8 / 129
門出
7
しおりを挟む
人の出入りは、江戸とも引けを取らず。
大門の内側は一気に賑やかだった。
試衛館連中からしたら、全く馴染みもないような雰囲気。
しかし、その店はきらびやか、というよりは少しひっそりした店だった。
これは却ってどうなんだ、名店かもしれないと思えてくる。
名を、“金清楼”。
「御免くださいまし」
翡翠としては普通に戸を潜る。
なるほど「出」と言っておいたからだろう、一同も自然とそう、構えない。
30代くらいだろうか、「おぅ、翡翠か」と、江戸っ子ノリに近い青鵐が入り口で迎える。
青鵐は翡翠をよく見、連れをよく見て、少し困惑したように何度か目線を行き来させた。
「…翡翠、一応聞いとくわ。店主か?」
「いえ、お友達を連れて来ました」
「そうかぁ…」
すぅ、と青鵐が息を吸う。
「おいコラわれなんでこんな金もなさそうで如何にも冷やかしな浪人連れてくんねんボケカスがぁ!」
唐突に言われた言葉、更に眺める番頭青鵐に、連れ一同が閉口したのは見なくてもわかった。
青鵐が眺めた先に多分、土方がいたのだ。
再び翡翠を見て、「面で選ぶなて何べん言わすねんこんアホ!」と、早口でさらに捲し立てる。
「そこは坊主やろ面だけやったらおまんま食えへんねんっ、こんじゃ芸者も喜ばんわいてこますぞ!」
怒られた。
じわりじわり効いてきたのか、一同が徐々に「なん、」「は?」と、絶対に悪口だと判断したのに対し案内人、翡翠が「ああ~~っ!」と、少々高め、嬉しそうな声をあげるのだから場は一気に異風。
「なんや久々に聞いた青鵐兄さんのどつき~!安心して泣きそうやわぁ!」
急な流れに、最早日野の喧嘩師共でも着いていけずに閉口する。
「はい、お茶と羊羹!」と言いしまいには青鵐に抱きつく翡翠にはそれが見えていない。
来る場所を完全に間違えた、しかしもう世界は広がっちまってる、とやはり余所者は黙るしかなかった。
「出たな、ようわからへんねんそれぇ。わても久々やわどないなっとんねん、溜まっとんのかぁ?情緒不安定かいなこん、クソガキぃ!お前ホンマに客見る目ぇないな!」
「大いに、大いにぃっ!」
え。
よくわかんないんだけど。
青鵐が後ろの浪人を冷たく見やる。
「あぁウチは冷やかし追い返しとんねん。どこのもんや兄ちゃんら」
間違いなく喧嘩は売られてるけども。調子がおかしい。
「えっと日野」
「まーまー兄さん、こん人らも少しで偉大な人になるさかい。それに」
「お前のそれ宛になったことぉないねんなっ!せやからあん人、無駄に客引っ掛けてたんやろがおいっ!また売られたいんかお前はぁっ!」
え。
最後まで待たずに青鵐が溜め息を吐いた。
「…ウチのアホが悪かったな。
あぁ、こんならどや?翡翠、お前が案内しぃや、三味線も余りあるで。そんなら安いもんや、お茶代でええわ今日客少ないし」
「は?」
「それともなんかホンマか?ウチは茶屋やで?そんならまず、女より高いけど払えるんか?」
は?
間が生まれた。
翡翠が漸くちらっと後ろを振り向けば完璧に試衛館一同はポケっとしている。
が、理解してきたようだ。
「…兄さん、そんなら友情割引でどうです?」
「はぁ?何言うとんねん笑かすなや」
「いや、」
「えーっと」
近藤か沖田か土方か原田かが戸惑う間もない友情割引。しかし翡翠は誰も構わず「…そういや店主はぁ?」と自分の調子、ごく普通だった。
「知るか、最近籠っとるわぁ!」
「うるせぇんだよ青鵐!」
玄関の真横の部屋から、いつもより三倍も人相が悪い藤嶋が、騒ぎに出てくる。
確かに騒いでいたが、お呼びというわけではなかったのに。
「…やっっぱりてめぇか翡翠、こっちはここんとこイライライライラ溜まってんだよっ、」
怒られた。
よもや試衛館一同からすれば「もう勝手にしてくれ、というか解放してくれ」になってきている。
これは一体なんの茶番だ。
藤嶋がじっくりと自分達を眺めた。
「はぁ、もうえーわ三味線あったよな青鵐持ってこい。てめぇは面貸せや」
「は?わてに言うてます?」
「おうよ」
「え何で?嫌やねん、どつきまわされるやん」
「自業自得やで翡翠」
「あとはなんでもえーよ。今日は暇で儲けもねぇだろうし、新境地へよーこそ。ご新規初見店主割引でっ」
あっという間に翡翠はヤクザのような藤嶋に部屋へ連れて行かれてしまった。
どういうことだ、とても心許ない事情。どうやらほっぽり出されてしまったのは確かだ。
「…あぁ、悪いなあんさんら。店主割引言うとったけど今店主わてやから。
まあ友情なんちゃらで茶漬けと酒くらい出したるわ折角やし、どーせ今日はどこも酒しか飲めへんやろ新規じゃ」
「…半分くらいわかんなかったけど、口悪いね店主さん」
「まあなぁ野郎しかおらへんさかい気い使ぅへんでええねん。そこんとこ気楽やで。
ま!武士は二道や言うしええんちゃう?」
皆自由すぎないか?これは。こういう場所なの?ここは…。
「…心底おっかねぇ」
「あんさん面ええなぁ。芸者もあんさんなら」
「いや忝ない、我々はどうやら間違えたようです…」
「あっそう。ほんならあんさんらその辺歩いて京作法学んできぃや。あれよりその方がましやわ。
また出世でもしたらな。さいなら」
試衛館一同、青鵐に扇子でしっしとやられてしまった。
世の中非常に厳しいなと、なんとも言えずに立ち去る。
大門の内側は一気に賑やかだった。
試衛館連中からしたら、全く馴染みもないような雰囲気。
しかし、その店はきらびやか、というよりは少しひっそりした店だった。
これは却ってどうなんだ、名店かもしれないと思えてくる。
名を、“金清楼”。
「御免くださいまし」
翡翠としては普通に戸を潜る。
なるほど「出」と言っておいたからだろう、一同も自然とそう、構えない。
30代くらいだろうか、「おぅ、翡翠か」と、江戸っ子ノリに近い青鵐が入り口で迎える。
青鵐は翡翠をよく見、連れをよく見て、少し困惑したように何度か目線を行き来させた。
「…翡翠、一応聞いとくわ。店主か?」
「いえ、お友達を連れて来ました」
「そうかぁ…」
すぅ、と青鵐が息を吸う。
「おいコラわれなんでこんな金もなさそうで如何にも冷やかしな浪人連れてくんねんボケカスがぁ!」
唐突に言われた言葉、更に眺める番頭青鵐に、連れ一同が閉口したのは見なくてもわかった。
青鵐が眺めた先に多分、土方がいたのだ。
再び翡翠を見て、「面で選ぶなて何べん言わすねんこんアホ!」と、早口でさらに捲し立てる。
「そこは坊主やろ面だけやったらおまんま食えへんねんっ、こんじゃ芸者も喜ばんわいてこますぞ!」
怒られた。
じわりじわり効いてきたのか、一同が徐々に「なん、」「は?」と、絶対に悪口だと判断したのに対し案内人、翡翠が「ああ~~っ!」と、少々高め、嬉しそうな声をあげるのだから場は一気に異風。
「なんや久々に聞いた青鵐兄さんのどつき~!安心して泣きそうやわぁ!」
急な流れに、最早日野の喧嘩師共でも着いていけずに閉口する。
「はい、お茶と羊羹!」と言いしまいには青鵐に抱きつく翡翠にはそれが見えていない。
来る場所を完全に間違えた、しかしもう世界は広がっちまってる、とやはり余所者は黙るしかなかった。
「出たな、ようわからへんねんそれぇ。わても久々やわどないなっとんねん、溜まっとんのかぁ?情緒不安定かいなこん、クソガキぃ!お前ホンマに客見る目ぇないな!」
「大いに、大いにぃっ!」
え。
よくわかんないんだけど。
青鵐が後ろの浪人を冷たく見やる。
「あぁウチは冷やかし追い返しとんねん。どこのもんや兄ちゃんら」
間違いなく喧嘩は売られてるけども。調子がおかしい。
「えっと日野」
「まーまー兄さん、こん人らも少しで偉大な人になるさかい。それに」
「お前のそれ宛になったことぉないねんなっ!せやからあん人、無駄に客引っ掛けてたんやろがおいっ!また売られたいんかお前はぁっ!」
え。
最後まで待たずに青鵐が溜め息を吐いた。
「…ウチのアホが悪かったな。
あぁ、こんならどや?翡翠、お前が案内しぃや、三味線も余りあるで。そんなら安いもんや、お茶代でええわ今日客少ないし」
「は?」
「それともなんかホンマか?ウチは茶屋やで?そんならまず、女より高いけど払えるんか?」
は?
間が生まれた。
翡翠が漸くちらっと後ろを振り向けば完璧に試衛館一同はポケっとしている。
が、理解してきたようだ。
「…兄さん、そんなら友情割引でどうです?」
「はぁ?何言うとんねん笑かすなや」
「いや、」
「えーっと」
近藤か沖田か土方か原田かが戸惑う間もない友情割引。しかし翡翠は誰も構わず「…そういや店主はぁ?」と自分の調子、ごく普通だった。
「知るか、最近籠っとるわぁ!」
「うるせぇんだよ青鵐!」
玄関の真横の部屋から、いつもより三倍も人相が悪い藤嶋が、騒ぎに出てくる。
確かに騒いでいたが、お呼びというわけではなかったのに。
「…やっっぱりてめぇか翡翠、こっちはここんとこイライライライラ溜まってんだよっ、」
怒られた。
よもや試衛館一同からすれば「もう勝手にしてくれ、というか解放してくれ」になってきている。
これは一体なんの茶番だ。
藤嶋がじっくりと自分達を眺めた。
「はぁ、もうえーわ三味線あったよな青鵐持ってこい。てめぇは面貸せや」
「は?わてに言うてます?」
「おうよ」
「え何で?嫌やねん、どつきまわされるやん」
「自業自得やで翡翠」
「あとはなんでもえーよ。今日は暇で儲けもねぇだろうし、新境地へよーこそ。ご新規初見店主割引でっ」
あっという間に翡翠はヤクザのような藤嶋に部屋へ連れて行かれてしまった。
どういうことだ、とても心許ない事情。どうやらほっぽり出されてしまったのは確かだ。
「…あぁ、悪いなあんさんら。店主割引言うとったけど今店主わてやから。
まあ友情なんちゃらで茶漬けと酒くらい出したるわ折角やし、どーせ今日はどこも酒しか飲めへんやろ新規じゃ」
「…半分くらいわかんなかったけど、口悪いね店主さん」
「まあなぁ野郎しかおらへんさかい気い使ぅへんでええねん。そこんとこ気楽やで。
ま!武士は二道や言うしええんちゃう?」
皆自由すぎないか?これは。こういう場所なの?ここは…。
「…心底おっかねぇ」
「あんさん面ええなぁ。芸者もあんさんなら」
「いや忝ない、我々はどうやら間違えたようです…」
「あっそう。ほんならあんさんらその辺歩いて京作法学んできぃや。あれよりその方がましやわ。
また出世でもしたらな。さいなら」
試衛館一同、青鵐に扇子でしっしとやられてしまった。
世の中非常に厳しいなと、なんとも言えずに立ち去る。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
王になりたかった男【不老不死伝説と明智光秀】
野松 彦秋
歴史・時代
妻木煕子(ツマキヒロコ)は親が決めた許嫁明智十兵衛(後の光秀)と10年ぶりに会い、目を疑う。
子供の時、自分よりかなり年上であった筈の従兄(十兵衛)の容姿は、10年前と同じであった。
見た目は自分と同じぐらいの歳に見えるのである。
過去の思い出を思い出しながら会話をするが、何処か嚙み合わない。
ヒロコの中に一つの疑惑が生まれる。今自分の前にいる男は、自分が知っている十兵衛なのか?
十兵衛に知られない様に、彼の行動を監視し、調べる中で彼女は驚きの真実を知る。
真実を知った上で、彼女が取った行動、決断で二人の人生が動き出す。
若き日の明智光秀とその妻煕子との馴れ初めからはじまり、二人三脚で戦乱の世を駆け巡る。
天下の裏切り者明智光秀と徐福伝説、八百比丘尼の伝説を繋ぐ物語。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜
岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!???
そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる