私、悪役令嬢おたすけ課 ～魔法少女は公務員です？！～

プロローグ

魔法少女の着任

　この日、とある王子が婚約者である令嬢に対して、婚約破棄を言い渡そうとしている。
「私、ジークは婚約者であるオリヴィアとの結婚を破棄する！」

　婚約者であろう令嬢は王座の前で悲しみを浮かべながら跪いていた。このままではこの令嬢はありもしない罪で断罪されてしまう身。誰もがこの状況を固唾を飲んで見ていた。


　……しかし、突如魔法陣と共に金髪碧眼の一人の少女が現れた。
「お待ちください。その婚約破棄、正当な判断でしょうか」

　会場は突然現れた少女に一時騒然とする。
「何者だ！」

　すると少女は動じることなく、和かな表情を浮かべ丁寧にお辞儀をし始めた。
「私？私は悪役令嬢おたすけ課の者です」


◇◇◇◇◇


　私はエミリー。
　魔法省に属する魔法少女だ。
　正式には魔法省/悪役局/悪役救済部/悪役令嬢おたすけ課所属の魔法少女である。

　世界は私たちが認識している以上に広く、そして複数存在しているらしい。その種類は魔法の使える世界や科学に特化した世界など様々だ。

　私のいるこの世界は中でも特殊な環境に置かれている。
　それは、様々な世界と繋がる中継地点のような世界であるということだ。

　これは即ち、認識されている世界間への移動がこの世界ならば可能だということを示す。そのため、私のいる世界ではこの立場を活かして、各世界の問題について管理する機関が多数存在している。その中の一つが私の所属している魔法省だ。

　魔法省とは世界全ての魔法関連の統括をする機関であり、その中に複数の局が設置されている。主に私に関わるのは、悪役に関して専門に統括している悪役局という局だ。

　そして悪役であっても全ての悪役が悪ではなく、自分の自覚無しに悪役として巻き込まれてしまうなど、いわば隠れ無関係者が(ここではノン悪と言う)が一定層いる。このノン悪が悪役となる前、または悪役として仕立て上げられた後に救うことを担っているのが悪役救済部。

　そして、今私がいるのはここ、悪役令嬢おたすけ課だ。悪役令嬢おたすけ課は、悪役救済部の中でも悪役令嬢に特化して救済する専門チームである。

　私はこの度、試験を受け晴れて魔法少女となり、新卒採用としてこの魔法省に入省した。新人魔法少女として、今後経験を積んでいく予定だ。

　入省後、新人研修が終わり私はこの悪役令嬢おたすけ課に配属を言い渡された。始めはお姫様や王子様など華やかな印象があり、楽しみにしていたが、同期の話によると実は省内でもハズレくじを引いてしまったらしいことが分かった。

　悪役令嬢おたすけ課は面倒なお嬢様やお坊ちゃんを相手にすることも多く、解決までが大変だいうとこを配属後に知ってしまったのである。

　しかし、一度配属されたのを経験もせずに異動するのは私の儀に反する。一度経験してみるとこにした。



　上司のミシェル課長が私の始めての仕事となる案件を持ってきた。上司といっても襟元の階級を現す刺繍以外、魔法少女のため見た目はそこまで変わらない。
　ちなみに私はまだひよっこのため刺繍などはない。

「エミリー、今回お前が関わる案件はこれだ。」

　私は恐る恐る渡された資料を受け取り、読み上げた。
「令嬢のノン悪疑惑について…」
　資料の内容を簡潔にすると、一人の令嬢が悪役に仕立て上げられそうになっているから助けろということらしい。

「悪の正体を暴き、悪役化を阻止するように。王道案件のため、迅速に対応するよう務めること」
　上司は眉一つ動かさず言うと去っていった。


　さぁ、これから私のデビュー戦だ！気合いを入れて思いっきり息を吸い込む。

「悪役令嬢おたすけ課、魔法少女エミリー、只今から捜査開始致します！！」

　恒例である大きな掛け声とともに、私は令嬢の待つ世界へと駆け出していった。