Slow Down

二色燕𠀋

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哀愁と遠近法により

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 本日一番話題に上がる、天崎真樹。
 彼の今日は遊覧船のようにゆらゆらしていた。

 朝家を出て学校に行き、音楽室をピッキングして忍び込みギターの練習をした。

 なんとなく憂鬱になってしまい、学校を出ていつもの、一人でギター練習をする公園に行くも気分は冴えない。というかやさぐれてしまって。

 そこに近寄ってきた金持ちお嬢様女学院の、一学年上の女の家に気がつけば上がり込んでそんなことになり、賢者タイムに陥ってしまい帰宅。

 全てをぶん投げたくなってしまった矢先、ふて寝をしていたら誰か、多分西東さんあたりが部屋に来て、ベットに入って宥めてくれて気付いたら少し寝てしまっていた。

 目を開けてみて、少しの温もりと汗ばんだ額に寝心地の悪さを感じた。
 日差しは、それほど時間は経っていないように思える。

 隣にどうやら、誰かがいるらしい。背筋に置かれた掌が大きい。

 寝返りを打つように相手を確認すれば、案外近くに顔があり、少し驚いた。
 やはり西東さんだった。

 そうか。そうだった。
 しかしどうも西東さんは苦しそうな表情で、しかし間違いなく寝ているようで。

「さい…とうさん?」

 起きないご様子。
 真樹が西東から離れようとすれば、まるですがり付くように腕を取られてしまい。

「えっ…西東さん?」

 起きているのか?
 しかし寝息は荒い。
 多分そうか、悪い夢でも見ているのかもしれないなぁ。

「…ねぇ、西東さん、」

 あんなに、いつでもテキトーそうに見える大人のこんな一面。意外だ。

「西東さん、ねぇってば、」

 恐る恐る手を伸ばしてみる。
 そしてぎこちなく、西東の頭を撫でてみれば。

 昨日、文杜は一体どうしたんだろうとふと思った。

 みんな、こんな心境なのかもしれなくて。
 俺ってやっぱり、少しこう、なんというか自意識過剰なのかな、と思っていると。

「…おっぱひ…」

 寝言を言いやがった西東に真樹は唖然とした。

「はぁ?」

 本人は今度はスケベ顔で。
 しかしどことなく腕を拘束していた力は弱まった。

 なんだこの野郎は一体。
 さっきまでの切なさ、てめぇどこに散らかして「おっぱい」なんだこら、おい。

 てぇか。
 なんで人ん家で一緒に寝とるんばい、こらぁぁ。

 怒りが沸いてきた。

 あの野郎だな、あのクソ医者野郎っ。
 以外にありえんだろ、こう易々人ん家入って来て寝やがってこのバカ大人共、なんて汚い大人なんだ、プライバシー侵害という言葉を貴様ら学んだ方がよくないですか?
 お前が来なかったらなぁ、今頃俺は一人で絶賛…。

 何やってたんだ。
 果たして俺は、何やってたんだ。

 考えてみて、1日を振り返り。

 あぁそうか。
 俺もまた大して、そう。なにもないんじゃないかこれはと、急に全てが近くも遠くなるような殺風景さを感じてしまって。

 自分が今、空中に浮いていたとするならば。
 多分この感覚は、それに近い、幽体離脱のような遠近感覚で。

 灰色に見えるような日常。窓から差す日だって、案外灰色に近いものだし。

 この人が掴んだこの手にすがった俺は、なんなんだ。
 空中浮遊してみたそれを拾い上げてくれた様々な物はいま、だけどもどうして、俺にはわからないんだろうか。

「…ねぇ、西東さん?」

 返事もなく、寝息だけで。

「人でなしになるほどに、なにかをしてみたいなぁって、ただそれだけだったんだよ」

 なんでそれをあの頃言い出したのか。
 正直、思ってもいなかった一言だったから。

「だけども充分、人でなしじゃないですか、俺って」

 今更何を四の五の言ったところで。それは過去の、ノスタルジーの、現象で。生ゴミのようだとわかってる。心なく感情がなくやっていきたい。だってあんた。

 手をそっと抜いてベットから静かに降りた。そういえば制服のままだった。猫は今日に限って、来なかったな。

 真樹は静かに家から出ていった。

 だってあんた、本当は怖いんだ。
 その手はいま、離してしまったから。

 きっと俺もあんたも後ろ向きなlife styleで、死ぬまでlowだよ。この前貸してくれたアルバムの曲。まさしくぴったり。あんたらしいや。俺、確かに正気じゃいらんない。

 ポケットに入れっぱなしだったウォークマンから伸びるイヤホン。耳につけて再生をスタートする。

 どうしてこう、こんな日に見た空って美しく見えないんだろう。そうぼんやりと思ってしまった。曇ってるとか、晴れているとかではなくて。

 二人で、練習していたときに西東さんが話していたのを、思い出す。
 『空があんまり蒼いと僕はねぇ、どうしてなんだか死にたくなる日があるよ』と。二人だけの、秘密だよと。

 どうしてか訪ねたときの曖昧な笑みと哀愁が嫌いだなぁと思ったんだ。

 『頭打ってぼんやり見たのがそれだったら、嫌になるでしょう。僕はだから晴れの日は外出したくないね』って。

 でも今日は晴れてるか曇ってるか、よくわからない天気だねぇ、西東さん。こんな日は、頭痛いから正直俺は好きじゃないよ。

 君って考えが過ぎるんだよ、でもね、それはわかるかもね。僕もクセだから多分、治らないよね。

 そうだね西東さん。本当に、その通りだと思う。わかってくれとか、誰にだって言わないけど。
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