手の届く存在

スカーレット

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本編

大輝編48話~一人目の新入り~

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「先輩って、釣った魚に餌あげない人だって聞いたんですけど、本当ですか?」

二回戦くらい終えて気の抜ける時間、と思っていた午後のホテルの一室。
俺は生徒会で知り合った後輩の内田さんと裸でベッドに横になっている。
夏休みに入ってすぐくらいに三人を……手籠めにして(睦月談)、さっそく爛れた夏休みを過ごしている。

「釣った魚って表現がそもそもあんまり好きじゃないな……狩りとか釣りとかしてるんじゃないんだし……」
「でもでも、先輩ってエッチは優しいし、たまに激しいこともあるんですけど、普段あんまり構ってくれないですよね」

グサリと来る一言だ。
これは前からほかのメンバーにも何度となく言われてきてはいる。
俺だけなのか、それとも男って大体そうなのか、その辺はよくわからないけど、目的を達すると何て言うか、気が抜けてしまうのではないかと思う。

ほら、男って賢者タイムがあるだろ?
多分あれに似た様なもんなんだと思うんだ。
……なんてのは女からしたら言い訳にしかならないよな、きっと。

「か、構ってほしいってどういう風に?」
「なんていうんでしょうね……もっと恋人感がほしいと言いますか」

これまた難しいことを……。
たとえば街中でそんなことをしててみろ、誰かに見つかって椎名はどうしたとかいらない追及を受けることになるんだ。
もちろんその椎名が発案で、こんなことになってるんだけどな!とも言えないままに。

朋美のやつも、似た様なことを言っていた。
夏休みに入って、また睦月のマンションに入り浸る様にはなったが、去年と違って今年はバイトを全休にしなかったらしい。

「大輝は、もう少し自分の持ち物に愛着を持った方がいいよ」

こんなことを言われ、新しく手に入った『持ち物』である三人をまずは大事にしてみろと。
全くもって意味がわからない。

「恋人感ねぇ……じゃあ、どっか行ってみる?」
「そういうんじゃないんですって……二人でいるときに、こう甘い言葉をささやいてみたり、とか」
「甘い言葉……パフェでも食うか?」
「……はぁ?」
「その目やめろ……後輩からまでそんな目向けられたら俺、新しい扉開いちゃいそう」
「なんていうか、必死さが足りないんでしょうかね」
「常に必死な人とかちょっと怖くないか?俺が常時必死な顔してたら、お前ら絶対引くから」

大体疲れそうだし、俺としてもそれは勘弁してもらいたい。
構う……か。

「こ、こんなのはどうだ?」

俺は体制を変えて、内田さんの手を握った。
いわゆる恋人つなぎというやつだ。

「お、いいですね。でも、もうあと一歩」
「い、一歩?」
「こんなんで満足するのなんて、せいぜい付き合い立てのカップルくらいじゃないですか?」
「俺たち、始まったばっかりだと思うんだけど……」
「それでも、もう体の関係になってるわけですし……物足りないです」

少し頬を膨らませて、上目遣いで俺を見る。
睦月め、余計なこと教えやがって……やりづらいことこの上ない。
暑いしあんまりくっついてたくないんだけどなぁ、なんて思うが、そんなことを言ったら睦月はもちろん朋美にまでチクりが入ることは間違いない。

そしてまた何時間にも及ぶお説教になったりするのだ。
途中で居眠りなどしようものなら、容赦なく拳が飛んでくる。
一体どこの軍隊なんだ……。

「よし、わかった。じゃあ……」

ぐいっと内田さんをそのまま抱き寄せて、密着する。
お互いの鼓動が聞こえるくらいまでくっついて、そのまま額を合わせた。

「こ、これなら……?」
「いいですね、ポイント高めです」
「そ、そう……」

どの目線で言ってるんだ、この子……。
まぁでも、女の子のお願いの一つや二つ、叶えるのは男の甲斐性なのかもしれないし、ここは暑いのを少し我慢することにしよう。
内田さんはそこそこスタイルが良い上に平熱がやや高いのか、くっついてると汗ばんでくる。
ていうかこんだけ密着していると、またも俺は復活してしまいそうなんだが……。

「先輩、もう一回したいです」

ほらきた。
この子は多分新規の三人の中では一番性欲が強い。
初めての時でも五回くらい、その次からで大体平均七回。
どんだけ盛りついてんだよと心の中で突っ込みたくなるが、物理的に突っ込んでいるわけだし、とそっちに集中する。

三人と交わることで、俺に何か変化があったのかと言われると、正直実感がない。
新鮮さはあるものの、それ以上のものは特になくて既存メンバーを大事にできそうか、なんて聞かれたりもしたがそれは元々してるから、としか返せない。
俺の方も正直、今日は誰々と会って、明日は誰々で、なんていうのを考えるのがやや面倒になってきている。
まぁ、そうなったときはまとめて相手をすることにするわけだが、新規組は正直あまりまとめてされるのは好きじゃないみたいだった。

