Get So Hell? 3rd.

二色燕𠀋

文字の大きさ
111 / 129
Get So Hell?

前編2

しおりを挟む
 黒田は未だに古臭く、『薩摩は長州を拾ってやった』と調子に乗っているのだ。

 価値観の違いによる摩擦。多分、人の在り方や体制はどの時代でも殆ど変わらない。

 「留守政府」と呼ばれる中の長州派、そこにはつてである木戸がいる。
 そろそろ帰ってくると聞くし、正直もう辞めたいと思っているが回遊中、そろそろ限界だな…と感じていた昨今になんと、あの西郷隆盛が現れ、転機が早めに訪れた。

 朱鷺貴としては、正直思い出すという程…記憶はない人物だったのだが、いつの間にか西郷は役人に成り上がっていたのだ。
 再会した西郷は木戸の代理として、書類にポンと認印を押してくれた。

 先日、その異動の件について朱鷺貴は黒田と揉めた。
 勝手に、しかも上司の自分ではなくあの木戸に書類を出すつもりだったからだろう。
 まぁ最後だしと、朱鷺貴はその場で思いっきり、今までの不平不満を黒田本人にぶち撒けてやった。

「貴様なぞ解雇だ、解雇ぉっ!」

 沸騰した黒田に、その場で銃を出されたが「印籠、親友である西郷隆盛による勅令」を突き付け、怯んだ隙に印を押させて本日、正式に本土へ異動となったわけだ。

 それなりに段落を、漸く付けられた。

 最後に一度、気に食わない上司へいちいち報告をしなければならない。
 とは言ってもどうせ、いないか無視されるかなのに。

 やはり黒田の姿は見えなかったが、文机にはまるで嫌味のように…あの宴会でぶん投げられそうになったル・フォショウが拳銃嚢けんじゅうのうに入って置いてある…これは英国から幕軍へ献上されたがめちゃくちゃ暴発する、つまりぶん投げる物ではないのにあの畜生め…暴発して消えてくれとでも言いたいんだろうか。

 どっかの誰かさんを彷彿とさせる陰湿さ。榎本の一件でそれに気付いた。

 屯田兵制度と銘打ち、ただただ武士たちから刀を取上げ桑を持たせ作物を作らせる…人によっては「情が熱い」のかもしれないが、朱鷺貴は正直、粘着質だと感じる。
 ル・フォショウも「物珍しいな」と榎本から取り上げた銃だ。

 …最後まで嫌な奴だったなと、拳銃嚢を外套コートの内にしまう…前に、暴発したら嫌だしなと、弾を五発その場に捨て、去った。

 榎本ともなんとなく反りが合わなかった。
 どうも、失敗し過ぎ去った功績を未だに鼻に掛けた態度で…。
 その割に、本人を深堀してみれば戊辰戦争の際、徳川慶喜よしのぶへご機嫌取りをしに行ったら時期が悪かったらしく、

「僕、もう謹慎でいいっす無理っす静かに暮らしますぅ!」

とでも言うように、慶喜は大坂へ逃げたあとだったらしい。仕方なく幕府軍に付いた、というなんと言えばいいかわからない功績で…。

 現在、敵軍だった新政府へ寝返りこうしているという芯のなさ。現場の屯田兵達を見せてやりたいものだ。
 そんな同僚と上司だなんて、もう終わっている。

 土方をアホだと思わないし榎本の処世術に関心もしなくはないが、朱鷺貴自身、この激動で感じた。

 我を通すなら余程気に入った筋がなくてはバカらしくなってしまうと。

 自分も元武家で元坊主。待遇的に屯田兵の条件には当てはまったし、坊主時代の自給自足の経験はかなり効率を上げ、政府に貢献したはずだ。

 …生きながら屍のようだった、あれから。

 どんな地位や役職にいても時勢と同じで、人間の生き方はなかなか変わらないらしい。
 それを確認出来たし、この銀世界は結構気に入ったが、だからこそ、これで終わり。

 柵とは本当に邪魔なものだけど、昔ほど拘らなくなった。そんなことをしても最後は無だと、それも身に染みたな…と噛み締める。
 不安定なんだろうか、懐古的になる自分も気に入らない。

 あっさりと船に乗れた。

 確か“素面の上司”からの最後の言葉は「先日、君に来た見合いの件だが…」だったような気がする。
 旗本でもなんでも無くなったし、元来自分は坊主だったのだから、ピンと来ない戯言でしかなく。

 俗世と呼ばれる意味がわかった、これは修行だったのかもしれない。
 だが自分も、上っ面は厚くても本質は中途半端にぶら下がったまま、変わっていない。

 函館から本州へは、すぐに着いた。

 本州もまだまだ混乱ばかりだろう。
 300年の歴史を考えれば、新体制などまだ5、6年。
 しかし、自分がぬるま湯のように過ごした30年よりは遥かに、人へ近付く7年を過ごした。

 神社仏閣は今でいう「役所」の様な役割に近い。
 「医者坊主にはわかるまい」と昔から揶揄されてきた意味も実感出来た。

 時勢は変わったかもしれないが、“お偉いさん”や“役人”の機微な感性や感覚は、庶民と乖離している。
 これだけは昔から変わらぬ定説なようだが、北海道を歩き回って知った。それはどのような乖離なのかというものを。

 坊主やらとも少し違う。そして自分は本当に当時、平和で安穏すぎる生活を送っていたのだ。

 武士を辞めた屯田兵達を目の当たりにした。幕府時代でいう「穢多、非人」のようなものだった。
 耕さなければ食い扶持がない、その食い扶持も今や税が付き二束三文。

 これは現政府がもう少し常識に馴染まねば恐らく解消されないが、結局その“お偉いさん”は上級の武士上がりという現状。 
 感性の違い。これは何百年、いや、もっと掛かるのかもしれない。

 300年の平和な時代ですら、何度も一揆は起きてきた。そして今でも、土地の税、返還に関し元大名からは批判の声も上がっている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

王になりたかった男【不老不死伝説と明智光秀】

野松 彦秋
歴史・時代
妻木煕子(ツマキヒロコ)は親が決めた許嫁明智十兵衛(後の光秀)と10年ぶりに会い、目を疑う。 子供の時、自分よりかなり年上であった筈の従兄(十兵衛)の容姿は、10年前と同じであった。 見た目は自分と同じぐらいの歳に見えるのである。 過去の思い出を思い出しながら会話をするが、何処か嚙み合わない。 ヒロコの中に一つの疑惑が生まれる。今自分の前にいる男は、自分が知っている十兵衛なのか? 十兵衛に知られない様に、彼の行動を監視し、調べる中で彼女は驚きの真実を知る。 真実を知った上で、彼女が取った行動、決断で二人の人生が動き出す。 若き日の明智光秀とその妻煕子との馴れ初めからはじまり、二人三脚で戦乱の世を駆け巡る。 天下の裏切り者明智光秀と徐福伝説、八百比丘尼の伝説を繋ぐ物語。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!??? そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

処理中です...