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哀愁と遠近法により
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一之江、とくに表情を崩すことはなく。
北郷、蛇に睨まれた蛙の気持ちで真樹の腹あたりから一之江を見上げている。
真樹は相変わらず安眠というか気絶というか。
ただそれは医師、一之江から言わせれば最早思考遮断でしかない。ホントはお前起きてるだろ真樹と、言ってやりたい。
が、状況がイマイチ読めないのも事実だ。
これはなんだ一体。未遂なのか?北郷的には真樹の足を掴んで今か、みたいな感じだけどこれってどっちなんだろう、事後かな、事前かな、とか凄く的外れなことを淡々と考えている一之江。
つまりそれくらいに一之江は困惑したわけだが。
一之江と北郷が見つめ合った末、北郷はとにかくこれはどうしよう。考えもせず、まずは指突っ込むべきなの?とかぎこちない考えに至り、なぞったあたりで「ひぃっ、」と組敷いていた真樹が漸くの仮眠から醒めたようで声をあげ、目を開けた。
「あ、あぁ…」
と、一之江は挨拶するかのように漸く一声掛けそして、
「いや何してんのっ、お前ら」
センスのない一声を掛けた。
「え?」と北郷が言うのと、「あれ?」と真樹が言うのが被った。なんとなくを察した一之江はただ、
「バカかお前らぁ!おいぃ!」
よりセンスがない一言。
漸く動けた一之江は、勢いで取り掛かるように北郷を引き剥がし、まずは真樹の頬を叩き「おい、生きてんのかお前っ、」と問いかける。
薄目を開けた真樹はぼんやりしながら、「…よーちゃん?」と呟くも、やはりぼーっとしていて。
「そうだよ真樹ぃ!おい、大丈夫か、なぁ!?」
「んんっ…」
そうと分かれば真樹が起き上がろうとするが、「待て、いいから…吉岡ぁ!なにしてる…」と一之江が振り返るとケータイ片手に、「いや、おもろいから北郷のフルチン写メを裏掲示板にあげてやろうかなって」と言いながらボンタン吉岡、がっつりカメラ部分を北郷に向けていた。
「いやいいから、水っつったよなお前!釣りはやるから早く!」
「ほい」
ボンタン吉岡、学ランのズボンのポケットからどう考えても、空いていないサイダーを取り出す。
それに思わず一之江、「バカじゃねぇのかお前ぇぇ!」と叫ぶ。
「は?水っしょ?」
「水だよ、これサイダーだバカタレぇ!」
「え、俺はそれがみ」
「もうええわなんでお前ら総じてバカなんだよおい北郷!てめえ水!水買ってこい持ってこい」
「え、えぇぇ…!」
「早くしろよまた入院してぇかバカ!頭の検査もしてやるよ脳ミソ足らねぇなクソ共ぉ!」
「いや、てかせんせー、あんた行ったら早くね?」
ケータイでパシャりと音を立てながら吉岡は言う。
それに一之江、「行けるかバカ猿!お前るぁ本気で死ねよぉぉ!」と巻き舌気味に言い、頭を抱えた。
「うわ本気で言っちゃダメなやつ」
「うるせぇ、非常勤だ関係ねぇよ!あぁぁ!
もういい死ねバカ二人。真樹、ほれ、」
絶叫しながらも取り敢えず真樹の制服は直してやる器用さと、最早初めて見た一之江の取り乱し方に流石に真樹の意識ははっきりした。
一之江が仕方なく真樹の半身を起こしてやろうとしたとき、「よーちゃん、わりと起きたあ…、だい、じょぶす…」と言うも。
「あぁ?うるせぇクソチビぃ!
てめえ何してやがんだこのバカガキぃ!
