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対貴族令嬢 案件
令嬢第一事例 報告3
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会場では突然現れた私に驚いたのかざわついていた。
「何者だ!」
衛兵がこちらに駆け付け始めた。あまりの騒ぎに私は怯み掛けたが、グッとこらえた。
「「勝負時は平常心を忘れるな。どんな状況でも弱みを見せるな」」
そう研修での教えを思い出したからだ。
ここで失敗したら全て水の泡になる。負けてたまるものか。
私は精いっぱいの平常心を保ち、穏やかに笑って見せた。
「私?私は悪役令嬢おたすけ課の者です」
予想外の答えだったのだろう、皆が困惑して私を見ている。気にしてはいけない。私は話を続けることにした。まずは自己紹介を忘れずに。
「初めまして、私は魔法省悪役局悪役救済部、悪役令嬢おたすけ課の魔法少女エミリーと申します。この度はオリヴィア様から、悪役の濡れ衣を着せられる恐れがあるとの救済依頼を受けてこちらに参りました」
魔法省など初めて聞くであろう言葉に戸惑う人々。私はわざとらしくオリヴィアに声をかけた。
「オリヴィア様、もう安心してください。あなたは何も悪くはございません。 本物の悪は別におります」
本物の悪と聞いて、周りはさらに騒つく。
オリヴィアは助けを求めるような目をして私を見てきた。ここからが私の正念場だ。
「魔法省とは……そんなものが存在するのか?」
王子であるジークは私が出てきた状況を把握できないでいるらしく、質問してきた。
「世界間での魔法関係の統括を行っている機関のことでございます。この通り、魔法省を現すリボンをつけているのか証明です。しかし、今はその話をする余裕がございません。目先の悪についてお話ししたく存じます」
魔法省の話をすると長いので割愛させてもらった。私としては早く本題に入りたい。
「そ、そうか私もまだまだ世間知らずだったのか……いや分かった。その魔法省の方がどういった要件なのでしょうか? 目先の悪とは?」
状況を把握してくれたようだ。自分の国よりも規模の大きい機関が背景にあることを察したのか急に敬語になり始めた。話の分かる王子である。やはり王子は悪い人ではなかったらしい。
「はい、ただいまオリヴィア様に対して婚約破棄を言い渡そうとされていましたが、それは正当な判断ではないと提言いたします。」
「というと?」
「オリヴィア様は婚約破棄をされるようなことを一切されていないからでございます」
再び会場内がざわついた。
「でも、こちらにいるアリサ嬢がいじめの報告を涙ながらにしてきたのだ。」
ジークはそう言うと、自分の後ろに隠れているアリサを指さした。アリサは怖がるそぶりをしている。
「さようでございますか……では本当にアリサ様はいじめを受けたのでしょうか?」
私はジークとアリアに向かってゆっくりと歩いていった。
「水に濡れたところを助けたりもしたんだ。本当なんだろう」
ジークはアリサをフォローしようとしている。
「本当なんでしょうか?……ねぇアリサ様……?」
二人に近づくと、私はここぞとばかりに含み笑いをしてアリサを見た。アリサと目が会うと、ビクッと本心から怖がるような反応をしてきた。とても怪しい。
「知らないとは言わせませんよ? アリサ様」
さらに追い討ちをかけるように私はニッコリと笑いかけてみた。
「わ、私が嘘を言っていると言うの? 私は何もしてないんだから!」
アリサは怖がりながらも必死に言い返してきた。まるで小型犬が怖さのあまり吠えるように。
「きっと私と陛下の間に嫉妬して私にありもしない罪をなすりつけようとしているんだわ!」
「あら? 今はアリサ様が本当のことを言っているか否かの話題をしているのに……何故あなたは自分が何もしていないなどと言うのでしょうか? 何かしたという後ろめたいことでもあるのでしょうか?」
アリサの顔から血の気がサーっと引いたように見えた。思いっきり言葉の落とし穴にハマっていただいたようだ。あとはこちらの予定通りに進めさせてもらう。
「アリサ様はオリヴィア様から酷い仕打ちを受けていたと言ってますが、実際はどうだったのでしょうか?調査結果をご覧ください」
「マジカル スクリーン!」
私は魔法のステッキを使い、皆の前に大きなプロジェクターのように画像を映し出した。
「え、あのそんな!」アリサの戸惑う声が聞こえたが、無視をして話を続けた。
「こちらはある日のアリサ様の行動を記録したものでございます。噴水付近を散歩してらっしゃる所から、王子殿下の所に向かった一部始終が記録されています。」
スクリーンにはアリサが噴水に飛び込み、そのままジーク王子の所に向かい、オリヴィアのせいだと話したところまで見事に映し出されていた。
