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対乙女ゲーム令嬢 案件
令嬢第四事例 報告9
しおりを挟む頭を整理するため、一旦魔法省へと戻った。
私はこんなにも力不足なのなだろうか。3つの案件をクリアしたからと言って、高を括ってはいけなかったのだ。
一人になりたくて、魔法省のラウンジに来た。ここは私のお気に入りの場所だ。
ラウンジ自体は広いのだが、窓に面したベンチが置いてあるだけの空間が隅にある。私はこの場でよく一人ボーっと空を眺めていることが多い。
今日は戻るのが遅くてもう夕方になっている。窓からオレンジ色の光が差し込んでいた。長く伸びる影が私の憂鬱な気分をさらに暗くする。
椅子に腰かけ、ため息をついてボーっとしていると……
ーー不意に、頬に熱いものが当たって思わず跳び上った。
「……ぴやっ! 熱い!」
「ぴやってなんだよ」
声に振り向くとタロウが立っていた。その手にはドリンクボトルがある。どうやらボトルを私の頬にくっつけたらしい。
「ほらよ」
タロウはそう言うと私にボトルを投げるように渡した。思わず落とさないように受け止める。
少し熱いのでワタワタする私を面白そうにタロウは見ていた。
「……これは?」
「ホットミルク。落ち着くぞ」
「え……」
落ち着く? 私が見上げると、目線を外し窓の方向を見ながら応えるタロウ。
「その様子じゃなんかあったんだろ? 大方あの案件のことだとは予想できるけど」
「……なんでわかったんですか」
「さてね」
しばらく沈黙が続いた。私は俯いてドリンクを見つめる。
タロウは横にドッカリと座ると、自分用のドリンクを飲み始めた。話の続きをすることもなく、ただ窓の風景を見ている。
ーー私の方が気になって、つい口を開いてしまった。
「……私のことはほっといてください」
「憂鬱そうな顔してる奴を見かけたんだ。ほっとくわけないだろ」
「自分が出した案件のクセに……」
私は再び俯いてしまった。その様子の私に、めんどくさそうに頭を掻きむしると、目線を合わせることなくタロウが問いかける。
「何があったんだよ。報連相は大事だろ? 俺も依頼した身として一応聞いておく必要があるんだよ」
報連相か……たしかに依頼主だから伝えておいても間違いではないかもしれない。
「……聞いてくれます?」
不安げに見上げると、タロウはチラッとこちらを一瞥したあと、頷いた。
「あぁ」
私はポツリポツリとではあるが、案件の現状を話すことにした。
「なるほど、どんな対策も運命の前には歯が立たなかったと」
「はい、自分の非力さを痛感しました」
「で、こんなところで落ち込んでると」
「うっ……」
「まぁ想定内だが」
想定内……さも私が一度挫折するのを見透かしていたように言ってくれる。
「……なんで今回の案件で落ち込んでるって分かったんですか」
「君、顔に出やすそうだからな。それに今の案件のタイミングでもあるからな」
「え、私顔に出やすそうですか? クールで冷静沈着でスマートに仕事をする人を目指してるんですけど。っていうかそんな感じで行動してるつもりなんですが」
「違うだろ。俺の印象だと、クールだと思い込んでるけど、実は素直でまっすぐな部分が隠せてないんだよ。スマートにしようとしてたまにボロがでる。そして、クールな奴は自分でクールって言わない」
「う……そんな出会ったばかりなのに人のことを見透かしたみたいに」
「伊達に腹の探り合いの環境で過ごしてないからな。エリートの人間観察力舐めんな」
「うわぁ、自分でエリートって言うなんて」
なんてやり取りをしていたら、ホットミルクをもらったのを思い出した。
一口飲むと、優しい甘さと温かさに少しホッとした。心持ち口角が上がる。
何故か、その様子を満足そうに見つめるタロウ。
目が合うとすぐに窓に目線を戻したが。
でも、かっこよく仕事を終わらして帰るはずだったのに。タロウにどや顔で完了報告をする予定が狂ってしまった。……ちょっと気に食わなくて、口をとがらせてみる。
「そんなに悲観する状況でもないと思うぞ」
私のそんな様子に気づいたのだろう。ため息をつくとタロウが口を開いた。
「どうしてこの仕事がお前に割り振られたのか分かるか?」
「どうして?」
「君の斬新な意見や、前向きの姿勢ならきっとなんとかすると思ったからだ。多分許可した課長も同じことを思ったんじゃないか。固定された方法に囚われて前が見えなくなる者が多い中、自分なりに考えて新しいことにチャレンジする姿勢は悪いことではないと思う」
「私の姿勢?」
今回は特に気にしていなかったが、私は周りと同じことが上手く出来ず、少し違うことをしてしまうらしい。それは時に偏見として私を苦しめることもあったが……
「……俺はいいと思うぞ。その周りに囚われないやり方でいいと思う」
「私のやり方でもいいのですか?」
「むしろ、固定されたやり方で出来てたのか?」
「うっ……」
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今回もエドウィンルートを回避することばかりに囚われていたが、他の方法があるかもしれない。自分なりに他の手を試してみるもの良さそうだ。
「そうですよね、一つの考えにとらわれず、悩んでいる暇があったら何かやってみようと思います」
「いいじゃん、それでこそ君にこの仕事を託した甲斐がある。……期待しているぞ」
「はい!」
私が笑って答えるとやっとタロウは目を合わせてくれた。
「うん、元気が戻ったみたいだな。」
満足そうに笑ったタロウの顔が、夕陽に照らされて少し暖かく見えた。
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