お前なぁ、ふざけんなよ、あぁぁ、もうほら、早くしなさい!」
一之江の肩を借り、そのまま真樹は背負われてしまった。
一之江は立ち上がり漸くふう、と一息吐いた。
「…ちょっとやっぱ早ぇよ心臓。だがまぁ…。正常か。
栗村と国木田がうっせぇんだよ。あとよっちゃん」
「あぁ…、はい」
「謝れマジ。はーもう…」
歩き出して。
向かう先はさて、多分職員室か。空気読んで保健室にみんな来たかなぁ。考えながら、まずは保健室に行かなきゃならないかと一之江は思い直す。
「…ごめんなさい」
「ん。あいつらにもまず殴られろバカ」
「はい」
二人の背中を唖然としつつ北郷は見つめる。
ボンタン吉岡は「はぁ、つまんねぇな」と、北郷を置いてそのまま帰ってしまった。途中まで、二人の後ろについて行くように。
「なんであぁなった」
「…いや、うーん…」
「北郷に気に入られたからだろ」
後ろからの声にはあまり気にしない。そのうち下駄箱あたりでボンタン吉岡は消えた。
ふぅ、と一息一之江が吐いた。それに真樹は、「よーちゃんは…」と、消え入りそうな声で言う。
「なに?」
「よーちゃんは大丈夫なの?胃」
「はっ、」
バカじゃないのかこのガキは。
「お前のせいで胃が痛くなるわ」と言ってやろうかと思ったが、やめた。
言ったところできっと、ただお互いに刺さるだけだ。
「…ダメだよ一生な。お前と大差ねぇよ」
「…よーちゃん、」
だからこそ。
「昔から胃が弱いんだよ。世の中胃にクることばっか。でも生きてるから仕方ねぇよ」
そう言っておこう。
「…ごめんね、こんな、」
「うん」
正直にお互い生きられないとか言っていられないけど、たまにこうして吐き出していないとゆっくり、急速に呼吸困難に陥って最後は水面に意識が浮いて死んでしまうから。
少しずつで構わない。元々あの病は凄く、時間がかかるんだよ西東。お前と俺だって、きっと…そうだった。
こいつらにそれを見ようだなんて野暮なことをお前が言いたくないのはわかっているから。
哀愁につきそれは遠近法で歪められた夢でしかない。多分大人になれば視れないような、甘ったれたことで。
少しくらいを壮大に抱いたこと、これはなんだか、そう。
「真樹」
「…どしたの」
「お前、将来はどうするの」
安定なんて誰もしない。
だけど一筋くらいはあったっていいじゃないか。
希望は観えなくてもいい。
せめて、夢だけ。
北郷、蛇に睨まれた蛙の気持ちで真樹の腹あたりから一之江を見上げている。
真樹は相変わらず安眠というか気絶というか。
ただそれは医師、一之江から言わせれば最早思考遮断でしかない。ホントはお前起きてるだろ真樹と、言ってやりたい。
が、状況がイマイチ読めないのも事実だ。
これはなんだ一体。未遂なのか?北郷的には真樹の足を掴んで今か、みたいな感じだけどこれってどっちなんだろう、事後かな、事前かな、とか凄く的外れなことを淡々と考えている一之江。
つまりそれくらいに一之江は困惑したわけだが。
一之江と北郷が見つめ合った末、北郷はとにかくこれはどうしよう。考えもせず、まずは指突っ込むべきなの?とかぎこちない考えに至り、なぞったあたりで「ひぃっ、」と組敷いていた真樹が漸くの仮眠から醒めたようで声をあげ、目を開けた。
「あ、あぁ…」
と、一之江は挨拶するかのように漸く一声掛けそして、
「いや何してんのっ、お前ら」
センスのない一声を掛けた。
「え?」と北郷が言うのと、「あれ?」と真樹が言うのが被った。なんとなくを察した一之江はただ、
「バカかお前らぁ!おいぃ!」
よりセンスがない一言。
漸く動けた一之江は、勢いで取り掛かるように北郷を引き剥がし、まずは真樹の頬を叩き「おい、生きてんのかお前っ、」と問いかける。
薄目を開けた真樹はぼんやりしながら、「…よーちゃん?」と呟くも、やはりぼーっとしていて。
「そうだよ真樹ぃ!おい、大丈夫か、なぁ!?」
「んんっ…」
そうと分かれば真樹が起き上がろうとするが、「待て、いいから…吉岡ぁ!なにしてる…」と一之江が振り返るとケータイ片手に、「いや、おもろいから北郷のフルチン写メを裏掲示板にあげてやろうかなって」と言いながらボンタン吉岡、がっつりカメラ部分を北郷に向けていた。
「いやいいから、水っつったよなお前!釣りはやるから早く!」
「ほい」
ボンタン吉岡、学ランのズボンのポケットからどう考えても、空いていないサイダーを取り出す。
それに思わず一之江、「バカじゃねぇのかお前ぇぇ!」と叫ぶ。
「は?水っしょ?」
「水だよ、これサイダーだバカタレぇ!」
「え、俺はそれがみ」
「もうええわなんでお前ら総じてバカなんだよおい北郷!てめえ水!水買ってこい持ってこい」
「え、えぇぇ…!」
「早くしろよまた入院してぇかバカ!頭の検査もしてやるよ脳ミソ足らねぇなクソ共ぉ!」
「いや、てかせんせー、あんた行ったら早くね?」
ケータイでパシャりと音を立てながら吉岡は言う。
それに一之江、「行けるかバカ猿!お前るぁ本気で死ねよぉぉ!」と巻き舌気味に言い、頭を抱えた。
「うわ本気で言っちゃダメなやつ」
「うるせぇ、非常勤だ関係ねぇよ!あぁぁ!
もういい死ねバカ二人。真樹、ほれ、」
絶叫しながらも取り敢えず真樹の制服は直してやる器用さと、最早初めて見た一之江の取り乱し方に流石に真樹の意識ははっきりした。
一之江が仕方なく真樹の半身を起こしてやろうとしたとき、「よーちゃん、わりと起きたあ…、だい、じょぶす…」と言うも。
「あぁ?うるせぇクソチビぃ!
てめえ何してやがんだこのバカガキぃ!
お前なぁ、ふざけんなよ、あぁぁ、もうほら、早くしなさい!」
一之江の肩を借り、そのまま真樹は背負われてしまった。
一之江は立ち上がり漸くふう、と一息吐いた。
「…ちょっとやっぱ早ぇよ心臓。だがまぁ…。正常か。
栗村と国木田がうっせぇんだよ。あとよっちゃん」
「あぁ…、はい」
「謝れマジ。はーもう…」
歩き出して。
向かう先はさて、多分職員室か。空気読んで保健室にみんな来たかなぁ。考えながら、まずは保健室に行かなきゃならないかと一之江は思い直す。
「…ごめんなさい」
「ん。あいつらにもまず殴られろバカ」
「はい」
二人の背中を唖然としつつ北郷は見つめる。
ボンタン吉岡は「はぁ、つまんねぇな」と、北郷を置いてそのまま帰ってしまった。途中まで、二人の後ろについて行くように。
「なんであぁなった」
「…いや、うーん…」
「北郷に気に入られたからだろ」
後ろからの声にはあまり気にしない。そのうち下駄箱あたりでボンタン吉岡は消えた。
ふぅ、と一息一之江が吐いた。それに真樹は、「よーちゃんは…」と、消え入りそうな声で言う。
「なに?」
「よーちゃんは大丈夫なの?胃」
「はっ、」
バカじゃないのかこのガキは。
「お前のせいで胃が痛くなるわ」と言ってやろうかと思ったが、やめた。
言ったところできっと、ただお互いに刺さるだけだ。
「…ダメだよ一生な。お前と大差ねぇよ」
「…よーちゃん、」
だからこそ。
「昔から胃が弱いんだよ。世の中胃にクることばっか。でも生きてるから仕方ねぇよ」
そう言っておこう。
「…ごめんね、こんな、」
「うん」
正直にお互い生きられないとか言っていられないけど、たまにこうして吐き出していないとゆっくり、急速に呼吸困難に陥って最後は水面に意識が浮いて死んでしまうから。
少しずつで構わない。元々あの病は凄く、時間がかかるんだよ西東。お前と俺だって、きっと…そうだった。
こいつらにそれを見ようだなんて野暮なことをお前が言いたくないのはわかっているから。
哀愁につきそれは遠近法で歪められた夢でしかない。多分大人になれば視れないような、甘ったれたことで。
少しくらいを壮大に抱いたこと、これはなんだか、そう。
「真樹」
「…どしたの」
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