天獄

二色燕𠀋

文字の大きさ
10 / 48
破壊衝動

4

しおりを挟む
「…お前特売品の良さわかってくれないからいい、俺が行く」
「えっ」
「えっ」

 我に返ったようにタマが「いや、ダメです会長」と江崎を諭し始める。

「覚えますので同行」
「大丈夫大丈夫、まさか俺がスーパーの特売漁ってるとか、誰も夢にも思わないだろ」
「いや、」
「危機感ないんじゃないんですか?貴方分派の会長でしょ?殺されないの?」
「おうよ、第一そんな一般的なところで殺しやるヤクザはいねぇよ、あと慧、お前に言われても全く説得力がない」
「確かに…」
「大体逆に怪しいだろタマ。男二人でスーパー行くか普通」
「いや、そこは行きますよ普通に」

 にゃっはっは、と明るく笑う会長はどうやら機嫌が良いらしい。
 こんなんじゃ、タマは気が気でないだろうと「みんなで行きましょうか…」と提案して思い付く。

「てゆうか、俺が行けば良くないですか?どうせ事務所は入れて貰えないしその間暇で」
「バっカそれじゃ面白くないだろうが、わかった、もうタマ任せる、いいわ特売じゃなくても所詮数十円だし。ついでにお前も食ってけ。お前はアレルギーないよな?」
「え、あ、はい、花粉のみですが…。いや恐縮ですがおわかり頂いて助かります会長。後でメモください」

 補佐が渋滞している。まぁ、そりゃそうなんだろう、この人は変わっている。

「なんか、俺のせいですね、すみません」
「いや…」

 いつも通りクールな調子を戻したタマは「加賀谷くんのせいではないでしょう、別に」と、本当に凄い、一瞬にして“お前なんて嫌いだよ”調子に戻った、流石はヤクザだ。

 直接聞いたことはないけれどわかっている、というか当たり前だ。自分はマトリとも繋がっている。
 まして、この人たちも対処に困る「堅気」だ。ヤクザのヤの字もない。

 自分がタマの立場ならこんなヤツ、歯痒くて仕方ないだろうと思う。故にいつも顔を上げることが出来ない。

 本当は関わり合いになるはずもなかった両者。それを繋いでいる自分。

 だから、適当に利益になれば捨てられると思っている。
 勿論そのときには、いくら一般人とはいえ片足を突っ込んでしまっている、自分は生きているのかわからない。

「俺は君を守らなきゃね」

 誠一はそう言ったが、誠一だって警察ではないのだし、わからないのではないかと思う。
 そして正直、別にそれは望んでいない。

 先まで歩けば曲がり道にぶち当たり、また先まで行くと自分がさっき立っていた場所が見えてくる。円に似ているが道順がある関係。

 この三角関係は最早、誰が抜けてもリスクがある。
 
 しかしもしも、橋を一本抜いてみたとしても、残った道はなんら変わりがない、ただただ近道を失くしただけの存在になるのだ。

 自分は、そこにいる。
 必要であればまた新しい橋を架ければ良い。

 ただ、お宅らのギャンブルに乗っかっただけだと割り切ればいいのに。
 自分はどちらも選べない人間なんだ、少しわかって欲しいなと、江崎の上機嫌の横で思う。

 僅かに、罪悪感が湧く気がするのだ。

「あ」

 ケータイがピコピコと通知している。誠一だった。
 察したのかケータイを眺めてきた江崎は「はいはいなんだって?」と興味深そう。

 開けば簡素に「あの辺でインド辺りと取引してる組聞いといて」と書いてあった。

「インドか……」

 江崎は含みがあるように目を細め「アレ、苦かった?」と聞いてくる。

「え、いや、覚えてない…」
「ふーんじゃあ違うな…。
 あの辺俺ら一軒しか持ってねぇからテリトリー把握出来てないんだよね。まぁあの腹黒サイコでも把握なんて無理だと思うけど、知ってる限り組教えろって送っといて」
「わかった」

 言われた通り、今の話を噛み砕き「あの辺カオスだからわからないって。知ってる組教えてだってさ」と送っておいた。

 結構すぐ、「城島、有明、一條とお前ら」と返信が来る。
 そして追記で「江崎さんは知っていると思うけど、お得意さんで結構な数を八十田連合が持っている。けど、八十田は先輩が持ってるから今は動けない」とまで来た。

「へぇ、八十田やそだ薬やってんだな。マトリが言うなら、そうだよな」
「…あんな狭い場所でこんなに入ってるんだ…」
「倍率高いからな。ここまで来ると少しくらい見落として埋まってないところもあるだろうが…タマはどう思う?」
「そうですね…。見たところ加賀谷くんが持ってきたのは新種でしょうし…インドは最近流行ってますからねぇ、八十田もやっている可能性はなくはないでしょうけど、やはりどこか、新参が入り込んだんじゃないでしょうか。
 もしくは単に売人側がこちらの事情を知らず、東京ならどこにでも売り出していて、たまたまその日そこに当たってしまった、とか」
「だよなぁ、八十田のジジイは頭固いもんな。
 しかし平良もバカだねぇ、その口調だとまた先輩潰ししようとしてんじゃないの?あいつは純正のアドレナリンジャンキーだよな、ヤクザもビックリだわ。
 まぁ平良も八十田も共倒れてくれたらこっちは儲かるけど。八十田はそもそも俺やあいつみたいなぺーぺーにゃ潰されねぇよ。どっからその自信が出てくんだか」

 話について行けないだけに「そうなんだ」としか言えないが、誠一がアドレナリンジャンキーで自信家だという点は納得出来る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

神様は僕に笑ってくれない

一片澪
BL
――高宮 恭一は手料理が食べられない。 それは、幸せだった頃の記憶と直結するからだ。 過去のトラウマから地元を切り捨て、一人で暮らしていた恭一はある日体調を崩し道端でしゃがみ込んだ所を喫茶店のオーナー李壱に助けられる。 その事をきっかけに二人は知り合い、李壱の持つ独特の空気感に恭一はゆっくりと自覚無く惹かれ優しく癒されていく。 初期愛情度は見せていないだけで攻め→→→(←?)受けです。 ※元外資系エリート現喫茶店オーナーの口調だけオネェ攻め×過去のトラウマから手料理が食べられなくなったちょっと卑屈な受けの恋から愛になるお話。 ※最初だけシリアスぶっていますが必ずハッピーエンドになります。 ※基本的に穏やかな流れでゆっくりと進む平和なお話です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...