6 / 129
門出
5
しおりを挟む
朱鷺貴がにやにや眺めるのになんとなく翡翠は察する。あぁ、この人もそうだ破天荒だったんだ。
「江戸には吉原遊郭があっただろ?京にはな、ここからもっかい折りて二本ズレた通りに島原遊郭ってのがある。少し作法は違えど。あんたらがいる通りだよ」
「やっぱりあんた破天荒だね。買ってんじゃん」
「いいや?忘れちまいましたな江戸の頃なんてはっはっは。まぁこいつに聞いてくれ」
「まぁわてはあそこの出なんで~」
「あ、」
「うーんなるほど」
さてと立ち上がる朱鷺貴に「ホンマにええの?」と翡翠は再度確認した。
「トキさん…なんというか駄目やったやろ」
「ん?……あ、そう来た?」
「え?違う?法衣でも入れますしね?」
「うーん…えっとまぁ…うーん…根本から違うけどま!貴様らは好きにしてくれはっはっは。降りるついでだし。京作法とは如何にと」
……どうやら朱鷺貴もわりと江戸のことは根に持っているのだと翡翠は解釈したが、実際の朱鷺貴にはそれほどのつもりもなく「おもろっ」くらいだ。
なんせ、久々の刺激。
「あぁ先に言っとくが俺は仕事だ畜生め」
ましてや釘まで刺している。
修行というか…なんというか。
「わかりましたよ全く」
んじゃぁと立ち上がる、非常に機嫌が良くなった朱鷺貴の後に、茶を片付ける翡翠。少し待たされる試衛館の三人。
すぐに薬箱を背負った朱鷺貴と、羊羹の包みを持った翡翠はさぁ繰り出すぞと言わんばかりだった。
「どうせ降りるならトキさん、茶も買うて行きましょうよ」
「あーそうだね。じゃあ俺はまぁ仕事もあるし?後から伺いますよ、バカ従者を引き取りに、朝方」
「うわっ」
無駄に口実までつけるらしい。
「俺らもじゃぁ、近藤さんを拾っていくかな…」
「あぁ、何条なんです?」
「ん?」
「南條?」
「ええっと…うーんなんて説明しましょ…お近くには何が?ここに来るまで何本どう変わりました?」
「何が?」
「あー道か!」
「んーと…」
「うーんそうだよねぇ多分わかりにくいよな江戸っ子からすると…まあ、通り沿いならぶち当たるだろ」
「ま、せやねぇ」
「ここに来るまで大体真っ直ぐだったけどわかりにくかったよ」
「坊さんなら寺わかるか?いま壬生寺貸してくれって頼み込んでんだが」
「どこそれ」
「その前が新徳寺で…」
「あそうや言うてましたね新徳寺。わてはわかりました。その手前ですなぁ」
一文字違いだね、と然り気無く沖田が呟く。
翡翠はふむふむだが、朱鷺貴は「全然わからん」と意外な結果。やはりここは翡翠に投げられるようだ。
やいのやいの大まかで腰を上げて男たちは寺を降りる。
「しかし門出にしちゃぁ苦労したもんですね」
「全くだ。こっちは道場まで潰したってーのに」
「集まった浪人たちも、全く持って覚悟というか…覇気もあったもんじゃなかったよ」
「お陰で大将の人相が悪くなっててなぁ…」
煎餅顔を思い出す。
言うて人相は大してよかったわけでもなかろうが、確かに気苦労を考えれば窶れでもしているのかもしれない。
そうなればこれは粋な計らい、と言うべきなの…か。
「世の中物騒になったもんですね。寺ですら無関係ともいかなくなったもんですよ、儲かって仕方ない」
「そのわりにボロだねーあの寺。流行りの手習塾とかやってないの?」
「やってるやつもいるけどそこそこ分かりにくい場所だし、こっちの儲けはそんなにない。ちなみにこっちじゃ“寺子屋”と呼ぶんだよ」
「へー」
「つーか、坊さん。前から思ってたんだが薬もやってんのか?」
「まぁまぁ。俺よりどちらかと言えば翡翠の方が詳しいです」
「土方さんも薬屋さんやったね?」
「元々俺もこいつらも武家じゃねぇから」
なるほど。
「そうや、千葉道場近くの善福寺にいらっしゃってる…幕府お抱えのお医者様言うん、御存知です?」
ふと翡翠がそう聞いた。
試衛館三人は考えてから、
「そりゃ松本先生かい?」だの、「今度将軍と来る人?」だの、「あぁ松本先生」だの、どうやら知っている様子。
「偉い先生だってな」
「へぇ~そうなんや」
「それがどうした?」
「いえ、聞き及んだので」
朱鷺貴すら知らない事情に翡翠の顔を覗くと、「ああ、和尚が」と続ける。
「みよさんのお父様とお世話になっとるそうで」
「あぁ、そうか、言ってたな」
