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アンビバレンス
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「最近調子良いよね、さとちゃん」
リードギターの真鍋くんに、ふと、そう言われた。
「え?そうですか?」
喉が乾く。
なんとなく、それで休憩の雰囲気が漂った。
持参した水を飲む。
始め、ここは三人だった。
真鍋くんは一時の休止後、音楽はやりたいけれど場所がないと、入ってくれた。
だから少し年下。けれど、親しみを込め自分を愛称で呼んでくれる。
その時点で、元学校の子か元ファンなのかもしれないという認識があるけれど。
「最近なんかいーことあった?」
半井がにやにやする。
半井のように突然モヒカンになるようなイメージのバンドではないと思うが、真鍋くんは自分達のファンにはいなそうな、マッシュボブを貫いている。そんな子。
「いや~、別に変わらないけど…」
「調子が良いってより、戻った、に近い気がする」
ベースの黒田にそう言われ、少しほっとした。
「確かに~」
「レフト持ち出してから少しずつね」
「…でもこの前、真鍋くんにほぼ全投げしちゃって…ごめんねヘタクソで」
「いや、そうでもなかったよ?何より歌があるし、さとちゃんには。カポズレしても自然と音取れる音感凄いと思った、嫌味じゃなく」
「あー、そう、慧は学校でそのへん好成績だったもん。そうなんだよなぁ。あまりに自然でこっちが音ズレ気付かないときあるたまに。リズム隊なのに」
「そんなにマメにカポズレしてないよ、ごめんホントに!」
「それも才能だし多分あれ、客にはわかんねぇからダイジョブだぜ、慧」
「ん~ありがとう~、でも頑張るまだダメ、ちょっと悔しい」
それは本音だが「慧は根詰めるからダメなんだよ」と窘められた。黒田に言われてしまうと「う~ん」と引き下がるしかない。
自分はわりと、優しい人間に出会ってきた自覚がある。なのに、数々を裏切り生きている。
休止をしたのは自分の自殺未遂のせいだった。
あれも手が震える原因のひとつだ。だから、非常に迷惑を掛けているという自覚もある。
「ごめんね~、ホントに…」
「楽しけりゃぁ、俺はいーけどね!」
「あとちょっと頑張ればもっと有名になれるよきっと!」
無邪気に言った真鍋くんに、黒田と半井は少し目配せをした。
…とても気を遣わせてしまっている。
何かを言う資格もないし、全面的に仕方もないなと思うが、黒田が「…どう?レフトは」と、やっぱりぎこちない切り返しをしてきた。
「ん?うん、やっぱり前よりちゃんと弾ける…慣れると、多分…」
「俺も一回やってみたいなぁ」
あまり心にもないことを言って場を繋げたのもよくわかる。
真鍋くんが、やってしまったかなと察したような空気にもなってしまった。
別に、君が悪い訳じゃないんだ、こんなの。
こうやっていつでも自覚が苛んでくる。
当然だ。だから、仕方ない。
「ドラムにゃわからないけど、なんか楽しそうだよね、大変だろうけどさ。
慧、そうだちょっと話したいことあったんだ、いい?」
「ん?なに?」
これで完全に雰囲気は2対2になり、黒田と真鍋くんは別で練習を始めたようだった。
半井はにやっと笑い、「じゃーん、見てー」と、首から下げていた十字架のアクセサリーを見せてきた。
銀色の、シンプルなそれ。
そういえば、半井はクリスチャンなんだよなと頭に過るが、しかし流石に、その変化球すぎる話題転換には「?」となった。
話があったって、ん?
「これさあ、新しくなったんだけど、あ、実はピアスも増えたんだ、どう?」
え、なんかその会話無理があるというか、休み時間の女子みたい。いま休憩だし別に楽しいから良いんだけども。
「え、うん、いい、と思うけど…」
一応くまなく眺めてみたが…そもそも半井はピアス中毒だし、申し訳ないことに5年以上一緒にやっていても違いがよくわからない。
多分、それは半井も重々承知で「一個提案があってさ」と言いながら、十字架をパカッと開けて見せてきた。
変な色の、如何にも怪しそうなカプセルがひとつ入っていた。
「これピルケースになってんの」
「そうだったんだ…」
「一個分ならこんくらい小さくてもよくない?これ、慧にいいなって思って」
「…あ、気ぃ遣ってくれてる」
息が詰まる前に言いどころを漸く見つけたが、それよりも。
一息。
「この薬はなぁに?」
「てゆうかさ、アイディアよくない?まず」
「あ、そうだね、確かに」
「そっから考えたんだけど、物販ね。たまにはこういうアイディア商品もよくないかなって」
…いやその薬気になりすぎるんだけどでも「あ、うん…」と、まずは飲み込んだ。
「え、物販って「いつ着るかわかんねーようなTシャツ提唱」とか言ってたじゃん、あとタオル」
「いやー流石に最近の普段使いの流れには逆らえないかも~と思ってきて…前回はちゃんとパスケースにしたし…」
「黒田が言ったからね」
「で、でよ?実はね、これとかもなんだけど、最近シモキタに東口出来たじゃん?俺探索したんよね、ふと」
「あ、そーなんだ」
「最初はふつーに古着とか見てたんだけど一軒さぁ、見たことない店発見して、入ったの」
「……それめっちゃ気を付けた方がいいやつじゃん、昔原宿で服買うまで外国人に帰してもらえなかったことあったよね?」
