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Get So Hell?
前編2
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黒田は未だに古臭く、『薩摩は長州を拾ってやった』と調子に乗っているのだ。
価値観の違いによる摩擦。多分、人の在り方や体制はどの時代でも殆ど変わらない。
「留守政府」と呼ばれる中の長州派、そこにはつてである木戸がいる。
そろそろ帰ってくると聞くし、正直もう辞めたいと思っているが回遊中、そろそろ限界だな…と感じていた昨今になんと、あの西郷隆盛が現れ、転機が早めに訪れた。
朱鷺貴としては、正直思い出すという程…記憶はない人物だったのだが、いつの間にか西郷は役人に成り上がっていたのだ。
再会した西郷は木戸の代理として、書類にポンと認印を押してくれた。
先日、その異動の件について朱鷺貴は黒田と揉めた。
勝手に、しかも上司の自分ではなくあの木戸に書類を出すつもりだったからだろう。
まぁ最後だしと、朱鷺貴はその場で思いっきり、今までの不平不満を黒田本人にぶち撒けてやった。
「貴様なぞ解雇だ、解雇ぉっ!」
沸騰した黒田に、その場で銃を出されたが「印籠、親友である西郷隆盛による勅令」を突き付け、怯んだ隙に印を押させて本日、正式に本土へ異動となったわけだ。
それなりに段落を、漸く付けられた。
最後に一度、気に食わない上司へいちいち報告をしなければならない。
とは言ってもどうせ、いないか無視されるかなのに。
やはり黒田の姿は見えなかったが、文机にはまるで嫌味のように…あの宴会でぶん投げられそうになったル・フォショウが拳銃嚢に入って置いてある…これは英国から幕軍へ献上されたがめちゃくちゃ暴発する、つまりぶん投げる物ではないのにあの畜生め…暴発して消えてくれとでも言いたいんだろうか。
どっかの誰かさんを彷彿とさせる陰湿さ。榎本の一件でそれに気付いた。
屯田兵制度と銘打ち、ただただ武士たちから刀を取上げ桑を持たせ作物を作らせる…人によっては「情が熱い」のかもしれないが、朱鷺貴は正直、粘着質だと感じる。
ル・フォショウも「物珍しいな」と榎本から取り上げた銃だ。
…最後まで嫌な奴だったなと、拳銃嚢を外套の内にしまう…前に、暴発したら嫌だしなと、弾を五発その場に捨て、去った。
榎本ともなんとなく反りが合わなかった。
どうも、失敗し過ぎ去った功績を未だに鼻に掛けた態度で…。
その割に、本人を深堀してみれば戊辰戦争の際、徳川慶喜へご機嫌取りをしに行ったら時期が悪かったらしく、
「僕、もう謹慎でいいっす無理っす静かに暮らしますぅ!」
とでも言うように、慶喜は大坂へ逃げたあとだったらしい。仕方なく幕府軍に付いた、というなんと言えばいいかわからない功績で…。
現在、敵軍だった新政府へ寝返りこうしているという芯のなさ。現場の屯田兵達を見せてやりたいものだ。
そんな同僚と上司だなんて、もう終わっている。
土方をアホだと思わないし榎本の処世術に関心もしなくはないが、朱鷺貴自身、この激動で感じた。
我を通すなら余程気に入った筋がなくてはバカらしくなってしまうと。
自分も元武家で元坊主。待遇的に屯田兵の条件には当てはまったし、坊主時代の自給自足の経験はかなり効率を上げ、政府に貢献したはずだ。
…生きながら屍のようだった、あれから。
どんな地位や役職にいても時勢と同じで、人間の生き方はなかなか変わらないらしい。
それを確認出来たし、この銀世界は結構気に入ったが、だからこそ、これで終わり。
柵とは本当に邪魔なものだけど、昔ほど拘らなくなった。そんなことをしても最後は無だと、それも身に染みたな…と噛み締める。
不安定なんだろうか、懐古的になる自分も気に入らない。
あっさりと船に乗れた。
確か“素面の上司”からの最後の言葉は「先日、君に来た見合いの件だが…」だったような気がする。
旗本でもなんでも無くなったし、元来自分は坊主だったのだから、ピンと来ない戯言でしかなく。
俗世と呼ばれる意味がわかった、これは修行だったのかもしれない。
だが自分も、上っ面は厚くても本質は中途半端にぶら下がったまま、変わっていない。
函館から本州へは、すぐに着いた。
本州もまだまだ混乱ばかりだろう。
300年の歴史を考えれば、新体制などまだ5、6年。
しかし、自分がぬるま湯のように過ごした30年よりは遥かに、人へ近付く7年を過ごした。
神社仏閣は今でいう「役所」の様な役割に近い。
「医者坊主にはわかるまい」と昔から揶揄されてきた意味も実感出来た。
時勢は変わったかもしれないが、“お偉いさん”や“役人”の機微な感性や感覚は、庶民と乖離している。
これだけは昔から変わらぬ定説なようだが、北海道を歩き回って知った。それはどのような乖離なのかというものを。
坊主やらとも少し違う。そして自分は本当に当時、平和で安穏すぎる生活を送っていたのだ。
武士を辞めた屯田兵達を目の当たりにした。幕府時代でいう「穢多、非人」のようなものだった。
耕さなければ食い扶持がない、その食い扶持も今や税が付き二束三文。
これは現政府がもう少し常識に馴染まねば恐らく解消されないが、結局その“お偉いさん”は上級の武士上がりという現状。
感性の違い。これは何百年、いや、もっと掛かるのかもしれない。
300年の平和な時代ですら、何度も一揆は起きてきた。そして今でも、土地の税、返還に関し元大名からは批判の声も上がっている。
価値観の違いによる摩擦。多分、人の在り方や体制はどの時代でも殆ど変わらない。
「留守政府」と呼ばれる中の長州派、そこにはつてである木戸がいる。
そろそろ帰ってくると聞くし、正直もう辞めたいと思っているが回遊中、そろそろ限界だな…と感じていた昨今になんと、あの西郷隆盛が現れ、転機が早めに訪れた。
朱鷺貴としては、正直思い出すという程…記憶はない人物だったのだが、いつの間にか西郷は役人に成り上がっていたのだ。
再会した西郷は木戸の代理として、書類にポンと認印を押してくれた。
先日、その異動の件について朱鷺貴は黒田と揉めた。
勝手に、しかも上司の自分ではなくあの木戸に書類を出すつもりだったからだろう。
まぁ最後だしと、朱鷺貴はその場で思いっきり、今までの不平不満を黒田本人にぶち撒けてやった。
「貴様なぞ解雇だ、解雇ぉっ!」
沸騰した黒田に、その場で銃を出されたが「印籠、親友である西郷隆盛による勅令」を突き付け、怯んだ隙に印を押させて本日、正式に本土へ異動となったわけだ。
それなりに段落を、漸く付けられた。
最後に一度、気に食わない上司へいちいち報告をしなければならない。
とは言ってもどうせ、いないか無視されるかなのに。
やはり黒田の姿は見えなかったが、文机にはまるで嫌味のように…あの宴会でぶん投げられそうになったル・フォショウが拳銃嚢に入って置いてある…これは英国から幕軍へ献上されたがめちゃくちゃ暴発する、つまりぶん投げる物ではないのにあの畜生め…暴発して消えてくれとでも言いたいんだろうか。
どっかの誰かさんを彷彿とさせる陰湿さ。榎本の一件でそれに気付いた。
屯田兵制度と銘打ち、ただただ武士たちから刀を取上げ桑を持たせ作物を作らせる…人によっては「情が熱い」のかもしれないが、朱鷺貴は正直、粘着質だと感じる。
ル・フォショウも「物珍しいな」と榎本から取り上げた銃だ。
…最後まで嫌な奴だったなと、拳銃嚢を外套の内にしまう…前に、暴発したら嫌だしなと、弾を五発その場に捨て、去った。
榎本ともなんとなく反りが合わなかった。
どうも、失敗し過ぎ去った功績を未だに鼻に掛けた態度で…。
その割に、本人を深堀してみれば戊辰戦争の際、徳川慶喜へご機嫌取りをしに行ったら時期が悪かったらしく、
「僕、もう謹慎でいいっす無理っす静かに暮らしますぅ!」
とでも言うように、慶喜は大坂へ逃げたあとだったらしい。仕方なく幕府軍に付いた、というなんと言えばいいかわからない功績で…。
現在、敵軍だった新政府へ寝返りこうしているという芯のなさ。現場の屯田兵達を見せてやりたいものだ。
そんな同僚と上司だなんて、もう終わっている。
土方をアホだと思わないし榎本の処世術に関心もしなくはないが、朱鷺貴自身、この激動で感じた。
我を通すなら余程気に入った筋がなくてはバカらしくなってしまうと。
自分も元武家で元坊主。待遇的に屯田兵の条件には当てはまったし、坊主時代の自給自足の経験はかなり効率を上げ、政府に貢献したはずだ。
…生きながら屍のようだった、あれから。
どんな地位や役職にいても時勢と同じで、人間の生き方はなかなか変わらないらしい。
それを確認出来たし、この銀世界は結構気に入ったが、だからこそ、これで終わり。
柵とは本当に邪魔なものだけど、昔ほど拘らなくなった。そんなことをしても最後は無だと、それも身に染みたな…と噛み締める。
不安定なんだろうか、懐古的になる自分も気に入らない。
あっさりと船に乗れた。
確か“素面の上司”からの最後の言葉は「先日、君に来た見合いの件だが…」だったような気がする。
旗本でもなんでも無くなったし、元来自分は坊主だったのだから、ピンと来ない戯言でしかなく。
俗世と呼ばれる意味がわかった、これは修行だったのかもしれない。
だが自分も、上っ面は厚くても本質は中途半端にぶら下がったまま、変わっていない。
函館から本州へは、すぐに着いた。
本州もまだまだ混乱ばかりだろう。
300年の歴史を考えれば、新体制などまだ5、6年。
しかし、自分がぬるま湯のように過ごした30年よりは遥かに、人へ近付く7年を過ごした。
神社仏閣は今でいう「役所」の様な役割に近い。
「医者坊主にはわかるまい」と昔から揶揄されてきた意味も実感出来た。
時勢は変わったかもしれないが、“お偉いさん”や“役人”の機微な感性や感覚は、庶民と乖離している。
これだけは昔から変わらぬ定説なようだが、北海道を歩き回って知った。それはどのような乖離なのかというものを。
坊主やらとも少し違う。そして自分は本当に当時、平和で安穏すぎる生活を送っていたのだ。
武士を辞めた屯田兵達を目の当たりにした。幕府時代でいう「穢多、非人」のようなものだった。
耕さなければ食い扶持がない、その食い扶持も今や税が付き二束三文。
これは現政府がもう少し常識に馴染まねば恐らく解消されないが、結局その“お偉いさん”は上級の武士上がりという現状。
感性の違い。これは何百年、いや、もっと掛かるのかもしれない。
300年の平和な時代ですら、何度も一揆は起きてきた。そして今でも、土地の税、返還に関し元大名からは批判の声も上がっている。
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