私、悪役令嬢おたすけ課 ~魔法少女は公務員です?!~

ビオラン

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対貴族令嬢 案件

令嬢第三事例 報告3

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 アンジェラは急ぎ足でクリスの待つラウンジに向かい始める。

「クリス様、大変でございます! またもナタリーさんがいじめを受けているようで、通路が邪魔されて通れなくなっているようでしたわ!」

 偶然見かけたと言わんばかりにわざとらしく息を切らして、アンジェラはクリスに駆け寄る。
クリスは、何度かこのやり取りをしているらしく、慣れたと言わんばかりにアンジェラを見た。

「またか……どうせまた行っていたのはジェシカだと言うのだろう」
「はい……」
 とても悲しそうに返事をしたアンジェラ。

 はい、嘘でございます殿下。わたくしはこの目でアンジェラの行いを見ておりました。
 それにアンジェラよ。さっきあなたがたが、通路を完全にふさいでいましたよね? と思いながらも声に出さないよう、一連の流れを私は見守った。もちろん一応記録媒体に記録しながらだが。

「君は、毎回報告をしてきてくれて……本当に優しいね」
 クリスは見事な騙されっぷりである。
「いえ、そんな。私はナタリーさんのお力になろうと思っただけです……」

 完全に騙されているクリス。
 殿下、ご存知ですか?さっきから取り巻きの令嬢2人がドアの向こうで、こちらの会話に聞き耳を立て、クスクスと笑い合っていることを……
 よく、笑い声がこちらに聞こえてこないなとある意味感心をした。

 そんなことを考えていると、突如クリスはついに耐えられないといったばかりに立ち上がった。
「もう、私は黙っていられない。今度ジェシカを呼び出そうと思う!」

 しまった、悠長に構えてはいられないようだ。そろそろクリスが婚約破棄を言い渡しそうな気配がある。

「まぁ、そんなにお怒りにならなくても」

 宥めるアンジェラだが、その目はどこか楽しそうである。そして、優雅に髪をかき上げると、こう言った。

「わたくしに力になれることがありましたら、何なりとお申し付けくださいませ」
「……なんて優しいんだ。君はまるで天使だな」

 クリスは信頼しきった様子で、アンジェラを褒めたのだった。

ーーアンジェラの行動の一部始終を見た私は、アンジェラがいじめの主犯であることを確信。

 アンジェラはいじめの報告をしてくれる天使ではなく、悪魔だったのだ。

 しかも計画的である分、タチが悪い。犯行から報告までを自ら行い、ナタリーとジェシカ以外の人物をあまり巻き込まず、いじめを大事にしない徹底ぶり。クリスの騙され具合にも驚きを隠せないが、アンジェラの見事な立ち回りに感動さえ覚えた。

 何故アンジェラはここまでして、虚偽のいじめを捏造するのだろうか?

 ジェシカに何か恨みでもあるのだろうか?ジェシカの地位は公爵令嬢で確固たるものであり、特に対立してくる者は思い当たらないと言っていた。アンジェラが元々対立候補であれば、ジェシカから疑いのある人物として私に紹介されていてもおかしくない。
 実際、対立しそうな貴族たちの名などは一応聞いてみたが、アンジェラの名ははなかった。……となると、アンジェラが個人的に、且つ一方的に敵意を持っていると判断してもいいかもしれない。

 解決方法を模索するため、アンジェラに関する情報をさらに収集する。
 何故、ナタリーをいじめるのか、ジェシカを標的にしているのか。個人的に敵意を持っていたとしても、理由を知らずしては行動に移すことはできない。さらに、魔法も使えない今は迂闊に行動してはならない。


 私はアンジェラが黒幕だと判断して行動に移すことに。どうにか、本当に悪役としてあらぬ罪を着せられそうになっているジェシカを早く助け出さなければならない。

 そして、見事な騙されっぷりを披露したクリスにも将来のことを考えると、個人的には目を覚ましていただきたいところである。

◇◇◇◇◇◇

 クリスに報告をした後のアンジェラ達をさらに私は監視し始めた。
 引き続き目くらましの魔法を使い、部屋にそっと忍び込む。

 アンジェラと取り巻きの令嬢たちは部屋に集まって何やら茶を飲み、お喋りをしているようだ。私は聞き耳を立てる。

「……さすがアンジェラ様ですわ」
「アンジェラ様、今日も素晴らしいですわ」

 内容は、取り巻きの令嬢達がアンジェラを褒めるところから始まる。そして、褒めて、さらに褒めて……褒める以外の話の内容が聞こえてこない。飽きてきた。

 驚異的な持ち上げ具合である。ワッショイしすぎて、頭の中の変換が全てワッショイに聞こえてしまった。

「……ワッショイ……ワッショイ……」

 ワッショイワッショイしか聞こえず、ボーッとしてきた頃、ようやく別の話題になり始めた。慌てて船を漕いでいた私は姿勢を正す。

「アンジェラ様、今回も上手くいきましたわね」
「そうですわね、これでアンジェラ様が次期王妃に間違いないですわ」

 ん?どういうことだろうか? 次期王妃にはジェシカがいる。アンジェラは関係ない立場のはずなのだが。

「そんな……まだ決まった訳でもないのに…早いですわ」
「いいえ、クリス殿下のあのご様子……アンジェラ様のことは好印象に映っているはず。きっとジェシカ様と婚約破棄をした暁にはアンジェラ様にお話しが来ますわ」
「そう信じたいわね」

 驚いた。クリスが婚約破棄をすることをまるで楽しみにしているかのような令嬢たちの会話が聞こえてくる。アンジェラに話が来るとは? ……どうやら面白い話を聞かせてくれそうだ。

 さらに令嬢たちの会話は続く。その内容は、今後のナタリーのいじめ計画やジェシカに対するクリスの対応の変化を予想するものなどこの案件に関するものばかりであった。

 これらの話を私は頭の中で、結び付けていく。そして、一つの真実にたどり着いた。

ーー間違いない。これは黒幕どころかアンジェラが全て鍵を握っている。
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