Slow Down

二色燕𠀋

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スカイ・ハイ

3

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 テストを終えて、その場で答案は返され。

「不合格」

 当たり前だった。
 そもそもちんぷんかんぷんすぎて最早後半、なんとなくでしか出来なかった。
 大体が25点くらい。惜しい点なのかなんなのか。

 というかまったく成果なし。確かに勉強に力は入れなかったかもしれないが、こんなことってある?というくらいにレベルが違いすぎた。

「なぁ天崎」
「なに」
「まぁ、その…。
 これから結果報告、一之江のとこ、行くのか?」
「ん、まぁ…」
「…正直に言おう」
「え、なにごめんなさい」
「いやなんだよそれ俺がごめんなさいなんだが…。
 一之江から多分言われるが…。
これ、お前がまだやってない範囲、去年の普通科の最後のテストなんだよねぇ~」
「…はぁ!?」
「うんごめんマジごめん今回は殴ってくれ」
「え、なにそれファック」
「はは~」
「んの野郎っ、バカにしやがってぇ!」
「その反応、あいつにぶつけてやれるか?何を聞いても」
「は?」

 よくわからん。
 が、頭来たから殴ろうかと考えたが。
珍しく筋肉先生、下手だ。

 そして考えた。

 裏がありそうだ。
 てか汗っぽいからやだ。

 腕組をして睨み付けて「なに」と不機嫌そうに真樹は担任に返答した。

「…あいつ、まぁこれを元に、これから2年までの勉強をさせたいらしい。
 多分、いまのお前なら、即、今の勉強範囲で、編入可能だ」
「はぁ、」
「だが…なぁ。
 2年、学年替えのタイミングで編入させたいらしい」
「なんで」
「まぁ、いきなりクラスに入ってったら馴染むのムズいのもあるし。
 したらお前、サボって保健室行って留年」
「ありえる」
「よな」
「けど」
「あのな。
 あー、面倒だな。
 あいつまだ多分、学校にいたいんだ」
「え、それがなに」
「うん、お前が無事編入したらまぁ、あんまりここへの執着がなくなってだな。
うーん、
 任期は実は来年度までなんだ、あいつ」
「は?」
「でだな。
 …お前、知らないフリしてくれよ、さっきあいつと喧嘩してきたんだから…。
 あいつ、今すぐ本当は入院しなきゃならねぇんだよ」
「えっ、」

 真樹から怒気が消え。
 真剣やら、哀愁やらに変わる表情で。

「お前がいるから、まだ残ってるんだ」
「…なんで、」
「…胃癌だ」

 驚愕だった。
 初めて聞いた。

「ど、」
「俺も一昨日知った」

 なんだそれ。
 あれだけ普通にしていたのに。
 いや、普通じゃないけど。一回、運ばれたけど。

「だから、お前、」
「わかった」

 しかし真樹は笑うこともなくそれだけ言って。

「ありがと筋肉先生。
 黙っとく。隠すの苦手だけど、頑張るかも」

 真樹は立ち上がり、答案用紙を握りしめるように受け取り、「じゃね」と、教室を去る。

 浦部はいたたまれない気持ちで真樹の背中を見つめた。
 どうしたって今、真樹の背中が震えていたからだ。

 教室が見えなくなった曲がり廊下で真樹は堪えきれなくなり、テスト用紙を握りしめポケットに突っ込み、両手でアホみたく流れる涙を拭った。
 拭えば拭うほど、嗚咽まで出ていきそうで。

 というか頭に来てテスト用紙はその辺に一度ぶん投げた。

 誰もいない廊下。
 誰かはいる学校。

 夏休み、最後の日。
 夕方が差し掛かるような斜陽。

 やるせないとか、情けない、ではなく。
いや、もう真樹には言葉が思い付かなかった。

 多分言葉はありふれているはず。
 多分感情も溢れているはず。
 だけど苦しく酸欠になるような嗚咽でしかない。
 嗚咽すらこんなとき、漏らせない。

 孤独や寂漠や全てが血液を涙に変えるこの現象は精神論か、それとも自律神経とか脳科学なのか。

 人は不思議で仕方がない。
 自分は一人の人でしかない。

 届かない。
 相手の思いすら、わからない。

 足は止まるような、走るような、縺れるような、わからないが。

 精神論か脳科学かわかんねぇからまずはぼやける視界、どうにかしろよ。

 保健室にいた。前に来て深呼吸して、ドアをスライドさせれば、つまらなそうに窓からタバコを吸って空を見上げていた一之江が、驚いた表情で真樹を見た。

「…真樹、」
「こんの、」

 殴ったろうかと一之江に突進したけど力なく。

 はっと一之江に受け止められるも、まぁ殴り掛かった反動。二人揃って床にぶっ倒れた。

 胃あたりに真樹の頭が直撃し、思わず「ぐはっ、」と咳き込む一之江。からの、

「ボケ、死ね、カス、バカ、」

 と、ばこばこ殴ってくる真樹に、

「ま、待て、待って、痛ぇ、痛ぇよ!」

 拳を取るように制するが。

「うぅ、ふっ、」

 そこから力なく、声を殺して人の胸に頭を擦り付けながら泣いている真樹に。

 あのバカ筋肉め。

 と思いつつ、一之江は真樹の頭を取り敢えずよしよしと撫でて宥める。

 まぁ、これが素直な反応だよな。
 わかってたんだ、どっかで。

「も少しさぁ…真樹」

 返事がない。

「俺も夢観てぇなぁとか、柄になく、思っちゃったわけ。ねぇ、凄くねぇかそれ。
だから、おい真樹」

 白衣を握られる。

「言うこと聞かない子は調教しますよ、性的に」

 真樹は漸くがばっと顔を上げた。

 あれ、珍しく。
 泣いてても、その唇噛むのとか、珍しく可愛いじゃん。髪とか湿っちゃってまったく。

「仕方にゃいねぇ」

 え。冗談だったんですけど。病気効果すげぇ。しかし。

「…そーゆーとこがダメ」

 真樹の髪の毛は耳に掛けてやった。

 本格的に将来ジゴロになりそうだなこのバカ。

 一之江が頭を撫でれば、「疲れた」と、鼻声で真樹は言い、またパタンと人の胃の上に落ちてきやがって。

 あぁ。
 夕日が照っている。
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