Slow Down

二色燕𠀋

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負け犬じゃねぇか【短編】

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 それから俺の生活、日常は、一変しました。

 結果僕は、一度目の自殺未遂はここに捨て置くことになります。しかし未遂も未遂で、誰に気付かれたかと言えば母親に気付かれて終わりました。噂の、統合失調の新薬とやらは合わずに僕を更なる病に滑り込ませます。

 と言うよりは、統合失調ではなかったというのが後の見解に陥るのですがそれに至るまでの経緯も、言うなれば放課後のあの女実習生並みに簡単なものでした。

 単純、ではないのですが、僕、いや俺は、合わない新薬の副作用のお陰で急性的な『双極性障害そうきょくせいしょうがい』昔で言うところの『躁鬱病そううつびょう』を加速させたわけでありまして。

 世界は一気に、揺らいで行くのです。
 水槽にいた白点病はくてんびょうのそれが突如、外に出てみた先は川のような海のような、見たことのない緩やかな広大なのです。
 金魚から、鯉に変身せざる逐えない、体格の問題やら、なんやらの、広大さで。

 しかし守られていたと知る。
 微生物は他にもあった。金魚であったはずの俺の体は一気に貪られ、いつのまにやら、川岸なのか海辺なのかに打ち上がる。
 それを繰り返し繰り返し流れ行くうちに日々は移ろうばかり。

 高山という生徒はあの日から、俺のなかではブラックバスに変転しました。

 毎度、学校に行っては子分のピラニアだか、なんだか。吉田と秋田を引き連れ、俺を引き連れては、鯉、異物を食い散らかすかのように校舎裏やら、人通りのない廊下やら、トイレやら、俺は様々な暴力、遊び、をそいつらから受けて過ごしました。

 しかし不思議なもので、あの時、あの放課後と一緒なのです。
 俺は絶え間なくそこにある浮遊物のような物、垂れ流されるだけの日常。これはどうせ、すぐに結局は溶け込んでしまう、この広大に。あと1、2年に。

 そう考えたら最早何も感じないのです。リアクションがあまりにもなく大体が数時間で終了。飽きてしまって取り残された先のストレスにあったのが、新薬やら、音楽やら、
どこかで見掛ける、同い年くらいのメス犬やら。たまにこれに非情なまでの感情、業を、帰り道に見かけて煮やしていました。これも理由は、簡単なものです。

 ただ、太ももが見えたから。
 スカートの色が、夕方から夜にかけて綺麗だったから。そんな理由です。

 そんな理由で、後をつけてしまう。しかし少しで気付いて恐ろしくなり、わかる道を探す意欲は無くなっている。仕方なくその辺の女性に道を聞いて、家に帰るか、それとも…といったところで。

 貞操観念なんて物は少し前からなかったし、そんな日もある、くらいの心の廃れ具合で。
 これがうまくいかない日は、家に帰って猛烈な熱冷ましで、寝る。

 起きた頃にはなかったことで、この現象だって、起きないことの方が大体でした。

 すべて、どこかで嫌になっていたのかもしれない。

 ありあまった寂寞とありあまった欲望とありあまった空虚に17歳の身体が起こした変調は、幽体離脱。

 あの頃に出会えていればなぁとか、あんな、すべてに調子に乗ったクソガキですべてを置いてきぼりにして、ただ、流れてきている非日常はドラッグ中毒のSpeak English。

 洋楽は良いと信じていた。なんならNirvanaもRolling StonesもBeatlesだってSexpistolsだって神だった。というかそんなのばかりを本気で聴いていた。何故か。

 単純だ。ストレートにどんな英単語も脳に直接、日本人の俺には作用しないからだ。一度の翻訳、理解力、理解出来なければ解釈がある。
 幽体離脱が加速したのはそれだ。俺はここに居ないと思える。その意欲が浮遊していく。

 しかし、直接的に言葉は時にダイレクトに、自分の言葉として届いてしまうこともある。

 ふとした意識に、『待った』を掛けられる。『捨ててみろ』と言われてみる。わからないよと、答える、自分がいて。

 糸が切れる瞬間、全部捨ててしまおうとするときがたまにあって。

「お前、なんかヤってねぇ?」

 ふと、高山に言われた階段の、踊り場で。
 その一言に一瞬では判断が出来なくて。だが言葉は、降ってくるもので。

「あ、てか俺聞いたことあるぜ。
 お前、父親、」

 それが禁句だった。

 見た瞬間には、続きを言おうとした吉田の胸ぐらを掴んでいた自分、踊り場の窓にそれを押しあて、落とさん勢いで。

「あ、」

 首を締めたのかもしれない。吉田の肩から上が窓枠にめり込む。
 それでもまだ力を入れ続ける俺に、「ひぃ、」と声にならない声を吉田の喉から拾い上げる。

 やめろだの、罵声だのが両サイドから入り、吉田を掴む俺の腕やら肩やらに妨害の力が加わる。俺はそれにどう抵抗しているか。

 ただどうやら秋田は足下に座り込み、一歩離れた位置から高山の声がする。「怖いなぁ、ジャンキーん家のヤツは」手の力が緩んでしまった。

「な、怖ぇよなー、ヤクで人殺せるんじゃね?なぁ?」

 大きな声だった。
 踊り場の冷め冷めとしたコンクリートにノイズは跳ね返り、空から、降ってくるような感覚で。

「違う」

 彼はいつだって優しかった。

「違う」

 ただ、だからいまでも考える。

『違う、違う』
『俺ん、やっ、あんトコから抜け出して、いま二人と暮らして行くんだぉ』

 握られた拳銃と。
 実の父だとかほざきやがった得体の知れない人生初めて見た、派手なスーツを着たオールバックの、母とは歳も離れすぎているだろう柄の悪いおっさんが。

 血塗れで寝転んだ、あの家の絨毯すら敷かれなかった床を、泣きながら大の大人が、寝転んだおっさんよりやせ形の、優しい顔をしたあの人に母が言う。

『あんた、ヤバイよ』
「お前、やべぇな」

 景色はいまや学校の、階段の、踊り場で。
 吉田に跳ね返されてすっとんで、頭が痛くて。多分、階段の角に頭をぶつけたのだろう。

 倒れこんだあの人が、あの時の白目が見えた気がした。景色はもう、取り囲まれ、見下ろされ。

「何してんだ、君たちは」

 聞き覚えのあった通りがかりのその声、見上げたそいつが、医者の息子。

 何故だか解らない。だがその瞬間に自分の中で何かがすっと、切れて頭が、冴え渡った気がした。

「やべ、逃げ」

 立ち去ろうとした、秋田だか吉田だか高山の足首を、階段を降りる、直前に掴んだ。

 そこから意識が、あまりなく。
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