手の届く存在

スカーレット

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本編

Girls side44話~首謀者の名前~

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「はい、睦月ちゃんは烏龍茶だったよね」
「ええ、ありがとう」

何この烏龍茶……底の方が緑色になってるんだけど……お粗末すぎない?
やるならもう少し隠す努力くらいしてほしかった。
大輝も何だか笑いを堪えている様に見える。

大輝に渡されたコーラも、何だか底の方が青みがかって見える。
本当、何がしたいのかわからなくなってきた。
一応事前に、杉本と藤原からこいつらのやり口だけは聞いている。

だが、先輩の名前は出さなかった。
実際に目にしてみると、正直こんな連中に引っかかった方がアホなんじゃなかろうかとさえ思えてきて、被害者に同情の念すら湧いてこない。
面倒だしこの場を切り抜けるだけ切り抜けて、帰ってしまうのもいいかもしれない。

何の疑いも持たずにこいつらを信用できた被害者に、尊敬すら覚える。

私や大輝が普通の人間だった場合、ここで私たちはこいつらの用意したドリンクを飲んで眠らされる。
そして、目が覚めたら事後で、動画なんかも撮られているとのことだ。

ちなみに私たちが今回了承しなかった場合には、杉本と藤原がその動画のリストに仲間入り、という話だったらしい。
被害者の何人かは既に無料のエロ動画サイトに投稿された者もいるんだとか。
それに関しては私が確認して、削除しておいたのだが。

大輝がしきりに内容を確認したがってたので、その時はつい頭にきて股間を蹴り上げてやった。
もちろん使い物にならなくなったら困るし、十二分に手加減はしたつもりだ。

話を戻すが、どっちの先輩が首謀者でももういい。
疑わしきは罰する。
疑われる方が悪い。

つまりは、めんどくさい。

なので私はとっとと解決すべく強硬策に出ることにした。

「ふぅ、美味しい」
「……え?」
「あ、もう一杯もらえます?」

私も大輝も、手渡されたドリンクを一気に飲み干してグラスを空にした。
全員が驚いている様子で、目を見開いている。

「そ、そんなに一気に飲んだら……」
「何かあるんです?あ、違うドリンク混ぜてあったり?」
「そ、そうじゃないけど……」
「ああ、一応この二人から、先輩方が今まで何をしてたのか、聞いてますよ」

さらっと言ったが、目で動いたら殺す、と告げる。
空気が徐々に冷えてきて、私と大輝以外が恐怖に顔を歪める。

「ど、どういう意味よ……」
「目で言うだけじゃ伝わらないみたいですね。あと、サイトからも動画は削除してあるのと……先輩の携帯からもデータは削除させてもらってますので。それから、クラウドなんかに接続するのはやめた方がいいですね。一応、忠告だけしときます」
「う、宇堂も……知ってたってこと……?」
「まぁ、俺と睦月は大体いつも一緒ですし。女の子に泣いて助けを乞われたら、さすがに断れないですよ」

そう言った大輝が、空になったグラスを軽く放り投げて、手を振るとグラスが真っ二つに切れて床に落下した。
演出過剰だなぁ……。

「俺も睦月も、こんな具合に普通じゃないです。仮にあんたらが今の十倍の人数いても、俺たちに指一本触れることはできませんよ。無駄に抵抗はしないでもらえるとありがたいんですけど」
「…………」

杉本と藤原も、以前私にとっちめられた時のことを思い出しているのか震えている様に見える。
私は藤崎という先輩の方へ行って、カバンを手にした。

「あっ……」
「動かないで。あと数センチ動いたら首が切断されるから」
「え……」

藤崎が硬直する。
周りも固唾を呑んで私と藤崎のやり取りを見ている。

「ああ、あったあった。これだよね、私たちに飲ませたの。よく手に入ったね、睡眠薬なんて。導入剤くらいなら薬局でも買えるみたいだけど、睡眠薬となると正式な医者の処方とか必要じゃなかったっけ」
「…………」
「まぁ、どうやって手に入れたとかはいいや。さて、これから処刑タイムだね」
「な……」

藤崎の顔が引きつる。
藤崎の周りには、私が鋼線を張っておいた。
動けば首が飛ぶというのも、脅しではない。

「杉本、藤原。準備はいい?」
「あ、ああ……」
「な、何をするつもりだ……」

二人が部屋を出て、少しして何人かの男女を連れて戻ってきた。
彼らはこいつらの被害者で、それぞれこいつらによってトラウマを植え付けられたり、交際相手にバレて関係がダメになったりした者ばかりだった。

「えーと……あんたとあんた、こっちきて」
「え?」

私にしつこく迫ろうとしていたやつと、もう一人は絡みがなかったがこいつもどうせロクなやつじゃないだろう、ということで二人指名する。
しかしどちらも動こうとしないので、めんどくさくなって無理やり足を動かしてやると、更に恐怖に震えあがった。

「んであんたはこっち」

もう一人の女の先輩……そういや名前聞いてないや。
そいつも藤崎のすぐ隣に座らせる。

「な、なにするつもりだよ」
「何って?決まってるじゃん。この人らにしてきたことを、ここで実践してもらう。ああ、安心していいよ。外からはこの部屋のドア開かない様になってるから。音漏れの心配もない。一流アーティストが全力でライブやってもまず外に音が漏れることはないから」
「あと、彼らは見物人兼カメラマンなので。撮影した動画をどうするかは彼ら次第ということになりますね。せいぜい媚びて楽しませることです」
「それから……杉本と藤原はもちろんですけど、この被害者の人たちに何かリベンジでも、なんてことは考えない方がいいですね。先輩方の首を、自ら締めることになりますから」

私が指をパチンと鳴らすと、指名された四人の先輩の目がうつろになって、意志とは関係なく激しく絡み合い始めた。
私と大輝、藤原と杉本はそのまま店を出て場所を移すことにした。
ちなみに、先輩方がクラウドに接続した場合だが……先輩の記憶から、私が作成した偽の無修正動画が全世界に配信される仕組みになっている。

「さて、これでいいか?」
「あんた……相変わらずやることがえげつないね……」
「昔の人は言いました。目には目を、ってね」
「そ、そうだけど……」
「因果応報ってやつだろ。俺もさすがに昔の知り合いがあんなことに関与してたなんて、ショックだけど……」
「どこかで歯車が狂ったんでしょ。まぁ、あんな風に大輝がデレデレしてたのはあとで話をするからいいとして」
「するのかよ……見逃してくれても……」
「ダメ。まぁ、それはそれとしてお前らも何度か関与はしてたんだ。そうだよな?」
「…………」

そう、今回こいつらに依頼されてこんなことになったわけだが、あいつらの言いなりになって同じ様なことをしていたという事実は変わらない。
だが、あの先輩に支配される関係を終わらせることができるのであれば、自分らもどんな罰でも受けるというので、仕方なくこんな面倒なことをした。
私たちだって、罰と称してこんなことをしているので本来ならとやかく言える立場ではないが、こいつらの意志を汲むのであれば何かしらの罰は必要だろう。

「まぁ、罰については現状何も思いつかないから……一つ聞かせてくれ。黒幕とかいないよね?」
「……えっと……」
「何、いるっての?だったらそれを何とかしないと、この件って解決しないんじゃないの?」
「そうだな。頭を潰さない限りはずと同じ様なことが繰り返されるわけだからな」
「どういうつもりで黙ってたのかわからないけど、言うことがあるなら今のうちに言っておけよな。じゃないとお前らが次何かあっても、私らは関与できない」
「……怒らないで聞いてほしいんだけど」
「私が怒る様な内容なの?」
「……実は、信じられるかわからないけど……あいつが仕切ってる」
「あいつって?」

私はその名前を聞いて、正直こいつら頭がおかしくなったんだろう、と思った。
だって、信じられるわけがない。
あんなにおとなしかったあの子が?
しかも先輩まで従えてるって、どういう……。

「おい、その話嘘じゃないんだろうな?」
「あ、当たり前だろ!こんなことで嘘ついてどうするんだよ……」
「睦月、その子って、そんなに……?」

私は現状をあまり理解できていない様子の大輝に、今回のラスボスとも言える存在である、高橋由利について知っている限りの情報を伝えた。
私が睦月に転生する前の付き合いから、私が転校するまでの間の話を。

「椎名、やっぱり人間じゃないのか……」
「まぁ、そうなんだけどそんなことは今どうでもいいよ。あの子がそんなことになった理由は?どうせあんたらがまた何かしたんだろうけど」
「そ、それは……」

性懲りもなく、私の忠告を無視したということなのだろう。
結局、こいつらから聞いたのは本当にどうしようもなく、かつ腹立たしい情報だった。

「待ってくれよ、あんなことになるなんて考えてなかったんだ」
「ならどんなことになるって思ってたんだよ。というか、どう考えたってロクな結果にならないのなんか、目に見えてるだろう」

こいつらが言うには、私の転校がわかって私に憂さ晴らしができない様になると思ったらしく、矛先を高橋さんに向けた。
ここまではまぁ、予想通りだ。
何でこう、バカなんだろうって思わなくもないけど。

やることなすこと、言うことすべてが頭悪そうで非常に腹立たしい。
一応人間だから生かしておいてるが、これがロキとかだったら完膚なきまでにボコボコにしているかもしれない。

「考えなくても、大体こんなことになるって想像くらいできない方がどうかしてる。お前らは、安易な考えで人一人の人生を狂わせた。そのことを認識して、重く受け止めるべきだ」
「俺も、大体同意見だな。浅はかだったとか、そんなことで許される話じゃないだろ、どう考えても」

珍しく大輝も憤っている。
何しろ内容がかなりヘビーすぎる。
簡単に言うと、こいつらは高橋さんを先輩に売った。

それも、ただただ自分可愛さと、私に八つ当たりできなくなったことの埋め合わせの為だけに。
最初、私が転校してショックを受けていた高橋さんは、自分に声をかけてきた二人を嬉しく思った。
二人を信用して、友達が増やせるかも、みたいなうたい文句にまんまと騙されてしまった、ということだ。

二人との交流が始まった当初、高橋さんは何の疑いも持たずに二人と関わっていたらしいが、途中から話がおかしな方向に動いていることに気づいたのだという。
しかし、二人がここで揺さぶりをかけて、高橋さんを罠にかけた。

「友達を信用できないの?」

高橋さんの性格を利用してこんなことを言ったら、高橋さんがどういう行動に出るかは火を見るよりも明らかだ。
それでも大切な友達だから、と高橋さんは先輩の元へ行ったそうだ。
私が安易に転校などしなければ、こんなことにはならなかったのだろうか。

少なくとも、二人を止めるくらいはできたかもしれない。
高橋さんが本当に大切なものを失う前に何とかできたかもしれない。
そう考えると、自分自身にも腹が立った。

「だ、だけどその後から少しずつあいつの様子が変わってきて……」

高橋さんは基本的に努力家だった。
自分が頑張ろうと思ったことには、全力を尽くすという傾向がある。
高橋さんの中で封じ込められていた不安、不満といったマイナスの感情はやがて爆発し、まずは二人に復讐することを選んだ。

私の様に神の力を持たない高橋さんは、実力行使に走ったらしい。
もっとやればいいのに、なんて思ったが高橋さんがされたことを思うとそう簡単にもいかないんだろうと思い直した。

二人は顔以外の部分を徹底的に嬲られた。
性的な意味での復讐はしなかったらしいが、今回の件で私を呼べなかったらそうする、と言ったのも高橋さんらしい。
ずっと先輩の言ったことなんだと思っていただけに、少しショックを受けた。

そして、高橋さんは単身先輩の元へ殴り込みをかけて、見事屈服させることに成功した。
こうして、高橋さんの復讐計画は本格的に始まったのだ。
あの小さな体で、先輩を何人も相手にして打倒できてしまうほどの実力を身に着けたということなのだろうが、どれだけの努力をしたのかは計り知れない。

最初から私をターゲットにした復讐劇だったということか。
正直なことを言ってしまえば、私が転校したこととこの件は、一般的には関連性は皆無と言ってもいい。
関連性を訴えるにはそれを証明しなければならないし、その関連性を証明できるものがない。
しかし、高橋さんからすれば私が転校しなければこんなことにはならなかった、と考えても不思議はないだろう。

「話はわかった……お前ら、自分たちが何をしたのか、理解してるか?」
「…………」
「あれだけ優しくて、努力家だったあの子を、そんな風にしたのは私もだけど……お前らが大半の原因だってことを、噛み締めろ」
「睦月、そこまで思いつめることはないだろ。この子らがちょっかいかけなかったらこうはならなかったってことなんだろ?」
「そうだけど、私が転校しないで学校に残ってたらこうはならなかった、っていうのもまた事実ではあるから。だから、私は決着をつけないといけない」

二人から聞いている限りでは、高橋さんの先輩への復讐手段はただただ暴力に訴えることだったらしい。
つまりは恐怖統制に近い。
大きな力には大きな力で、というものになってしまうのが私としては非常に心苦しい。
あの子の心を、大きな力でへし折るしかこの復讐劇を終わらせる方法がないのだろうか。

というか、私にそこまで彼女を痛めつけることなんか、できるのか……?

「なぁ、本当にお前が行かないといけないのか?」
「どういうこと?」
「だって、お前……その高橋さんって人のこと恨んだりできないだろうし……敵として見ることだって、できるのか?」
「…………」
「だったら、ほかのメンバーに頼むって手もあるんじゃないかって、俺は思うんだけど」
「それも一瞬は考えたんだけどね。だけど、高橋さんは私をターゲットにしてる。他の誰かに打ちのめされても、きっと私への思いが途切れる結果になるわけじゃないから。だったら、私が行ってどうにかするしかないでしょ」
「うーん……」

大輝はまだ他に方法があるんじゃないか、と模索している様だったが、私がやるかやられるかしないと、この件はおそらく収束しないだろう。
彼女の復讐心の根源になっている部分を取り除くしか、根本的な解決の手段にはなりえない。
きっと大輝にもそれはわかってるんだと思う。

それでも大輝は頭の中が平和だから、どうにかして平和的解決を望みたいんだろう。
私に傷を負ってほしくない、という思いから。
気持ちとしては非常にありがたい。

だけど、私はこの問題から逃げてしまうわけにはいかない。
私よりももっと、深い傷を負った旧友に対する責任は、私が取らなければならないから。

「大輝、もしかしたら大輝の出番はないかもしれないけど……それでも、私と一緒に来てくれる?」
「何言ってんだよ、今更だろ。嫌だって言っても勝手についていくよ」

この憎しみの連鎖を、私がここで断ち切る。
その為の作戦を思いついた私は、二人から高橋さんの住所を聞いて向かうことに決めた。

「あんたらはついてこないでね。高橋さんを刺激する結果になるのは好ましくないから」

二人は少し怯えながら頷いて、杉本の家で待つと言った。
私は、置いてきてしまった旧友を救うことができるのだろうか……。


次回に続きます。
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