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アンビバレンス
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実際、後に「あながちあの勘は間違いじゃなかったのね」と思う近年。そこは言わないでおく、半井は健康無垢で屈強だ。
変な色のカプセルがなんなのか気になる。
「ウチ、まだ特別ロゴとかないし、これを機に作ってみない?あのね、なんでも作ってくれる屋だった。しかも安いの。個人っぽかったから個数限定したら多分出来る、結構良いやつが」
「なるほど。確かに、そろそろ半井の落書きTシャツには無理があるかもって思ってた…」
「帰りに寄ってみない?店主がね、最近始めたばっかで、しかも20歳だって。お互いウィンウィンじゃない?上手くいったら」
「あ、いーよー…」
気になる…。
「あのさ、やっぱ気になってしょうがないんだけど半井、どっか具合悪いの?」
「あー、そうそう、でね、そう、慧よく出番前に薬飲んでんなーと思って言ってみた。これ頭めっちゃ冴えるやつ。
その人なんか、本業は処方箋の人?らしくて」
「え、待ってスッゴい情報過多なんだけど大丈夫なの?それ」
「気の持ちようだよ?」
無垢に言われてしまった。何その処方箋の人20歳。マトリだのヤクザだのとつるんでいるせいだろうか、凄く怪しく感じる…。
20歳?それって俺たちみたいに専学?それ可能?
頭の中で考えながら、いくらパンク路線じゃないとはいえ随分飼い慣らされた思考だな…と遠くなりそうだった。
ちょっと緩いメンバーだからこそ今があるのは重々承知だが、「ホントに悩みとかあったの…?」なんて聞いてしまう。
「俺に悩みなんてあるように見える?」
「見えないから怖いんじゃん~っ」
「ダイジョブ!俺はいつでも全力ポジティブマンだから!」
「も~バカ~っ!」
全くちゃんと考えてよ世の中!と心の中で何を言ってやろうかぐるぐる考えているうちに「何?なんか超楽しそうじゃん」と黒田が入ってきた。
「さとちゃんにグッズ交渉したぜ!」て、おいおいここは話し済みだったの?と追い付かない。
この現場は多分、冷血漢の誠一が見ていたら「バカに塗る薬は脱法でも合法でもこの世に存在しないから」と切り捨てられそうだ。身を持って世間の認識の甘さを知る。
自分は精神科に通うから思うのだ、気の持ちようで済めばいい、なのにあっさり処方されるものが結構キツイ。
身体と心のバランスを計れるのは自分だけで、だからこそ、普通に生きる為のアンテナはフリーWi-Fiのように混雑している。
…でもまぁ、行こうと決めたなら見ればいい。丁度良い立ち位置なのかもしれない。
何かを助ける音楽も出来ない、そんな人間ではないから。そうしたいとあまり思ったことはないけれど、身近な半井は当たり前に心配だ。
「この前言ってたやつか。ピルケースって女の子にウケそうだよね、俺の彼女いつもバファリン隠し持ってる」
「あ、そーなん?」
「電車とかで急に腹痛くなった時とか、地味に人目が気になるって」
「あ、それわか」
「黒田お前彼女出来たんかよおい!いつだよ聞いてねぇけどっ!」
…んーでも平和な景色…変な感覚…。これが普通のはずなんだけど、なんかふわふわするな…自分って今どこにいるんだっけ…。
こういう優柔不断さがいけないんだよなと、「わかった、わかったから始めよっか」と声を掛ける。
日常はいつも、大体が楽しい。
楽しいが繰り返され麻痺することもあった昔、いまは…黒田と半井がどうにかと、自分に気を遣ってしまっているのをしばしば感じる、それは後ろめたい。
ある日突然、前触れもなく訪れたであろう出来事。自分は明るい二人に暗い気持ちを話すことが出来なかった。
これは、二人のせいじゃない。
良くも悪くも、もしかすると自分は大して人を信用していないのかもしれないと思うと、少し辛かった。黒田と半井はとても良い友人だし、真鍋くんも良い仲間だ。
あれを乗り越えさせてしまった、たった二人の友人。
いつもごめんね。
三人にそう思いながら「よし、やろうね」と…でも、変な疎外感が頭を占めてしまった。
こんな内側のことは、誰も当たり前に知らない。そのまま世界は回っているのだから。
「休憩はもう大丈夫なん?」
「うん、だいじょ」
「俺ももう早く弾きたいです!」
ちょっとした年下とのギャップ。
「いやいや真鍋~いま黒田は慧に聞いたんだぜ~」
「あ、はい…」
「いや、本当に大丈夫だよ。ごめんね、お待たせしました。やろ、やろ!」
多分自分は外面も良い。
弾き始めて思う、あの自殺未遂に特別な意味なんてなかった。
でもずっと、昔からあの黒い闇は内に飼っていた、ただ存在を認めてやらなかっただけ。
いつの間にかそれは自分のすぐ側まで来ていて、ある日噛み付いてきた。
そしてふっと、糸が切れてしまったような感じであんなことをしてしまった。
黒田と半井は果たしてどう思ったんだろう。顔を、上げられない。
彼らは何も聞いてこず、ただただ「よかった、」としか言わなかった。
皆、死にたい理由は明確になっているものなんだろうか。自分ではわからない物を持ってはいないものなんだろうか。
もしかすると、積み重ねだ。小さな何かが20年も溜まっていったなら。
でも、やってしまった自分とやらなかった黒田と半井とは差がある、ような。どうしてなんだろう。
悪いことと良いことの差なのかもしれない。
変な色のカプセルがなんなのか気になる。
「ウチ、まだ特別ロゴとかないし、これを機に作ってみない?あのね、なんでも作ってくれる屋だった。しかも安いの。個人っぽかったから個数限定したら多分出来る、結構良いやつが」
「なるほど。確かに、そろそろ半井の落書きTシャツには無理があるかもって思ってた…」
「帰りに寄ってみない?店主がね、最近始めたばっかで、しかも20歳だって。お互いウィンウィンじゃない?上手くいったら」
「あ、いーよー…」
気になる…。
「あのさ、やっぱ気になってしょうがないんだけど半井、どっか具合悪いの?」
「あー、そうそう、でね、そう、慧よく出番前に薬飲んでんなーと思って言ってみた。これ頭めっちゃ冴えるやつ。
その人なんか、本業は処方箋の人?らしくて」
「え、待ってスッゴい情報過多なんだけど大丈夫なの?それ」
「気の持ちようだよ?」
無垢に言われてしまった。何その処方箋の人20歳。マトリだのヤクザだのとつるんでいるせいだろうか、凄く怪しく感じる…。
20歳?それって俺たちみたいに専学?それ可能?
