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2巻

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   プロローグ フィエルテ・フリードリヒ


 思い返すこと、五年と少々。
 フィエルテ・フリードリヒ、六歳です!
 四人の弟妹を持って働きづめの人生を送っている最中に、私は神様のミスというイレギュラーな死によってこの世界に生まれ落ちた。
 そのお詫びとして神様からもらったのは「努力次第でなんにでもなれるチート」と「受け止めきれないほどの愛」。
 そうして私はフリードリヒ公爵家の娘として生まれ、最強で最高の家族に出会った。そしてムーンウルフのルアアパルとも出会い、この世界で元気いっぱいに生きている。
 さらに、この世界には魔法と精霊が存在する。
 魔法は六つの属性に分かれていて、精霊は属性ごとに色が違う。炎の赤、水の青、風の緑、土の茶、光の金と闇の黒。手のひらサイズのカラフルな彼らは子供にトンボのようなはねが生えた姿をしている。どの子も小さな子供のようにどんなことにも興味津々で、やや飽きっぽい。人型をしているとはいえ人間じゃないから、感情のままに行動することが多くてたまに残酷だ。
 その結果、村を滅ぼしたなんて歴史すら残っているけど、自分が好む相手のためには一生懸命行動するから根はすごくいい子たちだと言っていい。
 私には神様からのお詫びチートがあったせいで、精霊たちからよくちょっかいを出されていた。
 ただ、精霊たちを自分の目で認識するためには、魔力鑑定というものをしなければならなかったから六歳までは謎の存在だったんだけどね。
 そんな魔力鑑定式ではルナという友人までできて、とっても嬉しかった。
 ルナはフォルトゥナ商会という大商会の娘で、とっても目利きの女の子だ。
 特にこの世界では砂糖でものすごく甘くしたお菓子しか食べられないから、ルナのおうちが取り扱っているフルーツが私にとっての救世主だったよ……! 
 ルナのおうちは王家御用達の人気商会だから扱ってるフルーツもすごく美味しい。さっぱり食べられるフルーツって最高だよね……‼
 そんな感じで、新しい私の人生はチートすぎて怖いぐらいだったんだけど、五歳児ではやれることも限られていて、もどかしい思いをしたことも一度や二度ではない。
 それでも、これから成長していこうって決めて、このフリードリヒ公爵家でできることを探している。
 神様から無限の魔力をもらったのはいいけれど、この世界では魔力を五歳になるまで感じ取れなかったし、魔法を使いこなせるようになるのはもっと後の話だった。
 でも、「努力次第でなんにでもなれる」ってことはこれからだよね!
 そんな訳で、今はちょっと感情に引きずられやすくて熱を出しやすい体を改善中だ。
 体がもう少し丈夫になったら、いっぱい愛してくれている家族に何かお返しができるように、お金が稼げないかな、なんて思っているんだけど……

「フィル、考え事?」
「ん、ちょっと今までのことを思い出してた」

 つん、と頬を突かれて振り向くと、ディライト――ディーが私を見ていた。
 狐と兎獣人の血を引く彼は、もふもふの狐耳を持っている。それがちょっと心配そうに動いているのを見て、私は彼にもたれかかった。

「この一年いろんなことがあったもんね」

 ディーはそんな私を見て優しく微笑むと、ぽふぽふと頭を撫でてくれる。
 彼は私の『運命のつがい』だ。
 六歳なのに運命なんて……と思うけど、『誰かに強く愛されたい』という願いを神様が叶えてくれたのだ。
 ひょんなことから出会った彼は複雑な事情を抱えていた。病気がちなシオン兄様と、獣人の血が混じるディーをさげすむ家族――それらの問題が解決した今は、実家であるプレザントリー家を立て直すために奔走している。

「ディーとシオン兄様はこれからまだ忙しい?」
「そうだね……これからしばらくはあんまり会えなくなっちゃうかもしれない」

 その言葉と共に、ディーがぎゅっと私を抱きしめる。
 ディーの可愛さに内心ときめきつつも、私はディーを振り返った。

「でも、それが終わったらずっと一緒にいられるでしょ?」
「うん。そう思って頑張るよ」

 私の言葉を聞いてディーの尻尾がぽふぽふと揺れる。よかった、喜んでくれたみたい。
 ずっと忙しかったから今日ぐらいはゆっくり……と思った時、突然バチッと大きな音がした。
 窓の方からだ。その音と同時にディーが私を窓から遠ざけるように抱き上げて、目をらす。

「何か入ってきたみたい。『カラス』が追ってるのかな? 少し木が揺れてる」
「侵入者?」
「おそらくね」

 そう言って辺りを警戒する姿は、プロそのものだ。
 じっとしていると、ピリッとした感覚が体を巡った。静電気かと思ったけどなかなか治まらない。

「っ、ピリピリするかも?」
「大丈夫!? ……あぁ、相手の魔力に当てられたんだね、カラスが自分の魔力をルティに当てるようなへまをする訳がないし……少しだけ我慢できる? 多分すぐ終わると思うから」

 こくんと頷いてディーにそっと寄り添う。
 フリードリヒ公爵家はこの国の宰相であるお父様が当主で、この国で国王陛下に次いで力を持っていると言っても過言ではない。
 だから敵も少なくはないのだ。
『カラス』と呼ばれているのは、我が家を守ってくれている国の暗部『オルニス』のこと。『オルニス』はフリードリヒ公爵家が立ち上げた部隊だ。ちなみにディーもその一員だったりする。
 彼らが追いかけているということはつまり、我が家に忍び込もうとした暗殺者か何かなんだろう。
 息を詰めてしばらくじっとしていると、そのピリピリする感覚は遠のいていき、何事もなかったかのように部屋は静まり返った。
 ディーも体の力を抜き、時計を見上げる。
 それから「あ」と小さく声を漏らした。

「ルティ。そう言えば、明日はリーベさんたちの学校の文化祭に行くんじゃなかった? こんなに遅くまで起きていて大丈夫?」

 今日もミルク色の髪がさらさらとしていて綺麗……と見惚れてから、私は目をぱちくり。
 唐突に日常全開なことを言われたことからっていうのもあるけど……

「え!?」
「リーベさんがそう仰っていたけど……」
「き、聞いてないよ!?」

 私は慌てて、窓の外を見る。すっかり遅くなってしまっていて、窓の外は真っ暗だ。
 お母様とお父様はまだお仕事で帰ってきていないけど、確かにいつもならそろそろ家にいるはずの兄様たちも帰ってきていない。
 も、もしかして学園祭の準備があるから!?
 このまま寝ずに待っていたら怒られてしまいそうだ。きっとうっかりやなお母様やお兄様は私に伝えるのを忘れていたんだろう。
 そうだとしたら、明日は早起きしなきゃじゃない!?

「――僕は念のためリーベさんたちにご連絡しておくから!」

 そう言ってくれるディーにお礼とおやすみを言って、慌てて私は自分の部屋に戻り、ベッドに飛び込んだ。自分の影に向かってルアアパルを呼ぶ。
 ディーの家族であるプレザントリー家の事件があってからというものの、ディーとシオン兄様は元の屋敷に戻り信頼できる使用人とそうでないものを分けたり、その不足を補うための人選を行ったりと忙しい。
 だから今日は久しぶりにディーとゆっくりできると思ったのに……!

「ル、ルア!」
『どうした?』

 すると影から大きくてもふもふの白銀の狼がするりと顔をのぞかせる。彼がルアアパル――通称ルアだ。片耳だけ黒く、瞳に浮かぶ三日月は大きさに似合わず可愛いチャームポイントだ。

「明日、私が起きてなかったら起こしてほしいの……!」


『頼まれよう』
「ありがとう!」

 もっふりとした白くて綺麗な毛皮は毎日の手入れのおかげでとても綺麗だ。ルアは少し呆れた口調だったが、私がギュッと抱きしめるとその温かな体で私を包んでくれる。
 うう……文化祭、楽しみだなあ……!
 もしかしたら眠れないかもしれない、と思っていたけれど、ルアに優しく尻尾で体を撫でられているうちに私の意識は闇に溶けていった。


    ◆


「ま、間に合った……!」
『おお、自分で起きて素晴らしいな、フィエルテ』
「ありがとう!」

 翌日、私はなんとか起床することに成功した。
 ルアも何度か他の部屋には届かない程度に吠えることで、私を起こそうとしてくれたらしい。
 ただ、残念ながらディーは私の寝ている間にまたプレザントリーの屋敷に戻ってしまったようで、無事の起床を祈るお手紙がそっと机に置かれていた。
 寂しいけど、私とディーはお互いの心を『結んで』いるから、ぎゅっと手紙を胸に当てると、ディーが今も私のことを想ってくれていることが分かる。

「お土産いっぱい買ってこようね!」
『そうだな、ディライトも喜ぶだろう』

 ルアはそう言って尻尾を一つ振った。
 それから「早起きですね」とメイドのリリアに言われながら、大急ぎで準備をする。
 なんとか、我が家の前にお迎えの馬車が来る前に私は準備を終わらせることができたのだった。
 足早に部屋を出ると、嬉しそうなお父様とお母様が私を待っていた。

「今日は楽しみですね」
「しっかり準備ができていて偉いわ。たくさん楽しみましょうね」

 国のお仕事を一手にになうお父様とお母様は、無理やり今日のお休みをもぎ取ったらしい。
 笑顔で私の手を握ってくれた。
 ……私に学園祭の連絡ができなかったのも、ぎりぎりまでお仕事をしていたせいだというから仕方ない。私は大きく頷いて、馬車に乗り込んだ。



   第一章 初めての学園祭


「うわぁ……!」

 目の前に広がる鮮やかな光景に目を奪われる。
 そのワクワクを誰かに伝えたくて振り返ると、私のことを微笑ましそうに見つめるお父様とお母様がいた。
 ちょっと恥ずかしくなってもう一度周囲を見回す。
 王宮みたいに大きくて広い建物全体が色とりどりの花やリボン、フラッグなどでいろどられている。それに魔法かな? 空を見上げればたくさんの紙吹雪や花吹雪が舞っていた。
 本当に夢のように素敵な光景だ。
 さらに大きな門をくぐると、たくさんの露店が並んでいて目移りしてしまう。

「ふふ、すごいでしょう?」
「はい! 全部キラキラしてて、たくさんの人がいてすごいです」
「フィル、はしゃぐ姿も可愛いですが危ないですよ。入学前に将来入る学園で転ぶなんて先生に見られたら恥ずかしいでしょう?」
「気をつけます!」

 お父様からの忠告は聞こえているが、どうしても興奮が抑えられない。
 王立学園プリムールの学園祭は年に一度の学園の一大イベントでとても有名だそうだ。
 プロではない生徒が出すお店なのにそのどれもが学生とは思えないクオリティのものが多く、王都に住む多くの人たちから愛されている。
 作成者がプロではないからこそ、安く販売されている魔道具は特に平民の人達に大人気だ。
 学生たちも自分たちが作った製品を買ってもらえるから、さらなる材料費の獲得や、将来のパトロンを見つけることができるチャンスらしい。
 でもやっぱり貴族が多く通う学園だから、警備上の問題もあって学園祭に参加できる人数は決まっている。この学園に通う生徒の家族と抽選で当選した人達が学園祭に参加できるようになっていると兄様が言っていた。
 もちろん私は今回、家族枠で参加している。うちは今三人のお兄様たちがこの学園に通ってるからね。
 きらきらと輝く景色に目を奪われながらも、お母様を振り向く。

「お兄様たちのお店楽しみです!」
「ふふ、そうね。あの子たちは自由時間を揃えたと言っていたし、先にあの子たちのお店に行きましょうか。その後あの子たちが休憩に入ったら皆で他の場所を回りましょう」
「そうですね。私たちが参加できるイベントもあるようですし、それまでは学園の見学も兼ねてお父様が色々教えてあげますからね」
「ありがとうございます! お父様!」

 嬉しくなってぎゅっと抱きつくと、お父様の顔がでれっと緩んだ。
 そういえば、最近お父様が私のスキンシップが減ったって嘆いていたっけ……
 そんなことはないとは思うんだけど、ディーがいたらディーにくっつきたくなってしまうから、この頃はお父様にくっつく頻度が下がっていたかもしれない。
 無意識にディーにばかり甘えていたかと思うと恥ずかしい。
 ディーに八つ当たりして、お母様に怒られるお父様は可哀想だし。
 今日はお父様とお母様と一緒にいっぱい楽しもうかな。

「まずはリーベとエルピスのところに行きましょうか」
「はい!」

 お父様とお母様と手を繋いで、双子の兄様――リーベ兄様とエル兄様のところへ向かう。
 背の高い二人に挟まれるとたまに浮いているみたいになってしまう。夫婦仲がいい二人は私の憧れだから、私としては二人が手を繋ぐところが見たかったんだけど……
 そんなことを考えながら歩いていれば着いたみたいだ。

「フィルー! 元気か? 気持ち悪くなったりしてないか?」
「リーベ兄様!」

 大きな声で私を呼びながらリーベ兄様が近づいてくる。今日もお父様と同じ銀の髪がとっても素敵で、綺麗なピアスが耳元で揺れていた。
 どうやら私が魔力酔いを起こしているんじゃないかって心配をしているようだ。
 今日は周囲に人も多いので、魔力酔いを止めるあの苦い薬を飲んできた。だから大丈夫ですよーと言って抱きつく。
 するとリーベ兄様はギューッと抱きしめ返してくれた。そうしていればエル兄様がため息をつきながら、こちらに走り寄ってくる。

「リーベ、他の人もいるんだからあんまり大きい声で叫んじゃダメだよ」
「大丈夫だって。お前は固いんだよ、エル。みんなも結構はしゃいでるし」
「まったく……リーベはいっつもそうなんだから」

 お父様に似た銀髪のリーベ兄様と、同じ銀髪だけど、お母さんに似たピンクのグラデーションが入った髪を持つエル兄様。二人はとっても対照的な見た目と性格を持っている。いわば陰と陽、光と闇みたいな。
 だからたまに喧嘩をしているんだけど……
 ふむ。
 トタトタとお兄様たちに近づく。それからぎゅっと二人の手を握って、上目遣いで顔を見上げる。

「二人とも、喧嘩は……だめ、です!」
「っ、なんて可愛いんでしょう!?」

 ちょっとお父様はお静かにお願いしたい。
 別に今の会話は喧嘩ってほどじゃないけど、せっかくの楽しい日だからずっと笑っててほしいじゃん。
 だからお兄様たちが言い合う前に止めなきゃと思った次第だ。
 普段は仲良しだけど、この頃は学園祭間近で忙しかったからか二人ともピリピリしていたみたいで、時折家の中で魔力がぶつかりあっているような気配がしていた。元々正反対の性格の二人だからぶつかる時はすごく大きくぶつかっちゃうんだよね。
 ……家が所々壊されるレベルで。
 びっくりするのでそれはやめてほしい。
 我が家はみんな魔力量が多いから、感情がたかぶると周りに影響が出てしまう。だからこそ魔力操作をしっかり学んで、何かあった時の被害を最小限に抑えられるようにしているんだけど、やっぱり心の操作は難しい。
 どんなに魔力操作を完璧にしたって、人間は感情に影響されやすい。だからこそ魔力操作は基本だけど一番大切で一番難しいとお母様に教えてもらった。それでもしっかり感情を抑えられる両親は私の目標だ。
 私はまだ魔力操作を習っていないけど、もうすぐ教えてもらえるようになる。
 私もただでさえ泣きやすい体なので、魔力と一緒にコントロールできるようになったらいいんだけど……!
 色々考えていると、エル兄様とリーベ兄様は私にじっと見られ続けてだんだん居心地が悪くなってきたらしく、あわあわと手を動かしている。

「ご、ごめんねフィル」
「……あー、わりぃ。せっかくの学園祭だしな! 遊びに来たんだろ? ほら、これが俺たちのクラスの出し物だぞ!」

 そう言って、二人は今度こそ息ぴったりで、チラシのようなものを私に見せた。
 魔法がかかっているのか、チラシからはきらきらと燐光が散っていて、『挑戦者募集! 文武揃えば攻略可能!』という言葉が紙の中でくるりと回っている。

「出し物は迷路。フィル一人だともしかしたら難しいかもしれないけど、父さんと母さんがいるし、絶対楽しませるよ」
「迷路……?」

 あっち、と指さされた方を見ると入口から奥がまったく見えない、小さな建物があった。入口の看板に、確かに迷路と書いてある。『文武揃えば攻略可能!』って書いてあるということは頭の良さと力の強さが必要ってことかな? 
 まるで武勇に優れたリーベ兄様と優しくも聡明なエル兄様をそのまま表したような出し物だ。

「やってみる?」

 エル兄様が私の頭を撫でながら聞いてくる。
 そうしている間にも楽しそうだけど悔しそうな声を上げて、迷路の出口から人が出てくる。
 きっと途中でクリアできずにリタイアしたんだろう。
 うーん、面白そうだけど、兄様が言う通り、一人じゃ寂しいし難しそうだな。作成者であるお兄様たちはもちろん参加できないだろうし……お父様たちならついてきてくれるかな。
 ぎゅっとお父様に抱きついてアピールしてみる。

「お父様。私、お父様と行きたいです……かっこいいとこ見たいです!」
「フィル、お母様は? お母様の方がきっとすぐ攻略できるわよ?」
「何言ってるんですかアイシャ。フィルは私と行きたいんですよ。お父様のかっこいいところが見たいんです!」
「あら、私だってフィルにかっこいいところを見せたいわ!」

 あちゃー、どうやら言い方を間違えちゃったみたいです。
 可愛く頬を膨らませるお母様と、なんだか身にまとっている魔力が私の魔力感知にがんがん引っかかってくるお父様。どちらも負けないというようにこっちを見てくる。
 入口で言い合ってるから他の人の視線が気になってしまう。
 ただでさえうちの家族は顔がよすぎて、二人でいても人が寄ってくるのに、今はジュール兄様以外の全員が揃っている。そもそも宰相であるお父様と、国王陛下の妹で国一番の魔術師であるお母様は注目されるのに……! そんな二人が子供のように言い合ってるから、さらに注目されまくりだよ。早く中に入らなきゃ!

「じゃ、じゃあ三人でもいい?」

 祈るようにエル兄様とリーベ兄様を見上げると、二人は肩をすくめて微笑んだ。

「俺たちもだけど、父上たちがフィルのエスコート役を譲る訳ないしな」
「この頃ディライトに取られっぱなしだったから三人でいいと思うよ。……一瞬でクリアされたらどうしようかな、とは思うけどね」

 ほっとして今度はお父様とお母様を見上げる。
 今度こそ二人は喧嘩をしなかった。
 ぎゅっと二人の手に自分の手を載せれば自然と握ってくれるから、リーベ兄様とエル兄様に案内されて、私たちはそのまま建物の中に入っていく。
 中は暗いけど、足元が見えないほどじゃない。夜道にある街灯みたいに、所々壁の辺りが光っている。
 入る前にエル兄様に渡された出し物の説明と、リーベ兄様に渡された杖は腰にくくりつけて進む。
 えっと? 説明書きに目を落とし勉強したばかりの文字を読み解いていくと、どうやら謎解きをして正しいルートを進みつつ、所々いる門番を倒さないといけないようだ。
 門番に挑む方法は様々で、途中リタイアもあるけれど、見事クリアすればこの学園祭で使うことができるクーポンがもらえると書いてある。
 なるほど『文武揃えば攻略可能』だね。
 一人だけで挑むんじゃなくて、グループで挑戦したら絆が深まるかもしれない。いいゲームだ。さすがお兄様たち!
 そう思って歩き続けていると、分かれ道があった。パッと見、道に違いはなさそうだけどどっちに進めばいいだろう? 
 二人を見上げると、「フィルの思うがままに進めばいい」という言葉が降ってきた。
 責任重大すぎる……!

「じゃあ、こっちに行きます!」

 迷ったときは左に進めって、何かに書いてあった気がするので左へ進む。
 すると周りの暗さが一段高まった。足元はぼんやりと光っているので転ぶ心配はないけど、さっきまである程度見えていたお父様とお母様の顔が見えづらい。

「フィル怖くないですか?」
「はい! お父様とお母様がそばにいるので平気です!」
「それならよかった」

 お父様がぎゅっと私の手を握ってくれて、ほっとする。
 よーし、さらに先に進もう! と思った時だった。
 目の前にきらきらとした光の渦が立ち上り、ふわりと人の姿に変わる。どうやら生徒がやっているのではなく、精霊か幻覚魔法のような感じだ。

「……あら、これが最初の問題かしら?」

 お母様が足を止めると、門番らしきそれが微笑んだ。

『夜が笑う時。笑顔が咲き乱れる。我にその姿を見せよ。』

 柔らかな声でその問いが二度繰り返される。最初は頭脳を必要とするみたい。
 この門番は問題を出す担当だから倒す必要はないのかな? それにしても夜が笑うってどういうことだろう。笑った時に笑顔が咲き乱れるってそもそも矛盾している気がするし、もしかしてそのまま受け取ったらいけないのかな……
 いくら考えても分からずお父様をチラッと見上げる。こういうのはお父様が得意だ。


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