映像を見て騒然とする会場。当のジークは唖然として声も出ないようだ。
「そしてこちらがその時のオリヴィア様のご様子です。」
そこには熱心に図書館で勉強するオリヴィアの姿が写っていた。
この映像だけで、誰が本当の悪かは一目瞭然だ。
「皆様、本当の悪役はお分かりですか?」
アリサはその場にガクッと崩れ落ちた。顔に血の気はない。
「アリサ様はきっと、オリヴィア様が婚約破棄された暁には、自分がその座につけると思っていたのでしょうね。」
ジークは怒りのあまり、震え出した。
「アリサ嬢、君は私を騙していたのか……!」
正義感の強い王子には耐え難い事実だったようだ。
「アリサ嬢、今後お前とは一切の関わりを断つ。 衛兵隊、連れていけ」
泣きながら抵抗するアリサだったが、衛兵により会場から連れ出されて行った。
アリサが連れて行かれると、ジークはオリヴィアに駆け寄り、そしてギュッとオリヴィアを抱きしめた。
「すまなかった、私は大きな間違いを犯すところだった……」
本心から反省している様子だ。無理もない。騙されていたとはいえ、一番傷つけたくなかった相手を傷つけてしまったのだから。
しかし、オリヴィアは長い付き合いからジークの正義感の強さや誠実さを知っている。
「いいえ、いいえ、私も本当のことを自分から言う勇気がございませんでしたから。それがいけなかったのです」
オリヴィアも自分の不甲斐なさに嫌気がさしているようだった。
「ありがとうオリヴィア。君は優しいね。今度はきちんと君の話しに耳を向け、そして本当の悪を見極める目を養うよ」
ジークへの誤解が解けた安心からか、ジークの胸の中でオリヴィアの頬に一筋の涙が流れ落ちたのだった。
◇◇◇◇◇
「魔法少女のエミリーと言っていましたね、ありがとうございます。あなたのお陰で目を覚ますことが出来ました」
本部へ帰ろうとする私を引き留め、ジークとオリヴィアは深々とお辞儀をした。共に礼をする二人からはすでに夫婦のような空気感が出ており、互いを信頼する固い絆が生まれているように見える。
「私は仕事ですし当然のことをしたまでです」
「エミリーさん、あなたは人の幸せを運ぶ素晴らしい仕事をされているのですね」
オリヴィアは私の仕事をそう評価してくれたらしい。仕事を褒められたのは素直に嬉しいと思えた。
「ありがとうございます。そう言っていただけると私も励みになります」
この案件は万事解決したと判断して良さそうだ。
笑顔で会釈すると見送る二人に手を振り、私は初仕事を終えて意気揚々と本部へ戻って行った。
厳しい顔の上司が待っているとも知らずに。
「何者だ!」
衛兵がこちらに駆け付け始めた。あまりの騒ぎに私は怯み掛けたが、グッとこらえた。
「「勝負時は平常心を忘れるな。どんな状況でも弱みを見せるな」」
そう研修での教えを思い出したからだ。
ここで失敗したら全て水の泡になる。負けてたまるものか。
私は精いっぱいの平常心を保ち、穏やかに笑って見せた。
「私?私は悪役令嬢おたすけ課の者です」
予想外の答えだったのだろう、皆が困惑して私を見ている。気にしてはいけない。私は話を続けることにした。まずは自己紹介を忘れずに。
「初めまして、私は魔法省悪役局悪役救済部、悪役令嬢おたすけ課の魔法少女エミリーと申します。この度はオリヴィア様から、悪役の濡れ衣を着せられる恐れがあるとの救済依頼を受けてこちらに参りました」
魔法省など初めて聞くであろう言葉に戸惑う人々。私はわざとらしくオリヴィアに声をかけた。
「オリヴィア様、もう安心してください。あなたは何も悪くはございません。 本物の悪は別におります」
本物の悪と聞いて、周りはさらに騒つく。
オリヴィアは助けを求めるような目をして私を見てきた。ここからが私の正念場だ。
「魔法省とは……そんなものが存在するのか?」
王子であるジークは私が出てきた状況を把握できないでいるらしく、質問してきた。
「世界間での魔法関係の統括を行っている機関のことでございます。この通り、魔法省を現すリボンをつけているのか証明です。しかし、今はその話をする余裕がございません。目先の悪についてお話ししたく存じます」
魔法省の話をすると長いので割愛させてもらった。私としては早く本題に入りたい。
「そ、そうか私もまだまだ世間知らずだったのか……いや分かった。その魔法省の方がどういった要件なのでしょうか? 目先の悪とは?」
状況を把握してくれたようだ。自分の国よりも規模の大きい機関が背景にあることを察したのか急に敬語になり始めた。話の分かる王子である。やはり王子は悪い人ではなかったらしい。
「はい、ただいまオリヴィア様に対して婚約破棄を言い渡そうとされていましたが、それは正当な判断ではないと提言いたします。」
「というと?」
