鳥戦記『海軍特別警察隊』

時雨光

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第壱章「前夜」

鳥戦記3「特設掃海艇"時鳥"」

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目の前には横須賀や呉程では無いにしても立派な大規模な港湾が広がっていた。そして菊の紋章を艦首につけた帝国海軍の誇る精鋭無比の艦艇が数多に入港している。

「駆逐艦「巻雲」「風雲」…それにあれは「巻波」だろうか?」

多くの駆逐艦が入港し各種点検を受けている。その中でも見慣れた子が目についた。

「軽巡「那珂」…久しぶりに見た。それに重巡「足柄」に「衣笠」とは…凄いな…」

打撃艦隊には十分すぎる程充実した艦隊。これが例の六一独立機動艦隊とやらの護衛部隊かなと思いながら。雑談を楽しむ水兵や整備兵の間を抜け、港湾の端も端。ちょこっと曳船達に紛れている。どこかボロっちぃ船が停泊している。とは言えこの子だけ入念に整備兵が点検を行っている感じ。この子が例の子なのだろう。。

「もし。点検中すまないが、それが例の鹵獲した掃海艇を改装した子かい?」

まだ成人したばかりに見える、下手をすればもっと若いかもしれない青年の新人整備兵らしき子に声をかける

「はい。その船が例の子ですね。失礼ですが貴方は?」

私の襟称や将校帽をみて士官であるとは予想をつけたようだが特警の水兵となんら変わらぬ格好を見て不思議そうに尋ねた

「あぁ。すまない、私は猫山中将からこの艦の引き取りを頼まれた。海軍特別警察隊所属の時雨特務大佐だ。」

軽く敬礼をする。

「あぁ!失礼しました。海憲の方でしたか、引き取り…ですか?特に改装前の点検時に不審な点は見つかりませんでしたが…あぁあるにはありましたけど改装してますので。そんな自爆等の可能性は薄いかと思われますが」

なんか凄い勘違いをされている気がする

「…あぁ。その別に海憲として不審だと思ったから徴発しにきた訳ではないんだ。この子の指揮権を海軍特別警察隊ニューギニア方面隊が持つ事になってね。それで一応、このニューギニア方面の憲兵隊指揮官を任せられた私が説明を聞きに来たってだけなんだ」

よくよく考えたら確かに事の経緯を知らない整備兵から見たら、どんな風の吹き回しだ案件だろう。

「あぁ。そうだったんですね。変な事を言ってしまい申し訳ありません。それではこの子の改装内容の報告等をしていきますね」

そう言うと彼は手に持っていたファイルの紙をニ、三枚めくり。説明を始めた

「この子はニューギニア国籍の戦時徴用掃海艇のSSジェームズ・コスグローブと言う名でニューギニア島北東の掃海中にラエ、サラモアに上陸予定だった我が軍の哨戒護衛部隊であった第一部隊により拿捕されました。
その後ラバウルで改装を施す事となり当初1ヶ月もかからず改装を行う予定でしたが。点検中にボイラー機関に大規模な欠陥が見つかった為、破棄が検討されましたが猫山中将の手配のおかげで余っていた「日立式石炭焚きボイラー」を回して貰った為。無事機関部の改装が完了しました。」

一通り話すと少し休憩をはさみ

「武装については。前部甲板に九三式十三粍単装機銃一基。後部甲板に簡易型金属レール式爆雷落下軌条が二基。一基爆雷を3つまで積めますが。積載量的に一基2つの計4つでの活動が主になると思ってください。あとは九四式簡易無線機と、これも猫山中将が手配してくれたおかげで、九六式哨戒用受信機も搭載してますので。哨戒艇としては十二分の性能を発揮出来るかと思います。」

「無線機に対潜水艦用の受信機とは新型設計の哨戒艇でもないのに、本当によく揃えられましたね。」

簡易無線機とは言え、中身はれっきとした電子機器。こんなお世辞にも新しいとは言えない旧式それも扱い慣れてない改造しただけの外国船にこんな装備を充実させるとは正直意外であった。

「ええ。猫山中将や鳥谷中将等から直々に装備を優遇するようにとのことで私達が想定するよりも早く各種部品も送られてきてビックリしましたよ…そういえば、この艦を駆逐隊の指揮を公に許可できるまでの繋ぎにするとも言ってましたね。駆逐隊を通商護衛にさらに割り当てるつもりでもあるのでしょうかね?」

「そうか…うーん分からないな。そう言えばあそこの駆逐艦や巡洋艦群は例の六一独立機動艦隊の艦艇なのかい?空母はどこに?」

これだけ補助艦や巡洋艦が揃っているのに肝心な空母が見つからない事が疑念点であった。空母を単独で行動させる事も無いだろうし。。。移動中に攻撃を受けた…最悪の予想が頭をかすめた頃

「あぁ。いやあれは第一輸送艦隊の護衛艦に割り当てられた艦達ですね。」

「ゆっ輸送艦隊⁉」

自分の耳を疑った。輸送艦隊とは…輸送を主に行う艦隊だ。そう。打撃に出る事なんてほとんどない…なのに駆逐艦のみならず巡洋艦まで?…なんとも強固な輸送艦隊だ…

「えぇ。第一輸送艦隊に編入されると聞いています。まぁ第一輸送艦隊はどうやら最前線への第一陣を強襲上陸させる艦隊との事ですので、万が一の時でも敵陣突破出来るように編成されているのでしょう」

輸送艦隊兼強襲揚陸艦隊と言うことか。輸送量こそは減っても"確実"に届けられると言うのは前線の兵士にとっても、計画を立案する参謀部としても心強いのだろう。

「そうか…猫山中将指揮下なのか?」

「はい。この第一から第五輸送艦隊までを猫山中将が指揮すると聞いています」

「第五まであるのか。全てに護衛艦が?」

「第一から第三は強襲揚陸時の戦闘に耐えられるように巡洋艦を編成し、第四、第五は駆逐艦による護衛で後方や既存の島等比較的安全な地域に輸送を行うと聞いています」

「そうか。有り難う、この船を見れて良かった…そう言えばこの船名前などあるのか?」

流石にジェームズ・コスグローブとわざわざ呼ぶのは大変だし。何より我が国所属になっているのに従来の名前を使い続けるなんて事はまずしない。

「…いえ。正式には決まってませんね。整備中も鹵獲艦や所属してた国から新西蘭丸(ニュージーランド丸)とか呼んでくらいですかね」

「そうか…名前…どうするかな」

新西蘭丸と言うのも悪くはないがどうも旧所属国の名前を入れると言うのも…

「時鳥とかどうですかね?」

整備兵がふと言う

「時鳥…っていうとあの鳥の?」

「はい、僕好きなんですよね時鳥」

時鳥(ホトトギス)か…鳥、、まぁ私達の長官も鳥谷…だしな。悪くないか

「ハハ、安直な。でも良いね時鳥か」

「特設掃海艇「時鳥」ですか」

「良いね。じゃ時鳥にしようか」

特設掃海艇「時鳥」私が担当する初めての子と言うだけあって何か特別な感じがした。
石炭ボイラーなだけあって煤がつき、より古臭く感じさせるがそれがまた味があって美しく感じた。小型艦なだけあって横のドッグにいる駆逐艦達に比べれば遥かに見劣りする子でこそあるが。菊紋章がなくとも旭日旗をはためかせられなくてもマストに掲げられた日章旗がその所属を明確とし。私の心に誇りを与えてくれた。

顔に恍惚を浮かべ、「時鳥」を見ていると港湾が一気に騒がしくなった。
ふと海の方を見るとこの距離からでもしっかりと見える。艦隊がこちらに向かっていた。

「空母…瑞鶴…それにあの異様な艦影は龍驤か…それに金剛型巡洋戦艦まで…あれが…」

「えぇ。第六一独立機動艦隊です。ここニューギニア方面最後の希望にして最高の希望です。」

整備兵の目は暁の海かの如く輝いていた。

「やはり君も海の人間なのだな…」

独り言かのように言葉を溢して言った

ニューギニア方面いや大日本帝国最後の希望がここラバウルに着任したのだ。
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