26 / 48
ノットイコール
6
しおりを挟む
ふいに「くぉらっ、てめぇ!」と江崎からデコピンを食らった。
「痛っ」
「なーにやってんだお前はぁ。ここまでするか、おい、」
「違ういくらって聞いた、俺、」
「あぁそうかい。全く…お前はな?一般人なのね?ん?企業探偵じゃないんだからね?わかる?そんなんで殺されたらどーすんの?どーも出来ないよね?」
「…うん、でも、それを言ったら今更じゃん…っ」
「…まぁね」
江崎はふいっと不機嫌そうにカツ丼を眺めつつ「大丈夫なんか、それで」とボソッと言った。
「…ダイジョブ…別に悪かった、訳じゃなくて」
「…案外よかったってことですか?」
声が低くなるのに、何故か気まずい。
「ごめんなさいでもすっごく………会い、たくなって」
「ん…、」
「なんか、なんか…っ。どういうわけかホンットに…なんでこんなこと言ってんだろ、そう、自分が悪いし、こんなで、来て、ごめんね新さん」
「………」
「そのまま、来ちゃった、なんか、わかんないけど、タクシー乗って…どうしてもって…」
江崎はどうやら何かを言おうとしているが、いつも通り、結局何も言わないままやり場もなさそう。
そのままぱっと、思い付いたようにピルケースを開けた江崎は「まぁ、食って…」と上の空のように言った。
「…わかってたけど、じゃあ、平良のいる自宅には帰ってないわけだ」
「うん、だって」
「わかった。でも…まぁ、ははっ!」
「仕方ねえよな」と笑ってくれた。
それから横目で見て「じゃあどうしたい」と選択肢を与えてくる。
「飯食って風呂でも入って帰れよと言いたいけど。…どうにもなぁ、こうやってオフの日に来られちまうとな…」
「迷惑ですよね」
「かなりな……だからこそ、わからない」
「…何が?」
「そうだな、自分がだ。お前と一緒だな。お前、いままでまともな人生を考えたこと、ないだろ」
「………」
「自分とか、そういうの。なんでかなぁ。そーゆーの見てっと大抵腹立つんだけどな。こっちは生きるか死ぬかだから。お前のことなんて、いいなぁと妬ましいんだと思ってた」
「……人生、」
「俺が悪いな、そこは。けど、俺はどうやらお前に、いますぐ帰れとは言わないらしい」
「…んー…」
カツ丼を食べる江崎はやっぱりなんだか…食べ方が綺麗だ。なのにどこか野性的に感じる。自然な行為だからだろうか。
自分もそのまま無言で食べ続ける。普通に旨い。旨いというのがなんだか…凄い。
「ごちそうさまでした」と食べ終えると、「おぅ、風呂沸かすか」と言う江崎は右手を…こっそり、みたいな感じで触れてくる。
それはたった一瞬で、丼を下げて風呂のボタンを押していた。
そして、洗い物をする江崎が本当に普通の日常に見えた。それが新鮮で、それに対する気持ちにもじんわりと…説明はつかなかった。
「…なんで、来ちゃったんだろ」
「ん?」
「どうして…」
「なんでなんだろうな?
俺もいま、安心してる。色々と腹は立ってるが。俺は答えを知ってるけどね」
「…そうなんだ」
「うんそう。例えばいまお前は俺に抱かれたがってる」
……そう、
「…うん。あってる」
「俺は半々。抱きたいし、でも考えてる。良いのかと」
「…そっか」
そうなんだ。
「こんなことを考えさせるお前に対して、驚きと納得と。理由もわかってる。ここに葛藤があるもんだ。俺はたまに来るお前の面を、知っちまってるからな」
食器を洗い終え、再び側に戻ってきた江崎は何も言わずにテレビをつけた。
まるで自然と凭れるように肩へ手を伸ばし、髪をさらさら、ちりちりと弄る所作。
この距離感は確かに知っている。こんなにがっつりとThe 休日、な感じは初めてな筈なのに。
ニュースは見ているのかいないのか。
給湯が終わった合図で「おーし」と立つついでに顔を近付けてきた江崎は、まるでやめられなくなった、という雰囲気で深いキスをしてくる。
喉仏を撫でる癖。そしてその指で目元まで撫でてきて。
…気持ちい。
それも離れ「先に入るわ」と、江崎はごく普通に日常を過ごすようだった。
待つ間どうも、落ち着くのか落ち着かないのか。
随分甘やかされている。そのくせ一定の距離は、多分あるんだ。何故かそれをまざまざと感じた気がする。
自分はなんで、こうなんだろう。多分…今日はしない。
そう思ったら、疲れも出てきたのに。
震える手で下唇に触れている自分に気が付いた。しない、そう遠くから思うのに…どうしてか。例えばあの胸板に触れたいと思ったり。
そして一つ気付く。
自分は、最低な気分の後は特に、江崎と会うという選択肢を選んでいた気がする、いままで。
そう…そんな時、必ず会いたくなる。どっちでも良いと思っていたと、思っていたのに。
いまだってそう。この後帰りたくない理由。誠一に例えば怒られて、手酷くされるのが想像出来る。
近くにいるせいかはわからない。でも、誠一に会いたいという理由に気付いたことがない。多分、ないからだ。
ぼんやりとスマホを眺める。
誠一にも言わなきゃ、でも、いまは動く気すらない。
…初めて抱かれた日を思い出す。どちらも流れだ。ただ拒まなかっただけ、そして二人とも、行為と性格のギャップに驚いた。どうして彼らは自分を抱いたのだろう。
そこにいたから?でも、そんなに安易なんだろうか、だって、男だし。普通そうなるのか?
今更ながら、そんなことを考えた。
自分だって女は抱く。誠一はわからないが江崎は間違いなく抱いている。
で?
…特別、互いに何か、自分の話をしたわけでもないのに。
わからない、わからないが江崎と初めてした日を覚えている。凄く目がキラキラしているように見えた。なんで、特別覚えているのか。
「痛っ」
「なーにやってんだお前はぁ。ここまでするか、おい、」
「違ういくらって聞いた、俺、」
「あぁそうかい。全く…お前はな?一般人なのね?ん?企業探偵じゃないんだからね?わかる?そんなんで殺されたらどーすんの?どーも出来ないよね?」
「…うん、でも、それを言ったら今更じゃん…っ」
「…まぁね」
江崎はふいっと不機嫌そうにカツ丼を眺めつつ「大丈夫なんか、それで」とボソッと言った。
「…ダイジョブ…別に悪かった、訳じゃなくて」
「…案外よかったってことですか?」
声が低くなるのに、何故か気まずい。
「ごめんなさいでもすっごく………会い、たくなって」
「ん…、」
「なんか、なんか…っ。どういうわけかホンットに…なんでこんなこと言ってんだろ、そう、自分が悪いし、こんなで、来て、ごめんね新さん」
「………」
「そのまま、来ちゃった、なんか、わかんないけど、タクシー乗って…どうしてもって…」
江崎はどうやら何かを言おうとしているが、いつも通り、結局何も言わないままやり場もなさそう。
そのままぱっと、思い付いたようにピルケースを開けた江崎は「まぁ、食って…」と上の空のように言った。
「…わかってたけど、じゃあ、平良のいる自宅には帰ってないわけだ」
「うん、だって」
「わかった。でも…まぁ、ははっ!」
「仕方ねえよな」と笑ってくれた。
それから横目で見て「じゃあどうしたい」と選択肢を与えてくる。
「飯食って風呂でも入って帰れよと言いたいけど。…どうにもなぁ、こうやってオフの日に来られちまうとな…」
「迷惑ですよね」
「かなりな……だからこそ、わからない」
「…何が?」
「そうだな、自分がだ。お前と一緒だな。お前、いままでまともな人生を考えたこと、ないだろ」
「………」
「自分とか、そういうの。なんでかなぁ。そーゆーの見てっと大抵腹立つんだけどな。こっちは生きるか死ぬかだから。お前のことなんて、いいなぁと妬ましいんだと思ってた」
「……人生、」
「俺が悪いな、そこは。けど、俺はどうやらお前に、いますぐ帰れとは言わないらしい」
「…んー…」
カツ丼を食べる江崎はやっぱりなんだか…食べ方が綺麗だ。なのにどこか野性的に感じる。自然な行為だからだろうか。
自分もそのまま無言で食べ続ける。普通に旨い。旨いというのがなんだか…凄い。
「ごちそうさまでした」と食べ終えると、「おぅ、風呂沸かすか」と言う江崎は右手を…こっそり、みたいな感じで触れてくる。
それはたった一瞬で、丼を下げて風呂のボタンを押していた。
そして、洗い物をする江崎が本当に普通の日常に見えた。それが新鮮で、それに対する気持ちにもじんわりと…説明はつかなかった。
「…なんで、来ちゃったんだろ」
「ん?」
「どうして…」
「なんでなんだろうな?
俺もいま、安心してる。色々と腹は立ってるが。俺は答えを知ってるけどね」
「…そうなんだ」
「うんそう。例えばいまお前は俺に抱かれたがってる」
……そう、
「…うん。あってる」
「俺は半々。抱きたいし、でも考えてる。良いのかと」
「…そっか」
そうなんだ。
「こんなことを考えさせるお前に対して、驚きと納得と。理由もわかってる。ここに葛藤があるもんだ。俺はたまに来るお前の面を、知っちまってるからな」
食器を洗い終え、再び側に戻ってきた江崎は何も言わずにテレビをつけた。
まるで自然と凭れるように肩へ手を伸ばし、髪をさらさら、ちりちりと弄る所作。
この距離感は確かに知っている。こんなにがっつりとThe 休日、な感じは初めてな筈なのに。
ニュースは見ているのかいないのか。
給湯が終わった合図で「おーし」と立つついでに顔を近付けてきた江崎は、まるでやめられなくなった、という雰囲気で深いキスをしてくる。
喉仏を撫でる癖。そしてその指で目元まで撫でてきて。
…気持ちい。
それも離れ「先に入るわ」と、江崎はごく普通に日常を過ごすようだった。
待つ間どうも、落ち着くのか落ち着かないのか。
随分甘やかされている。そのくせ一定の距離は、多分あるんだ。何故かそれをまざまざと感じた気がする。
自分はなんで、こうなんだろう。多分…今日はしない。
そう思ったら、疲れも出てきたのに。
震える手で下唇に触れている自分に気が付いた。しない、そう遠くから思うのに…どうしてか。例えばあの胸板に触れたいと思ったり。
そして一つ気付く。
自分は、最低な気分の後は特に、江崎と会うという選択肢を選んでいた気がする、いままで。
そう…そんな時、必ず会いたくなる。どっちでも良いと思っていたと、思っていたのに。
いまだってそう。この後帰りたくない理由。誠一に例えば怒られて、手酷くされるのが想像出来る。
近くにいるせいかはわからない。でも、誠一に会いたいという理由に気付いたことがない。多分、ないからだ。
ぼんやりとスマホを眺める。
誠一にも言わなきゃ、でも、いまは動く気すらない。
…初めて抱かれた日を思い出す。どちらも流れだ。ただ拒まなかっただけ、そして二人とも、行為と性格のギャップに驚いた。どうして彼らは自分を抱いたのだろう。
そこにいたから?でも、そんなに安易なんだろうか、だって、男だし。普通そうなるのか?
今更ながら、そんなことを考えた。
自分だって女は抱く。誠一はわからないが江崎は間違いなく抱いている。
で?
…特別、互いに何か、自分の話をしたわけでもないのに。
わからない、わからないが江崎と初めてした日を覚えている。凄く目がキラキラしているように見えた。なんで、特別覚えているのか。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる