「すみません、待たせちゃいましたか?」
落ち着かない様子の望月さんに声をかける。
おそらく明日香がコーディネートしたのだろう、大人のお姉さん風ないでたちだ。
「べ、別に待ってなんか……」
望月さんは既に顔が赤い。
一杯ひっかけてきたの?
「その服、とてもよくお似合いですよ」
思ったとおりのことを口にする俺だったが、予想もしない返しがきた。
「そ、そんなこと言って、どうせすぐ脱がされるんだから問題ない!」
比較的人通りの多い場所での待ち合わせにおける、メガトン級の爆弾発言。
「ちょ、ちょっと望月さん!?」
自分のしでかしたことに気づいた様で、更に顔を赤くする。
周りがざわざわとしてきたので、慌てて二人でその場を離れる。
「なんてこと言うんですか、先走りすぎですよ、全く……」
大分離れた場所まできて、一息つく。
これは早めにどこか連れ込んでしまった方が安全な気がしてくる。
「だ、だって……」
ちょっと目がうるうるしてきて、何だか可愛らしい。
「ああ、ああ、大丈夫ですから、そんな顔しないでください。せっかく綺麗なのに、もったいないですから」
何とか望月さんを宥めて、とりあえず何処に行こうか相談する。
「ウィンドウショッピングとか、したことあります?」
「……あると思うか?」
「すみませんでした、じゃあ早速」
というわけで駅ビルに入って、二人で散策する。
手を繋いでみようと提案すると、これまた動揺した様子を見せる。
埒があかないので無理やり手を取って恋人つなぎをすると、茹でダコみたいな顔色になった。
「これなんか似合いそうじゃないですか?」
言いながらワンピースを望月さんに合わせる。
「そ、そんなひらひらした服……」
「いや、絶対似合うと思いますよ。試着してみません?」
そのワンピースを望月さんに押し付けて店員さんを呼ぶ。
「試着ですか?そちらの試着室が空いてますので、どうぞ」
綺麗な営業スマイルだ。
さすがはプロ、流れが見事だ。
望月さんは渋々試着室へ行く。
「おい」
「はい?」
「背中、上げてほしいんだが」
「え?いやいやこんなとこで……」
「私じゃ届かないんだ」
仕方ない。
そっとカーテンを開けて、両手を突っ込む。
素早くジッパーを上げた。
「これでいいですか……って、可愛いですね!」
「そ、そんなこと……」
よほど自分に自信がないのか、望月さんはしきりに照れている。
「それ、買って帰りましょうか、プレゼントしますよ」
「な!プレゼントなど……施しは……」
「施しって……」
店員さんもやり取りを見ていたのか、笑いを堪えている。
「では、どうされますか?このまま着ていかれますか?」
「……せっかく選んでもらったものだし……汚したくないから、袋に……」
試着室に戻って、元の服に着替えた。
素早くワンピースを奪うと、ちゃちゃっと会計を済ませる。
「はいこれ」
「だ、だが……プレゼントなど理由が……」
「理由があれば、受け取ってもらえます?」
「そ、そういうわけでは…」
「じゃあほら、初デート記念、ってことでどうですか?」
「き、記念……だと……?」
やはり初々しい人だ。
「受け取ってもらえないんだと、せっかくのデートがちょっと沈んだ気分になっちゃうなぁ、俺」
「わ、わかった、もらう。もらうから……」
正直言って、望月さんとのデートは初心に帰った気がして楽しい。
それから軽く…………のつもりが割とがっつり食事をして、望月さんの食べっぷりに店員さんが仰天したり。
家電製品を見たりして、時間が過ぎる。
「そろそろ、行きます?」
駅ビルを出て、望月さんに問う。
それなりの時間手を繋いでいたせいもあって、望月さんはボディタッチ程度なら多少慣れた様に見える。
もちろん、俺以外の人間相手だとどうなるかはわからないが。
「い、行こう。約束だし、その……抱いてもらうまでは帰さないからな……」
俺、抱くなんて言ってないと思うんだけど……言ったっけ?……言ったかもね。
しかし、女は強いなと改めて思う。
あんなにも恥じらい百パーセントだった望月さんが、今こんなにも自分から大胆発言をした。
「わかりました、駅前に戻りましょうか」
駅前の裏路地に、ホテル街と呼ばれるところがある。
ホテル街というと渋谷などが有名だが、ここは知る人ぞ知る場所だったりする。
ホテル街に入ると、望月さんの握る手の力がやや強まった。
緊張しているんだろうか。
「ここでいいですかね?」
望月さんに一応確認をする。
自分の初めてを捧げる場所なんだし、ある程度は尊重してあげた方がいいかなと思ったのだ。
「お前に、任せる……」
言いながら望月さんが腕を絡めてくる。
どうやら望月さんは準備が整いつつある様だ。
フロントで鍵を受け取って、エレベーターへ。
すれ違う人もなく、望月さんのこの恥らう顔を誰にも見せることなく部屋へ到着することができた。
荷物を置いて、中を見回す。
そこそこいい感じの部屋に見える。
一方望月さんはというと。
「こ、こんなものを男女で見ることなんて、あるのか……」
大人チャンネル的なパンフレットを見てまた顔を赤くしていた。
「興味あるなら、つけますけど。見ます?」
「か、からかうな!……その……シャワー……浴びてきていいか?」
まぁ今日暑かったし浴びたいって気持ちはわかる。
そのままがいいですよ、なんて意地悪が口をついて出そうになるが、ぐっと堪える。
さすがに初体験で強烈な思い出を残し過ぎるのも良くないだろう。
「わかりました、待ってますね」
言いながら、俺はごろんとベッドに横になる。
これからいよいよ、望月さんの初めてを頂戴してしまうわけだが……正直あのタイプは重そうだ。
体重の話ではない。
むしろ体系はスマートで、無駄な肉とかほぼないだろうと思う。
心配なのは、責任についてだ。
貞操観念がかなり堅そうに見えるので、一度セックスをしたらそのまま溺れるか、溺れないまでも結婚の話をちらつかせてきたりしそう。
かなり失礼なイメージではあるが、ありえない話ではないと思った。
年齢的にも、結婚を意識してたって、なんらおかしい事はないのだから。
あと心配なのは、少しでも冷たくしたらヤンデレ化したりしないかということだ。
職業が職業だけに、そうなってしまったら洒落では済まされない。
「うど……大輝、上がったぞ」
バスタオル一枚に身を包んだ望月さんはとても扇情的で、思わず息を呑んだ。
昨日は触る方に夢中でよく見ていなかったが、肌も綺麗だ。
「あ、お、俺も浴びてきますね。適当に何か飲んでてください」
動揺を隠す様に、俺も手早く服を脱いでシャワーを浴びる。
きっと隠せてなかった。
はっとさせられるだけの魅力を、彼女は持っていた。
期待に胸だけでなく色々膨らみかけるが、何とかしてそれを抑える。
一通り洗って浴室を出ると、望月さんは大人チャンネルを見ていた。
「あ、こ、これは違うんだ!その、べ、勉強というか……」
「あ、えーと……うん。俺は何も見なかった。大丈夫ですよ」
「その目、やめろ!わ、私だって、お前を……その……」
俯いて、声が次第に小さくなっていく。
「悦ばせようと、してくれたんですね?嬉しいです」
もう、抑えられないと思った。
年上の、この可愛らしい生き物を、早く女にしてしまいたい。
そんな衝動に、逆らうことなど不可能だった。
望月さんの顎を右手で持ち上げ、キスをする。
昨日も一、二回はしてるので……あれ、もっとだっけ?
なので、望月さんも多少は慣れてきている様だ。
たっぷり時間をかけて、お互いの唾液を交換する。
舌を絡めあううち、望月さんはもじもじとしだした。
その拍子にバスタオルが落ちる。
「あっ……」
「隠さないで。とても、綺麗ですから」
歯の浮く様なセリフを今日はやたら連発している気がするが、初めてのセックスに夢を見ている女性にはこういうのもいいのかも、なんて思った。
控えめに見える望月さんの体は、着やせするだけで出るところが出て、引き締まるところがきちんと引き締まっている。
そして、肌も染みなどがなく白くて綺麗だ。
昨日よりも丹念に愛撫をして、俺と望月さんは一つになったのだった。
「和歌って呼んで」
そう言われたのは二回戦めの途中くらいだったが、割と抵抗なく俺は和歌さんと呼ぶことが出来た気がする。
具体的には四回くらい頑張って、再びシャワーを浴びて眠りについた。
今日は睦月がいないので、疲れを取ってくれる人もいない。
きちんと休んでおかなくては。
抱き合って寝ていると、突如衝撃が走って、俺は軽く悶絶する。
寝息を立てる和歌さんが、俺の腹部に蹴りを入れたのだ。
「!?!?」
もしかしてこの人……最高に寝相悪い?
