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対貴族令嬢 案件
試用期間と試験開始
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本部に帰るなり、険しい表情の課長が机の前に立ちはだかっていた。
紫色の髪に映える金色の目。その目は確実にこちらを見ている。せっかく初仕事を終えて、意気揚々と帰ってきたのに、なにやら嫌な予感がした。
課長はただでさえ無表情でいつも何を考えているのか分かりにくいのに、今日は珍しく顔に出ている。どうしたものか。
何か重大なことをしでかしたのではないかと恐る恐る課長のもとに向かった。
「あ、あの……課長?」
「エミリー、報告は?」
「あ……! 只今帰還しました!」
任務終了の報告を忘れかけ、慌てて気を付けの姿勢をとる。
「無事ノン悪疑惑の令嬢を救出いたしました!」
「では、こちらに」
課長は私の胸元のリボンにあるバッジと同じ、課を示すドレスの装飾が施された金属製のカードを取り出した。カードを私の胸元のバッジにかざすと、カードとバッジが共鳴するかのように、ピンクを帯びた光が互いに放たれる。
程なくして……光は収まり、私の襟元にピンク色の小さなハート型の刺繍が現れた。
「ほう、初仕事にしては上出来ではないか。お前のことだから何か問題を起こすのではないかと冷や冷やしていたが、大丈夫だったようだな」
課長の表情は少し緩んだ。めちゃくちゃ怒られるような覚悟をしていたので、内心ホッとした。
ーー今の現象は報告書を提出するようなものと想像してもらいたい。
カードをバッジにかざすことで、バッジの持ち主の仕事の様子や成果などが情報共有される仕組みになっている。仕事ぶりなどを本人が報告しなくても、自動で報告してくれる優れものだ。
多少失敗なども正確に報告されてしまうため、そこは慎重に扱う必要があるのが心配点だが……最近魔法省に導入されたもので、この悪役救済部では実験的に取り入れられている。
さらにこのカードは、時と場合に応じて評価も反映してくれるらしい。今回、私には襟元にピンクのハートの刺繍が現れた。
「課長、この刺繍は……」
「ほう、刺繍まで現れたか。それは悪役令嬢おたすけ課の職員候補である証だな。次回の登用試験で合格すれば、お前も晴れて課のメンバーに認めてもらえることだろう。初仕事でチャンスを掴むとは……おめでとう」
刺繍は正規メンバーへの登用試験の受験票のようだ。普通は能力を確認すべく試用期間として2~3回仕事を経験するのだが、手際よく初仕事を終えたのもあり、今回の仕事で試験の許可が下りたらしい。
課長はこの刺繍が現れたことを、素直にほめてくれた。なんだか口調がいつもより柔らかく、一緒に喜んでくれているような気がした。
まあ、常に無表情の課長のため、あまり感じ取れないが。
「じゃあ、私正規メンバーになれるんですね! やったーーー!!!」
私は嬉しくて、思わず声に出して喜んでしまった。
五月蠅かったのか、他のメンバーが驚いてこちらを振り向く。課長が咳払いをしたので、慌てて口に手をやり言葉を止めた。
「まだ、これから試験が待っているのだ。決まった訳じゃない。しかし……嫌な結果になるかと案じていたが、心配なかったようだ。これからも精進するように」
課長の厳しい顔がいつもの無表情へと変わっていく。
なるほど、初仕事の出来が心配で、課長はいてもたってもいられず私の帰還を席の前で待っていたと。さらに心配が顔にまで出ていたため、珍しく厳しい顔をしていたのか。
……なんだこの上司、無表情だけどめちゃくちゃ部下思いじゃないか。
私は課長のギャップに吹き出しそうになったが、さすがに失礼なので堪えた。
「とりあえず、ゆっくり休むと良い」
部下を労うのも忘れない。根は良い人らしい。私は思わず感動し、この人の下ならついて行こうと決心するのだった。
しかし、次の出社日、その尊敬の気持ちは砕け散る。
課長が登用試験の案件を持って来たのだが、その案件がとても鬼畜だったためだ。
◇◇◇◇◇◇
前回の案件が上手くいったため、調子に乗っている私を見た課長はやれやれとため息をついて、とある資料を私に突き付けた。
「これは……?」
「悪役令嬢おたすけ課、正規メンバー登用試験だ。これがエミリー、お前の次の案件となる」
ついに試験が行われるらしい。前回同様、素早く対応して案件を終わらせるぞと意気込んだが、人生そんな上手いことだけが通用するはずもなかった。
「前回は上手く解決したが、調子に乗っていると痛い目を見るぞ。特例案件を今から担当してもらう。」
ーー”特例”案件?……非常に嫌な予感がした。
課長から突き付けられた資料を渋々受け取るとそこには
『マジカル戦士』
の単語が書かれていた。
「マ、マジカル戦士……???」
私の頭にはハテナが沢山浮かんだ。いつもの令嬢関連の案件だと思って素直に受け取ったが、全く意味が分からない。
「まぁ、行けば分かるさ」
そう言うと課長は恒例の掛け声を半ば強制的に始めた。
「悪の正体を暴き、悪役化を阻止するように。迅速に対応するよう務めること。なお、今回の案件を正規職員登用試験とする」
課長はもう有無を言わさずこの案件を試験にするらしい。私には返事して、この仕事を受けるしか選択肢が無さそうだ。