「あれ超怖かったよね~東京の闇~。よく覚えてんな~。まだガッコー行ってた頃だよね」
「うん、だって身の危険を感じたもん…」
リードギターの真鍋くんに、ふと、そう言われた。
「え?そうですか?」
喉が乾く。
なんとなく、それで休憩の雰囲気が漂った。
持参した水を飲む。
始め、ここは三人だった。
真鍋くんは一時の休止後、音楽はやりたいけれど場所がないと、入ってくれた。
だから少し年下。けれど、親しみを込め自分を愛称で呼んでくれる。
その時点で、元学校の子か元ファンなのかもしれないという認識があるけれど。
「最近なんかいーことあった?」
半井がにやにやする。
半井のように突然モヒカンになるようなイメージのバンドではないと思うが、真鍋くんは自分達のファンにはいなそうな、マッシュボブを貫いている。そんな子。
「いや~、別に変わらないけど…」
「調子が良いってより、戻った、に近い気がする」
ベースの黒田にそう言われ、少しほっとした。
「確かに~」
「レフト持ち出してから少しずつね」
「…でもこの前、真鍋くんにほぼ全投げしちゃって…ごめんねヘタクソで」
「いや、そうでもなかったよ?何より歌があるし、さとちゃんには。カポズレしても自然と音取れる音感凄いと思った、嫌味じゃなく」
「あー、そう、慧は学校でそのへん好成績だったもん。そうなんだよなぁ。あまりに自然でこっちが音ズレ気付かないときあるたまに。リズム隊なのに」
「そんなにマメにカポズレしてないよ、ごめんホントに!」
「それも才能だし多分あれ、客にはわかんねぇからダイジョブだぜ、慧」
「ん~ありがとう~、でも頑張るまだダメ、ちょっと悔しい」
それは本音だが「慧は根詰めるからダメなんだよ」と窘められた。黒田に言われてしまうと「う~ん」と引き下がるしかない。
自分はわりと、優しい人間に出会ってきた自覚がある。なのに、数々を裏切り生きている。
休止をしたのは自分の自殺未遂のせいだった。
あれも手が震える原因のひとつだ。だから、非常に迷惑を掛けているという自覚もある。
「ごめんね~、ホントに…」
「楽しけりゃぁ、俺はいーけどね!」
「あとちょっと頑張ればもっと有名になれるよきっと!」
無邪気に言った真鍋くんに、黒田と半井は少し目配せをした。
…とても気を遣わせてしまっている。
何かを言う資格もないし、全面的に仕方もないなと思うが、黒田が「…どう?レフトは」と、やっぱりぎこちない切り返しをしてきた。
「ん?うん、やっぱり前よりちゃんと弾ける…慣れると、多分…」
「俺も一回やってみたいなぁ」
あまり心にもないことを言って場を繋げたのもよくわかる。
真鍋くんが、やってしまったかなと察したような空気にもなってしまった。
別に、君が悪い訳じゃないんだ、こんなの。
こうやっていつでも自覚が苛んでくる。
当然だ。だから、仕方ない。
「ドラムにゃわからないけど、なんか楽しそうだよね、大変だろうけどさ。
慧、そうだちょっと話したいことあったんだ、いい?」
「ん?なに?」
これで完全に雰囲気は2対2になり、黒田と真鍋くんは別で練習を始めたようだった。
半井はにやっと笑い、「じゃーん、見てー」と、首から下げていた十字架のアクセサリーを見せてきた。
銀色の、シンプルなそれ。
そういえば、半井はクリスチャンなんだよなと頭に過るが、しかし流石に、その変化球すぎる話題転換には「?」となった。
話があったって、ん?
「これさあ、新しくなったんだけど、あ、実はピアスも増えたんだ、どう?」
え、なんかその会話無理があるというか、休み時間の女子みたい。いま休憩だし別に楽しいから良いんだけども。
「え、うん、いい、と思うけど…」
一応くまなく眺めてみたが…そもそも半井はピアス中毒だし、申し訳ないことに5年以上一緒にやっていても違いがよくわからない。
多分、それは半井も重々承知で「一個提案があってさ」と言いながら、十字架をパカッと開けて見せてきた。
変な色の、如何にも怪しそうなカプセルがひとつ入っていた。
「これピルケースになってんの」
「そうだったんだ…」
「一個分ならこんくらい小さくてもよくない?これ、慧にいいなって思って」
「…あ、気ぃ遣ってくれてる」
息が詰まる前に言いどころを漸く見つけたが、それよりも。
一息。
「この薬はなぁに?」
「てゆうかさ、アイディアよくない?まず」
「あ、そうだね、確かに」
「そっから考えたんだけど、物販ね。たまにはこういうアイディア商品もよくないかなって」
…いやその薬気になりすぎるんだけどでも「あ、うん…」と、まずは飲み込んだ。
「え、物販って「いつ着るかわかんねーようなTシャツ提唱」とか言ってたじゃん、あとタオル」
「いやー流石に最近の普段使いの流れには逆らえないかも~と思ってきて…前回はちゃんとパスケースにしたし…」
「黒田が言ったからね」
「で、でよ?実はね、これとかもなんだけど、最近シモキタに東口出来たじゃん?俺探索したんよね、ふと」
「あ、そーなんだ」
「最初はふつーに古着とか見てたんだけど一軒さぁ、見たことない店発見して、入ったの」
「……それめっちゃ気を付けた方がいいやつじゃん、昔原宿で服買うまで外国人に帰してもらえなかったことあったよね?」
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