私、悪役令嬢おたすけ課 ～魔法少女は公務員です？！～

対貴族令嬢 案件

令嬢第三事例 報告4

　ーーアンジェラおよびその取り巻きの会話を聞いた内容や状況をまとめると以下のように整理される。

　アンジェラはジェシカがクリスの婚約者である立場を妬んでいた。自分がその立場になろうと謀ったアンジェラは、ジェシカに虚偽の疑いをかけさせ、クリスのジェシカに対する信用を貶める作戦に出たのだ。

　しかし、アンジェラ本人が動けば影響も大きい。今後のためにも自分は裏で手を回すことにしたのだ。

　そこに目を付けられたのはナタリーである。大人しそうな性格且つ、平民のためナタリーは少しいじめたところで大事になることはない。利用価値を見出したアンジェラは、ジェシカがナタリーをいじめているという事実を作り上げることにした。

　そして、アンジェラは自身が報告をするという形で、クリスとの信頼を構築していくことも忘れなかった。徐々にジェシカに対するクリスの信頼を落としていき、信用が落ちたところに、自分が好印象に映れば……アンジェラが次の婚約候補になることは十分あり得る。

　あわよくば自分がジェシカの立場に乗り移ろうとしているのだ。

　しかし、実際にいじめが行われていなければ、いじめの報告は虚偽となる。ナタリーをいじめなければならない。

　ここでの課題は、誰がいじめるのか？　いじめを依頼することもできただろうが、それでは口封じが面倒だ。それを分かっているので、周囲にばれないような形で、取り巻きと自らコソコソといじめをしたらしい。

　ジェシカを悪役に仕立て上げるには限りなく事実に近い形にしなければバレてしまう。今回の場合、実際にナタリーはいじめられているため、いじめられているかの有無を問われれば、イエスと言うだろう。

　しかも目撃者がいるため、ジェシカの罪は真実へと変わる。感心するほど、巧妙に仕組まれているのが分かった。

　アンジェラの綿密な策略に私はため息を漏らした。

　ここまでするのはある意味尊敬に当たるだろう。この頭脳を違う所に回せば良いのにと思ってしまう。


　ひとまず、この状況はジェシカに伝えた方が良いだろう。そして共に作戦を練る必要がある。


　その晩、私はジェシカの下に向かうと、今までの一連の調査の報告をした。
　聞いているジェシカは驚きの隠せない表情だ。口元を押さえて目を見開いている。

「まさか……アンジェラ様が……今までそのようなご様子は見られませんでしたので、想定外ですわ」

　そうだろう。本人にばれないように巧妙に仕組んでいたのだから。
　私とジェシカは、作戦を練ることにした。

　しかし、ジェシカが犯人ではない証拠が思いつかない。特にナタリーへのいじめの証拠を残さないように、証拠隠滅を図れるようないじめがほとんどだったからだ。さすがアンジェラ、証拠を押収されるのを想定しているかのような動きである。

　間違えればいじめの有無さえ分からないほどである。

　どうすれば、いじめの現場をクリスに見てもらえるのか。ついでにその時にアンジェラが犯人であることが分かる上に、ジェシカが関わっていないのが判断されるような環境が出来ないものか……私は必死に考えた。

　ジェシカも一生懸命に考えてくれているらしい。
ジェシカはその金髪碧眼の美しい顔を時折横に振ったりと様々な表情を見せている。

　そう言えば、私も金髪碧眼なのだが、ジェシカには私にない品に満ち溢れた何か美しいものを感じられる。
　横顔にほれぼれとしていると……私の中でふと名案がでてきた。我なら良い案かもしれない。


「ジェシカ様、私、あなたの親戚になります！」


「私の親戚に？」
「そうです、私を貴族にしてください！」


◇◇◇◇◇◇


「ごきげんよう、アンジェラ様」

　学園の廊下を歩いていたアンジェラは、一人の生徒に声をかられた。
　声に振り向くと、アンジェラの前に現れたのは、金髪碧眼の貴族令嬢だ。学園の生徒である制服を着ており、貴族の証もある。ただ、アンジェラにとって見覚えはないようだ。

　突然の見知らぬ者に驚くアンジェラ。

「……貴方は？」
「お初にお目にかかります。わたくしはエミリーと申します」

　ーーそう、この令嬢こそ私、エミリーなのだ。ジェシカに頼んで貴族として学園に潜入することが出来たのである。

　ジェシカに報告をした後、この世界の人物として堂々と行動をできるように、貴族偽装することにした。

　ーー何故こんなことをしたか？

　初めはジェシカと自分の容姿が似ていることに気づいた。そのため、ジェシカになりきろうと思った。容姿が似ていることを活かそうと思ったからだ。

　ただ……ジェシカのふりをして反撃でもしてやろうかと思ったが、どうしてもあのジェシカの優雅さは私には真似できず、ボロが必ずでてしまうと考えた。それならば、親戚という形でアンジェラに近づくことを選択したのだ。

　まぁ、簡単に貴族にはなれないことは承知しているため、身分の偽造という形になってしまうが……

　アンジェラのような疑い深く警戒心が強い者はきっとその人物についての調査を行うことだろう。そのため、調査をされても大丈夫なように、手回しも行った。

　書類的な物など、対外的に調べれば公開されてしまう可能性のある部分は魔法でこっそりと修正する。

　例えば、貴族は貴族の戸籍一覧に名前が載ることで登録をされるらしい。ジェシカが戸籍一覧を確認する際に、素早く魔法で自分を分家の形で登録をしたり……学園ではさも生徒のように名簿に名前を紛れ込ましたり……学年が違うという設定も加え、接点を少なくしたりした。

　そして、この世界の常識がわからない私は、情報を収集すべく魔法省図書館の検索サービスを利用することにした。本部である図書館に行かなくても、一部書籍の内容が確認できるサービスだ。世界の文化の関係に纏わる部分のため、対象書籍となっていた。

　私は本の内容とジェシカの知識とすり合わせ、実際の最低限の常識などを勉強する。

　なお、私の脳内では追いつけないため、妖精のリンデンがほとんど検索本を閲覧しながら耳元でフォローしてもらうことになるのだが……

　リンデンは「こんなものも覚えられないのか愚か者！」と言っていたが、まんざらでもなさそうに重要部分をメモしてくれていた。

　ーーうん、なんだかんだで教えてくれそうだ。

　そして、突貫工事ではあるが、ジェシカからの指導のかいもあり、貴族っぽく仕上げることが出来たのだった。