Get So Hell? 3rd.

二色燕𠀋

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Get So Hell?

後編4

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「…藤島様ですか!?」

 ミツが驚く。
 佐藤も一息吐いて「…なるほど」と言った。
 改名した説、ここに来て立証。

 版籍奉還の際、皆正式に名字を付けることになった。
 昔と名前が違うのは当たり前だが、身分を隠すために使われた“変名”をそのまま正式に籍としている者も多い。
 改名、でなく変名という概念は恐らく、身分を隠す意味合いがあったのだろうと予想が付く。そういう人物は何かしら維新に関わっていた可能性が大だ。

 佐藤や翡翠くらいの微妙な違いだと、改名か変名かは微妙であるが…。

「…あんたの従者だったんだな。
 はは、あの刀もよく磨いてたよな?」
「…そうだったようですね…」
「最期ばかりは、まぁ…」
「そう、松本まつもと良順りょうじゅん先生という、幕府の先生が診てくれて…。
 弟の総司は…最期はそこの庭で倒れていたと聞き及んでいます。その刀と…黒猫と共に」

 どうやら…刀は置けたんだな、沖田総司。

 自分の認識では、そうだな…会話中「このガキ一回ぶっ飛ばしてやろうかな」と思うくらいに剽軽な男だったが…今思えば多分あれはあれで、相当気を遣っていたのかもしれない。

「…翡翠は甲州勝沼まで、総司に付いてくれていたんだ。
 けど、総司はすぐに引き返すことになってな。翡翠本人も迷っていたが、それどころでもなくなっちまった」
「…そう…ですか、」

 苦しかっただろうな…と、夢の景色が浮かぶ。夢でしかないから、結局本人を見た訳ではないけれど。

「…戦が終わって、勇さんの知らせをと、こっちに走ろうか迷っていたようだが…トシも、お宅の従者は若かったし、気遣っていた。けど、あっちはあっちで気遣ってくれたんだろう、俺が帰還することになった。
 こっちに帰ってくればすぐ総司に会えるかと思ったが…結局会えないままだった」

 ということはもしかして…。

「…沖田くんは、つまり、」

 佐藤もミツも黙ってしまった。
 つまり、あの近藤の死すらも知らないまま…なのか?
 
「………」

 何も、言えるわけがない。
 今自分が抱いた感情を話すのも憚られる。わかるわけがない、この人たちの痛みなど。

「刀はもう、要らないよな。あんたの従者に伝えてやりたいと思ったもんだよ」

 今こうして聞かされているということはきっと…翡翠はこの事実を知らないのだろう…。

 佐藤の兵が甲州勝沼で降りたのなら、恐らく互いが知ることに差異はないのだが…話せるとしたら京での話や…北海道で知り得た話くらいだろうと、朱鷺貴は漸く、遺族の元に来たと実感した。

「ま、一晩ある。じっくり話そうや」

 感情のやり場など、もうどこにもなかったとしても…尚更、ならば話すべきだ。
 どんな話でもいい。きっと、本人たちは自分たちの知らない故人のことが聞きたいだろう。

 どこか重い空気はありつつも、取り持つことは出来る。
 昔の話やあれからの話、互いに知らないことを話し合った。

「……とは言っても、土方さんなんかとは街で顔を合わせる度に喧嘩したもんでしたよ」
「ははっ、あいつは昔から、根っからの喧嘩屋だったからなぁ。京では嫌われてたって聞いたよ、他の兵士から。
 なんせ未だにもう、批判の手紙が来るわ来るわで…」

 死んでしまっては感情の矛先など過去にしか向かないのだから。
 それならば数はあった方がいい。空だなんて、ただただ見上げて終わってしまうのだと充分看取ってきた。

 久しぶりに坊主に戻ったような気分だった。
 しかしそういえば大体は、遺族から聞くものだったよな。まさか自分が故人の話をすることになろうとは。

 坊主であれば出来なかった。
 あれからやはり、自分にも変化が大いにあったようだ、ここ8年で初めて実感した。

「“宮”ってのは確か、剥奪されたって聞いたよ。朝敵になったからって」
「…なるほど…」

 そう説明したのか。あの状況下じゃどうとも言い難いが。

「腐った野郎が多い中、怖いほど真っ直ぐで…良い奴だったなぁ」
「確かに」

 随分語った。
 朝、出ようとする際、佐藤が「そういえば」と思い出したように言った。

「あんたら江戸ではなんだ、千葉道場にいたんだよな?」

 すぐに「あぁ、」と答えられるくらいには、過去に浸っていた。

「あいつが、ですけどね」
「あ、そうか、あんた坊さんだったっけか」
「はい。
 まぁ、互いにえっと…寺に世話になってました」
「…これから、懐古巡業かなんかかい?」

 …懐古巡業、か。

「今生の、だと思うからひとつ聞いていいか、坊さん」

 …久しぶりに呼ばれたなぁ。

「…俺たちは生き残ってよかったのかねぇ…」

 空を見てそう言った後、「なんてな」と、佐藤と共に門を出れば去り際、「早足ですぐ去りな。まだ誰も見てない。このまま真っ直ぐ」と残し、手も降らず振り向きもしない、まるで知らん顔で昨日来た道を歩いて行く。

 …あの頃は、ただ信じて、お上さんに仕えていたはずなのに。
 どうやら兄と慕った遺族は、誇らしく思っているらしいぞ、土方歳三。

 いっそ…。

 本当は、振り向いて一礼くらいはしたかった、右手左手と合わせて。しかし、自分も坊主では無いし彼も、志士ではないのだ、今は。

 諸行無常。形がないという形の実態だ。どうしてそうなったのか、それは移ろい行くものだから。

 佐藤の背に思う、いっそのこと敵意のまま…受け入れられない、許されない方がマシだったかもな、なんて。
 自分の師は、こんな気持ちだったのだろうか。

 やはり軽く手を合わせ、言われた通り急ぎ足で屋敷を後にする。
 …生き急ぐことも、ないけれど。
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