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対乙女ゲーム令嬢 案件
令嬢第四事例 報告11
しおりを挟むーー校舎の入り口には「立ち入り禁止」の看板
しまった、悪足掻きでも流石にこれはないわ。
「貴方やっぱ馬鹿なの!? こんなもので止められるわけがないじゃない!」
案の定ダリアが怒り、私を横に激しく揺さぶる。
私はやはり馬鹿なのだろうか。
ーー落胆した時だった。
「あら、立ち入り禁止なのね」
そう呟く声が聞こえた。声の方に振り向くと、リゼットが看板を見てクルリと向きを変える姿が見える。
そのまま、入り口から校舎に入らず別の方向に歩き始めた。
「「ええええええええ」」
驚きのあまり、私とダリアは顔を見合わせた。
もしかして……セドリックの時と同様、リゼットの進路を阻止出来たのか……?
半信半疑ではあるが、入り口から遠ざかるリゼットの姿から、看板作戦は成功したものと推測できる。
私はついにやったらしい。ダリアがガッツポーズをしている。……でかした私!
ーーしかし、喜びも束の間、校舎の別の入り口に向かうリゼットの姿が見えた。
「あ、やっぱりあの校舎には入るんですね……入り口を変えただけのようでしたか……」
そう上手くはいかなかったか。所詮入り口が変わっただけのことだと知り、私は再び肩を落とした。
仕方なく、リゼットを追跡するため私達も校舎の中へ続く。
すると、何故かリゼットはエドウィンのいるラウンジからは遠回りの順路で校内を歩き始めたのだ。
私が不思議に思っていると、ダリアも何かが引っかかるらしい。
「あ、まってあれはもしかして……」
そう呟き、一生懸命何かを思い出している。
もしかして、不測の事態となっているのではなかろうか……そんな不安が私の頭を過ぎる。
緊張が走る中、目の前を歩くリゼットは不意にとある場所で足を止めた。
なんとそこは、ラウンジでも図書室でもなく教室だ。
ーーリゼットは教室に入るなり駆け出した。
「ジェラルド様……!」
教室には……エドウィンの側近がいた。
リゼットが勢いよく抱き付くと、ジェラルドと呼ばれるその男性は、リゼットを大事そうに抱きしめ返す……
直後、私の横のダリアが驚いたように声を上げた。
「まさかのこの展開!!」
ダリアは一人納得をしたように、口元を押さえてうんうんと頷いている。私は何も状況が掴めず、説明を求めた。
「ど、どういうことです?」
「これは隠しルートよ!」
「隠しルート?」
「宰相の息子且つエドウィンの側近であるジェラルドのルートなの。5人候補がいた内の最後の一人よ。ジェラルドはとても警戒心が強いの。このルートに進むためにはまず主である王子エドウィンと仲良くなる必要があるのよ。そして、心が開かれると進めるの」
どうやら、リゼットの本命は側近であるジェラルドだったらしい。
ダリア情報によると、ジェラルドのルートに進むには主のエドウィンと接触が必要で、エドウィンイベント攻略の上で解放されるため、途中までは一見エドウィンルートに間違いそうになるそうだ。
さらに、私たちの想定してなかったルートのため、ジェラルドの監視はしていない。よって、どこまで攻略が進んだか把握してなかったのだ。まんまとエドウィンルートだと勘違いしていたらしい私達。
そういえば、文化祭の後夜祭イベントに側近のジェラルドがいたのを思い出した。なるほど、あれ以降エドウィンではなく、ジェラルドの登場回数が増加したのか。
「失念していたわ、このルートのはずはないと思って対策をしてなかったのだもの」
「ちなみに、このルートだったら悪役令嬢ダリアはどうなります?」
「実は……唯一のハッピーエンドルートよ。」
ゲーム制作陣が、唯一悪役令嬢に慈悲を与えたルートだったらしい。婚約破棄にならず断罪もされないそうだ。
ただ、隠しルートのため、基本的には公開されないようになっている。イベントをやり込んだ人物のみぞ知るルートなのだ。
「では、もしかして、令嬢ダリアは悪役令嬢にならず、破滅を回避できたことになるのでしょうか?」
「そうね、そうなるわね!」
「主人公も本命と結ばれ、ダリア様もただの令嬢としてエドウィン王子と結ばれる……誰も不幸にならない運命となったのでしょうか?」
「そう……なるわね!」
なんと、そんな嬉しいルートが存在したのか!
2人してこれでもかというほど喜んだ。
予想の斜め上をいく結果になったが、これ以上ない平和的な解決をしたことになる。
「「パララ、ララリラーン!」」
毎度お馴染みの少しウザい、ゲームクリアを表すメロディが鳴り響く。
成功した後に聴くと、とても晴れやかな気持ちになる音楽だったんだなと思った。今までイラっとくるような環境で聞いていたためか嫌だったが、今回は許せるぞ。
◇◇◇◇◇◇
「エミリーさん、本当にありがとうございました。」
無事案件が解決したことにより、私は魔法省に帰ることとなった。ダリアは挨拶をしてくれている。
その顔はとても幸せそうで、見ているこちらも嬉しくなる。
「本命である、エドウィン様と末永くお幸せにお過ごしください」
「ありがとう、このご恩は忘れません。あなたのことを応援しています。……では、エドウィン様が待っているので私はこれで。さようなら!」
ダリアは私に手を振ると、エドウィン王子のもとへ駆け寄った。
エドウィンはとても優しい笑顔でダリアを受け入れていた。
今まで、ダリアが近づくと怪訝な顔をしたエドウィンしか見ていなかった私にとって、その笑顔は新鮮に思えた。同時に、全て解決したことを明確に表しているかのようで、どこか誇らしい気持ちになる。
私がその光景を微笑ましく見ていると、ふいに肩にポンッと手が置かれた。
後ろを振り向くと……タロウだ。
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「なんですか? 今更来たんですか?」
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「もう遅いですー。ご覧の通り、解決してやりました」
「……のようだな」
タロウは幸せそうな2人を見た。
「万事解決ってやつ?」
「……ですね」
私は嬉しくてニイッと笑ってみせた。タロウは満足そうに微笑み返す。
「よし、俺が直々に迎えに来てやったんだ。いくぞ」
そう言うとタロウが転移用の扉を召喚。私を手招きする。
私は振り向き様に2人を見て、タロウと共に元の世界に帰っていった。
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