頭の中で考えながら、いくらパンク路線じゃないとはいえ随分飼い慣らされた思考だな…と遠くなりそうだった。
ちょっと緩いメンバーだからこそ今があるのは重々承知だが、「ホントに悩みとかあったの…?」なんて聞いてしまう。
「俺に悩みなんてあるように見える?」
「見えないから怖いんじゃん~っ」
「ダイジョブ!俺はいつでも全力ポジティブマンだから!」
「も~バカ~っ!」
全くちゃんと考えてよ世の中!と心の中で何を言ってやろうかぐるぐる考えているうちに「何?なんか超楽しそうじゃん」と黒田が入ってきた。
「さとちゃんにグッズ交渉したぜ!」て、おいおいここは話し済みだったの?と追い付かない。
この現場は多分、冷血漢の誠一が見ていたら「バカに塗る薬は脱法でも合法でもこの世に存在しないから」と切り捨てられそうだ。身を持って世間の認識の甘さを知る。
自分は精神科に通うから思うのだ、気の持ちようで済めばいい、なのにあっさり処方されるものが結構キツイ。
身体と心のバランスを計れるのは自分だけで、だからこそ、普通に生きる為のアンテナはフリーWi-Fiのように混雑している。
…でもまぁ、行こうと決めたなら見ればいい。丁度良い立ち位置なのかもしれない。
何かを助ける音楽も出来ない、そんな人間ではないから。そうしたいとあまり思ったことはないけれど、身近な半井は当たり前に心配だ。
「この前言ってたやつか。ピルケースって女の子にウケそうだよね、俺の彼女いつもバファリン隠し持ってる」
「あ、そーなん?」
「電車とかで急に腹痛くなった時とか、地味に人目が気になるって」
「あ、それわか」
「黒田お前彼女出来たんかよおい!いつだよ聞いてねぇけどっ!」
…んーでも平和な景色…変な感覚…。これが普通のはずなんだけど、なんかふわふわするな…自分って今どこにいるんだっけ…。
こういう優柔不断さがいけないんだよなと、「わかった、わかったから始めよっか」と声を掛ける。
日常はいつも、大体が楽しい。
楽しいが繰り返され麻痺することもあった昔、いまは…黒田と半井がどうにかと、自分に気を遣ってしまっているのをしばしば感じる、それは後ろめたい。
ある日突然、前触れもなく訪れたであろう出来事。自分は明るい二人に暗い気持ちを話すことが出来なかった。
これは、二人のせいじゃない。
良くも悪くも、もしかすると自分は大して人を信用していないのかもしれないと思うと、少し辛かった。黒田と半井はとても良い友人だし、真鍋くんも良い仲間だ。
あれを乗り越えさせてしまった、たった二人の友人。
いつもごめんね。
三人にそう思いながら「よし、やろうね」と…でも、変な疎外感が頭を占めてしまった。
こんな内側のことは、誰も当たり前に知らない。そのまま世界は回っているのだから。
「休憩はもう大丈夫なん?」
「うん、だいじょ」
「俺ももう早く弾きたいです!」
ちょっとした年下とのギャップ。
「いやいや真鍋~いま黒田は慧に聞いたんだぜ~」
「あ、はい…」
「いや、本当に大丈夫だよ。ごめんね、お待たせしました。やろ、やろ!」
多分自分は外面も良い。
弾き始めて思う、あの自殺未遂に特別な意味なんてなかった。
でもずっと、昔からあの黒い闇は内に飼っていた、ただ存在を認めてやらなかっただけ。
いつの間にかそれは自分のすぐ側まで来ていて、ある日噛み付いてきた。
そしてふっと、糸が切れてしまったような感じであんなことをしてしまった。
黒田と半井は果たしてどう思ったんだろう。顔を、上げられない。
彼らは何も聞いてこず、ただただ「よかった、」としか言わなかった。
皆、死にたい理由は明確になっているものなんだろうか。自分ではわからない物を持ってはいないものなんだろうか。
もしかすると、積み重ねだ。小さな何かが20年も溜まっていったなら。
でも、やってしまった自分とやらなかった黒田と半井とは差がある、ような。どうしてなんだろう。
悪いことと良いことの差なのかもしれない。
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