「そういう相手を相手にするのが、大輝の為になるんだと思う」

睦月はそんなことを言っていたが、具体的にどう俺の為になるのか、ということについては言ってくれない。
ちなみに明日は睦月や朋美と言った既存の高校生組と会う予定だ。
一日置きで既存、新規、と繰り返すこの夏休み。

もちろん俺もバイトはあるので、ある日に関しては終わったあと、ということになるので順番が前後することもある。
新規組は基本的に泊まりがNGらしく睦月の家にいることがほとんどないので、今の様にラブホテルを利用して休憩で入ることが多くなる。
実は、この件に関してはパトロンがいる。

勘のいい人はもうお気づきかもしれないが、明日香の組で管理しているホテルがこの街にはいくつかあって、その一室を、休憩でいいなら、と使わせてもらっている。
よって毎日の様にホテルに入り浸ったとしても、俺の懐が傷むことはなく、せいぜい食事と飲み物くらいで済んでしまう。
そもそもお泊りNGの相手と交わるんだったら休憩で事足りるので、とても助かっている。

俺は基本的に、女を先にイかせてそれから自分が、というスタンスでやることにしている。
そうじゃないと何となく、不公平な気がするからだ。
それでも大事にしてない、みたいに言われるとどうしたら良いのか……という様なことを、内田さんとまぐわいながら考える。

「先輩……集中してもらっていいですか?」
「あ、ごめん。ちょっと考え事を……」
「もう……私とのエッチ、退屈ですか?」
「いや、すごくいい。ただ、ちょっと思うところがね」
「そういうの考えるのは、一回終わってからにしてもらっていいですか……っと、えい!」

内田さんを組み敷いていたはずの俺がひっくり返されて、そのまま馬乗りの体制になる。
ああ、ゾーンに入ったか……なんてカッコつけてみるが、所謂本気モードになっただけ。


結局休憩の五時間の間で追加で八回、内田さんは俺から搾り取っていった。


「先輩、今日もありがとうございました」
「…………」

全裸で土下座をしながら、内田さんは言う。
新規の三人は、必ず事後にこれをやってくる。
あと一つ、内田さんはちょっと変わった性癖を持っている。

「今日撮ったの、送ってもらっていいですか?」

そう、簡単に言うとハ〇撮りを強要してくる。
俺が撮るのも、内田さんが撮るのも、両方やりたがる。
最初にこれを提案されたときはさすがに拒否したのだが……途中から割と楽しくなってしまって、しかし終わってみると冷静になって、何やってんだ俺……となる。

しかも撮るのは決まって俺の携帯。
おかげで俺はSDカードを追加で買い足したりしている。

「わぁ……すごい、こんなにくっきり映るんですね」
「そうね……てか自分の見て楽しいの?」
「研究になったりしません?復習っていうんですかね」
「えーと……基本的に自分で見ないからわかんない……」

さすがについていけないと思った。
他の二人もそうなのかと試しに挿入しながら携帯を取り出したら、樋口さんには携帯を奪い取られて放られ、小泉さんには突き飛ばされて散々搾られた。
やはり内田さん個人の趣味の様だ。

どっかのサイトにアップされたりしてないだろうか、なんて思って検索したりしたが、そういう様子はないみたいだったので安心してはいるのだが。
あと、三人は行為そのものに対しては幻想を全く持っていないみたいだった。
三人ともが処女だったのに、一人もそういうものがないことに関しては驚いた。
期間限定とか割り切ろうとするのも、何となくわかる気がする。

翌日。

「昨日は内田さんだっけ。どうだった?」
「どうって……良かった、とか?」
「そういうのはいいよ。そうじゃなくて、何か気づくこととかなかった?」
「ええ……何かって……」

元々人の変化に疎い俺に、何ていう質問を飛ばしてくるのか。
髪を切ったとか、そういうわかりやすいのだったらすぐ気づく自信はあるけど……行為の最中のこととかだったらちょっとお手上げかもしれない。

「行為の最中だね、残念ながら」
「それだと割と、俺余裕ないぞ……」
「そこに余裕を持たせるのも、今回の趣旨の一つなんだけどね」

だったら最初からそう言ってくれ……じゃなきゃ普通に回数こなして終わるわ……。
まぁ、こんなこと言うとまた糾弾されるに決まってるので何も言わないわけだが、朋美は俺の手を取って、いざ、とベッドにいざなう。

「え、もうするの?」
「昨日内田さんにしたのと同じにしてみて」
「は?あんまり詳しく覚えてないんだけど……」
「もう……ああ、そういえば内田さんてハ〇撮り?っていうの好きなんだったよね。データあるんでしょ?見せて」

新手の拷問きた。
一番最初に撮ったやつから、全部をパソコンでなぞって鑑賞会が始まる。
セクシービデオの男優みたいだろ……?これ、俺なんだぜ……とか言いたくなるが、心ない一言が飛んでこないとも限らないので黙っておく。
そんなの飛んで来たら俺……男としての自信失っちゃうかもしれない。

「ああ、やっぱりだ」
「え?」
「内田さん、もう大輝にメロメロだよ」
「メロメロって表現が時代を……いやなんでもない」
「……よーく見比べてみて。こっちが最初に撮ったやつ。こっちが昨日撮ったやつ」

言われて二つの動画を見比べる。
何だか複雑な気分だ。
あれ、そういえば……。

「気づいた?」
「ああ、気づいた……と思う。しがみついてくるときの手の位置とか密着具合、で合ってるか?」
「あと、キスの頻度かな」
「よくそんなの気づいたな……言われなかったら多分、俺一生気づかなかったよ」
「これだから大輝は……」

そこで切るなよ、最後までちゃんと言っていいから。
別に禁止用語とかじゃねーから。

「まぁ、極め付きは大輝を見る目線かな。多分、動画撮ってるのは……一人で思い出すとか、そういうので使ってるんじゃないかな」

マニアックすぎんだろ……何でわざわざ自分の実践動画でヌくわけ?

「更に言うなら、引きながらでも自分の変わった性癖を嫌がらずに受け入れてくれてるって思いも後押ししてそう」
「なるほどな……じゃあ、朋美もやってみるか?」
「……は?そんなことしたら、私お父さんに見せるから」
「ちょ、ちょっと待て!冗談だから!俺殺されちまうよ!」

この日の面々はやや控えめで、俺はスカスカになるまで頑張ることなくその日を乗り越えることができた。


『樋口さんが夏風邪引いたとかで行けないみたいなので、私が代わりに行ってもいいですか?』

翌日の朝イチでメッセージが届く。
正直、この着信音で俺は目を覚ました。
というか、その前にも樋口さんから風邪を引いたという旨のメッセージがきている。

何で気づかなかったのか……。
まだ寝入っている面々を起こさない様に部屋を出て、俺は支度を始めた。


「何だ、気づかれちゃったんですか」
「まぁな……っても、俺が気づいたってよりは朋美なんだけど」
「朋美先輩ですか、あの人すごいなぁ」

ホテルに行く前にデートらしいことがしたい、という内田さんの願いに応えて、俺はカフェで朝食でもと内田さんを連れてきた。
まぁ、俺も正直寝るだけだったらあんまり気が進まない部分があったので、ワンクッション挟んでくれる方がありがたい。

「で、それを知ってどう思いましたか?」
「……知らない方が、お互いにとって幸せなことってあるのかもしれない、って俺は思った」
「それは、何で……?」

やっぱり俺たちの関係は歪で異常だ。
それに巻き込んでしまっていること、それに俺なんかにそんな思いを抱いてくれること自体はうれしいが、心からそれに応えられるかと言われると現状ではYESと言えない。
どう控えめに言っても、俺がやっていることは最低の一言に尽きる。

そんな俺のことを思ってくれる相手に、俺は何も返してやれない。
それが少し、つらい。
もしかして、もっと早くに出会っていたなら……春海と付き合い始めた頃とかならきっぱりと断ることもできたかもしれない。

まぁ、その時まだこの子は小学生だしあり得ない話ではあるのだが。
だが今の俺にはそこまでの強さがない。
だから流される。

「でも、先輩」
「ん?」
「私、いいんです。最初からわかってましたから」
「……何が?」
「つながれるのは、体だけなんじゃないかって」
「…………」

それがわかってても尚俺と、っていうのはきっと、歪な関係でなければ一緒にいられないから。
今どき珍しい一途な子だ。

「椎名先輩のこと、ずっと見てますから、先輩は」
「……そんなことはないけど」
「比率の問題ですよ。宮本先輩や野口先輩のことも見てますけど……一番見てるのはやっぱり椎名先輩です」
「まぁ、それならそれでいいんだけどさ。なら、どうする?やめとくか?初めてを返せ、とか言われても返すことはできないけど……」
「いいえ、私やっぱり一緒にいたいです。だって、先輩はエッチの時すごく優しいですし、その時だけは私をちゃんと見てくれますから」
「……そうでもないから、朋美が先に気づいたんだぞ」
「そこはそうだな、でいいじゃないですか……もう決めたんです!だから先輩が卒業するまでは、私ずっと付きまといますから」

これはちょっとやそっとじゃ解放されないんだろうな、と俺でも何となくわかる。
歪であると自覚しながらも、その関係をやめようとしない、ちょっと可愛い後輩のお願いを、今日もこれから聞くことにしよう。
それ以外でももう少しだけ、この子を見てあげられる様に。
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