12 / 20
12
しおりを挟む
「てかそうだ…」
僕だって。
僕はいま殺してしまった学者から、ちょうど良いと思い、白衣を拝借した。
「…これ、血避けにいいですね」
そう言いながら羽織ってみると、白衣に染み付いた薬品の臭いと鮮血の臭いが鼻についた。少し気を抜けば、吐きそうだ。
「はは、お前もだいぶ胡散臭いな」
あんたに言われたくないよ。
「しかしこれいいですねぇ。銃もタバコもポケットに入る。便利だ」
「あっそう。てかはい」
ふと樹実が何かを僕に投げて寄越してきた。動体視力で反射的に受け取ると、手に馴染みのない感触。
掌サイズのごつごつした、嫌な軽さ。
よく見てみなくてもわかった。手榴弾だ。
「面倒だから一気に行こうや。使い方わかる?上のピン抜いて後ろにぶん投げたらいーよ」
「あんたってやっぱクズの分類ですよね。
はーいみなさーん、この人頭おかしいから、死にたくなかったら5秒で避難してくださいねー!」
手榴弾を高々と敵方に見せながら一応警告。これがわりとよくなかったようで、「うわっ!」と、近くにいた軍人が動揺してタックルをかましてきたが、真っ正面から取り敢えず鳩尾に蹴りを入れた。短い唸り声とぼすっと言う音と共に彼は地面に倒れた。
どうやらここの軍人は死にたがりが多いらしいな。
舌打ちをして再び、足元の軍人を蹴飛ばす。「イライラしてんなぁ」と空気も読めないような、楽しそうな口調で樹実は言いやがる。
「お前さ、50m何秒代だった?」
「は?覚えてないですけどわりと僕は文化系ですよ」
とか言う無駄話を、軍人たちはここまで来れば唖然として見ていた。中には「防御服!」とか「銃をしまえ!」だとか叫ぶような精神のヤツもいたりして。
「あぁ、ぽいね。でも頑張って。それ4秒後に30mくらいだから」
「…最早人間じゃ太刀打ち出来ねぇじゃねぇかこの外道!」
どちらともなく廊下を走り出した。最早資料室とか言ってる場合ではない。しかしこれ、どこに走ってんだ。
「え、投げないの?」
「当たり前だろ死ぬっつーの!てめぇ公安だよな一応!軍人だけど!」
「うん、公安だよ仮にな。
大丈夫、催涙弾だ」
あ、なぁんだ。って。
「緊張を返せ!」
「ははー。じゃぁタバコ吸うわ」
「走れるんですかそれで!」
「無理だな。
息吸うなよー。つってもあれか、あんた眼鏡だから大丈夫か」
「そーゆー問題じゃない…」
もうダメだこの人。ムカつくから凄い不意打ちなタイミングで放り投げて驚かしてやろう。
さてあと10mくらい。流石に敵方も密集してきた。そりゃぁこれ、まさか催涙だとは思わないだろう。これって彼が作ったんだろうか。
一度僕が立ち止まると、驚いて樹実も足を止めてしまった。
「10m。左の階段へどうぞ。あそこの扉堅そうなので頑張って柔らかーくしといてください」
「…かっけぇ!チューニ病!」
素直に呟いて樹実は先に再び走り去った。
よしよしどうせなら人生初、悪役っぽさやってみようか。
僕もシニカルに笑い、(出来たかわからない)やっぱり使いにくいのでリボルバーに持ち直して向き直り、手榴弾を再び掲げてみた。
敵方も一応軍人、足は止めても銃口は向けてくる。誰か一人が発砲してきたのでそれに対応するように返答発砲。誰かの左足に穴が開いたようで「あっ…!」と呻いて踞るが、最早彼を気遣える精神状態の軍人はおらず、皆僕の動作を見逃さないように見詰めていた。
痛く、シュールレアリズム。
少し笑いそう。我慢してピンを抜き、後方の誰もいなくなり荒んだ廊下へ放り投げた。
そして僕も構っていられず振り向いて走る。
2、1…。
銃声がした。あぁ、それってやっちゃいけないことなんじゃ…。
視界がブレる。
は?
足に激痛が走った後に、じわりと感覚がなくなっていくのがわかった。
見れば右足に、麻酔弾が刺さっていた。
マジかよ。
階段を前にして跪く後頭部辺りでカシャッと音がした。振り返れば黒煙の中に佇む軍服の誰かが銃を向けている。多分こいつが撃ってきたな。しかし握っているのは音の感じ的に恐らくは重い感じの銃だ。
「雨っ、」
扉の向こうから樹実が声を掛けてくる。そして敵を見つめ、「てめぇか…」と樹実は呟いた。
「まだやってんのか茅沼」
呆れたような、掠れきった声。樹実は一瞬躊躇うように俯いたが、「うるせぇ」と呟き、そいつを撃った。真後ろで、人が倒れる湿った音がする。
そして樹実は扉から降りてきて僕に手を貸してくれた。そのまま引っ張りあげられるように扉の向こう側へ行き、重い音で地下空間を遮断した。
僕だって。
僕はいま殺してしまった学者から、ちょうど良いと思い、白衣を拝借した。
「…これ、血避けにいいですね」
そう言いながら羽織ってみると、白衣に染み付いた薬品の臭いと鮮血の臭いが鼻についた。少し気を抜けば、吐きそうだ。
「はは、お前もだいぶ胡散臭いな」
あんたに言われたくないよ。
「しかしこれいいですねぇ。銃もタバコもポケットに入る。便利だ」
「あっそう。てかはい」
ふと樹実が何かを僕に投げて寄越してきた。動体視力で反射的に受け取ると、手に馴染みのない感触。
掌サイズのごつごつした、嫌な軽さ。
よく見てみなくてもわかった。手榴弾だ。
「面倒だから一気に行こうや。使い方わかる?上のピン抜いて後ろにぶん投げたらいーよ」
「あんたってやっぱクズの分類ですよね。
はーいみなさーん、この人頭おかしいから、死にたくなかったら5秒で避難してくださいねー!」
手榴弾を高々と敵方に見せながら一応警告。これがわりとよくなかったようで、「うわっ!」と、近くにいた軍人が動揺してタックルをかましてきたが、真っ正面から取り敢えず鳩尾に蹴りを入れた。短い唸り声とぼすっと言う音と共に彼は地面に倒れた。
どうやらここの軍人は死にたがりが多いらしいな。
舌打ちをして再び、足元の軍人を蹴飛ばす。「イライラしてんなぁ」と空気も読めないような、楽しそうな口調で樹実は言いやがる。
「お前さ、50m何秒代だった?」
「は?覚えてないですけどわりと僕は文化系ですよ」
とか言う無駄話を、軍人たちはここまで来れば唖然として見ていた。中には「防御服!」とか「銃をしまえ!」だとか叫ぶような精神のヤツもいたりして。
「あぁ、ぽいね。でも頑張って。それ4秒後に30mくらいだから」
「…最早人間じゃ太刀打ち出来ねぇじゃねぇかこの外道!」
どちらともなく廊下を走り出した。最早資料室とか言ってる場合ではない。しかしこれ、どこに走ってんだ。
「え、投げないの?」
「当たり前だろ死ぬっつーの!てめぇ公安だよな一応!軍人だけど!」
「うん、公安だよ仮にな。
大丈夫、催涙弾だ」
あ、なぁんだ。って。
「緊張を返せ!」
「ははー。じゃぁタバコ吸うわ」
「走れるんですかそれで!」
「無理だな。
息吸うなよー。つってもあれか、あんた眼鏡だから大丈夫か」
「そーゆー問題じゃない…」
もうダメだこの人。ムカつくから凄い不意打ちなタイミングで放り投げて驚かしてやろう。
さてあと10mくらい。流石に敵方も密集してきた。そりゃぁこれ、まさか催涙だとは思わないだろう。これって彼が作ったんだろうか。
一度僕が立ち止まると、驚いて樹実も足を止めてしまった。
「10m。左の階段へどうぞ。あそこの扉堅そうなので頑張って柔らかーくしといてください」
「…かっけぇ!チューニ病!」
素直に呟いて樹実は先に再び走り去った。
よしよしどうせなら人生初、悪役っぽさやってみようか。
僕もシニカルに笑い、(出来たかわからない)やっぱり使いにくいのでリボルバーに持ち直して向き直り、手榴弾を再び掲げてみた。
敵方も一応軍人、足は止めても銃口は向けてくる。誰か一人が発砲してきたのでそれに対応するように返答発砲。誰かの左足に穴が開いたようで「あっ…!」と呻いて踞るが、最早彼を気遣える精神状態の軍人はおらず、皆僕の動作を見逃さないように見詰めていた。
痛く、シュールレアリズム。
少し笑いそう。我慢してピンを抜き、後方の誰もいなくなり荒んだ廊下へ放り投げた。
そして僕も構っていられず振り向いて走る。
2、1…。
銃声がした。あぁ、それってやっちゃいけないことなんじゃ…。
視界がブレる。
は?
足に激痛が走った後に、じわりと感覚がなくなっていくのがわかった。
見れば右足に、麻酔弾が刺さっていた。
マジかよ。
階段を前にして跪く後頭部辺りでカシャッと音がした。振り返れば黒煙の中に佇む軍服の誰かが銃を向けている。多分こいつが撃ってきたな。しかし握っているのは音の感じ的に恐らくは重い感じの銃だ。
「雨っ、」
扉の向こうから樹実が声を掛けてくる。そして敵を見つめ、「てめぇか…」と樹実は呟いた。
「まだやってんのか茅沼」
呆れたような、掠れきった声。樹実は一瞬躊躇うように俯いたが、「うるせぇ」と呟き、そいつを撃った。真後ろで、人が倒れる湿った音がする。
そして樹実は扉から降りてきて僕に手を貸してくれた。そのまま引っ張りあげられるように扉の向こう側へ行き、重い音で地下空間を遮断した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
悪役令嬢、休職致します
碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。
しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。
作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。
作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる