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希死念慮
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始発から少し遅い時間で帰宅する。
忙しさに紛れさせようという目論見通り、誠一は朝飯を作っていた。
「ただいま」と扉を開けると誠一は特に目もくれず「おはよう」と、グリルを開け言った。
リビングでは、朝のニュースが流されている。
「連絡したけど」
「ごめんなさい、少しアクシデントがあって」
「アクシデント?
まぁいいや飯よそって。時間もないから魚だけだけど」
わかってはいたが、さくっと機嫌が悪い。
誠一の不機嫌な雰囲気に、背負ったギターも置けぬまま、指示通り炊飯器から飯をよそう。
不機嫌ではあるが朝飯は作ってくれたらしい、鮭を焼いただけみたいだけど。
誠一はわざとらしく邪魔そうに、真後ろを通り鮭をリビングに運んだ。
仕方がないなと先に飯をテーブルに起き、寝室のスタンドにギターを立て掛ける。
先に朝食を食べ始めた誠一にどうしようかなと躊躇いはあったが、いずれ話すものだ。
テーブルに例のピルケースを置き、朝食にありついた。
案の定、目を細めながらそれをじっと見た誠一は「何これ」と箸を止める。
「下北沢の東口で貰った。合法らしい」
その場でピルケースを開けようとしたが「飯中なんですけど」とつんけんに返される。
大人しく鮭とご飯を食べることにした。今日の天気は曇り後晴れ。
テレビは着いているが、こちらが静かなことにイラついたらしい、誠一は気も短く「何、それで江崎んとこに行ったわけ?」と切り出してきた。
「別に」
「別にってよくわかんないけど」
「そうだよ。2錠渡してきた」
「なんだって言ってた」
「これ、廃ビル?に入ってるアクセ屋さんなんだけど、薬剤師の人がやってる店。貰った名刺も渡しますね」
「……薬剤師?」
「そう、かなりドSなヤバイ人」
敢えてトゲ付きで言葉を投げる。
誠一はまるで「何考えてんだこいつ」とでも言いたそうな視線を送ってくるが、それでも鮭は旨かった。
こちらがそんな態度だからか、誠一も「はっ、あっそーですか、仕事が捗るねぇ」と嫌味ったらしい。
「薬剤師で合法ですか、」
「その人、俺のアナフィラキシーとか薬とか、言い当てました。だから、これは俺には危なくない薬で、ホントはハイになる薬をくれようとしたけど、それは売れないそうです」
「どんなイカれ野郎だそいつは」
「マトリ試験は落ちたそうですよ。処方箋も一応やってるらしいけど、別に公言してないって」
「じゃあ友人が欲しがってるって“貰って”来てよ」
「じゃあ今日はまず、これを渡しときますね。東口ってあれから様子見てるんでしょ?セイさん」
「君には関係ないことです。ヤクザ屋さんにでも言われましたか。まぁこれは頂いていきますけど」
「一回2錠、一日6錠が最大だそーです」
誠一は隠しもせずに眉をしかめた。
「鑑識の結果はすぐには出ない、早くて2日、大体3日だ。結果を待って欲しいんだけど」
「その間にハイなやつ貰っときますね。まぁ、俺にはくれないかもしれませんが」
「冗談だっつーの、兎に角動かないでくんない?」
「そんなにムキにならなくても、アクセ屋なんで、バンドグッズ頼んだんですよ。その件で明日用事あるし、丁度良」
「バンド仲間に任せろよ。どうせ、仲間から聞いて行ったんだろ、そこも。
けどお前にはくれないんでしょ?しっかりしてんじゃんそいつ。処方箋出せんなら非認可非合法でもないだろうし。」
「言ってないのによくわかりましたね」
「わかるわ話しの流れで」
「なんで俺じゃダメなんですか?探知犬なのに」
ごちそうさま、と誠一に構わず食器を下げようとすると「おい慧、」と、今度は諭しに転じてくる。
「何怒ってんだよ。
いいか、あまり勝手に、しかもやるなと言われたことをやるからにはな、覚悟しろよ、麻薬所持だからな」
「今更じゃないですか。てゆうかそんなことやらしてたんすね、ヤクザ屋さんみたい」
「……っああ、もう!なんなんだ一体、」
「別に。怒ってるわけじゃなくて、純粋になんなんだこの人はって思ってるだけです。
いいですよじゃあ。頼むのに半井への」
「素直に言うわ、大丈夫だったのかって」
まさか急にそう切り返すとは思っていなかった。
「…はぁ?」
「……まともじゃないってわかるだろ?立ち入りが必要ならこっちでやる。
そうだよお前の言う通り、東口を今詰めてる、先に江崎に行ったのも正解だ」
「…あっそ、」
「頼むから結果を待ってくれ、早めにするから。これは感情論だけじゃない」
…確かに。
変わった職業だ、一時の感情でどうにかしてしまっては、どうなるかわからない。
「わかりました。別に行きたいところでもないんで…。すみませんでした」
「いやまぁいい、わかってくれたら」
別に、意地悪を言ったわけではないけれど、随分と子供っぽい言い分だったかもしれない。
気不味いままに終わってしまった。
誠一は、波瀬の薬を2錠持ち、仕事に向かった。
あの調子だと、今日の仕事を潰してでも結果を持ってくる気なのかもしれない。
……死にたくなったら、飲んでみて。
波瀬にそう言われたのを思い出した。
別に、死にたくなったわけではないけれど。
波瀬に言われた通りだ、自分は確かに危険な橋を渡りたいだけなのかもしれない。
衝動的だった。残り2錠を飲んでみる。
確かにアレルギーは出なかった。流石だな、とベッドに寝転んですぐ、泥のような昔の夢が訪れた。
それは、ステレオグラムの夢。
忙しさに紛れさせようという目論見通り、誠一は朝飯を作っていた。
「ただいま」と扉を開けると誠一は特に目もくれず「おはよう」と、グリルを開け言った。
リビングでは、朝のニュースが流されている。
「連絡したけど」
「ごめんなさい、少しアクシデントがあって」
「アクシデント?
まぁいいや飯よそって。時間もないから魚だけだけど」
わかってはいたが、さくっと機嫌が悪い。
誠一の不機嫌な雰囲気に、背負ったギターも置けぬまま、指示通り炊飯器から飯をよそう。
不機嫌ではあるが朝飯は作ってくれたらしい、鮭を焼いただけみたいだけど。
誠一はわざとらしく邪魔そうに、真後ろを通り鮭をリビングに運んだ。
仕方がないなと先に飯をテーブルに起き、寝室のスタンドにギターを立て掛ける。
先に朝食を食べ始めた誠一にどうしようかなと躊躇いはあったが、いずれ話すものだ。
テーブルに例のピルケースを置き、朝食にありついた。
案の定、目を細めながらそれをじっと見た誠一は「何これ」と箸を止める。
「下北沢の東口で貰った。合法らしい」
その場でピルケースを開けようとしたが「飯中なんですけど」とつんけんに返される。
大人しく鮭とご飯を食べることにした。今日の天気は曇り後晴れ。
テレビは着いているが、こちらが静かなことにイラついたらしい、誠一は気も短く「何、それで江崎んとこに行ったわけ?」と切り出してきた。
「別に」
「別にってよくわかんないけど」
「そうだよ。2錠渡してきた」
「なんだって言ってた」
「これ、廃ビル?に入ってるアクセ屋さんなんだけど、薬剤師の人がやってる店。貰った名刺も渡しますね」
「……薬剤師?」
「そう、かなりドSなヤバイ人」
敢えてトゲ付きで言葉を投げる。
誠一はまるで「何考えてんだこいつ」とでも言いたそうな視線を送ってくるが、それでも鮭は旨かった。
こちらがそんな態度だからか、誠一も「はっ、あっそーですか、仕事が捗るねぇ」と嫌味ったらしい。
「薬剤師で合法ですか、」
「その人、俺のアナフィラキシーとか薬とか、言い当てました。だから、これは俺には危なくない薬で、ホントはハイになる薬をくれようとしたけど、それは売れないそうです」
「どんなイカれ野郎だそいつは」
「マトリ試験は落ちたそうですよ。処方箋も一応やってるらしいけど、別に公言してないって」
「じゃあ友人が欲しがってるって“貰って”来てよ」
「じゃあ今日はまず、これを渡しときますね。東口ってあれから様子見てるんでしょ?セイさん」
「君には関係ないことです。ヤクザ屋さんにでも言われましたか。まぁこれは頂いていきますけど」
「一回2錠、一日6錠が最大だそーです」
誠一は隠しもせずに眉をしかめた。
「鑑識の結果はすぐには出ない、早くて2日、大体3日だ。結果を待って欲しいんだけど」
「その間にハイなやつ貰っときますね。まぁ、俺にはくれないかもしれませんが」
「冗談だっつーの、兎に角動かないでくんない?」
「そんなにムキにならなくても、アクセ屋なんで、バンドグッズ頼んだんですよ。その件で明日用事あるし、丁度良」
「バンド仲間に任せろよ。どうせ、仲間から聞いて行ったんだろ、そこも。
けどお前にはくれないんでしょ?しっかりしてんじゃんそいつ。処方箋出せんなら非認可非合法でもないだろうし。」
「言ってないのによくわかりましたね」
「わかるわ話しの流れで」
「なんで俺じゃダメなんですか?探知犬なのに」
ごちそうさま、と誠一に構わず食器を下げようとすると「おい慧、」と、今度は諭しに転じてくる。
「何怒ってんだよ。
いいか、あまり勝手に、しかもやるなと言われたことをやるからにはな、覚悟しろよ、麻薬所持だからな」
「今更じゃないですか。てゆうかそんなことやらしてたんすね、ヤクザ屋さんみたい」
「……っああ、もう!なんなんだ一体、」
「別に。怒ってるわけじゃなくて、純粋になんなんだこの人はって思ってるだけです。
いいですよじゃあ。頼むのに半井への」
「素直に言うわ、大丈夫だったのかって」
まさか急にそう切り返すとは思っていなかった。
「…はぁ?」
「……まともじゃないってわかるだろ?立ち入りが必要ならこっちでやる。
そうだよお前の言う通り、東口を今詰めてる、先に江崎に行ったのも正解だ」
「…あっそ、」
「頼むから結果を待ってくれ、早めにするから。これは感情論だけじゃない」
…確かに。
変わった職業だ、一時の感情でどうにかしてしまっては、どうなるかわからない。
「わかりました。別に行きたいところでもないんで…。すみませんでした」
「いやまぁいい、わかってくれたら」
別に、意地悪を言ったわけではないけれど、随分と子供っぽい言い分だったかもしれない。
気不味いままに終わってしまった。
誠一は、波瀬の薬を2錠持ち、仕事に向かった。
あの調子だと、今日の仕事を潰してでも結果を持ってくる気なのかもしれない。
……死にたくなったら、飲んでみて。
波瀬にそう言われたのを思い出した。
別に、死にたくなったわけではないけれど。
波瀬に言われた通りだ、自分は確かに危険な橋を渡りたいだけなのかもしれない。
衝動的だった。残り2錠を飲んでみる。
確かにアレルギーは出なかった。流石だな、とベッドに寝転んですぐ、泥のような昔の夢が訪れた。
それは、ステレオグラムの夢。
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