Sound Keen You

二色燕𠀋

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「あークソみてぇ」

 隣で寝転ぶ男は不機嫌そうにそう言った。

「勇気だけは買いますけど」
「よく言うよ。あんたもだいぶクレイジーだよね」

 まぁ確かに。
この人のあれは最早。

「確かにあなたのあれ、中二病ですよね」
「え?なにそれ、ビョーキなの?」

 耳元でカシャッと音が鳴って。
 僕は完璧に殺されると思った。けどまぁ別に勝算があるわけでもないし、いっそ殺された証拠でも残して死んでやろうかと意識を掠めた。弾と一緒に。

「はっ…?」
「あぁぁ…やっちゃったよー」

 目の前にいた一曹の右肩の肩章が外れた。
 顔をしかめた一曹は一言、「てめぇ何様だ」と怒りを露にすして。

「いやぁ、ほら、右は…」
「うるせぇなてめぇ。
 曹長、これは謀反だ!殺していいですか?」
「うーん…いいけど君には多分無理だよね、平野」
「は?」

 あ、この人漸く名前出てきた。平野って言うのか。

「茅沼」
「はい」
「ちなみに今のは位置的に、当たっていたら俺だったな。
 俺はお前はわりと好きだったけどなぁ…。お前、そんなに気に入った?」
「どうでしょうね、まぁ人生には色々あるもんだと父親はよく言っていましたよ」
「あそう。お父さんかぁ…。じゃ、」

 そう言ったかと思えば曹長は僕らに銃を向け、「出てけ」と通告。そして、「はい、行くよ」と何故か僕は茅沼に腕を掴まれ盾にされ。
 日本海の海岸にほっぽり出されてしまったわけである。

 それから早二時間。
 取り敢えず二人でタバコを吸いながら海を眺めている現状。

「あっ」
「タバコ、最後ですね」
「マジかよー。近くに自販機ねぇの?」
「ねぇでしょうね」
「うわぁ、なんだよマジかよ」
「買ってきましょうか?」
「ダメ!一応ダメ!」

 思わず舌打ちをしてしまった。
 面倒だ。この男、非常に面倒だ。

「てかあんた、さっき連絡取ってましたよね。誰が迎えに来てどこに行くんですか」
「それを聞くために電話したんだよ」
「はぁ!?じゃぁ何?本気でここから宛がないの僕たち」
「そうだよ?」

 あーマジか。
こんなヤツいるか普通。

「普通さぁ、もっとこう計画的にさ…」

 雨が強くなってきた。いくら木陰とはいえ流石に雨を凌ぐのはキツくなってきたぞ。

「計画なんて立ててなんか意味ある?あんたと俺で」

 まぁ確かに。しかしそれはなんて。

「無責任だなぁ」

 なんて自由な人なんだろう。

「一緒に行きましょうか」
「ん?」
「タバコ探しに。流石にタバコくらい売ってるでしょどっか」
「…ふーん」

 茅沼はにやっと、また子供のように笑った。

「おもろいこと言うね」
「だって、あんたうるさいんだもん」
「さっきまでとは全然違う」
「はい?」
「だってあんた、死にたくて仕方なかったんだろ?」

 そう言われて、思わず茅沼を見つめた。

 案外、吊り目だけど純粋そうな顔をしているなぁ、と度の合っていない眼鏡越しに茅沼を見て思った。歪んでしまった遠近感覚のおかしな世界の中で、それだけは確かに印象に残った。

「…聞かないんですね」
「何が?」
「その…船であったこととか」
「聞いても俺には何も得なんてないし」
「でもこんな状況だと、知らなかったでは…」
「じゃぁ話せば?」
「…そんなに人って信用して良いんですか」
「別に信用している訳じゃない。俺は自分以外は信用しない。
 今は俺の勘と気紛れが、君といる理由だ。だから別に君はそれに付き合う理由はない。俺も付き合わない」

 変な人だと、思った。

「でもさ、どーせなら、その死は有効活用すべきじゃないかな。ラッキーじゃん、セカンド人生」

 セカンド人生。

「いちいち中二病臭いなぁ」
「だからなにそれ、ビョーキなの?」
「そうですよ、重症です。多分病院行っても笑われるからあんたもいっぺん…」

 あぁ、もう。

「うざいなぁ…」

 止みそうになったり強まってみたり。だけどそんな微妙さで続いているしとしととした雨の音が本当にうざったいから。

 いっそのことどーせ海にも浸かってたし、身体中よくわかんないから、木陰から飛び出してみて。

 手を広げてみれば、皮膚に当たる雨粒と、地球の自転に酔いそうな程の狂った距離の灰色の空と、虹色のような、レンズに付いた雫。そうか、雨ってこんな色なんだ。

 なんてクソみてぇに綺麗なんだろう。

「あー…。
 ざけんじゃねぇよ人生ぃぃ!」
「ふははは!」

 後ろから聞こえる爆笑。海が消し去る叫び声。

「そっちの方が中二臭ぇよ」
「意味わかってるんじゃないですか」
「いいんじゃね?おもろいね」
「ああそうですか」
「俺もやろ」

 とか言って隣に来ては、「ざけんなクソ上司ー!」と茅沼が叫ぶ。なんだそれ。

「悪かったな放蕩部下」
「げっ」

 後ろから、聞き取りにくい、少し滑舌の悪い消えそうな声がして。

 振り返ると、黒い傘が目に入った。見上げてきた細身で小柄な彼は茅沼をじろっと見て、何を考えているのかわからぬ無表情で茅沼に青いパッケージのタバコをひょいっと投げて寄越した。

 てゆうかまるっきり気配がない。なんだこの人。
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