Sound Keen You

二色燕𠀋

文字の大きさ
11 / 20

11

しおりを挟む
「仕方ねぇなぁ」

 樹実はぼやいてから、後ろから突進してくる木崎准将に涼しい顔で裏拳をかました。あぁ、確かに左側だと反応が早いんだなぁ。

 第三研究室やそれぞれ空いている部屋から人が出てくる。だが樹実は、「うるさいなぁ」とのんびり言い、右側を顎でくいっと示したので、仕方なく非常ベルを撃った。

 ちょっとやっぱりオートマチックは使いにくいなぁ。好きじゃないよ師匠。

 取り敢えずサイレンは止まった。

「みなさんお集まりのなかどーも。はい、国勢調査でーす。わかったらさっさと誰でもいいから資料室連れてけ」

 と言い、樹実はFBI手帳を見せびらかす。多分、間違えて出してしまったことに彼は気付いていない。が、面白いので言わないでおこう。

 まわりの研究者や軍人が、「初めて見た」だの、「FBIかよ!?」だのひそひそ言い始めたあたりで漸く樹実は気付き、確認。「あっ」と洩らす。

「まぁいいや。もーいいや。偉い人んとこ連れて」

 喋っている最中に右側から白衣を来た研究者が樹実に発砲しようとしていたので、咄嗟に撃ってしまった。

「あっ」

 見事に後ろに倒れた。血飛沫が綺麗に、舞う。
 やべぇ、殺したかな。一介の研究者を。

 「おい!」と、その研究者に皆一様に駆け寄る。そして「いてぇぇ!」と、撃たれた本人が喚いているので、どうやら殺してはいないことがわかった。

 少し安心したのも束の間、僕らはどうやら一気に「テロリスト」色が強くなってしまったらしい。先程よりも向けられる銃口が増えた。

 まぁここまで来てしまっては仕方がない。元々アウェイだ。

「てめぇら後悔すんなよ」

 喋り方だけは楽しそうにそうだが、目付きは鋭く口許だけはシニカルに吊り上がる。耳元で、「このまま突き進もうか」と、樹実は無謀な事を言っているが表情的に、どうやら結構マジらしい。

「無茶しますね」
「そうかなぁ」

 もう溜め息を吐くしかない。だがそんな僕を見て彼は、今度は軽やかに楽しそうに笑った。

 それを合図にしたかのように、彼の起爆スイッチは入ったようだった。

 恐らく3人ほどぶん殴った辺りで援護がどこかからやって来たのだろうが、案外意味はないようだ。流れるように人の並みは、道が出来てなくなっていく。相手が軍人だからこそ、彼は確実な体術で敵をかわし、怪我を負わせていく。

 しかしながらやはり右からの攻撃にはどうもワンテンポ遅れてしまうようだ。

 それでも、その辺の軍人が束になってもまったく意味がないくらいにずば抜けた体術を持っていた。最早、場数が違うのだろうとわかる。

 彼は一体何者なのだろうか。

 二人で夢中になっている最中、一人の、援護に来た軍人が言う。

「射殺命令が下ったぞ!」

 と。
 ぶっちゃけ遅すぎるがまぁ、これでこちらも遠慮なくいける。

「疲れたしちょーどいーわ」

 樹実も同じ事を考えたらしい。ネクタイを緩め、ニヒルに笑った。

「掛かってこいよ、全員ぶっ殺す」

 一斉に拳銃を向けられる。敵方の殺意が一気に上がったが。

「しゃべぇなぁ」

 却って樹実はやる気を失ったように、深い溜め息を吐いてタバコを取りだし、火をつけた。ダルそうに首に手を当て、傾げるように骨を鳴らす。

「行くか。拍子抜けした」

 確かに皆さま疲労感やらびびってる感やらで誰一人来ようとはしませんね。まぁ、あんだけ化け物みたいな身体能力を見せつけられたらそりゃぁ…。

 とか思っていたら樹実がちらっと右側を見たので、ハンマーが鳴った気がするその右側へ取り敢えず一発撃ち込んでみる。

「おい!」
「貴様ぁぁ、なんて事を!」

 騒然とした。思いのほか当たりだったようだ。まだ若手っぽい軍人の眼球あたりを仕留める。樹実が口を吹いた。

「今サボりましたよね」
「ダルいんだもん。てかすげぇじゃん」

 確かに僕、よく出来たな今。
 動揺が敵軍に走る中、樹実は、面倒臭そうに、一番真ん中にいた奴の左肩辺りに発砲した。

「うがっ!」

 かと思えば走ってそいつを掴み、道を開けるように引き摺っていく。どうやら樹実は新たな人質を確保したらしい。その行動の鮮やかさに、唖然としている暇もなく僕は後ろをついていくことしか出来なかった。

 それからワンテンポ遅れて見える軍人たちの攻撃にも、樹実は銃の持ち手に一発撃ち込んだり蹴っ飛ばしたりナイフを奪ったり人質を盾にしたりしながらかわしていく様は最早殺人鬼でも出来ないだろうと思えた。

 後ろからも一応援護射撃をして、人だかりを突破。その頃にはお互い血塗れになっていた。吸っていたタバコもいつの間にやら捨てたようだった。

「あっ、」

 大体が倒れているなか最後、血走った目でジャックナイフを持ち奇声を発して樹実に突進したのは研究者だった。戦闘に慣れていなそうなそれが反って予測不能で、樹実に後あと一歩で刺さりそうになってしまった。

 気付けば僕は、その研究者を射殺していた。よく見れば右側だった。この時ばかりは大層驚いた表情で樹実は僕を見つめてきた。

「…お前…」

 よくよく見れば樹実も、結構息は上がっていたが。そりゃぁ、そうかと少し、納得したような驚いたような気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

処理中です...