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負け犬じゃねぇか【短編】
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起きてふと、そうだ陽介はどうしたのかなぁと、部屋を覗こうかと立ち上がり、体のダルさは慣れたもので。
トイレにも風呂場にもいませんでした。だから部屋に行ったんです。
開け放たれていました。
なんとなく、嫌な予感しかしないじゃないですか、そんなのって。
電気をつけたらベッドに横になっていましたよ。そう、言葉通り、横です。
ベットの枕部分が上だとしたらあいつの頭はベットに対して右側にありました。足は入っていません。十字架みたいな見映えですよ。服も着替えず。
「陽介…?」
返事なんて、ありゃしないんです。
ベットの上に転がった、空になった薬の瓶いくつかと、足元に転がった空になったウォッカの瓶と、そう言えばリビングのテーブルから何本か消えてしまっていたいくつかのアルコールの缶も見つけたとき、
あぁ、こいつ本格的なアホや。
そう思いましたが。
まずは駆け寄って頭をあげ、呼吸を確認すれば、浅くなってきていて。薄目を開けていました。
「陽介、僕だ。西東嘉実だよ」
胸に手を当てれば動悸もしてるし発熱もある。あぁ、そう。
ふと、彼の耳から落ちたイヤホン。ケータイに繋がっていて、まずは再生ストップしてイヤホンを外し、お隣に電話しました。
僕が電話して門前払いをしようとしていましたが、「息子さんの陽介くんが」これだけであっさり、通院許可。
救急車が来ることにはなったのですが、ぶっちゃけそんなもんは遅い。背負ってお隣まで行きました。
連れて行けば、僕の扱いは雑でしたが、緊急治療室の待合室までは通してくれて。
そこで、誰だかわからない、担当医なのかなんなのか、まぁ、“救急隊”と書かれたタグをつけた、青い、半袖の制服を着た、手術する時の格好をした30代くらいの眼鏡で短髪の男の医師に言われました。
「彼は今日、オペの助手で。とは言っても、研修医ですがね。
外来で親身になっていた患者さんを、彼の小さなミスで、目の前で、亡くしてしまったんです」
そうだったのか。
「それで、気付いたら彼、いなくなってしまって。相当、実はへこんでいたのかもと話していまして。
あの人、ああ見えてわりと、ちょっとなんていうか、医者に不向きなくらい、入り込んじゃうから」
そうか、そうだったんだ。
それだけ聞いて、その医師が治療室に戻る背中をぼんやりと眺めて。
静かな待合室を待つ。
その間僕は、彼が最後に垂れ流していた曲を聴いてみたいと、履歴を漁って再生してみて。
よく見りゃ、リピートになっていまして。なんだろう。
綺麗なエレキのリフレイン。ずっと聴いていたら。
何回目のリピートかわからない。けど僕はそうだ、思い出しました。
彼はあの日、あの、一緒に住み始めた日に流していた音楽を。その声を。
あの人、陽介、君は、なんで。
僕はどうしてこんなクセのある声、間違えたんでしょう。僕てっきり、I need to be myselfと言われているように意識障害を起こしていたんです。
地平は容赦なく 果てしなく揺れていて
30秒間の旋律となって 想いを包んで
…bye bye
降りしきる雨の中で 君は一人立っている
暗闇の先の何処か 壊れて死んでしまった
これだったんだ。
ねぇ陽介。
歌詞カードにはないんだ、別れの言葉も、なにもない、それは彼の呼吸なんだ。君って、どうしてそう。
でも僕だって、僕だって。
君があそこに立っていた。そう、やっぱり間違いなかったんだって。
いま君はどうして。でもどうしたらいい。僕にはもうなにもなくて、なんの言葉も出ていかない。Stay Away?違うんだ。
とめどなくていい、止まらなくていい、君に言いたいことはひとつしかないな、そう思って狂ったようにずっと聴いていたんだ。
君がダルげに、朧で空虚な顔して車椅子に乗せられて帰ってきたとき。
呼吸困難に陥るかと思いました。つまりは息を、呑み込んじまって。
だから、僕が立ち上がった瞬間に勢い余ってたんでしょうか。
君が、ふと、涙を浮かべて、でも笑って、「ただいま」と、掠れた声で言ったとき。
笑っちゃって。
ただもう、君のこと、なるほど知った気にはなれたから。
「…聞いたよ陽介」
「…来てくれたんだな」
「そうだね。なんか来ちゃったね。
君の気持ちきっと、これだったのかと、いま、あの日の金上嘉実に線香あげてたところだよ」
「…よっちゃん、」
「僕、死んだんだ。全部、切り捨てたんだよ陽介。君はそれが出来ないでいる。僕も結局出来ないままかもしれない。
過去あるこの、この場所が忌々しくて、そしたらそこに帰る場所を亡くした。こんなもんかって、あぁ、いいやって切ってしまった自分がいた。遠くなるんだ、こんなとき何もかも、朧で、別に日本人だし宗教概念も特にないくせに、あぁ天命だなんて思っちゃうんだ。誰かが、俺は要らないんだと押し潰してるんだって、勝手なる自意識過剰で。
本当は、いくらでも代わりはいるけど、だから僕は西東嘉実は、そのためにいるんだと。
ねぇ、君ならわかるよね」
「…どうだろうな」
「湿ってるよ、僕らはずっと。
覚えてる、僕は聴こえなかった君の言葉も」
