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本編
Girls side55話~柏木愛美その1~
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若いっていいよな。
あたしと一つしか違わないはずの和歌だって、あたしから見ると随分若い様に見える。
まぁあれは世間知らずが極まって幼く見えるだけって話もあるけどな。
何でこんなこと考えてるかって言うとだな……。
目の前で何で大輝が裸で寝てて、あたしも裸なのかってことなんだ。
正直言って全く記憶がない。
というか、昨夜酒飲んでいつもの様に大輝に絡んだとこまでは覚えてるんだ。
出会った頃と違って、大輝はあたしが絡んでも嫌な顔一つしなくなってて、あたしもつい気分が良くなって毎回飲み過ぎちゃうんだけど。
だけどあたしがあの程度で酩酊して記憶を失う、なんてことはありえない。
「あり得ないなんてことは、あり得ない、だよ、愛美さん」
「おお、おはよ……」
というか今更だけどモノローグ読むなよ。
部屋の外からでも少し恥ずかしいんだから。
あり得ないんだって。
いや、そう思いたいだけなのかもしれないけど。
「なぁ睦月、お前もしかしてあたしに何かしたか?」
服を着ながら、部屋の外にいる睦月に声をかける。
そう、女神の能力でもなければこんなことは今までなかったし、あたしはまだ二十七だ。
世間的にはまだ若者で通る。
「何かって?力使ったかってこと?何で?」
「何でって……」
「理由がないのに、そんなことする意味がないよ。力が働いたんだとしても少なくとも、私じゃない」
「そうか……」
睦月が用意してくれた朝食を頬張りながら、尚も考える。
もしかして、あたし酒弱くなった?
いやまさかな……。
「昨日飲んでたのって、いつもより少し度数高いとか言ってなかった?」
「あー……そういや……でもそれくらいじゃな……」
「だとしたら……ねぇ?」
「言わないでくれる優しさは素直に嬉しいけどな、別に言ってもいいんだぞ?寧ろはっきり言え」
「いや、何か打ちひしがれてるっぽいし……」
「くっ……逆にそういう態度の方が傷つく」
「おはよう、って愛美さん、どうしたんですか?」
朋美が起きてきて、睦月が朋美の前に朝食を並べる。
何でもわかってるんだな、こいつ。
「いや……なぁ、あたし昨日何か変な部分あったか?」
「変な部分?たとえば?」
「たとえばって……何だろう」
そう言われてみれば、記憶がないってこと以外におかしなところなんてない。
いや、大輝とどんなプレイしたのか、とかそういうのはちょっと気になるけど。
「どうかしたんですか?まさか記憶がない、とか?」
「な、何でわかった?」
「勘ですけど……愛美さんってそんなにお酒弱かったでしたっけ?」
「いや、強いはずだけどな。安酒とかでも次の日残らないなんて普通だったし」
「その辺は私にはわからないですけど……もしかしたら体に何か変調でもきたしてるんじゃ?」
「お前、可愛い顔して嫌なこと言うなぁ……」
悪気がないのがわかるだけにダメージがでかい。
少なくとも睦月みたいに悪意を持ってはいないというのは伝わる。
いや、睦月のも悪意って言うのは語弊があるか。
少なくとも憎んで言ってるわけじゃないだろうし。
別にどこも悪くないはずなんだけどな……。
「今ざっと見てみたけど、愛美さんの体は健康そのもの、頭のてっぺんからつま先まで歳相応の健康体だよ」
「歳相応な。そいつはありがとうよ」
「愛美さん、歳気にしすぎじゃない?今からそんなに神経質になってたら、三十路になるときとか……」
「やめろ、まだあたしは二十代なんだ。現実を突きつけようとすんな」
「愛美さんは大事なことを忘れてるよ。私や大輝をはじめとするメンバーがいれば、年齢なんかどうにでもなるってことを」
「うん……反則臭いけど……きっとあたしはその力フル活用させてもらうことになると思う」
こいつらのチート能力があれば、あたしはきっと永遠の若さと美貌を手に入れられるんだろう。
いや、永遠ってもベースが人間なんだから寿命はくるんだろうけど。
そういえばあいつらは死なないって言ってたし、どうするつもりなんだろう?
転生とか生まれ変わりみたいなものって、あるのか?
「あるよ。転生の縁結びっていうの、ロヴンならできたはず。人間は寿命短いしね、今度大輝とやってくるといいんじゃないかな」
「だからモノローグ読むなっつの。それにしても人間の寿命は短い、とか言うと妖怪みたいだな、お前」
「ひどいな……あんなのと一緒にしないでよ。妖怪だって、長いだけで寿命はあるからね?」
「あんなのって、お前妖怪に知り合いでもいんの?」
「知り合いっていうか……大昔に戦ったことがあるってだけだけど」
「その、だけっていうの普通の人間じゃありえないからな?」
睦月曰く転生の縁結びというのは来世でまた巡り合う為の儀式らしく、縁結びの女神であるところのロヴンの専売特許なんだそうだ。
魂だけがその恩恵に与って、基本的に来世の魂は前世のことを忘れてしまうそうだが、その辺はどうにでもできるから、と睦月は言った。
正直日常的にこいつらに関わってなかったら信じられない様な話だ。
「もちろん、愛美さんが来世でも大輝と繋がっていたいって気持ちがなかったらできないんだけどね」
「おい、そこ疑うのかよ……切れて他の男に、なんて考えてもきっと、あいつ以上の男なんて出てこないだろ」
「まぁ、私はそう思うけど、その辺って人それぞれだとも思うから。だから私は強要はしないよ?」
「ふむ……」
こんなにも若々しくて瑞々しい、誰もが振り返る様なこの美貌も、死んでしまったらおしまい……いや、そういう話じゃない。
大輝はあたしが本物のババァになっても、愛してくれるんだろうか。
いや、物理的にってことじゃなくていいけど。
「お見合いってだけであんなに取り乱した大輝が、ババァになったくらいで愛想尽かすとは思えないけどね」
「あたしが自分で言う分にはいいけど、人から言われるとちょっと嫌だな、ババァって」
「愛美さん、ババァとか言ったら本物のお年寄りに怒られますよ……」
「そんなに気になるなら、試してみる?」
「何をだ?」
ふふん、と睦月が笑って、とりあえずご飯食べちゃおうって話になって、あたしたちは朝食を済ませた。
まだ起きてこない大輝の分はラップをして、テーブルの上に置いて、んじゃ出かけようか、と睦月が言う。
そして連れてこられたのは、神界だった。
「何で私まで……」
「まぁほら、朋美だって今日は特に予定らしい予定ないんでしょ?」
「確かにないけどね……」
「なぁ、それよりここで何するんだ?」
「んとね……あ、いたいたノルーン!」
睦月が叫んで手を振った方向には、確かにノルンがいた。
あいつ、昨日は仕事が忙しいとか言ってこっちに残ってたんだっけ。
「どうしたの?」
「えっと、愛美さんにアレ、見せてあげてよ」
「え、アレって……愛美には説明したの?」
「いや、でももう見せていい時期かなって」
「なるほどね。まぁ、そういうことなら」
「おい、本人抜きで話を進めるなよ……アレって一体なんだ?」
私の問いかけに、ノルンは水晶玉を出して答える。
「これから見るのは、愛美の未来。愛美がどういう風に生きて、どう死んでいくのか。この水晶に映るから」
「は?」
突拍子もない話に、頭がついていかない。
何で私の未来なんか見るんだ?
「どういう風に変化していくのかがわかれば、対策も立てやすいでしょ?」
「対策って?」
「今後本当に私たちの力を使って何とかするのか、とか色々ね」
「それってあれか……私がどんだけ劣化するか、とかそういうのを……」
「見れると思うよ。もちろん怖いって言うなら、やめとくって選択肢もある。どうする?」
「こ、怖いなんて……」
そうは言ってみたが、突然連れてこられた神界で、私の未来?
怖くないわけないだろ……。
あの朋美ですら、息をのんで見守ってるんだぞ?
