Sound Keen You

二色燕𠀋

文字の大きさ
7 / 20

7

しおりを挟む
「あ、熱海さん…あの…」

 一曹の寺島てらしまくんが慌てたように僕を見た。入口の方に人だかりがある。その先には。

「あ、いた。久しぶりー」

 黒いスーツに赤シャツという、何とも派手で胡散臭い格好をした長髪の優男が一人、凄く軽いニュアンスで片手挨拶をしてきた。

 マジかよ。

「こんにっちはー」
「は?」
「あーそっか、もーし遅れましたー。国勢調査委員会の茅沼と申しまーす」

 なんだそりゃ。え?

「は、はぁぁ!?」
「元秋津艦隊隊員の熱海准海尉、貴方に素敵なお届け物でーす。3日間、俺と苦楽を共にしましょーね」

 ふざけてんのかこいつ。

「あんた、マジかよ」
「まーまー話はタバコでも吸いながらねー。はーい。野次馬はどっか行ってーつーかタバコ吸える場所はどこですかー?」
「あっちですよ」

 振り返れば。
羽田さんが笑いを堪えて右を指差していた。

「おー、いー部下持ったねぇ。はーい、案内よろしく」
「ぶん殴るぞ真面目に」
「嫌だなぁ、そんな狂暴だったっけ?まーまー、行こう」

 しかしながら耳元で言う、「話がある」のトーンだけはわりと真面目で。

 樹実の顔をまじまじと見つめてみれば目だけは笑ってないような笑顔で。
 あぁ、なるほど結構ガチなネタをぶっ込んでくるつもりだなと、仕方なくも従うように喫煙所まで同行した。

 然り気無く一緒に流れで来てしまった羽田さんは戸惑ってはいたが、僕が取り敢えず、「どうぞ」と促して、三人でタバコを吸う羽目になった。

「まずはお久しぶりです」
「久しぶり。元気そうで何よりだ」

 ちらっと樹実が羽田さんを見たので、「彼は直属の部下です」と補足する。

「あんた方のおかげでクソほど出世いたしましたのでね。僕にも部下がつきました。こんな若手の僕に、ナメることなく、逆境の中ついてきてくれるような、そんな方です」
「良い部下をお持ちで」
「あなたはどうしました?離れたんですか?」

 陸軍を。
それは飲み込んだ。流石にまだ話の全容が掴めていない。

「あぁ、俺にはついてませんなぁ。独り身ですよ。だからこんな胡散臭いことやってるんですよ」
「あぁ、自覚あるんですかそれ」
「まぁね。
君さ、あれからどうだい」

 切り込んできたな。

「あれから、ですか。
 まぁ少しづつですが…君が言いたかったことは、見えてきていますよ」
「ほぅ、例えばどんな」
「そうですね。
 政権交代という言葉、あるじゃないですか。あれって便利ですよね」

 樹実はイライラしたようにタバコを消した。

「焦れったいな」
「まぁまぁ。
 秋津艦隊は関東屈指の軍隊でした。これはそう、全国的に有名でした。東西南北に於いてね。そしてその秋津艦隊が置かれたここは、関東軍です。言いたいこと、わかりますか?」
「なるほどな。良い線いってる気がする。
じゃぁ俺からのヒントだ。
 お宅らを潰した空軍の鳴島隊なりしまたい、つまり鳴島なりしまあきらという男の隊、実は本拠地は関西にあった。しかしながらあれから、解散し、鳴島彰は暗殺された」

 面白そうに樹実が語る。そして、公安にあるまじき所謂“白い粉”、の、まだあまり潰されていない形が残ったものが入ったチャックの小さなポリ袋を、ジャケットの内ポケットから取り出し、見せてきた。

「鳴島隊の敵対組織が関東軍らしいんだが、どうも潜り込んでみたら、若手がわりとシャブ中でな。疑問を提示しに来たわけだよ。
 秋津艦隊と関東空軍とその他自衛隊関連の、まぁ鳴島隊の敵対組織の関連はどうかと。そして秋津冬次は、果たして何故殺されたのか」

 うわぁ。
一応羽田さんもいるのにかなりヘビーじゃないかこの話。

「なかなかヘビーっすね」

 あ、羽田さん。

「あ、そうだ」

 てか忘れてたのかよ。
 樹実はもの凄く気不味そうな顔で僕を見た。知らん顔をしてそっぽ向いてタバコを吸った。

「雨」
「はい」
「思ったよりもお宅のボスは、単純な理由かもな」

 何が。
 それは聞かない。

「その先に偉く黒い何かがあったとしても。多分、」
「…何が言いたいんですか」
「だからさ、この船には、乗らなくても」
「バカ言わないでくださいよ」

 二本目のタバコに火をつける。

「僕は乗っていません。地に足ついてるんで」
「…君のそーゆーとこ、やっぱいいね」

 漸く樹実のぴりぴりした空気が、子供のようなその笑顔で消し飛んだ。

「さぁてじゃぁ、洗ってやろうか」
「俺もその話、乗っていいですか」
「え?」

 羽田さんが、ふと言った。

「てか聞いちゃったし。俺一応その人の直属の部下ですし」

 なんてことを。

「羽田さん…」
「なんだかわからんが、まぁ面白いでしょ、多分それ」
「いいんですか」
「まぁ、はい」
「仕方ねぇな。
やるか!うん!」

 また樹実は、楽しそうに笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...