3 / 20
3
しおりを挟む
「あークソみてぇ」
隣で寝転ぶ男は不機嫌そうにそう言った。
「勇気だけは買いますけど」
「よく言うよ。あんたもだいぶクレイジーだよね」
まぁ確かに。
この人のあれは最早。
「確かにあなたのあれ、中二病ですよね」
「え?なにそれ、ビョーキなの?」
耳元でカシャッと音が鳴って。
僕は完璧に殺されると思った。けどまぁ別に勝算があるわけでもないし、いっそ殺された証拠でも残して死んでやろうかと意識を掠めた。弾と一緒に。
「はっ…?」
「あぁぁ…やっちゃったよー」
目の前にいた一曹の右肩の肩章が外れた。
顔をしかめた一曹は一言、「てめぇ何様だ」と怒りを露にすして。
「いやぁ、ほら、右は…」
「うるせぇなてめぇ。
曹長、これは謀反だ!殺していいですか?」
「うーん…いいけど君には多分無理だよね、平野」
「は?」
あ、この人漸く名前出てきた。平野って言うのか。
「茅沼」
「はい」
「ちなみに今のは位置的に、当たっていたら俺だったな。
俺はお前はわりと好きだったけどなぁ…。お前、そんなに気に入った?」
「どうでしょうね、まぁ人生には色々あるもんだと父親はよく言っていましたよ」
「あそう。お父さんかぁ…。じゃ、」
そう言ったかと思えば曹長は僕らに銃を向け、「出てけ」と通告。そして、「はい、行くよ」と何故か僕は茅沼に腕を掴まれ盾にされ。
日本海の海岸にほっぽり出されてしまったわけである。
それから早二時間。
取り敢えず二人でタバコを吸いながら海を眺めている現状。
「あっ」
「タバコ、最後ですね」
「マジかよー。近くに自販機ねぇの?」
「ねぇでしょうね」
「うわぁ、なんだよマジかよ」
「買ってきましょうか?」
「ダメ!一応ダメ!」
思わず舌打ちをしてしまった。
面倒だ。この男、非常に面倒だ。
「てかあんた、さっき連絡取ってましたよね。誰が迎えに来てどこに行くんですか」
「それを聞くために電話したんだよ」
「はぁ!?じゃぁ何?本気でここから宛がないの僕たち」
「そうだよ?」
あーマジか。
こんなヤツいるか普通。
「普通さぁ、もっとこう計画的にさ…」
雨が強くなってきた。いくら木陰とはいえ流石に雨を凌ぐのはキツくなってきたぞ。
「計画なんて立ててなんか意味ある?あんたと俺で」
まぁ確かに。しかしそれはなんて。
「無責任だなぁ」
なんて自由な人なんだろう。
「一緒に行きましょうか」
「ん?」
「タバコ探しに。流石にタバコくらい売ってるでしょどっか」
「…ふーん」
茅沼はにやっと、また子供のように笑った。
「おもろいこと言うね」
「だって、あんたうるさいんだもん」
「さっきまでとは全然違う」
「はい?」
「だってあんた、死にたくて仕方なかったんだろ?」
そう言われて、思わず茅沼を見つめた。
案外、吊り目だけど純粋そうな顔をしているなぁ、と度の合っていない眼鏡越しに茅沼を見て思った。歪んでしまった遠近感覚のおかしな世界の中で、それだけは確かに印象に残った。
「…聞かないんですね」
「何が?」
「その…船であったこととか」
「聞いても俺には何も得なんてないし」
「でもこんな状況だと、知らなかったでは…」
「じゃぁ話せば?」
「…そんなに人って信用して良いんですか」
「別に信用している訳じゃない。俺は自分以外は信用しない。
今は俺の勘と気紛れが、君といる理由だ。だから別に君はそれに付き合う理由はない。俺も付き合わない」
変な人だと、思った。
「でもさ、どーせなら、その死は有効活用すべきじゃないかな。ラッキーじゃん、セカンド人生」
セカンド人生。
「いちいち中二病臭いなぁ」
「だからなにそれ、ビョーキなの?」
「そうですよ、重症です。多分病院行っても笑われるからあんたもいっぺん…」
あぁ、もう。
「うざいなぁ…」
止みそうになったり強まってみたり。だけどそんな微妙さで続いているしとしととした雨の音が本当にうざったいから。
いっそのことどーせ海にも浸かってたし、身体中よくわかんないから、木陰から飛び出してみて。
手を広げてみれば、皮膚に当たる雨粒と、地球の自転に酔いそうな程の狂った距離の灰色の空と、虹色のような、レンズに付いた雫。そうか、雨ってこんな色なんだ。
なんてクソみてぇに綺麗なんだろう。
「あー…。
ざけんじゃねぇよ人生ぃぃ!」
「ふははは!」
後ろから聞こえる爆笑。海が消し去る叫び声。
「そっちの方が中二臭ぇよ」
「意味わかってるんじゃないですか」
「いいんじゃね?おもろいね」
「ああそうですか」
「俺もやろ」
とか言って隣に来ては、「ざけんなクソ上司ー!」と茅沼が叫ぶ。なんだそれ。
「悪かったな放蕩部下」
「げっ」
後ろから、聞き取りにくい、少し滑舌の悪い消えそうな声がして。
振り返ると、黒い傘が目に入った。見上げてきた細身で小柄な彼は茅沼をじろっと見て、何を考えているのかわからぬ無表情で茅沼に青いパッケージのタバコをひょいっと投げて寄越した。
てゆうかまるっきり気配がない。なんだこの人。
隣で寝転ぶ男は不機嫌そうにそう言った。
「勇気だけは買いますけど」
「よく言うよ。あんたもだいぶクレイジーだよね」
まぁ確かに。
この人のあれは最早。
「確かにあなたのあれ、中二病ですよね」
「え?なにそれ、ビョーキなの?」
耳元でカシャッと音が鳴って。
僕は完璧に殺されると思った。けどまぁ別に勝算があるわけでもないし、いっそ殺された証拠でも残して死んでやろうかと意識を掠めた。弾と一緒に。
「はっ…?」
「あぁぁ…やっちゃったよー」
目の前にいた一曹の右肩の肩章が外れた。
顔をしかめた一曹は一言、「てめぇ何様だ」と怒りを露にすして。
「いやぁ、ほら、右は…」
「うるせぇなてめぇ。
曹長、これは謀反だ!殺していいですか?」
「うーん…いいけど君には多分無理だよね、平野」
「は?」
あ、この人漸く名前出てきた。平野って言うのか。
「茅沼」
「はい」
「ちなみに今のは位置的に、当たっていたら俺だったな。
俺はお前はわりと好きだったけどなぁ…。お前、そんなに気に入った?」
「どうでしょうね、まぁ人生には色々あるもんだと父親はよく言っていましたよ」
「あそう。お父さんかぁ…。じゃ、」
そう言ったかと思えば曹長は僕らに銃を向け、「出てけ」と通告。そして、「はい、行くよ」と何故か僕は茅沼に腕を掴まれ盾にされ。
日本海の海岸にほっぽり出されてしまったわけである。
それから早二時間。
取り敢えず二人でタバコを吸いながら海を眺めている現状。
「あっ」
「タバコ、最後ですね」
「マジかよー。近くに自販機ねぇの?」
「ねぇでしょうね」
「うわぁ、なんだよマジかよ」
「買ってきましょうか?」
「ダメ!一応ダメ!」
思わず舌打ちをしてしまった。
面倒だ。この男、非常に面倒だ。
「てかあんた、さっき連絡取ってましたよね。誰が迎えに来てどこに行くんですか」
「それを聞くために電話したんだよ」
「はぁ!?じゃぁ何?本気でここから宛がないの僕たち」
「そうだよ?」
あーマジか。
こんなヤツいるか普通。
「普通さぁ、もっとこう計画的にさ…」
雨が強くなってきた。いくら木陰とはいえ流石に雨を凌ぐのはキツくなってきたぞ。
「計画なんて立ててなんか意味ある?あんたと俺で」
まぁ確かに。しかしそれはなんて。
「無責任だなぁ」
なんて自由な人なんだろう。
「一緒に行きましょうか」
「ん?」
「タバコ探しに。流石にタバコくらい売ってるでしょどっか」
「…ふーん」
茅沼はにやっと、また子供のように笑った。
「おもろいこと言うね」
「だって、あんたうるさいんだもん」
「さっきまでとは全然違う」
「はい?」
「だってあんた、死にたくて仕方なかったんだろ?」
そう言われて、思わず茅沼を見つめた。
案外、吊り目だけど純粋そうな顔をしているなぁ、と度の合っていない眼鏡越しに茅沼を見て思った。歪んでしまった遠近感覚のおかしな世界の中で、それだけは確かに印象に残った。
「…聞かないんですね」
「何が?」
「その…船であったこととか」
「聞いても俺には何も得なんてないし」
「でもこんな状況だと、知らなかったでは…」
「じゃぁ話せば?」
「…そんなに人って信用して良いんですか」
「別に信用している訳じゃない。俺は自分以外は信用しない。
今は俺の勘と気紛れが、君といる理由だ。だから別に君はそれに付き合う理由はない。俺も付き合わない」
変な人だと、思った。
「でもさ、どーせなら、その死は有効活用すべきじゃないかな。ラッキーじゃん、セカンド人生」
セカンド人生。
「いちいち中二病臭いなぁ」
「だからなにそれ、ビョーキなの?」
「そうですよ、重症です。多分病院行っても笑われるからあんたもいっぺん…」
あぁ、もう。
「うざいなぁ…」
止みそうになったり強まってみたり。だけどそんな微妙さで続いているしとしととした雨の音が本当にうざったいから。
いっそのことどーせ海にも浸かってたし、身体中よくわかんないから、木陰から飛び出してみて。
手を広げてみれば、皮膚に当たる雨粒と、地球の自転に酔いそうな程の狂った距離の灰色の空と、虹色のような、レンズに付いた雫。そうか、雨ってこんな色なんだ。
なんてクソみてぇに綺麗なんだろう。
「あー…。
ざけんじゃねぇよ人生ぃぃ!」
「ふははは!」
後ろから聞こえる爆笑。海が消し去る叫び声。
「そっちの方が中二臭ぇよ」
「意味わかってるんじゃないですか」
「いいんじゃね?おもろいね」
「ああそうですか」
「俺もやろ」
とか言って隣に来ては、「ざけんなクソ上司ー!」と茅沼が叫ぶ。なんだそれ。
「悪かったな放蕩部下」
「げっ」
後ろから、聞き取りにくい、少し滑舌の悪い消えそうな声がして。
振り返ると、黒い傘が目に入った。見上げてきた細身で小柄な彼は茅沼をじろっと見て、何を考えているのかわからぬ無表情で茅沼に青いパッケージのタバコをひょいっと投げて寄越した。
てゆうかまるっきり気配がない。なんだこの人。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
悪役令嬢、休職致します
碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。
しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。
作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。
作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる