Sound Keen You

二色燕𠀋

文字の大きさ
2 / 20

2

しおりを挟む
「おぉ、おかえり。お前背負ってきたのか?」

 車両の、後ろを開けて迎えた茅沼の仲間は、やはり怪訝そうな物言いで茅沼に言った。

 静かな、なんとも言えぬ殺伐とした空気を車内に感じた。

「そうですよ。タバコとコーヒーあります?この人めちゃくちゃ冷たい」

 僕は取り敢えずベットに座らせられ、連れて来られた車両で、茅沼の仲間にコーヒーとタバコを出された。

 とは言っても、すぐ目の前には、目覚める前まで折り合いが悪かった佐渡さど准海尉が変わり果てた姿で寝転がっていたりする。救助、というか引き上げられたのだろう。

「あぁ、悪いね…」

 と、少しバツが悪そうに笑い、茅沼が僕の隣に座ってタバコに火をつけた。

「いえ」

 茅沼は佐渡准海尉の、胸の銃痕については触れてこない。これから僕は、唯一の生存者として、艦内であったことを話していくのだろうか。そんなことをぼんやりと考えながらタバコに火をつけた。

 一口目は噎せた。と言うか強い。何日延びていたか知らないが、救護してきた生存者に吸わせるものではないだろう、このタバコ。

「うまい?」

 しかし楽しそうに聞いてくるこの男は本格的に、よく言えばマイペース、遠慮せずに言えば空気が読めないようである。

 ただ、人が噎せるその背中を擦りながら「大丈夫?」と、愉快そうに言うあたり、これは却って空気を読んでいるのかと、不思議な気がして、コーヒーを飲んでから二口目は少し少なめに吸った。

 じわっと、肺が痛む感覚。そこから広がる酷い眩暈。どう頑張ってもヤニクラなんて、気持ちがいいものではないけれど。

「こんな時ですら、味は感じるものですね」

 生きていると嫌でも感じた。

「ふっへっへ、顔色ますます悪いね」
「まぁ、ハイ」
「君は、見たところ三等海曹だね」

 ふと、いままで黙っていた仲間のうち一人、背が高い男が言った。

「…はい」
「あの船に乗ってた三等海曹は…」
「僕ともう一人、善山よしやまつるぎです」
「そうか。善山くんと君だけ?」
「はい。三等海曹の熱海雨です」

 こちらのことを知らないのか?

「熱海くん…。もしかして、秋津あきつ海尉の…」
「はい…そうです」

 仲間たちの深刻そうな表情。露骨すぎる。こんなのは、視力が悪くてもわかる。

「…曹長の近山ちかやままもるだ。君を基地まで送る」
「…はい」

 短髪でスポーツ会系な印象の男だった。
 少ししてから先ほど茅沼と共にいた隊員が少しずつ戻ってくる。

「ダメだな、やっぱり」
「つまり生存者はやはり…」
「僕だけですか」

 そう僕が言うと皆黙りこんだ。

「じゃ、そーゆーわけで」

 ぼんやりとした視界の中、カシャッと、目の前で音がした。

 どうやら僕は、今帰って来た一曹に何故か拳銃を向けられたらしい。
 一曹と曹長が顔を見合わせて頷き合う。なるほど。

「…ちなみに聞くが名前は?」
「三等海曹の熱海雨です」
「やはりな。秋津あきつ冬次とうじの側付きだろ?」
「そう言うことになりますね。あの、ひとつお願いがあるのですが」
「なんだ」
「眼鏡をください。僕、目が悪いんです」
「ぷはっ、」

 隣で茅沼が露骨に吹き出した。この殺伐とした空気に不釣り合いだ。

「そんなものはない」
「確かに、佐渡准海尉も裸眼ですからね…まぁ、どうせ死ぬようなんでいいんですけど」
「やけに物分かりがいいな」
「拳銃向けられたらそりゃぁ…」

 立ち上がって銃口を掴むと、相手が怯んだのがわかった。近距離に来てみて漸くわかったが相手は眼鏡ではないか。ついでにそいつの眼鏡を剥ぎ取って掛けたが、度が合わなかった。

「あったあった。まぁ見えないよりはいいかな」
「貴様っ、」
「で、僕ってなんで死ぬんですか?まぁ別にいいんですけど。物分かりはいいようですが僕、あまり良い子じゃないんです。
 あ、そこの気が狂った上官をぶっ殺したからですか?」

 佐渡准海尉をちらっと見てから掴んでいたリボルバー拳銃ももぎ取り、拝借する。一気に空気はひりついた。

「僕が秋津さんの側付きだからですか?どうして?僕たちはどうして、こんなことになったんですか?」
「ふ、ははは!なーるほど。
 多分それが真実ですよ」
「は?何言ってんだ茅沼」
「反乱が反乱を呼んだ、そーゆーことだよ」

 茅沼はまたタバコに火をつけ、優雅にタバコを吸い始めた。

「熱海さんだったっけ。
 あんたの艦隊は、潜水艦で東南アジアに向かっていた。しかしそれを日本政府が阻止した。まぁ、正直あんな国には行っても仕方がないという政府の判断だよ」
「は?」
「お宅の秋津さんは勝手にベトナムに行こうとしたんだ。なんでだろうね。
 これは秋津さんなりの何か、特別なメッセージじゃないかな」

 茅沼は吸っていたタバコを足元に捨て、踏み消した。

「…何が言いたい」
「仮説ですが。
 秋津さん、結構援助活動に積極的でしたよね。彼は、戦争時代を生きている。だから今の地位があった。
 だけど無駄に戦地には行かない。それが何故、ここ最近無駄に増えたベトナムへの援助へ赴いたのか。秋津さんがベトナムへ行くのは今回だけだ。
 それも何故か潜水艦。こんなの、密輸か戦以外あり得ない。さぁ果たして彼は、何をしようとしていたのか、政府は何を彼にさせようとしていたのか」
「お前は正気か茅沼」
「わりと正気です。いやむしろお宅らの方が正気かと問う。本気で自分らは至極安全だと信じているのか?今のベトナムの情勢を考えたら、俺は、多分こいつをここで抹殺したら、自分らも将来秋津艦隊と同じ道を歩むんじゃないかと思えてならないが。
 曹長、俺にはどうしてたったそれだけで隊を、17人を海の藻屑にするために空、陸軍50人を配置したのか意味がよくわからない。まぁ、表向きの名目で言ったら確かに秋津さんは政府に背いている。しかし今回の国際援助、そもそも密令だったはずだ。なんせ、レーダー察知が一番早かったあんたが漸く潜水艦に気が付いたんだからね、近山さん」

 つまりこれは…。

「あぁ、そうですか」

 怒りというよりは。
 多分脱力に近かった。

「…茅沼、」
「まぁ、これも運命ってことで」

 茅沼が銃を抜いた。
 ハンマーを引く音が、耳元で聞こえた。そして、茅沼はにやっと子供のように笑い、告げる。

「どうやら君はここで死んだようだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...