少し離れようとすると、和歌さんは寝返りを打った。
その拍子に、細く長いその脚が再び舞う。
「おおっとぉ……」
さすがに何とかかわして、俺はやれやれと思いながらベッドを出る。
これだけは着るまい、などと思っていたガウンを取り出して、それを羽織ってベッドの横にある椅子で再び眠りについた。
セットしていたアラームが鳴って、俺は目を覚ました。
そういえば和歌さんは何時に起きればいいんだ?
とりあえず顔でも洗っておこう。
洗面所兼風呂場で顔を洗い、鏡を見る。
昨日夢中だったからそんなに気にしてなかったが、首にキスマークがついている。
見つかったらあいつらにいじられそうだな……。
かと言って絆創膏とか貼ったら余計目立ちそうだ。
少し考えた末、このまま行くことに決めた。
「あ、おはようございます、和歌さん」
「んう……おはよう……」
寝起きもあんまりよくないのか、まだ寝ぼけ眼の和歌さん。
「もう起きて大丈夫なんです?俺は学校あるからもうちょっとしたら出ますけど、チェックアウトの時間まではもう少しありますよ?」
「んー……大輝も出るんだろう?なら、私も一緒に出る」
そう言って立ち上がって、んんー、と伸びをする和歌さん。
ガウンから色々チラチラ見えて、昨夜あんなに出したのにまた元気になってしまいそうになった。
和歌さんも顔を洗って、戻ってくる。
「まだ少し時間あるけど……何か食べます?」
「いや、食事なら戻ってからするから……」
そうだった、この人食べる量が尋常じゃないんだった。
身支度を済ませて、部屋にある清算機にお金を入れようとすると、和歌さんに止められた。
「さすがにここは私に出させてくれ」
和歌さんがどうしても、と言うのでここは譲っておく。
「次回は、俺が出しますね」
ホテルを出ると、朝日がやたらまぶしい。
朝の空気、という感じだ。
だが……。
「囲まれてるな……」
「結構な人数いますね、これ」
俺たちを囲む視線に二人ともが気づく。
「大輝、戦えるか?」
「多少は鍛えられていたので。それより和歌さん、女性なんですから下がっててくださいよ」
「バカ言うな。私の職業を忘れたのか?舐めてもらっては困る」
言いながらバッグに手を入れる。
おいおい、こんなとこで銃ぶっ放したり……しないよな?
やがて人影が見える。
迫りくる気配。
「くるぞ」
俺も身構える。
そして……。
「若頭!おめでとうございます!!」
朝のホテル街に響く歓声。
「んな!?お、お前たち……!」
「え、明日香のとこの……?」
「望月、卒業おめでとう」
「あ、明日香!?」
何と、明日香の組の若い衆が十人前後、それに明日香が待ち構えていた。
「それに、大輝兄さん!!お嬢と若頭二人とも攻略しちまうなんて、さすがです!!兄さんと呼ばせてください!!」
その若い衆の一人が言う。
攻略って……攻略か。
いや、明日香はちょっと違うだろ。
「や、やめてくださいよ……兄さんとか、尻がむず痒くなりそうだ……」
「そんな、ご謙遜を!」
「くく……いいじゃないか、兄さん」
和歌さんがその様子を見て笑う。
明日香もちょっと笑っている。
「いや……呼ばれるなら、女の子から躊躇いがちに……お兄ちゃん……とか呼ばれたいかなって」
ちょっとマニアックな妄想を垂れ流すと、明日香が少し引いた顔をした。
「そ、そう」
「……お兄、ちゃん……こ、こうか?」
渾身の大ボケ。
しかし、何か新しい扉を開きそうだ。
若い衆も、言葉を失って和歌さんを見ている。
「も、望月……大輝くんが非常にだらしない顔をしているわ……そのくらいにしておきなさい」
「ところで、何でこんな時間にこんなとこいるんだ?」
「二人が出てくるのを待ってたのよ」
「へぇ……って、何で場所までわかるわけ?」
ちょっと怖いんだけど。
睦月にでもサーチさせたのか?
「GPSって知ってる?」
「あ、なるほどね」
文明の利器フル活用してやがる。
「若い衆が、望月にお祝いを言いたいって聞かなくて。だから、GPSで位置を探って、待ってたのよ」
「お嬢……そんな、私なんかの為に……」
「望月、私は嬉しいのよ。やっと、望月が自分を解き放って女でいられる相手を見つけてくれたことが」
その相手ってお前の彼氏でもあるけどな。
言うとややこしいことになりそうなので黙っておく。
勝手に盛り上がる二人。
そんな二人をよそに、若い衆が三人くらい俺のところにきた。
「大輝兄さん……若頭の、固く閉ざされた扉をこじ開けて頂いて、本当に感謝してます」
「や、やめてくださいって」
「いやいや、おそらくおやっさんもお喜びになるかと」
え、ヤクザに気に入られるとかちょっと怖いんだけど。
「これからも若頭とお嬢を、よろしくお願いします。何かあれば俺たち、全力で協力させてもらいますから!」
そこまで感謝される様なことでもないし、何だか気恥ずかしい思いだ。
「大輝くん、今度お父さんが会いたいって」
「ええ……」
まさかこんなことになるなんて……。
「とりあえず今は学校、行きましょ。少し早いけど朝ごはん買って、ね?」
「あ、ああ」
和歌さんと若い衆に挨拶して、俺と明日香は学校に向かう。
清清しい雰囲気の朝が、一気に騒々しい雰囲気になってしまったが、これはこれで。
目的の一つが達せられたことに、俺は満足していた。
あんまり睡眠は取れなかったのだが、睦月が俺の疲れを癒してくれた。
詩的表現とかではなく、本当に。
すっと、俺の頭に手をかざして、少し経つと眠気はどこへやら、連戦の疲れも全くなくなっていた。
「便利だけど……あんまり多用しない様にな」
睦月はほっとくとハチャメチャなことをしそうだし、そこだけが心配だった。
「わかってるよ。大輝とせっかく会えたんだもん。それをなかったことにしたくないから」
睦月はむくれたりする様子もなく、素直にそう言ってくれるあたり、ちゃんと俺のことを大事に想ってくれているんだと感じる。
「じゃあ、学校行ってくるから」
「うん、私ももう少ししたら出るよ」
本当はもう少しのんびり、睦月との時間を過ごしたかったのだが、学生の身分ということもあってそう贅沢ばかりを言ってはいられない。
学校に着くと、明日香と桜子が俺を待っていた。
いや、待ち受けていた。
「どしたの、お前ら」
「昨夜は随分お楽しみでしたね?」
「ぶっ!!」
朝っぱらから桜子が全力だった。
「ま、まぁな……何か気を遣わせたみたいで悪かったな」
「いいってことよ、今度ちゃんと埋め合わせしてもらうし」
にしし、と笑う桜子。
微笑ましげに見つめる明日香だったが、キリっと俺に向き直る。
「それより大輝くん、望月には連絡した?」
あ、してなかった。
昨夜は睦月と盛り上がりすぎて、正直忘れてしまっていた。
そんな俺の心情を見透かしたのか、明日香は肩をすくめる。
「そんなことだろうと思ったわ。今日、絶対に連絡するのよ?絶対よ?」
しつこいくらいに念を押す。
「わ、わかった。あの人のこととなるとめちゃくちゃ一生懸命だなお前……」
「当たり前でしょ。かけがえのない人間の一人なんだから」
明日香の後押しもあって、俺は昼休みに二人と飯を食いながら望月さんに連絡をした。
電話というのも何だか気が引けるので、メールを入れる。
メールを入れると、何故か明日香の携帯も反応する。
「?」
「……望月からだわ。あいつから連絡がきちゃいました!どうしましょうお嬢!だそうよ」
「はぁ……?」
何だって明日香にメールしてるんだ?
俺にすりゃいいのに。
「察してあげてよ。男性経験どころか恋愛経験だって皆無なんだから」
「そういうもんか……?」
「私はね、幸運だったのよ大輝くん」
「何だよ、突然」
「大輝くんと知り合って、ああいうことになったけど……あれがなかったら今も男性経験とか多分なかったと思うから……」
「ああ、そういうことね……けどあの人だって、遠からずそうなるんだぞ?」
「これだから女の気持ちがわからない朴念仁は……」
「はぁ?お前、今のはちょっと傷ついたぞ」
「もっと傷ついて女の子の気持ちとか理解できる様になった方がいいんじゃないの?」
何だか二人とも、イラついてないか?
当たりがやたら強い様な……。
「いいから追撃メール入れなさいよ。あと、望月に決めさせようなんて思わないこと。大輝くんがちゃんとリードするんだからね。わかった?」
「ええ……向こう年上なのに……」
「グダグダ言わない!!」
「い、イエスマム!」
ついビビッておかしな返事をしてしまった。
春海の病室のときにも思ったけど、明日香ってやっぱおっかないな。
普段は清楚っぽい感じなのに。
二人が見守る中、俺は望月さんに送るメールの文面を考える。
『ところで、デートの日程なんですが。空いてる日ありますか?できる限り合わせるんで、教えてください』
これなら。
そう思って送信しようとしたその時。
「待ちなさい。ちょっと見せて」
言いながら携帯を奪われる。
「……やり直し。こんな聞き方したら、忙しいとか返ってくるのが関の山よ」
「ええ……。どうすればいいんだよ…」
「望月にああいうことしたときの強引さはどこ行ったの?」
「おい、何でお前がそれ知ってるんだよ……」
「望月が真っ赤になりながら教えてくれたのよ」
「マジか……公開処刑かよ……」
『今日、空いてますよね?空いてなかったら、空けてください。デートしましょう。昨日言ってたことしますんで』
こうなったらもうヤケだ。
「見せて。……八十点てところかしらね。でも、望月相手なら直球の方がいいのかもしれないし……これで行きましょう」
お前はどの目線から言ってるんだよ……。
仕方ないので、そのまま送る。
すると、割と早めに返信がきた。
『空いてないこともない。あと、何をするにしても可愛らしい下着だのを用意しているなんて思わないことだ。待ち合わせ場所を言え』
何て色気のないメールだ……嫁入り前の年頃の娘が打つメールとは思えない。
「返信きたの?何て?」
桜子が興味津々に覗き込んでくる。
「……これ、何てツンデレ?」
「は?ツンデレ?」
「ツンデレでしょ、どう見ても」
「いやいや、ただの色気のない文面にしか……」
「バカ!朴念仁!!」
教室の視線が一斉に俺に向く。
「おい、声がでけぇよ……」
「ああ、ごめんね、ついこの朴念仁の顔見てたらケツ毛燃えそうになって」
「意味わかんねぇ……」
お前燃えるほどケツ毛とか生えてねーじゃん……。
「まぁでも、桜子の言うことも一理あるわね。このメール、これ以上ないくらい望月は楽しみにしてるわよ」
「何処がだよ……」
「最後以外全部逆のこと言ってるよ、間違いなく」
その様子を想像してみる。
赤くなりながら、どう返そう、などとあたふたする望月さん……悪くない。
「さぁ、ほら早く返信返信」
楽しそうで何よりだな。
待ち合わせ場所を設定して、返信する。
『了解した。遅れてくる様なことがあったら許さないからな』
やっぱりどう見ても色気のないメールにしか見えない。
「これがそうにしか見えないから、大輝くんは朴念仁なんだよ」
「そうね……でもそれが大輝くんのいいところでもあるのかもしれないわ」
「おい、少しは手加減しろ。俺はM属性じゃないんだよ」
「わ、わかった……遅れてきたら……許さないんだから…っ。これだったら萌える?」
「……お前、すごいな。ちょっとグッときた」
「物事は多面的に見ることが大事なこともあるのだよ。覚えておきたまえ、朴念仁くん」
放課後になり、望月さんとの待ち合わせ場所に行くので二人と別れる。
制服のままでは、ということで上着だけ近くの洋服屋で購入した。
「あ、いたいた」
春海との初めてのデートを思い出す。
向こうは文字通り初めてなのだろうが、懐かしい感じがする。
「すみません、待たせちゃいましたか?」
落ち着かない様子の望月さんに声をかける。
おそらく明日香がコーディネートしたのだろう、大人のお姉さん風ないでたちだ。
「べ、別に待ってなんか……」
望月さんは既に顔が赤い。
一杯ひっかけてきたの?
「その服、とてもよくお似合いですよ」
思ったとおりのことを口にする俺だったが、予想もしない返しがきた。
「そ、そんなこと言って、どうせすぐ脱がされるんだから問題ない!」
比較的人通りの多い場所での待ち合わせにおける、メガトン級の爆弾発言。
「ちょ、ちょっと望月さん!?」
自分のしでかしたことに気づいた様で、更に顔を赤くする。
周りがざわざわとしてきたので、慌てて二人でその場を離れる。
「なんてこと言うんですか、先走りすぎですよ、全く……」
大分離れた場所まできて、一息つく。
これは早めにどこか連れ込んでしまった方が安全な気がしてくる。
「だ、だって……」
ちょっと目がうるうるしてきて、何だか可愛らしい。
「ああ、ああ、大丈夫ですから、そんな顔しないでください。せっかく綺麗なのに、もったいないですから」
何とか望月さんを宥めて、とりあえず何処に行こうか相談する。
「ウィンドウショッピングとか、したことあります?」
「……あると思うか?」
「すみませんでした、じゃあ早速」
というわけで駅ビルに入って、二人で散策する。
手を繋いでみようと提案すると、これまた動揺した様子を見せる。
埒があかないので無理やり手を取って恋人つなぎをすると、茹でダコみたいな顔色になった。
「これなんか似合いそうじゃないですか?」
言いながらワンピースを望月さんに合わせる。
「そ、そんなひらひらした服……」
「いや、絶対似合うと思いますよ。試着してみません?」
そのワンピースを望月さんに押し付けて店員さんを呼ぶ。
「試着ですか?そちらの試着室が空いてますので、どうぞ」
綺麗な営業スマイルだ。
さすがはプロ、流れが見事だ。
望月さんは渋々試着室へ行く。
「おい」
「はい?」
「背中、上げてほしいんだが」
「え?いやいやこんなとこで……」
「私じゃ届かないんだ」
仕方ない。
そっとカーテンを開けて、両手を突っ込む。
素早くジッパーを上げた。
「これでいいですか……って、可愛いですね!」
「そ、そんなこと……」
よほど自分に自信がないのか、望月さんはしきりに照れている。
「それ、買って帰りましょうか、プレゼントしますよ」
「な!プレゼントなど……施しは……」
「施しって……」
店員さんもやり取りを見ていたのか、笑いを堪えている。
「では、どうされますか?このまま着ていかれますか?」
「……せっかく選んでもらったものだし……汚したくないから、袋に……」
試着室に戻って、元の服に着替えた。
素早くワンピースを奪うと、ちゃちゃっと会計を済ませる。
「はいこれ」
「だ、だが……プレゼントなど理由が……」
「理由があれば、受け取ってもらえます?」
「そ、そういうわけでは…」
「じゃあほら、初デート記念、ってことでどうですか?」
「き、記念……だと……?」
やはり初々しい人だ。
「受け取ってもらえないんだと、せっかくのデートがちょっと沈んだ気分になっちゃうなぁ、俺」
「わ、わかった、もらう。もらうから……」
正直言って、望月さんとのデートは初心に帰った気がして楽しい。
それから軽く…………のつもりが割とがっつり食事をして、望月さんの食べっぷりに店員さんが仰天したり。
家電製品を見たりして、時間が過ぎる。
「そろそろ、行きます?」
駅ビルを出て、望月さんに問う。
それなりの時間手を繋いでいたせいもあって、望月さんはボディタッチ程度なら多少慣れた様に見える。
もちろん、俺以外の人間相手だとどうなるかはわからないが。
「い、行こう。約束だし、その……抱いてもらうまでは帰さないからな……」
俺、抱くなんて言ってないと思うんだけど……言ったっけ?……言ったかもね。
しかし、女は強いなと改めて思う。
あんなにも恥じらい百パーセントだった望月さんが、今こんなにも自分から大胆発言をした。
「わかりました、駅前に戻りましょうか」
駅前の裏路地に、ホテル街と呼ばれるところがある。
ホテル街というと渋谷などが有名だが、ここは知る人ぞ知る場所だったりする。
ホテル街に入ると、望月さんの握る手の力がやや強まった。
緊張しているんだろうか。
「ここでいいですかね?」
望月さんに一応確認をする。
自分の初めてを捧げる場所なんだし、ある程度は尊重してあげた方がいいかなと思ったのだ。
「お前に、任せる……」
言いながら望月さんが腕を絡めてくる。
どうやら望月さんは準備が整いつつある様だ。
フロントで鍵を受け取って、エレベーターへ。
すれ違う人もなく、望月さんのこの恥らう顔を誰にも見せることなく部屋へ到着することができた。
荷物を置いて、中を見回す。
そこそこいい感じの部屋に見える。
一方望月さんはというと。
「こ、こんなものを男女で見ることなんて、あるのか……」
大人チャンネル的なパンフレットを見てまた顔を赤くしていた。
「興味あるなら、つけますけど。見ます?」
「か、からかうな!……その……シャワー……浴びてきていいか?」
まぁ今日暑かったし浴びたいって気持ちはわかる。
そのままがいいですよ、なんて意地悪が口をついて出そうになるが、ぐっと堪える。
さすがに初体験で強烈な思い出を残し過ぎるのも良くないだろう。
「わかりました、待ってますね」
言いながら、俺はごろんとベッドに横になる。
これからいよいよ、望月さんの初めてを頂戴してしまうわけだが……正直あのタイプは重そうだ。
体重の話ではない。
むしろ体系はスマートで、無駄な肉とかほぼないだろうと思う。
心配なのは、責任についてだ。
貞操観念がかなり堅そうに見えるので、一度セックスをしたらそのまま溺れるか、溺れないまでも結婚の話をちらつかせてきたりしそう。
かなり失礼なイメージではあるが、ありえない話ではないと思った。
年齢的にも、結婚を意識してたって、なんらおかしい事はないのだから。
あと心配なのは、少しでも冷たくしたらヤンデレ化したりしないかということだ。
職業が職業だけに、そうなってしまったら洒落では済まされない。
「うど……大輝、上がったぞ」
バスタオル一枚に身を包んだ望月さんはとても扇情的で、思わず息を呑んだ。
昨日は触る方に夢中でよく見ていなかったが、肌も綺麗だ。
「あ、お、俺も浴びてきますね。適当に何か飲んでてください」
動揺を隠す様に、俺も手早く服を脱いでシャワーを浴びる。
きっと隠せてなかった。
はっとさせられるだけの魅力を、彼女は持っていた。
期待に胸だけでなく色々膨らみかけるが、何とかしてそれを抑える。
一通り洗って浴室を出ると、望月さんは大人チャンネルを見ていた。
「あ、こ、これは違うんだ!その、べ、勉強というか……」
「あ、えーと……うん。俺は何も見なかった。大丈夫ですよ」
「その目、やめろ!わ、私だって、お前を……その……」
俯いて、声が次第に小さくなっていく。
「悦ばせようと、してくれたんですね?嬉しいです」
もう、抑えられないと思った。
年上の、この可愛らしい生き物を、早く女にしてしまいたい。
そんな衝動に、逆らうことなど不可能だった。
望月さんの顎を右手で持ち上げ、キスをする。
昨日も一、二回はしてるので……あれ、もっとだっけ?
なので、望月さんも多少は慣れてきている様だ。
たっぷり時間をかけて、お互いの唾液を交換する。
舌を絡めあううち、望月さんはもじもじとしだした。
その拍子にバスタオルが落ちる。
「あっ……」
「隠さないで。とても、綺麗ですから」
歯の浮く様なセリフを今日はやたら連発している気がするが、初めてのセックスに夢を見ている女性にはこういうのもいいのかも、なんて思った。
控えめに見える望月さんの体は、着やせするだけで出るところが出て、引き締まるところがきちんと引き締まっている。
そして、肌も染みなどがなく白くて綺麗だ。
昨日よりも丹念に愛撫をして、俺と望月さんは一つになったのだった。
「和歌って呼んで」
そう言われたのは二回戦めの途中くらいだったが、割と抵抗なく俺は和歌さんと呼ぶことが出来た気がする。
具体的には四回くらい頑張って、再びシャワーを浴びて眠りについた。
今日は睦月がいないので、疲れを取ってくれる人もいない。
きちんと休んでおかなくては。
抱き合って寝ていると、突如衝撃が走って、俺は軽く悶絶する。
寝息を立てる和歌さんが、俺の腹部に蹴りを入れたのだ。
「!?!?」
もしかしてこの人……最高に寝相悪い?
少し離れようとすると、和歌さんは寝返りを打った。
その拍子に、細く長いその脚が再び舞う。
「おおっとぉ……」
さすがに何とかかわして、俺はやれやれと思いながらベッドを出る。
これだけは着るまい、などと思っていたガウンを取り出して、それを羽織ってベッドの横にある椅子で再び眠りについた。
セットしていたアラームが鳴って、俺は目を覚ました。
そういえば和歌さんは何時に起きればいいんだ?