「オリヴィア様は婚約破棄をされるようなことを一切されていないからでございます」
再び会場内がざわついた。
「でも、こちらにいるアリサ嬢がいじめの報告を涙ながらにしてきたのだ。」
ジークはそう言うと、自分の後ろに隠れているアリサを指さした。アリサは怖がるそぶりをしている。
「さようでございますか……では本当にアリサ様はいじめを受けたのでしょうか?」
私はジークとアリアに向かってゆっくりと歩いていった。
「水に濡れたところを助けたりもしたんだ。本当なんだろう」
ジークはアリサをフォローしようとしている。
「本当なんでしょうか?……ねぇアリサ様……?」
二人に近づくと、私はここぞとばかりに含み笑いをしてアリサを見た。アリサと目が会うと、ビクッと本心から怖がるような反応をしてきた。とても怪しい。
「知らないとは言わせませんよ? アリサ様」
さらに追い討ちをかけるように私はニッコリと笑いかけてみた。
「わ、私が嘘を言っていると言うの? 私は何もしてないんだから!」
アリサは怖がりながらも必死に言い返してきた。まるで小型犬が怖さのあまり吠えるように。
「きっと私と陛下の間に嫉妬して私にありもしない罪をなすりつけようとしているんだわ!」
「あら? 今はアリサ様が本当のことを言っているか否かの話題をしているのに……何故あなたは自分が何もしていないなどと言うのでしょうか? 何かしたという後ろめたいことでもあるのでしょうか?」
アリサの顔から血の気がサーっと引いたように見えた。思いっきり言葉の落とし穴にハマっていただいたようだ。あとはこちらの予定通りに進めさせてもらう。
「アリサ様はオリヴィア様から酷い仕打ちを受けていたと言ってますが、実際はどうだったのでしょうか?調査結果をご覧ください」
「マジカル スクリーン!」
私は魔法のステッキを使い、皆の前に大きなプロジェクターのように画像を映し出した。
「え、あのそんな!」アリサの戸惑う声が聞こえたが、無視をして話を続けた。
「こちらはある日のアリサ様の行動を記録したものでございます。噴水付近を散歩してらっしゃる所から、王子殿下の所に向かった一部始終が記録されています。」
スクリーンにはアリサが噴水に飛び込み、そのままジーク王子の所に向かい、オリヴィアのせいだと話したところまで見事に映し出されていた。
映像を見て騒然とする会場。当のジークは唖然として声も出ないようだ。
「そしてこちらがその時のオリヴィア様のご様子です。」
そこには熱心に図書館で勉強するオリヴィアの姿が写っていた。
この映像だけで、誰が本当の悪かは一目瞭然だ。
「皆様、本当の悪役はお分かりですか?」
アリサはその場にガクッと崩れ落ちた。顔に血の気はない。
「アリサ様はきっと、オリヴィア様が婚約破棄された暁には、自分がその座につけると思っていたのでしょうね。」
ジークは怒りのあまり、震え出した。
「アリサ嬢、君は私を騙していたのか……!」
正義感の強い王子には耐え難い事実だったようだ。
「アリサ嬢、今後お前とは一切の関わりを断つ。 衛兵隊、連れていけ」
泣きながら抵抗するアリサだったが、衛兵により会場から連れ出されて行った。
アリサが連れて行かれると、ジークはオリヴィアに駆け寄り、そしてギュッとオリヴィアを抱きしめた。
「すまなかった、私は大きな間違いを犯すところだった……」
本心から反省している様子だ。無理もない。騙されていたとはいえ、一番傷つけたくなかった相手を傷つけてしまったのだから。
しかし、オリヴィアは長い付き合いからジークの正義感の強さや誠実さを知っている。
「いいえ、いいえ、私も本当のことを自分から言う勇気がございませんでしたから。それがいけなかったのです」
オリヴィアも自分の不甲斐なさに嫌気がさしているようだった。
「ありがとうオリヴィア。君は優しいね。今度はきちんと君の話しに耳を向け、そして本当の悪を見極める目を養うよ」
ジークへの誤解が解けた安心からか、ジークの胸の中でオリヴィアの頬に一筋の涙が流れ落ちたのだった。
◇◇◇◇◇
「魔法少女のエミリーと言っていましたね、ありがとうございます。あなたのお陰で目を覚ますことが出来ました」
本部へ帰ろうとする私を引き留め、ジークとオリヴィアは深々とお辞儀をした。共に礼をする二人からはすでに夫婦のような空気感が出ており、互いを信頼する固い絆が生まれているように見える。
「私は仕事ですし当然のことをしたまでです」
「エミリーさん、あなたは人の幸せを運ぶ素晴らしい仕事をされているのですね」
オリヴィアは私の仕事をそう評価してくれたらしい。仕事を褒められたのは素直に嬉しいと思えた。
「ありがとうございます。そう言っていただけると私も励みになります」
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