「そないに偉い方なら、和尚さんも安心ですな」
いまのところみよの父のあれからは、連絡がない。あわよくば…冬を持ち越せるのかもしれないなと思いを馳せる。
「みよ?」
「あぁ、そうそう。わても男をあげましたよ土方さん」
「おうそうかい。どんなんだ?」
朱鷺貴ですらそれは聞いてこなかった。
「内緒です」
「持てる男は違うもんですねぇ…」
そう言って土方を眺める沖田に「なんだよ」と土方は素っ気ない。
恋の句を思い出す。そんな気はしていた。迷う、そんな道。
「大将も奥さんと倅を置いてきたんだぜ。俺にもいー女いねぇかなぁ」
「原田さんはおいくつなんです?20と…どうやろ…5つあたりで?」
「おめぇよく当たるよなぁ」
「そう言えば俺はお前の正確な歳を知らないな」
「江戸には吉原遊郭があっただろ?京にはな、ここからもっかい折りて二本ズレた通りに島原遊郭ってのがある。少し作法は違えど。あんたらがいる通りだよ」
「やっぱりあんた破天荒だね。買ってんじゃん」
「いいや?忘れちまいましたな江戸の頃なんてはっはっは。まぁこいつに聞いてくれ」
「まぁわてはあそこの出なんで~」
「あ、」
「うーんなるほど」
さてと立ち上がる朱鷺貴に「ホンマにええの?」と翡翠は再度確認した。
「トキさん…なんというか駄目やったやろ」
「ん?……あ、そう来た?」
「え?違う?法衣でも入れますしね?」
「うーん…えっとまぁ…うーん…根本から違うけどま!貴様らは好きにしてくれはっはっは。降りるついでだし。京作法とは如何にと」
……どうやら朱鷺貴もわりと江戸のことは根に持っているのだと翡翠は解釈したが、実際の朱鷺貴にはそれほどのつもりもなく「おもろっ」くらいだ。
なんせ、久々の刺激。
「あぁ先に言っとくが俺は仕事だ畜生め」
ましてや釘まで刺している。
修行というか…なんというか。
「わかりましたよ全く」
んじゃぁと立ち上がる、非常に機嫌が良くなった朱鷺貴の後に、茶を片付ける翡翠。少し待たされる試衛館の三人。
すぐに薬箱を背負った朱鷺貴と、羊羹の包みを持った翡翠はさぁ繰り出すぞと言わんばかりだった。
「どうせ降りるならトキさん、茶も買うて行きましょうよ」
「あーそうだね。じゃあ俺はまぁ仕事もあるし?後から伺いますよ、バカ従者を引き取りに、朝方」
「うわっ」
無駄に口実までつけるらしい。
「俺らもじゃぁ、近藤さんを拾っていくかな…」
「あぁ、何条なんです?」
「ん?」
「南條?」
「ええっと…うーんなんて説明しましょ…お近くには何が?ここに来るまで何本どう変わりました?」
「何が?」
「あー道か!」
「んーと…」
「うーんそうだよねぇ多分わかりにくいよな江戸っ子からすると…まあ、通り沿いならぶち当たるだろ」
「ま、せやねぇ」
「ここに来るまで大体真っ直ぐだったけどわかりにくかったよ」
「坊さんなら寺わかるか?いま壬生寺貸してくれって頼み込んでんだが」
「どこそれ」
「その前が新徳寺で…」
「あそうや言うてましたね新徳寺。わてはわかりました。その手前ですなぁ」
一文字違いだね、と然り気無く沖田が呟く。
翡翠はふむふむだが、朱鷺貴は「全然わからん」と意外な結果。やはりここは翡翠に投げられるようだ。
やいのやいの大まかで腰を上げて男たちは寺を降りる。
「しかし門出にしちゃぁ苦労したもんですね」
「全くだ。こっちは道場まで潰したってーのに」
「集まった浪人たちも、全く持って覚悟というか…覇気もあったもんじゃなかったよ」
「お陰で大将の人相が悪くなっててなぁ…」
煎餅顔を思い出す。
言うて人相は大してよかったわけでもなかろうが、確かに気苦労を考えれば窶れでもしているのかもしれない。
そうなればこれは粋な計らい、と言うべきなの…か。
「世の中物騒になったもんですね。寺ですら無関係ともいかなくなったもんですよ、儲かって仕方ない」
「そのわりにボロだねーあの寺。流行りの手習塾とかやってないの?」
「やってるやつもいるけどそこそこ分かりにくい場所だし、こっちの儲けはそんなにない。ちなみにこっちじゃ“寺子屋”と呼ぶんだよ」
「へー」
「つーか、坊さん。前から思ってたんだが薬もやってんのか?」
「まぁまぁ。俺よりどちらかと言えば翡翠の方が詳しいです」
「土方さんも薬屋さんやったね?」
「元々俺もこいつらも武家じゃねぇから」