そう、だから君には、言ってあげたいの。
君はまだ、まだ。
「負け犬じゃねえか」
まだ、ここにいる夢を。
トイレにも風呂場にもいませんでした。だから部屋に行ったんです。
開け放たれていました。
なんとなく、嫌な予感しかしないじゃないですか、そんなのって。
電気をつけたらベッドに横になっていましたよ。そう、言葉通り、横です。
ベットの枕部分が上だとしたらあいつの頭はベットに対して右側にありました。足は入っていません。十字架みたいな見映えですよ。服も着替えず。
「陽介…?」
返事なんて、ありゃしないんです。
ベットの上に転がった、空になった薬の瓶いくつかと、足元に転がった空になったウォッカの瓶と、そう言えばリビングのテーブルから何本か消えてしまっていたいくつかのアルコールの缶も見つけたとき、
あぁ、こいつ本格的なアホや。
そう思いましたが。
まずは駆け寄って頭をあげ、呼吸を確認すれば、浅くなってきていて。薄目を開けていました。
「陽介、僕だ。西東嘉実だよ」
胸に手を当てれば動悸もしてるし発熱もある。あぁ、そう。
ふと、彼の耳から落ちたイヤホン。ケータイに繋がっていて、まずは再生ストップしてイヤホンを外し、お隣に電話しました。
僕が電話して門前払いをしようとしていましたが、「息子さんの陽介くんが」これだけであっさり、通院許可。
救急車が来ることにはなったのですが、ぶっちゃけそんなもんは遅い。背負ってお隣まで行きました。
連れて行けば、僕の扱いは雑でしたが、緊急治療室の待合室までは通してくれて。
そこで、誰だかわからない、担当医なのかなんなのか、まぁ、“救急隊”と書かれたタグをつけた、青い、半袖の制服を着た、手術する時の格好をした30代くらいの眼鏡で短髪の男の医師に言われました。
「彼は今日、オペの助手で。とは言っても、研修医ですがね。
外来で親身になっていた患者さんを、彼の小さなミスで、目の前で、亡くしてしまったんです」
そうだったのか。
「それで、気付いたら彼、いなくなってしまって。相当、実はへこんでいたのかもと話していまして。
あの人、ああ見えてわりと、ちょっとなんていうか、医者に不向きなくらい、入り込んじゃうから」
そうか、そうだったんだ。
それだけ聞いて、その医師が治療室に戻る背中をぼんやりと眺めて。
静かな待合室を待つ。
その間僕は、彼が最後に垂れ流していた曲を聴いてみたいと、履歴を漁って再生してみて。
よく見りゃ、リピートになっていまして。なんだろう。
綺麗なエレキのリフレイン。ずっと聴いていたら。
何回目のリピートかわからない。けど僕はそうだ、思い出しました。
彼はあの日、あの、一緒に住み始めた日に流していた音楽を。その声を。
あの人、陽介、君は、なんで。
僕はどうしてこんなクセのある声、間違えたんでしょう。僕てっきり、I need to be myselfと言われているように意識障害を起こしていたんです。
地平は容赦なく 果てしなく揺れていて
30秒間の旋律となって 想いを包んで
…bye bye
降りしきる雨の中で 君は一人立っている
暗闇の先の何処か 壊れて死んでしまった
これだったんだ。
ねぇ陽介。
歌詞カードにはないんだ、別れの言葉も、なにもない、それは彼の呼吸なんだ。君って、どうしてそう。
でも僕だって、僕だって。
君があそこに立っていた。そう、やっぱり間違いなかったんだって。
いま君はどうして。でもどうしたらいい。僕にはもうなにもなくて、なんの言葉も出ていかない。Stay Away?違うんだ。
とめどなくていい、止まらなくていい、君に言いたいことはひとつしかないな、そう思って狂ったようにずっと聴いていたんだ。
君がダルげに、朧で空虚な顔して車椅子に乗せられて帰ってきたとき。
呼吸困難に陥るかと思いました。つまりは息を、呑み込んじまって。
だから、僕が立ち上がった瞬間に勢い余ってたんでしょうか。
君が、ふと、涙を浮かべて、でも笑って、「ただいま」と、掠れた声で言ったとき。
笑っちゃって。
ただもう、君のこと、なるほど知った気にはなれたから。
「…聞いたよ陽介」
「…来てくれたんだな」
「そうだね。なんか来ちゃったね。
君の気持ちきっと、これだったのかと、いま、あの日の金上嘉実に線香あげてたところだよ」
「…よっちゃん、」
「僕、死んだんだ。全部、切り捨てたんだよ陽介。君はそれが出来ないでいる。僕も結局出来ないままかもしれない。
過去あるこの、この場所が忌々しくて、そしたらそこに帰る場所を亡くした。こんなもんかって、あぁ、いいやって切ってしまった自分がいた。遠くなるんだ、こんなとき何もかも、朧で、別に日本人だし宗教概念も特にないくせに、あぁ天命だなんて思っちゃうんだ。誰かが、俺は要らないんだと押し潰してるんだって、勝手なる自意識過剰で。
本当は、いくらでも代わりはいるけど、だから僕は西東嘉実は、そのためにいるんだと。
ねぇ、君ならわかるよね」
「…どうだろうな」
「湿ってるよ、僕らはずっと。
覚えてる、僕は聴こえなかった君の言葉も」
そう、だから君には、言ってあげたいの。
君はまだ、まだ。
「負け犬じゃねえか」
まだ、ここにいる夢を。
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