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いま思えば、このときの彼との経験は、後に僕が三等海佐まで登りつめるときに使えた技術に繋がった。
彼は、スパイとしては本当に怖いくらいの情報収集力と頭のキレ方だった。
何が凄いって。
やることなすこと、潰し方がハンパなくえげつないのだ。最早人でなしレベルだ。
まず彼は下から潰していった。
下のジャンキーたちを密かに検挙していき、次にじわりじわりと上の証拠を詰めていき、確たる証拠は最後まで取っておいて叩きつけるといった具合に攻め込んだのだ。
そして彼は最後の切り札である、防衛大臣補佐官、星川匠とお近付きになった。これがどう影響するかと言えば。
「全面協力だそうだ」
「マジですか」
「大マジ。まぁ今回はな、わりと防衛大臣も絡んでいた、大規模な話だったという結論ですよ。彼はわりとやり手だ。要するに今回のネタで、出世したいんだろう」
彼と過ごした三日でなかなかなブラックジョークを聞いた。
「さて、という訳で」
「はい」
そして、最後の三日目を迎えた。僕と樹実は、自衛隊基地に乗り込む結果となった。
決行は明日。今はまず、どう乗り込もうかと自衛隊の車の中に忍び込んで待機をしていた。なんなら、待ち伏せでもよかった。つまり、少しの勢いも手伝っていた。
「羽田さん」
「はい、なんでしょ」
「あなたにはひとつだけ上官として命じることがあります」
「はい」
「帰ってください」
僕は、そんな殺伐とした前夜、羽田さんに言い渡した。
なんだかんだでついてこさせてしまった。そればかりは気掛かりだったから。
「なんで」
「まぁ言うなればここまで来て僕はわりとびびっていますよ。僕は死んでもあんまり執着はないのですがあなたが僕のために死ぬのはぶっちゃけなんか…僕って若手だし、まだそんな覚悟ないんですよ。官位だって中途半端だし。すみません、それくらい、ナメてるんです。しゃばいこと今更言って、なんかこう、申し訳ないんですけど…」
「あぁ、そう」
羽田さんは、不機嫌そうな声色に反して、とても爽やかな笑顔を向ける。
「じゃぁ帰ってきたら背負って貰えるだけの男になってるんだろうね?」
「あなたは…」
「あー、仕方ないね。それでも上官だ。サポート出来て何よりですよ。
茅沼さん、あんたのわがままもわりと楽しかった。あんたらを動かせるだけの秋津冬次、俺も会いたかったねぇ」
「ははっ、あんた、いー男だねぇ。覚えとくよ、また会えたら」
「あんたらはあんたらの道を行くがいいさ。どうせわがままなんだ。だがそれも悪くないだろ。軍隊ってのは何かのため国のためって、自我がねぇよな。
じゃ、頑張ってくださいよ」
『自分の道くらい、自分で守るがいいさ』
「あの、羽田さん」
車を降りて去り行く羽田さんの背中に、僕はとっさに声を掛ける。
「はい、なんでしょ」
「これも何かの縁だ。私に拾われてしまったのが運の尽きですな、若造よ。
恩師の言葉です」
羽田さんはそれから敬礼をしてから走るように立ち去った。
そうなんです。
すみませんが僕はこれに命を掛けさせて頂きますので、こんな若造の命を散らすためにあなたを殺すわけにも…。
「なぁなぁ」
「…はい?」
「あのさ」
「はい」
「俺は右目の視力が極端に悪いんだよ」
どうしたんだろ急に。
「あぁ、言ってましたね。頭打ったんでしたっけ」
「うん。ぶん殴られてな。左側にレンガをな」
「うわっ、痛っ」
「死にかけたよ。ほらほら」
とか言って頭を見せてきた。確かに左側の後頭部に少し、凹んだような傷があった。
「うわー」
「後ろからアメリカ兵にがつっといかれてねー。米軍基地だった。俺がちょっとそいつに生意気言ったんだよ。仲間だったんだけどさ。喧嘩しちゃって。いまは仲良いけどな」
「すげぇ、僕そーゆーのちょっとよくわかんない」
しかし…。
「だからそんなうざったく髪伸ばしてんですね」
「うざったくって」
「だっていかにも邪魔そうなんだもん」
「まぁだから縛るんですよ」
「めんど」
「あんたにはな」
で。
「それがなんだって言うんですか」
「いやぁ、だからつまりさ」
樹実はもの凄く言いにくそうにそっぽ向いてタバコに火をつけようとして、失敗した。この人は最早100円ライターじゃない方がいいと思うんだ。
「きょーみ本意で連れて来て悪かったって、ただそれだけなんだよ。だからなんつーか…。
俺も弱点あっから、まずは俺のサポートして?悪いけど」
「はぁ?」
なんだこいつは。
呆れてしまう。呆れて一周回って。
「ふ、ははははは!」
笑ってしまった。
「君、可笑しいって、言われませんか?え?頭打っちゃったからなのそれ、」
「え、な、」
「あのねぇ、」
あぁ、バカじゃねぇの。
「びびってんじゃねぇって。あんたには悪いが今のとこまだあんたになんて感謝すらしてないから」
ホント、こんなとこまであのときの僕なら。
果たして僕一人なら来たのだろうか。
「あぁ、そうですかい」
今度は不機嫌そうで。それがまた面白くて笑ってしまった。
「んだよさっきから」
「いやぁ、なんか僕らって、なんなんでしょうね」
なんなんだろう。
取り敢えずもういいや。
「よくわかんねぇな」
「僕もそれは思います」
そう言って見つめ合えばどちらともなく笑い出してしまって。
そんな中、外部から窓を叩く音がした。振り返れば、自衛隊員。あらあらバレました。まぁそりゃぁ、そうでしょうな。
仕方なく窓ガラスを開けると、「お前ら、どこの隊の」クリーンヒット。まさかそんなに見事に殴られてくれると思わなかった。だっていかにも屈強で露骨な軍人だし。後ろで樹実が「うわぁ、最悪」と溢す。
これは仕方ないので、「大丈夫ですか、すみません」とか言いつつドアを開けて外に出て、よろけて唖然としている屈強な彼に拳銃を押し付け、確保。後部座席に乗せ、取り敢えず銃を向けたまま、「さて、どうしましょう」と樹実に聞いてみれば。
「どうしましょうじゃないよね、お前バカだろ何してんだよ!」
叱られてしまった。
「いやぁ、ちょっとびっくりしちゃって」
「お前これじゃ完璧にテロリストじゃねーかよ!」
「先に手が出ちゃって」
「タチ悪っ。チンピラでももっと頭使うからね!」
なんかそんなに言われるとムカついてきちゃうな。
「そんなに人のこと言ってますけどあんたの計画だってなんですか?ここで待ち伏せって、しかも空将って、何、行きゃぁいいでしょうよ何?」
「だからさ、俺さ、陸軍追い出されたからわりと有名なのよ会ってくんねぇって説明したよね、わかる?」
「だから忍び込んで張り込みってそれも最早テロに近くないですか?」
「あーあー!ちょ、拳銃を向けて喋らないの怖いでしょうよ!お前この距離絶対当たっちゃうでしょわかるよね!?」
気付かないうちにさっきまで隊員に向けてた拳銃を樹実に向けて、しかもなんか振っちゃいながら喋っていた。確かに当たっちゃうかもしれない。しかしそれで僕に拳銃を向けてくるあんたもどうなんだとさらに腹立たしく感じてきた。
「いやちょっと向けてこないでくださいよ!ムカつくなぁ!」
とか言って樹実の銃を取り上げようとしたとき。
「貴様らなんなんだ!」
あ、忘れてた。そうだそうだしかし今は。
「うるさいなちょっと黙ってろ三下!車整備でサボりに来たのが運の尽きですね!はい、じゃぁ予定変更、君人質!」
「はぁ!?」
「いや、雨さん、流石にちょっと慈悲がないんじゃ…」
とか樹実がしゃばいこと抜かし始めたので。
「うるさいもう行きましょうはい、予定変更!僕が多分今一番官位高いから上司命令!決定!」
「え?」
「いや雨さんそれは多分…」
「俺准将っすけど」
「は?」
断然彼の方が上官だ。
「まぁ、細かいことはなしにして。仕方がないので行きましょうか」
「は?」
「貴方は人質です、ご愁傷さまです」
思いっきり樹実が溜め息を吐いた。
何、もうここまで来たらやれることをやるしかないと割り切るしかないのだよ。そんな眼差しで見るが、明らかに樹実は呆れている。
「ほらほら早く!」
取り敢えず状況を打破したくて車の扉を開けた。樹実がぽつりと、「共謀罪だ」と呟いたのが気に触ったが、聞こえないフリをして車の外に出た。
彼は、スパイとしては本当に怖いくらいの情報収集力と頭のキレ方だった。
何が凄いって。
やることなすこと、潰し方がハンパなくえげつないのだ。最早人でなしレベルだ。
まず彼は下から潰していった。
下のジャンキーたちを密かに検挙していき、次にじわりじわりと上の証拠を詰めていき、確たる証拠は最後まで取っておいて叩きつけるといった具合に攻め込んだのだ。
そして彼は最後の切り札である、防衛大臣補佐官、星川匠とお近付きになった。これがどう影響するかと言えば。
「全面協力だそうだ」
「マジですか」
「大マジ。まぁ今回はな、わりと防衛大臣も絡んでいた、大規模な話だったという結論ですよ。彼はわりとやり手だ。要するに今回のネタで、出世したいんだろう」
彼と過ごした三日でなかなかなブラックジョークを聞いた。
「さて、という訳で」
「はい」
そして、最後の三日目を迎えた。僕と樹実は、自衛隊基地に乗り込む結果となった。
決行は明日。今はまず、どう乗り込もうかと自衛隊の車の中に忍び込んで待機をしていた。なんなら、待ち伏せでもよかった。つまり、少しの勢いも手伝っていた。
「羽田さん」
「はい、なんでしょ」
「あなたにはひとつだけ上官として命じることがあります」
「はい」
「帰ってください」
僕は、そんな殺伐とした前夜、羽田さんに言い渡した。
なんだかんだでついてこさせてしまった。そればかりは気掛かりだったから。
「なんで」
「まぁ言うなればここまで来て僕はわりとびびっていますよ。僕は死んでもあんまり執着はないのですがあなたが僕のために死ぬのはぶっちゃけなんか…僕って若手だし、まだそんな覚悟ないんですよ。官位だって中途半端だし。すみません、それくらい、ナメてるんです。しゃばいこと今更言って、なんかこう、申し訳ないんですけど…」
「あぁ、そう」
羽田さんは、不機嫌そうな声色に反して、とても爽やかな笑顔を向ける。
「じゃぁ帰ってきたら背負って貰えるだけの男になってるんだろうね?」
「あなたは…」
「あー、仕方ないね。それでも上官だ。サポート出来て何よりですよ。
茅沼さん、あんたのわがままもわりと楽しかった。あんたらを動かせるだけの秋津冬次、俺も会いたかったねぇ」
「ははっ、あんた、いー男だねぇ。覚えとくよ、また会えたら」
「あんたらはあんたらの道を行くがいいさ。どうせわがままなんだ。だがそれも悪くないだろ。軍隊ってのは何かのため国のためって、自我がねぇよな。
じゃ、頑張ってくださいよ」
『自分の道くらい、自分で守るがいいさ』
「あの、羽田さん」
車を降りて去り行く羽田さんの背中に、僕はとっさに声を掛ける。
「はい、なんでしょ」
「これも何かの縁だ。私に拾われてしまったのが運の尽きですな、若造よ。
恩師の言葉です」
羽田さんはそれから敬礼をしてから走るように立ち去った。
そうなんです。
すみませんが僕はこれに命を掛けさせて頂きますので、こんな若造の命を散らすためにあなたを殺すわけにも…。
「なぁなぁ」
「…はい?」
「あのさ」
「はい」
「俺は右目の視力が極端に悪いんだよ」
どうしたんだろ急に。
「あぁ、言ってましたね。頭打ったんでしたっけ」
「うん。ぶん殴られてな。左側にレンガをな」
「うわっ、痛っ」
「死にかけたよ。ほらほら」
とか言って頭を見せてきた。確かに左側の後頭部に少し、凹んだような傷があった。
「うわー」
「後ろからアメリカ兵にがつっといかれてねー。米軍基地だった。俺がちょっとそいつに生意気言ったんだよ。仲間だったんだけどさ。喧嘩しちゃって。いまは仲良いけどな」
「すげぇ、僕そーゆーのちょっとよくわかんない」
しかし…。
「だからそんなうざったく髪伸ばしてんですね」
「うざったくって」
「だっていかにも邪魔そうなんだもん」
「まぁだから縛るんですよ」
「めんど」
「あんたにはな」
で。
「それがなんだって言うんですか」
「いやぁ、だからつまりさ」
樹実はもの凄く言いにくそうにそっぽ向いてタバコに火をつけようとして、失敗した。この人は最早100円ライターじゃない方がいいと思うんだ。
「きょーみ本意で連れて来て悪かったって、ただそれだけなんだよ。だからなんつーか…。
俺も弱点あっから、まずは俺のサポートして?悪いけど」
「はぁ?」
なんだこいつは。
呆れてしまう。呆れて一周回って。
「ふ、ははははは!」
笑ってしまった。
「君、可笑しいって、言われませんか?え?頭打っちゃったからなのそれ、」
「え、な、」
「あのねぇ、」
あぁ、バカじゃねぇの。
「びびってんじゃねぇって。あんたには悪いが今のとこまだあんたになんて感謝すらしてないから」
ホント、こんなとこまであのときの僕なら。
果たして僕一人なら来たのだろうか。
「あぁ、そうですかい」
今度は不機嫌そうで。それがまた面白くて笑ってしまった。
「んだよさっきから」
「いやぁ、なんか僕らって、なんなんでしょうね」
なんなんだろう。
取り敢えずもういいや。
「よくわかんねぇな」
「僕もそれは思います」
そう言って見つめ合えばどちらともなく笑い出してしまって。
そんな中、外部から窓を叩く音がした。振り返れば、自衛隊員。あらあらバレました。まぁそりゃぁ、そうでしょうな。
仕方なく窓ガラスを開けると、「お前ら、どこの隊の」クリーンヒット。まさかそんなに見事に殴られてくれると思わなかった。だっていかにも屈強で露骨な軍人だし。後ろで樹実が「うわぁ、最悪」と溢す。
これは仕方ないので、「大丈夫ですか、すみません」とか言いつつドアを開けて外に出て、よろけて唖然としている屈強な彼に拳銃を押し付け、確保。後部座席に乗せ、取り敢えず銃を向けたまま、「さて、どうしましょう」と樹実に聞いてみれば。
「どうしましょうじゃないよね、お前バカだろ何してんだよ!」
叱られてしまった。
「いやぁ、ちょっとびっくりしちゃって」
「お前これじゃ完璧にテロリストじゃねーかよ!」
「先に手が出ちゃって」
「タチ悪っ。チンピラでももっと頭使うからね!」
なんかそんなに言われるとムカついてきちゃうな。
「そんなに人のこと言ってますけどあんたの計画だってなんですか?ここで待ち伏せって、しかも空将って、何、行きゃぁいいでしょうよ何?」
「だからさ、俺さ、陸軍追い出されたからわりと有名なのよ会ってくんねぇって説明したよね、わかる?」
「だから忍び込んで張り込みってそれも最早テロに近くないですか?」
「あーあー!ちょ、拳銃を向けて喋らないの怖いでしょうよ!お前この距離絶対当たっちゃうでしょわかるよね!?」
気付かないうちにさっきまで隊員に向けてた拳銃を樹実に向けて、しかもなんか振っちゃいながら喋っていた。確かに当たっちゃうかもしれない。しかしそれで僕に拳銃を向けてくるあんたもどうなんだとさらに腹立たしく感じてきた。
「いやちょっと向けてこないでくださいよ!ムカつくなぁ!」
とか言って樹実の銃を取り上げようとしたとき。
「貴様らなんなんだ!」
あ、忘れてた。そうだそうだしかし今は。
「うるさいなちょっと黙ってろ三下!車整備でサボりに来たのが運の尽きですね!はい、じゃぁ予定変更、君人質!」
「はぁ!?」
「いや、雨さん、流石にちょっと慈悲がないんじゃ…」
とか樹実がしゃばいこと抜かし始めたので。
「うるさいもう行きましょうはい、予定変更!僕が多分今一番官位高いから上司命令!決定!」
「え?」
「いや雨さんそれは多分…」
「俺准将っすけど」
「は?」
断然彼の方が上官だ。
「まぁ、細かいことはなしにして。仕方がないので行きましょうか」
「は?」
「貴方は人質です、ご愁傷さまです」
思いっきり樹実が溜め息を吐いた。
何、もうここまで来たらやれることをやるしかないと割り切るしかないのだよ。そんな眼差しで見るが、明らかに樹実は呆れている。
「ほらほら早く!」
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