なるほど。
「そうや、千葉道場近くの善福寺にいらっしゃってる…幕府お抱えのお医者様言うん、御存知です?」
ふと翡翠がそう聞いた。
試衛館三人は考えてから、
「そりゃ松本先生かい?」だの、「今度将軍と来る人?」だの、「あぁ松本先生」だの、どうやら知っている様子。
「偉い先生だってな」
「へぇ~そうなんや」
「それがどうした?」
「いえ、聞き及んだので」
朱鷺貴すら知らない事情に翡翠の顔を覗くと、「ああ、和尚が」と続ける。
「みよさんのお父様とお世話になっとるそうで」
「あぁ、そうか、言ってたな」
「そないに偉い方なら、和尚さんも安心ですな」
いまのところみよの父のあれからは、連絡がない。あわよくば…冬を持ち越せるのかもしれないなと思いを馳せる。
「みよ?」
「あぁ、そうそう。わても男をあげましたよ土方さん」
「おうそうかい。どんなんだ?」
朱鷺貴ですらそれは聞いてこなかった。
「内緒です」
「持てる男は違うもんですねぇ…」
そう言って土方を眺める沖田に「なんだよ」と土方は素っ気ない。
恋の句を思い出す。そんな気はしていた。迷う、そんな道。
「大将も奥さんと倅を置いてきたんだぜ。俺にもいー女いねぇかなぁ」
「原田さんはおいくつなんです?20と…どうやろ…5つあたりで?」
「おめぇよく当たるよなぁ」
「そう言えば俺はお前の正確な歳を知らないな」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜
岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!???
そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
影武者の天下盗り
井上シオ
歴史・時代
「影武者が、本物を超えてしまった——」
百姓の男が“信長”を演じ続けた。
やがて彼は、歴史さえ書き換える“もう一人の信長”になる。
貧しい百姓・十兵衛は、織田信長の影武者として拾われた。
戦場で命を賭け、演じ続けた先に待っていたのは――本能寺の変。
炎の中、信長は死に、十兵衛だけが生き残った。
家臣たちは彼を“信長”と信じ、十兵衛もまた“信長として生きる”ことを選ぶ。
偽物だった男が、やがて本物を凌ぐ采配で天下を動かしていく。
「俺が、信長だ」
虚構と真実が交差するとき、“天下を盗る”のは誰か。
時は戦国。
貧しい百姓の青年・十兵衛は、戦火に焼かれた村で家も家族も失い、彷徨っていた。
そんな彼を拾ったのは、天下人・織田信長の家臣団だった。
その驚くべき理由は——「あまりにも、信長様に似ている」から。
歴史そのものを塗り替える——“影武者が本物を超える”成り上がり戦国譚。
(このドラマは史実を基にしたフィクションです)
【完結】『からくり長屋の事件帖 ~変わり発明家甚兵衛と江戸人情お助け娘お絹~』
月影 朔
歴史・時代
江戸の長屋から、奇妙な事件を解き明かす! 発明家と世話焼き娘の、笑えて泣ける人情捕物帖!
江戸、とある長屋に暮らすは、風変わりな男。
名を平賀甚兵衛。元武士だが堅苦しさを嫌い、町の発明家として奇妙なからくり作りに没頭している。作る道具は役立たずでも、彼の頭脳と観察眼は超一流。人付き合いは苦手だが、困った人は放っておけない不器用な男だ。
そんな甚兵衛の世話を焼くのは、隣に住む快活娘のお絹。仕立て屋で働き、誰からも好かれる彼女は、甚兵衛の才能を信じ、持ち前の明るさと人脈で町の様々な情報を集めてくる。
この凸凹コンビが立ち向かうのは、岡っ引きも首をひねる不可思議な事件の数々。盗まれた品が奇妙に戻る、摩訶不思議な悪戯が横行する…。甚兵衛はからくり知識と観察眼で、お絹は人情と情報網で、難事件の謎を解き明かしていく!
これは、痛快な謎解きでありながら、不器用な二人や長屋の人々の温かい交流、そして甚兵衛の隠された過去が織りなす人間ドラマの物語。
時には、発明品が意外な鍵となることも…?
笑いあり、涙あり、そして江戸を揺るがす大事件の予感も――。
からくり長屋で巻き起こる、江戸情緒あふれる事件帖、開幕!
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる