手の届く存在

スカーレット

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本編

大輝編44話~修学旅行三日目~

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三日目。
先生が実質的な最終日と言ったこの日。
俺たち一行は動物公園に行くためにまた観光バスに乗る。

動物公園での行動時間は二時間ほど。
ここはかなり好みの分かれる部分だと思う。
俺としては匂いさえ何とかなれば、と思うがそれは気にならないという人もいるし、動物そのものが苦手という人もいる。

「大輝、私思うんだけど」
「ん?何だ、またロクでもないことだろ」
「ロクでもないって言えば、確かにそうかもしれないけど……オランウータンとかって、オスは特にモザイク必要だと思わない?」
「気持ちはすげぇわかる。俺も似た様なこと考えてたから」

他の班員が、た、確かに……とか言いながらまじまじと見つめている。
オランウータン見て興奮するなよ、お前ら……。
まぁこういうのも楽しみ方の一つなのかもしれない。

だが、大半の生徒は飽きてしまっているのか園内にあるコンビニで買い物をしたりし始めている。
おかげでコンビニは大盛況だろう。
しかしここで二時間過ごすというのは、よほど動物が好きとかでなければ難しいのではないだろうか。

森なんかもあるみたいだが、今は入れないらしい。
虫とか苦手な俺からしたら、寧ろ好都合ではあるのだが。
睦月がまた何かやらかすに決まっているのだから。

それでも俺は何となくの貧乏性を発揮して、回っておかないともったいない、ということで公開されているエリアは全部まわっておこうと提案する。
特に異議を唱える者もなく、見られるところを隅々まで回る。
同じ様な考えの班がいくつかある様で、全部を見て回っていると他の班とかち合ったりした。
そうして回っている内、時間は過ぎてホテルに戻る時間になった。

観光らしい観光って初日しかしてなかった気がするけど、それでよかったのだろうか。


「私の水着、楽しみ?」

ここで別に、とか言うとまたとんでもない暴挙に出そうなので、俺は無難な返事をしておくことにする。

「ああ、すげぇ楽しみ。早く見たくてウズウズしてるぜ」
「大輝、嘘つくの下手だよね。もう少し努力しようよ」
「…………」

何でバレたのか。
白々しすぎたのかな。
今度からもう少し、嘘をつく為の努力ってやつをしてみようと思う。

ホテルに戻って、水着を部屋に取りに行って更衣室へ。
大体の男子はそのまま脱いでそのまま履いたりしてるのだが、やはり隠したがる人はいるものだ。

「お前、何隠してんの?女なの?」
「いや、上半身は既に脱いでるんだから女じゃないことくらいはわかるでしょ……」

その男子は別に、女っぽいとかそういうこともない。
となれば……あれか、生えてないとか。
いや、さすがにそれは……。

あ、そうか剃っちゃったとか。
それか極端にでかいか小さいか。
まぁ、どうでもいいっちゃどうでもいいな。
そいつのアレがどうだろうと、俺に何の都合も不都合もないのだから。

「おい、その辺にしとけよな。見られたくないんだろうから、そっとしといてやれよ」

と思いながらもついつい口を出してしまう。
ほっとけばいいのに、なんて思う一方で、こういういじりはあんまり見ていて楽しいものではない。

「何だよ、お前気にならねぇ?こいつが隠す理由」
「別に、気にならねぇよ。てか何?お前こいつのこと好きなの?そっちの趣味なら全力で応援してやるけど」
「は、はぁ!?か、勘弁してくれよ。ただちょっと気になっただけだっつの……」

そう言って冷やかしていた方の男子がそそくさとプールへ向かう。
余計なお世話だったかな、なんて思いながら俺もプールへ向かおうとすると、隠していた方の男子に呼び止められた。

「生徒会の、宇堂くんだよね。庇ってくれて、ありがとう」
「いや、そういうつもりじゃないから……ま、ああいうのはいちいち気にしたらキリがないからな、適当にあしらう手段でも考えておくんだな」

そう言って俺もプールへ向かった。

「大輝、こっちこっち!」

ホテルのプールということもあって、人は多いがバリエーションはそんなにない。
どっちかというとスポーツジムとかについているプールのイメージだ。
しかし何処にいても元気なやつだ、本当……。

「水着、どう?」

わざわざ水から上がって、俺の前で一回転して……とは言ってもバク宙とかしないだけマシなんだが、見せつけたいらしい。
こんなところで体操選手顔負けのバク宙だのムーンサルトだのされたら、またしても注目されてしまう。

「すっげぇ似合ってる!芸術品みたいだ!」
「ねぇ、大輝私のこと嫌いなの?何でそんなに白々しいの?」
「…………」

くそ、まだ修行が足らないということか……!
でも、似合うと思ってるのは本当なんだけどなぁ……難しいものだ。

「あら、二人とも早いのね」

明日香と桜子もやってくる。
水着の二人はちょっと新鮮だ。

「おお、なかなかいい感じじゃん」
「でしょでしょ?二人で選んできたんだよ」
「…………」

そんなやり取りを見た睦月がむくれた顔をして、おもむろに俺の背中に蹴りを入れる。
一瞬呼吸が止まり、しかも蹴りの衝撃で俺の足が地から離れる。
もちろん俺はプールに真っ逆さまに落下した。

「ちょ、ちょっと椎名さん!?何してるの!」

担任教師が驚いて飛んでくる。

「あー、ちょっとハエが止まってたもんで」
「だ、だったら手で取ってあげたらいいじゃないの」
「え~、だって手が汚れるじゃないですか」
「……足だったら汚れていいのかよ」

もちろん、ハエがいたなんてのが嘘だってことはわかっている。
らしくもなく睦月はヤキモチを妬いたのだろう。
可愛いところもあるじゃないか。
……蹴りは割とマジで痛かったけどな。

「ほら、いつまでもむくれてるなって」
「…………ふん」
「むーつきー?」
「…………」
「悪かったよ、すごい似合ってるって思ったのは本当なんだぜ?ただあんまり素直に言うのがちょっと恥ずかしかっただけで……」

後ろからあすなろ抱き?っていうんだっけ、これ。
で囁いてみると、睦月はふふ、と笑ってやや機嫌を直す。
何だ、案外チョロいなこいつ。

「じゃあ大輝、私の遊びに付き合ってくれる?」
「ん?遊び?」
「そう、遊び」

睦月がプールに手を突っ込んで、ぐるぐると回す。
最初は小さかった水流がやがて水面を抉って竜巻の様に勢いを増していく。

「お、おい……?」
「さ、大輝。この中に入って」
「嫌に決まってるだろ!死ぬぞ、こんな中入ったら!」
「大丈夫、危なくなったら止めるから」

見た目からしてもう、洗濯機とかの勢いを超えているその水流は、周りを徐々に巻き込みつつあった。
こうなったら俺が入って、中から流れを止めるしかない。

「わかった、任せろ!」

こんなことで睦月の機嫌が直るなら、と俺は意を決して水流のど真ん中に飛び込む。

「う、ヴぉ!?ぼヴぉぼヴぉぼおおぼぼぼ!!!」

思っていたよりも、というかもう完全に俺は水流の強さを舐めていた。
侮るべきでなかった。
止めるなんてことが俺にできるはずもなく、俺は敢え無く洗濯されてしまう。

「ちょっと睦月、やりすぎよ!」

明日香の声が聞こえた気がする。
あまりの勢いに目を閉じていたのだが、開けてみると俺の他に何人か巻き込まれて流されているのが見えた。
……これはさすがにまずくないか?

「おっと、いけないいけない」

ぴたりと水流が止められ、その反動で俺は水の中で男子生徒と抱き合う形でぶつかってしまった。
そういう趣味のない俺には割と苦行だ。
他の数名も俺たちのいた場所からプールの真ん中くらいまで流されたりと、割と大惨事だった。


「何であんなことしたの?ていうか、人間業じゃないんだけど……」
「ちょっとムシャクシャしてやりました。反省してまーす」
「ムシャクシャって……ニュースで出てくる犯人の供述じゃないんだから……」

プールサイドで先生に、珍しく睦月が怒られている。
睦月はやや頬を膨らませて、ふてくされた様な表情だ。
子どもかよ……。

「あー、あの先生?俺がちょっとこいつの癇に障る様なことしちゃったっていうか……なので、俺も怒ってください」
「宇堂くんが?そうなの?」
「…………」

睦月は答えない。

「まぁ、そういうわけなんで……反省文とかなら俺が書きますから、許してやってもらえないですかね……」

はぁ、面倒だ。
そう思いながらも庇わずにいられない。

「そう言うんであれば今回は特にけが人とか出なかったし、それでいいわ。宇堂くん、東京に帰ってから原稿用紙五枚分ね」
「ご、五枚!?そんなに何書けって言うんですか……」
「あら?愛する彼女をかばいたいなら余裕じゃないの?じゃ、ちゃんと持ってくること」

それだけ言って先生は引き上げていった。
睦月を見ると、膝を抱えて頬を膨らませている。
まだ怒ってるのか、こいつ……てかこいつがこんなに拗ねるの、初めてかも?

「なぁ、ごめんって。俺が悪かったよ。無神経だったよな」
「大輝……」
「ほら、まだ時間あるんだし泳ごうぜ」
「…………」

無言で立ち上がって、俺に抱き着いてくる睦月。
そっと抱き返す。
よしよし、なんて頭でも撫でてやろうかと思ったら、肋骨の下、後ろ脇腹あたりに衝撃が走る。
それも、何度も。

「いて、いて、おま、レバーブロウは、勘弁……」
「…………」
「て、的確に打ち込むの、やめ、いて、いて、いて……」
「大輝、私より明日香とか桜子先に褒めた……」
「だ、だから悪かったって」
「ひどい、大輝の好きそうなの選んだのに」

ちょっと俯いて、それでもレバーブロウを睦月はやめない。
将来酒とか飲めなくならないかな、これ……。
それはそれとして、さすがに痛いので手首を掴んでレバーブロウをやめさせる。

「こんなことなら……」
「ん?」
「こんなことなら、マイクロビキニにでもすればよかった……」
「それはやめてくれ。俺が嫉妬に狂っちゃうから。周りの男どもの視界を、塞いで回らないといけなくなるだろ」
「バカ、大輝のバカ……」
「つ、つい意地悪したくなっちゃったっていうか……ほら、あるだろ?小学生が好きな女の子に、ってやつ」
「そんなことでごまかされないもん」
「いや、割とマジでそうなんだけど……」

埒が明かない。
それに人目もあるので、徐々に俺たちが注目を浴びてきているのが何となくわかる。
すごく恥ずかしい。

とりあえず睦月にプールから戻ろうと提案して、更衣室の前で待ち合わせた。
いつも同じ非常階段ではちょっと芸がないかな、と思い一個上の階で話し合おうと睦月を連れていく。

「なぁ、どうしたら許してくれる?」
「…………」
「何でもいいぞ?百万持ってこいとか言われたらちょっと無理だけど、俺にできる範囲でなら」
「じゃあ……」

睦月が何やら力を使ったのがわかる。

「十回、今から大輝が出すまでエッチしてもらう」
「はぁ!?じゅ、十回!?」
「できないの?」
「いや、てかここで……?」
「大丈夫、誰も私たちの姿見えないから。音も匂いも感じることはできないよ」
「ほ、本当かよ……」
「だって今、空間切り離したから」

タイムリーに階段を降りてくる人がいた。
睦月が俺の手を掴み、動かない様に言う。
すると階段から降りてくる人は俺たちを避ける素振りも見せず、そのまま降りてきた。
ぶつかる……と思ったら、その人は俺たちをすり抜けて階段を降りて行った。

「ほらね?」
「こ、こんなことにお前……」
「……こんなことって何!?もう、私本当に怒ってるんだからね!!」

女神の怒りを買った俺は、そのまま非常階段で実に十二回、発射するまで搾られた。
そこまでにかかった時間はおよそ五時間。
当然ながら俺と睦月がいない、となってホテル内は騒然としたらしい。

ぐったりフラフラとしながら、俺は事後に先生にまた怒られる。
何かこの修学旅行、俺が怒られる為の催しみたいな気がしてきた。
早く明日、東京に帰りたい……。

俺は切にそう願った。
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