天獄

二色燕𠀋

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ノットイコール

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 考えていたら「おい、どうぞ」と江崎が戻ってきた。

 ぼんやり考え事をしながらシャワーを借りる。中出しされた残りももう少し綺麗にした。それに、無になりそう。

 自分があまりにふらっと帰ってきたのかもしれない、「逆上せたか」と言われて「ふん、」とそぞろになる。
 そのまま江崎の側に座り、考え事をしていると「何考えてんの」と聞かれ、我に返った。

「…なんだろう」
「複雑だよなぁ、お前って」

 がしがしと頭を撫でられ、イライラしたようにがっつりとキスをされた。

「戻って来いよ」

 はっとすれば次は、まるで溶かすような甘いキスで、「俺抱きたいって言ったと思うんだけど」と、キラキラした目がそこにある。

「どーしてセックス以外で身を預けられないわけ?いつも」

 「俺って、なんなんだろ、」と言ったら言ったで二口食べられ喋れない、腰が抜けそうだなと思った絶妙なタイミングでキャッチされ、ぐいっと立たされる。

 結局ベッドへ押し倒された。

 じっと眺めながら上を脱がされると、腕に痕がついていた。
 それを伏し目で眺めた江崎は動きを一度止め、首筋に来てはぁぁ、と息を抑えている。
 身体を触り、脱ぎながら「何された」と聞く江崎の声は、驚きの低さだった。

 それは、腹に響く声。

「どんな、ことを」
「……縛られて……髪の毛、を、掴まれて、」

 身体を甘やかすようなキス。
 ゆっくり、じっとり、少し怖い。いつもより焦れったくソフトタッチで。

「最悪だな」

 まるで、大切な、壊れそうなものを扱うような…そんな愛撫の仕方。

「…新さんは…いつも、こうやって、女の子を抱くの?」
「は?」

 更に脱がされ、足に触れた江崎は「……足も震えてんじゃん」と、温度は変えない音声、忌々しそうだと感じて。

 いつの間にか下へ下へ…そして、熱くなりかけたそれをなぜる熱い舌に、一気に溶けそう。身体が、頭が、もう、自分は形など保てない、捩れる、それで良いと痺れるのに。

「イっ……けない、」
「…お前は女じゃないからなぁっ」

 ゆっくり、その状態が続きっぱなしになった。
 辛い、どうしてか、もう、なんだっていいよ、身悶える。壊してくれと願うのに。

「お前が一番長くなるし、」
「……確かに、いつも、長い…」
「体力差かなぁ。
 それが…いつまでもって、たまに思うよ」

 側に寄り、「全く」と噛むようなキス。

「素直で可愛くて仕方ねぇよな、」

 痛そうだな、ゆっくりなと、淡々と解されていくのに「…も、大丈夫、だから、」とつい急かす。

「ずっと、イキそうでっ、」
「一番…感度は、良好だ」

 喉を撫でる癖。
 躊躇うようにぐっと入ってきたそれに「うぅっ、」と声が出る。痛みも少し染み、多分軽くイッた。
 急に息が苦しくなっていく。

「苦しそうよな、お前」

 そう言う本人だって、はぁはぁ、と息を切らしている。

「やっべぇっ、…イキそ、」

 江崎がそれで更にぐっと、まるで包み込むように頭を抱え、抱擁を強くしてきた。

 あぁ、気持ちい。
 …あぁ、死にたい。

 背筋が震えて「はぁっ、」と声が出てしまった。

「お前とは、ねぇ」

 見つめ合う、互いに息は切れ切れなのに、どうしようもなく感情が溢れ、自然とキスをする。

「一緒に、イケんのがいいんだわ、……おんなじ、感情で、身体で、どっちがどっちかわかんねぇのが、マジで、」

 目がしょぼしょぼしてくる、一気に雪崩れ込むような眠気に、「…はくじょ、で、ごめん、」とだけは伝えられた。

 ぐっと、暖かい感情に包まれる。
 息が収まったかどうか、わからない。

 けれど次に意識がぼんやり…起きてくれば「あ、起きた?」と、江崎はソファでタバコを吸っていた。

 それほど時間は経っていなさそう。

「悪ぃ、気が散るから電源切ったけど、平良からめっちゃ着信来てんぞ」
「…忘れて」

 たっ。
 急に起きてしまった、がんっと鋭い頭痛と耳鳴りに、「うぅっ…」と頭を抱える羽目になる。

「あーあー急に起きるな」

 タバコを揉み消した江崎が、飲んでいたペットボトルを持ち帰り「マジ怖ぇぞ、恐怖の数字だぞ」と側に腰掛けた。

 大きな背中の、龍の刺青。
 指でなぞると「くすぐってぇなぁ!」と江崎が身を捩らせる。

「思ってたけど、タトゥー似合ってない」
「うるっせぇわ、刺青と言え」
「セイさんなら薬を差し出せばダイジョブですよきっと。連絡するの忘れたから新さんに埋められたとでも…俗っぽいとこあるから、あの人」
「その通りだなっ、ははっ、マトリのくせにバカだなあいつも」
「連絡なしはなかったけど…うーん…電源入れるのヤだな…。
 でも、無音よりはましですよね…きっと」
「…無音?」

 頭を撫でてくる江崎に「話してませんでしたっけ?」と言いながら水を催促すると、口移ししてくれた。

「退学になったヤツ…なんだけど。半井が家来たってやつ」
「…自殺の件?」
「そう。半井はドラム」
「……あいつか!あいつが無音?」
「いや俺。学校欠席したから。混濁してて、多分通話は押したらしく…そんで、入院した」
「…………あ、うん言ってた言ってたやっぱ自殺の件だな、あぁうんそうだったな、」

 なんか、変な反応。

「…その反応…やっぱり言ってませんでしたか?」
「え、」
「調べました?」
「…ぇええ、まぁ、はい」
「まぁいいですよ。
 あれよりましだと思うんだけど…セイさんこんな人だったんだ…」
「…お前らって、付き合ってる認識?」
「いや、」
「だよなぁ。付き合ってたら真っ直ぐお家に帰るわなぁ」
「…あの人俺も新さんもおもちゃだと思ってますよ」
「なるほど。子供っておもちゃ失くすと泣くもんな」

 寒かったのか、布団に倒され抱き締められる。
 抱き締め返し、「龍、捕獲」と甘えれば「全く、」と、江崎は笑ってくれた。
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