「どうする?」
「むむ……」
何となく嫌な汗が背中を伝う。
私の未来……普通に生きてる人間だったらまず見ることができないはずの、未来。
そんなもん見るくらいなら、宝くじの当選番号でも見た方が個人的には……。
「愛美さん、お金がほしいならその辺はどうにでもなるから。どうするの?」
「ぐ……み、見るよ。ちなみに……お前らはあたしの未来、知ってんの?」
「いや、知らない。本人不在で見るのは基本的にご法度だから。だから、見たかったら愛美がここにいる必要があるわけ」
「よし、わかった……やろうぜ。どんな未来だろうが、あたしはあたしの未来を受け止めてやるんだ」
「おお、いいね。それでこそ愛美さんだと思う。じゃ、ノルンお願い」
睦月がその場に胡坐をかいて座って、その隣に水晶を持ったノルンと朋美も座ったので、私もそれに倣った。
「どのくらい先のが見たい?」
「え……そんなこと言われてもな……」
「まずは十年後くらいとかどうですか?」
「うーん……だとあたしは三十七か?そんな劇的に変わってるとも思えないけど……」
「甘いですよ愛美さん!油断してると、肌とか簡単に劣化していくって言いますし!」
「そんな嫌なこと力説しないでくれよ、頼むから……」
まだ来てから十分も経ってないのに早くもグロッキーだ。
こんな調子で、死ぬところとか見せられてもつのか、あたしは……。
「じゃあ、十年後行ってみようか。行くよ?」
「あ、ああ……どんとこい……」
「こんな弱気な愛美さん、初めて見たかも」
ノルンが何やら水晶玉に力を込めると、水晶が発光して映像が……。
「……何これ?」
「愛美さん……?」
映し出されたのは、何処か見覚えのある路地で横たわっている女の姿。
ここって……。
「これ、うちのゴミ捨て場の脇の路地じゃない?」
そうだ。
あたしも何度か捨てに行ったことがある。
「口元と、地面に……ゲロだねこれ」
「…………」
「白目剥いてる……」
「…………」
「これって……」
「言うな……何となくわかっちまった……」
これは、言うまでもなくあたしだ。
横たわってるが、多分これは死んでる。
こんな無様な姿で、死ぬのか?
「見た目も、そこまで今と変わらない様な……」
「おい朋美、それはどういう意味だ?あたしが今もゲロ吐いて白目剥いてるってことか?」
「ち、違いますから!それ除いたら、今の愛美さんと変わらないって意味で……」
「落ち着いて、愛美。朋美の言う通り、これそう遠くない未来っぽい」
「ま、マジかよ……」
手が震えてきて、呼吸が上手くできない。
正直、人間なんていつかは死ぬもんなんだから、とは思ってたけど……こんな死に方は嫌だ!!
「嘔吐して死んでるってことは……これ多分急性アルコール中毒だよね」
「そうだろうね。今簡単に見た限りだと、血中アルコール濃度がかなり高い。普段よりも多量のアルコール摂取が原因、ってところじゃないかな」
んで近くに行くと酒臭さとゲロ臭さが混ざってるってか。
冗談じゃない……。
「えっとね、結果出たよ。今から八十二時間後だね」
「四日もないのかよ!?そんなすぐって……」
「でも愛美さん、今朝のこと思い出して?もしあれが予兆みたいなものだとしたら?ありえない話じゃないかもしれないよ?」
「…………」
「信じたくないのは、わかるけどね……一応未来は回避できるっちゃできるよ。もし運命が愛美の死に向かって収束してるんでなければ、だけど」
「それって、何かの原因であたしが死ぬ未来が確立しちゃってる場合の話だろ?あたし、そんなの心当たりないんだけど……」
「だったら、まずは回避できる様に動くことじゃない?幸いまだあと三日ちょっとあるんだから」
三日ちょっとある、か。
あたしからしてみると、三日ちょっとしかない、なんだけど……捉え方の違いか?
もう、半分自棄になって好き勝手に生きてしまおうか、なんて考えが浮かんできたりもしてる。
お母さん、ごめん。
あたし、子ども生んで見せてやれなかった……。
何の力も持たないあたしからしたら、こんなの死刑宣告みたいなものじゃないか。
「愛美さん、諦めるのは早いよ。原因がわかってるなら、動き様はあるんだから。それに、私もノルンもいるし、人間界に戻れば大輝だっている。神がこんなに味方にいて、みすみすそんな未来にさせると思う?」
「そうですよ!大体、酒ごときで愛美さんが死ぬわけないって、私は思ってますから。こんなふざけた未来は、捻じ曲げてでも変えてやりましょう!」
「…………」
年下の二人がこんなに一生懸命になってくれてるのに、年長のあたしがこんなんでいいのか?
いや、厳密には睦月やノルンの方が、あたしなんかよりもずっと年上なわけだけど……。
「……そうだな、ごめん。あまりにも突然のことで、混乱してたかもしれない。こんな弱いあたしだけど、助けてくれるか?」
「もちろんですよ!でしょ?睦月!」
「仲間だもん、当たり前だよ。そうと決まればまずは原因の究明からだね。人間界に戻ろうか」
「ありがとうノルン、こんな未来でも見られて良かったかもしれない。何とかして未来を変えてみるよ」
「大丈夫、愛美なら乗り越えられるって、私は信じてるからね!」
心強い仲間の協力を得て、あたしはこれから運命に立ち向かう。
あんな無様な死にざまを晒さない為に。
舞台は再び人間界に移り、事態は少しずつ変化を見せていく。
あたしと一つしか違わないはずの和歌だって、あたしから見ると随分若い様に見える。
まぁあれは世間知らずが極まって幼く見えるだけって話もあるけどな。
何でこんなこと考えてるかって言うとだな……。
目の前で何で大輝が裸で寝てて、あたしも裸なのかってことなんだ。
正直言って全く記憶がない。
というか、昨夜酒飲んでいつもの様に大輝に絡んだとこまでは覚えてるんだ。
出会った頃と違って、大輝はあたしが絡んでも嫌な顔一つしなくなってて、あたしもつい気分が良くなって毎回飲み過ぎちゃうんだけど。
だけどあたしがあの程度で酩酊して記憶を失う、なんてことはありえない。
「あり得ないなんてことは、あり得ない、だよ、愛美さん」
「おお、おはよ……」
というか今更だけどモノローグ読むなよ。
部屋の外からでも少し恥ずかしいんだから。
あり得ないんだって。
いや、そう思いたいだけなのかもしれないけど。
「なぁ睦月、お前もしかしてあたしに何かしたか?」
服を着ながら、部屋の外にいる睦月に声をかける。
そう、女神の能力でもなければこんなことは今までなかったし、あたしはまだ二十七だ。
世間的にはまだ若者で通る。
「何かって?力使ったかってこと?何で?」
「何でって……」
「理由がないのに、そんなことする意味がないよ。力が働いたんだとしても少なくとも、私じゃない」
「そうか……」
睦月が用意してくれた朝食を頬張りながら、尚も考える。
もしかして、あたし酒弱くなった?
いやまさかな……。
「昨日飲んでたのって、いつもより少し度数高いとか言ってなかった?」
「あー……そういや……でもそれくらいじゃな……」
「だとしたら……ねぇ?」
「言わないでくれる優しさは素直に嬉しいけどな、別に言ってもいいんだぞ?寧ろはっきり言え」
「いや、何か打ちひしがれてるっぽいし……」
「くっ……逆にそういう態度の方が傷つく」
「おはよう、って愛美さん、どうしたんですか?」
朋美が起きてきて、睦月が朋美の前に朝食を並べる。
何でもわかってるんだな、こいつ。
「いや……なぁ、あたし昨日何か変な部分あったか?」
「変な部分?たとえば?」
「たとえばって……何だろう」
そう言われてみれば、記憶がないってこと以外におかしなところなんてない。
いや、大輝とどんなプレイしたのか、とかそういうのはちょっと気になるけど。
「どうかしたんですか?まさか記憶がない、とか?」
「な、何でわかった?」
「勘ですけど……愛美さんってそんなにお酒弱かったでしたっけ?」
「いや、強いはずだけどな。安酒とかでも次の日残らないなんて普通だったし」
「その辺は私にはわからないですけど……もしかしたら体に何か変調でもきたしてるんじゃ?」
「お前、可愛い顔して嫌なこと言うなぁ……」
悪気がないのがわかるだけにダメージがでかい。
少なくとも睦月みたいに悪意を持ってはいないというのは伝わる。
いや、睦月のも悪意って言うのは語弊があるか。
少なくとも憎んで言ってるわけじゃないだろうし。
別にどこも悪くないはずなんだけどな……。
「今ざっと見てみたけど、愛美さんの体は健康そのもの、頭のてっぺんからつま先まで歳相応の健康体だよ」
「歳相応な。そいつはありがとうよ」
「愛美さん、歳気にしすぎじゃない?今からそんなに神経質になってたら、三十路になるときとか……」
「やめろ、まだあたしは二十代なんだ。現実を突きつけようとすんな」
「愛美さんは大事なことを忘れてるよ。私や大輝をはじめとするメンバーがいれば、年齢なんかどうにでもなるってことを」
「うん……反則臭いけど……きっとあたしはその力フル活用させてもらうことになると思う」
こいつらのチート能力があれば、あたしはきっと永遠の若さと美貌を手に入れられるんだろう。
いや、永遠ってもベースが人間なんだから寿命はくるんだろうけど。
そういえばあいつらは死なないって言ってたし、どうするつもりなんだろう?
転生とか生まれ変わりみたいなものって、あるのか?
「あるよ。転生の縁結びっていうの、ロヴンならできたはず。人間は寿命短いしね、今度大輝とやってくるといいんじゃないかな」
「だからモノローグ読むなっつの。それにしても人間の寿命は短い、とか言うと妖怪みたいだな、お前」
「ひどいな……あんなのと一緒にしないでよ。妖怪だって、長いだけで寿命はあるからね?」
「あんなのって、お前妖怪に知り合いでもいんの?」
「知り合いっていうか……大昔に戦ったことがあるってだけだけど」
「その、だけっていうの普通の人間じゃありえないからな?」
睦月曰く転生の縁結びというのは来世でまた巡り合う為の儀式らしく、縁結びの女神であるところのロヴンの専売特許なんだそうだ。
魂だけがその恩恵に与って、基本的に来世の魂は前世のことを忘れてしまうそうだが、その辺はどうにでもできるから、と睦月は言った。
正直日常的にこいつらに関わってなかったら信じられない様な話だ。
「もちろん、愛美さんが来世でも大輝と繋がっていたいって気持ちがなかったらできないんだけどね」
「おい、そこ疑うのかよ……切れて他の男に、なんて考えてもきっと、あいつ以上の男なんて出てこないだろ」
「まぁ、私はそう思うけど、その辺って人それぞれだとも思うから。だから私は強要はしないよ?」
「ふむ……」
こんなにも若々しくて瑞々しい、誰もが振り返る様なこの美貌も、死んでしまったらおしまい……いや、そういう話じゃない。
大輝はあたしが本物のババァになっても、愛してくれるんだろうか。
いや、物理的にってことじゃなくていいけど。
「お見合いってだけであんなに取り乱した大輝が、ババァになったくらいで愛想尽かすとは思えないけどね」
「あたしが自分で言う分にはいいけど、人から言われるとちょっと嫌だな、ババァって」
「愛美さん、ババァとか言ったら本物のお年寄りに怒られますよ……」
「そんなに気になるなら、試してみる?」
「何をだ?」
ふふん、と睦月が笑って、とりあえずご飯食べちゃおうって話になって、あたしたちは朝食を済ませた。
まだ起きてこない大輝の分はラップをして、テーブルの上に置いて、んじゃ出かけようか、と睦月が言う。
そして連れてこられたのは、神界だった。
「何で私まで……」
「まぁほら、朋美だって今日は特に予定らしい予定ないんでしょ?」
「確かにないけどね……」
「なぁ、それよりここで何するんだ?」
「んとね……あ、いたいたノルーン!」
睦月が叫んで手を振った方向には、確かにノルンがいた。
あいつ、昨日は仕事が忙しいとか言ってこっちに残ってたんだっけ。
「どうしたの?」
「えっと、愛美さんにアレ、見せてあげてよ」
「え、アレって……愛美には説明したの?」
「いや、でももう見せていい時期かなって」
「なるほどね。まぁ、そういうことなら」
「おい、本人抜きで話を進めるなよ……アレって一体なんだ?」
私の問いかけに、ノルンは水晶玉を出して答える。
「これから見るのは、愛美の未来。愛美がどういう風に生きて、どう死んでいくのか。この水晶に映るから」
「は?」
突拍子もない話に、頭がついていかない。
何で私の未来なんか見るんだ?
「どういう風に変化していくのかがわかれば、対策も立てやすいでしょ?」
「対策って?」
「今後本当に私たちの力を使って何とかするのか、とか色々ね」
「それってあれか……私がどんだけ劣化するか、とかそういうのを……」
「見れると思うよ。もちろん怖いって言うなら、やめとくって選択肢もある。どうする?」
「こ、怖いなんて……」
そうは言ってみたが、突然連れてこられた神界で、私の未来?
怖くないわけないだろ……。
あの朋美ですら、息をのんで見守ってるんだぞ?
「どうする?」
「むむ……」
何となく嫌な汗が背中を伝う。
私の未来……普通に生きてる人間だったらまず見ることができないはずの、未来。
そんなもん見るくらいなら、宝くじの当選番号でも見た方が個人的には……。
「愛美さん、お金がほしいならその辺はどうにでもなるから。どうするの?」
「ぐ……み、見るよ。ちなみに……お前らはあたしの未来、知ってんの?」
「いや、知らない。本人不在で見るのは基本的にご法度だから。だから、見たかったら愛美がここにいる必要があるわけ」
「よし、わかった……やろうぜ。どんな未来だろうが、あたしはあたしの未来を受け止めてやるんだ」
「おお、いいね。それでこそ愛美さんだと思う。じゃ、ノルンお願い」
睦月がその場に胡坐をかいて座って、その隣に水晶を持ったノルンと朋美も座ったので、私もそれに倣った。
「どのくらい先のが見たい?」
「え……そんなこと言われてもな……」
「まずは十年後くらいとかどうですか?」
「うーん……だとあたしは三十七か?そんな劇的に変わってるとも思えないけど……」
「甘いですよ愛美さん!油断してると、肌とか簡単に劣化していくって言いますし!」
「そんな嫌なこと力説しないでくれよ、頼むから……」
まだ来てから十分も経ってないのに早くもグロッキーだ。
こんな調子で、死ぬところとか見せられてもつのか、あたしは……。
「じゃあ、十年後行ってみようか。行くよ?」
「あ、ああ……どんとこい……」
「こんな弱気な愛美さん、初めて見たかも」
ノルンが何やら水晶玉に力を込めると、水晶が発光して映像が……。
「……何これ?」
「愛美さん……?」
映し出されたのは、何処か見覚えのある路地で横たわっている女の姿。
ここって……。
「これ、うちのゴミ捨て場の脇の路地じゃない?」
そうだ。
あたしも何度か捨てに行ったことがある。
「口元と、地面に……ゲロだねこれ」
「…………」
「白目剥いてる……」
「…………」
「これって……」
「言うな……何となくわかっちまった……」
これは、言うまでもなくあたしだ。
横たわってるが、多分これは死んでる。
こんな無様な姿で、死ぬのか?
「見た目も、そこまで今と変わらない様な……」
「おい朋美、それはどういう意味だ?あたしが今もゲロ吐いて白目剥いてるってことか?」
「ち、違いますから!それ除いたら、今の愛美さんと変わらないって意味で……」
「落ち着いて、愛美。朋美の言う通り、これそう遠くない未来っぽい」
「ま、マジかよ……」
手が震えてきて、呼吸が上手くできない。
正直、人間なんていつかは死ぬもんなんだから、とは思ってたけど……こんな死に方は嫌だ!!
「嘔吐して死んでるってことは……これ多分急性アルコール中毒だよね」
「そうだろうね。今簡単に見た限りだと、血中アルコール濃度がかなり高い。普段よりも多量のアルコール摂取が原因、ってところじゃないかな」
んで近くに行くと酒臭さとゲロ臭さが混ざってるってか。
冗談じゃない……。
「えっとね、結果出たよ。今から八十二時間後だね」
「四日もないのかよ!?そんなすぐって……」
「でも愛美さん、今朝のこと思い出して?もしあれが予兆みたいなものだとしたら?ありえない話じゃないかもしれないよ?」
「…………」
「信じたくないのは、わかるけどね……一応未来は回避できるっちゃできるよ。もし運命が愛美の死に向かって収束してるんでなければ、だけど」
「それって、何かの原因であたしが死ぬ未来が確立しちゃってる場合の話だろ?あたし、そんなの心当たりないんだけど……」
「だったら、まずは回避できる様に動くことじゃない?幸いまだあと三日ちょっとあるんだから」
三日ちょっとある、か。
あたしからしてみると、三日ちょっとしかない、なんだけど……捉え方の違いか?
もう、半分自棄になって好き勝手に生きてしまおうか、なんて考えが浮かんできたりもしてる。
お母さん、ごめん。
あたし、子ども生んで見せてやれなかった……。
何の力も持たないあたしからしたら、こんなの死刑宣告みたいなものじゃないか。
「愛美さん、諦めるのは早いよ。原因がわかってるなら、動き様はあるんだから。それに、私もノルンもいるし、人間界に戻れば大輝だっている。神がこんなに味方にいて、みすみすそんな未来にさせると思う?」
「そうですよ!大体、酒ごときで愛美さんが死ぬわけないって、私は思ってますから。こんなふざけた未来は、捻じ曲げてでも変えてやりましょう!」
「…………」
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「ありがとうノルン、こんな未来でも見られて良かったかもしれない。何とかして未来を変えてみるよ」
「大丈夫、愛美なら乗り越えられるって、私は信じてるからね!」
心強い仲間の協力を得て、あたしはこれから運命に立ち向かう。
あんな無様な死にざまを晒さない為に。
舞台は再び人間界に移り、事態は少しずつ変化を見せていく。
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