とりあえず顔でも洗っておこう。
洗面所兼風呂場で顔を洗い、鏡を見る。
昨日夢中だったからそんなに気にしてなかったが、首にキスマークがついている。
見つかったらあいつらにいじられそうだな……。
かと言って絆創膏とか貼ったら余計目立ちそうだ。
少し考えた末、このまま行くことに決めた。
「あ、おはようございます、和歌さん」
「んう……おはよう……」
寝起きもあんまりよくないのか、まだ寝ぼけ眼の和歌さん。
「もう起きて大丈夫なんです?俺は学校あるからもうちょっとしたら出ますけど、チェックアウトの時間まではもう少しありますよ?」
「んー……大輝も出るんだろう?なら、私も一緒に出る」
そう言って立ち上がって、んんー、と伸びをする和歌さん。
ガウンから色々チラチラ見えて、昨夜あんなに出したのにまた元気になってしまいそうになった。
和歌さんも顔を洗って、戻ってくる。
「まだ少し時間あるけど……何か食べます?」
「いや、食事なら戻ってからするから……」
そうだった、この人食べる量が尋常じゃないんだった。
身支度を済ませて、部屋にある清算機にお金を入れようとすると、和歌さんに止められた。
「さすがにここは私に出させてくれ」
和歌さんがどうしても、と言うのでここは譲っておく。
「次回は、俺が出しますね」
ホテルを出ると、朝日がやたらまぶしい。
朝の空気、という感じだ。
だが……。
「囲まれてるな……」
「結構な人数いますね、これ」
俺たちを囲む視線に二人ともが気づく。
「大輝、戦えるか?」
「多少は鍛えられていたので。それより和歌さん、女性なんですから下がっててくださいよ」
「バカ言うな。私の職業を忘れたのか?舐めてもらっては困る」
言いながらバッグに手を入れる。
おいおい、こんなとこで銃ぶっ放したり……しないよな?
やがて人影が見える。
迫りくる気配。
「くるぞ」
俺も身構える。
そして……。
「若頭!おめでとうございます!!」
朝のホテル街に響く歓声。
「んな!?お、お前たち……!」
「え、明日香のとこの……?」
「望月、卒業おめでとう」
「あ、明日香!?」
何と、明日香の組の若い衆が十人前後、それに明日香が待ち構えていた。
「それに、大輝兄さん!!お嬢と若頭二人とも攻略しちまうなんて、さすがです!!兄さんと呼ばせてください!!」
その若い衆の一人が言う。
攻略って……攻略か。
いや、明日香はちょっと違うだろ。
「や、やめてくださいよ……兄さんとか、尻がむず痒くなりそうだ……」
「そんな、ご謙遜を!」
「くく……いいじゃないか、兄さん」
和歌さんがその様子を見て笑う。
明日香もちょっと笑っている。
「いや……呼ばれるなら、女の子から躊躇いがちに……お兄ちゃん……とか呼ばれたいかなって」
ちょっとマニアックな妄想を垂れ流すと、明日香が少し引いた顔をした。
「そ、そう」
「……お兄、ちゃん……こ、こうか?」
渾身の大ボケ。
しかし、何か新しい扉を開きそうだ。
若い衆も、言葉を失って和歌さんを見ている。
「も、望月……大輝くんが非常にだらしない顔をしているわ……そのくらいにしておきなさい」
「ところで、何でこんな時間にこんなとこいるんだ?」
「二人が出てくるのを待ってたのよ」
「へぇ……って、何で場所までわかるわけ?」
ちょっと怖いんだけど。
睦月にでもサーチさせたのか?
「GPSって知ってる?」
「あ、なるほどね」
文明の利器フル活用してやがる。
「若い衆が、望月にお祝いを言いたいって聞かなくて。だから、GPSで位置を探って、待ってたのよ」
「お嬢……そんな、私なんかの為に……」
「望月、私は嬉しいのよ。やっと、望月が自分を解き放って女でいられる相手を見つけてくれたことが」
その相手ってお前の彼氏でもあるけどな。
言うとややこしいことになりそうなので黙っておく。
勝手に盛り上がる二人。
そんな二人をよそに、若い衆が三人くらい俺のところにきた。
「大輝兄さん……若頭の、固く閉ざされた扉をこじ開けて頂いて、本当に感謝してます」
「や、やめてくださいって」
「いやいや、おそらくおやっさんもお喜びになるかと」
え、ヤクザに気に入られるとかちょっと怖いんだけど。
「これからも若頭とお嬢を、よろしくお願いします。何かあれば俺たち、全力で協力させてもらいますから!」
そこまで感謝される様なことでもないし、何だか気恥ずかしい思いだ。
「大輝くん、今度お父さんが会いたいって」
「ええ……」
まさかこんなことになるなんて……。
「とりあえず今は学校、行きましょ。少し早いけど朝ごはん買って、ね?」
「あ、ああ」
和歌さんと若い衆に挨拶して、俺と明日香は学校に向かう。
清清しい雰囲気の朝が、一気に騒々しい雰囲気になってしまったが、これはこれで。
目的の一つが達せられたことに、俺は満足していた。
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