「悪役令嬢おたすけ課、魔法少女エミリー、只今から捜査開始致します!!」
ほぼ仕方なくではなるが、恒例である大きな掛け声とともに、私は令嬢の待つ世界へ向かった。
紫色の髪に映える金色の目。その目は確実にこちらを見ている。せっかく初仕事を終えて、意気揚々と帰ってきたのに、なにやら嫌な予感がした。
課長はただでさえ無表情でいつも何を考えているのか分かりにくいのに、今日は珍しく顔に出ている。どうしたものか。
何か重大なことをしでかしたのではないかと恐る恐る課長のもとに向かった。
「あ、あの……課長?」
「エミリー、報告は?」
「あ……! 只今帰還しました!」
任務終了の報告を忘れかけ、慌てて気を付けの姿勢をとる。
「無事ノン悪疑惑の令嬢を救出いたしました!」
「では、こちらに」
課長は私の胸元のリボンにあるバッジと同じ、課を示すドレスの装飾が施された金属製のカードを取り出した。カードを私の胸元のバッジにかざすと、カードとバッジが共鳴するかのように、ピンクを帯びた光が互いに放たれる。
程なくして……光は収まり、私の襟元にピンク色の小さなハート型の刺繍が現れた。
「ほう、初仕事にしては上出来ではないか。お前のことだから何か問題を起こすのではないかと冷や冷やしていたが、大丈夫だったようだな」
課長の表情は少し緩んだ。めちゃくちゃ怒られるような覚悟をしていたので、内心ホッとした。
ーー今の現象は報告書を提出するようなものと想像してもらいたい。
カードをバッジにかざすことで、バッジの持ち主の仕事の様子や成果などが情報共有される仕組みになっている。仕事ぶりなどを本人が報告しなくても、自動で報告してくれる優れものだ。
多少失敗なども正確に報告されてしまうため、そこは慎重に扱う必要があるのが心配点だが……最近魔法省に導入されたもので、この悪役救済部では実験的に取り入れられている。
さらにこのカードは、時と場合に応じて評価も反映してくれるらしい。今回、私には襟元にピンクのハートの刺繍が現れた。
「課長、この刺繍は……」
「ほう、刺繍まで現れたか。それは悪役令嬢おたすけ課の職員候補である証だな。次回の登用試験で合格すれば、お前も晴れて課のメンバーに認めてもらえることだろう。初仕事でチャンスを掴むとは……おめでとう」
刺繍は正規メンバーへの登用試験の受験票のようだ。普通は能力を確認すべく試用期間として2~3回仕事を経験するのだが、手際よく初仕事を終えたのもあり、今回の仕事で試験の許可が下りたらしい。
課長はこの刺繍が現れたことを、素直にほめてくれた。なんだか口調がいつもより柔らかく、一緒に喜んでくれているような気がした。
まあ、常に無表情の課長のため、あまり感じ取れないが。
「じゃあ、私正規メンバーになれるんですね! やったーーー!!!」
私は嬉しくて、思わず声に出して喜んでしまった。
五月蠅かったのか、他のメンバーが驚いてこちらを振り向く。課長が咳払いをしたので、慌てて口に手をやり言葉を止めた。
「まだ、これから試験が待っているのだ。決まった訳じゃない。しかし……嫌な結果になるかと案じていたが、心配なかったようだ。これからも精進するように」
課長の厳しい顔がいつもの無表情へと変わっていく。
なるほど、初仕事の出来が心配で、課長はいてもたってもいられず私の帰還を席の前で待っていたと。さらに心配が顔にまで出ていたため、珍しく厳しい顔をしていたのか。
……なんだこの上司、無表情だけどめちゃくちゃ部下思いじゃないか。
私は課長のギャップに吹き出しそうになったが、さすがに失礼なので堪えた。
「とりあえず、ゆっくり休むと良い」
部下を労うのも忘れない。根は良い人らしい。私は思わず感動し、この人の下ならついて行こうと決心するのだった。
しかし、次の出社日、その尊敬の気持ちは砕け散る。
課長が登用試験の案件を持って来たのだが、その案件がとても鬼畜だったためだ。
◇◇◇◇◇◇
前回の案件が上手くいったため、調子に乗っている私を見た課長はやれやれとため息をついて、とある資料を私に突き付けた。
「これは……?」
「悪役令嬢おたすけ課、正規メンバー登用試験だ。これがエミリー、お前の次の案件となる」
ついに試験が行われるらしい。前回同様、素早く対応して案件を終わらせるぞと意気込んだが、人生そんな上手いことだけが通用するはずもなかった。
「前回は上手く解決したが、調子に乗っていると痛い目を見るぞ。特例案件を今から担当してもらう。」
ーー”特例”案件?……非常に嫌な予感がした。
課長から突き付けられた資料を渋々受け取るとそこには
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「マ、マジカル戦士……???」
私の頭にはハテナが沢山浮かんだ。いつもの令嬢関連の案件だと思って素直に受け取ったが、全く意味が分からない。
「まぁ、行けば分かるさ」
そう言うと課長は恒例の掛け声を半ば強制的に始めた。
「悪の正体を暴き、悪役化を阻止するように。迅速に対応するよう務めること。なお、今回の案件を正規職員登用試験とする」
課長はもう有無を言わさずこの案件を試験にするらしい。私には返事して、この仕事を受けるしか選択肢が無さそうだ。
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