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降りそそぐ灰色に
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おばさんは特に何も言わなかったが、学の姿を頭のてっぺんから爪先まで見る。
「…おばさん」
歯を噛むような、痞るような、そんな思い。
「…勝手に部屋入っちゃってごめんね」
ただ、おばさんはやっとこくっと頷く事が出来たようだ。
…昔と、確かに違うかもしれない目の色。
「ごめんね、茜ちゃん」
あたしの表情を見ておばさんは、いまのあたしの思いを察したようだった。
「うん、そうだね…」
そして固まったまま、線香のやつをただただ眺める。
今のおばさんには、学を見ることが出来ない。
「…この後、ちょっと、用事あるんだ」
あたしは置いておいたギターを背負い直し、「学、行くよ」と手を伸ばした。
学は戸惑っているようだったけど、何かは察したようだった。恐る恐るあたしの指を握り、俯く。
「また来るよ、少ししたら」
なんも突っ掛かりなく二人で玄関を出たけど。
少しして、おばさんが家から出てきて背中を見送っている気配はした。
学も一度振り向いて、多分小さく手を振っていたのかもしれないけど、あたしには二人を見る覚悟がなかった。
ただ、ただ本当は何故か今、泣きたくてしょうがない。
涙が溢れるなという、鼻に上がってきた熱さを感じ、その時点で空を見上げた。
灰色の曇り空。今日はきっと…良い音なんて出ない。
降らず、治まってから小さな学を見下ろすと、学は心配そうにあたしを見上げていた。
これからどうするかだなんて、思い付いてもいないのに。
良くて、49日くらいまでにしよう。あたしの生活だってある。正直、こうしてスタ練もあればバイトだってあるし。
あの部屋の隅で一人、縮こまっているのと変わらないような生活になってしまうかもしれないのに。
「……悪かったな、学」
兎に角連れ出してしまったんだ。どうしてこんなことをしてしまったんだか。
学があたしの指をすりすりすりすりと撫でる。
それが、「ごめんなさい」と書いていることに、少しして気が付いた。
いまは気が付かないフリをしないと、どうしても…溢れ出てしまう気がして、息を深めに吐いた。
美智佳。
あんた結構、最低かも。
あたしのことだって知っていたんじゃないかって、何度も気付きそうなこともあったんだ。
でも、それは淡い期待なんだと、いつでも潰してきた。
まぁ仕方ない。もう美智佳はいないしと……学の手の暖かさに、やり場がなくなっていく。
なんでこんなこと、しちゃったのかな。
気の毒なのは間違いないのかもしれないけど、考える。こんなのは一時的な感情でこの先までやっていけるわけじゃない。
場合によっては、もっと酷くなる。
おばさんが回復してくれるまで…それだって、あたしも持つかどうか。
おばさんの「ごめんね」に期待はしたいが、出来るわけではない。
取り敢えず今日はと…スタジオ前のコンビニで、腹が減っているだろうかと思い付いて立ち寄った。
学はぼんやり弁当を眺めているのだが、どうも、何を考えているかはわからない。
「…お菓子?」
そう聞くと、顔は上げるがまた俯く。
…いっそ喋れたら良いんだけどな。多分違うんだろう。
そもそも…コンビニ弁当なんて子供の量でもないし…。
その辺をちらちら眺めると、カップラーメンの棚があった。
思い付き、味噌汁などの棚を見てみる。
学も着いてきて、ぼんやりと下の方を眺めた。
コーンスープ。
この二日あまり食ってもいないとしたら、そもそも「唐揚げが食いたい」と言われたところで多分、ダメだよなぁ。
コーンスープを手に取ると、学は少しだけ首を横に振った。
「え?」
じーっと眺めて指を差す。
コーンスープの上にあった、ワンタンスープだった。
「あ…、」
これ。
高校のとき、たまにあいつ、食ってた。
お湯を耐熱性の水筒に持参して、まぁそれが若干冷めている日もあり「堅いなっ、ワンタン」と言いつつも。
流石にこれだけじゃなぁと思ったので……フルーツっぽい野菜ジュースも一緒に入れ、あたしはタバコと飲み物を買った。
タバコも少しは控えなければならないだろうか……。
そもそも、これからスタジオか。
出入り口にあるポットからワンタンに湯を注ぎ、スタジオに向かう。
強く匂いは残らないけど…ここ、飲食可能だったっけな…酒は飲めるけど。
スタジオの横にそれた道端で「悪いんだけど」と、しゃがんで学にワンタンを渡した。
「ここ、飲食ダメだったかもしれない。
まだ熱いけど…ここで食って」
あまり環境はよくない。居心地も悪くてタバコが吸いたくなる。
受け取った学はしゃがんで蓋を開けるが、湯気で熱いと判断したらしい、また閉じてしまった。
環境はよくないかもしれないが、「あー開けときな」とだけ助言して立ち、出来るだけ煙を掛けないようにタバコを吸った。
「タバコ吸ってから行くから。ゆっくりでいい」
タバコを吸ったのを見た学は、蓋を開けゆっくり、冷ましながら食べることにしたようだ。
ワンタンを細かく崩しながら食べ始める。
それも…よく美智佳がやっていたな。
「…おばさん」
歯を噛むような、痞るような、そんな思い。
「…勝手に部屋入っちゃってごめんね」
ただ、おばさんはやっとこくっと頷く事が出来たようだ。
…昔と、確かに違うかもしれない目の色。
「ごめんね、茜ちゃん」
あたしの表情を見ておばさんは、いまのあたしの思いを察したようだった。
「うん、そうだね…」
そして固まったまま、線香のやつをただただ眺める。
今のおばさんには、学を見ることが出来ない。
「…この後、ちょっと、用事あるんだ」
あたしは置いておいたギターを背負い直し、「学、行くよ」と手を伸ばした。
学は戸惑っているようだったけど、何かは察したようだった。恐る恐るあたしの指を握り、俯く。
「また来るよ、少ししたら」
なんも突っ掛かりなく二人で玄関を出たけど。
少しして、おばさんが家から出てきて背中を見送っている気配はした。
学も一度振り向いて、多分小さく手を振っていたのかもしれないけど、あたしには二人を見る覚悟がなかった。
ただ、ただ本当は何故か今、泣きたくてしょうがない。
涙が溢れるなという、鼻に上がってきた熱さを感じ、その時点で空を見上げた。
灰色の曇り空。今日はきっと…良い音なんて出ない。
降らず、治まってから小さな学を見下ろすと、学は心配そうにあたしを見上げていた。
これからどうするかだなんて、思い付いてもいないのに。
良くて、49日くらいまでにしよう。あたしの生活だってある。正直、こうしてスタ練もあればバイトだってあるし。
あの部屋の隅で一人、縮こまっているのと変わらないような生活になってしまうかもしれないのに。
「……悪かったな、学」
兎に角連れ出してしまったんだ。どうしてこんなことをしてしまったんだか。
学があたしの指をすりすりすりすりと撫でる。
それが、「ごめんなさい」と書いていることに、少しして気が付いた。
いまは気が付かないフリをしないと、どうしても…溢れ出てしまう気がして、息を深めに吐いた。
美智佳。
あんた結構、最低かも。
あたしのことだって知っていたんじゃないかって、何度も気付きそうなこともあったんだ。
でも、それは淡い期待なんだと、いつでも潰してきた。
まぁ仕方ない。もう美智佳はいないしと……学の手の暖かさに、やり場がなくなっていく。
なんでこんなこと、しちゃったのかな。
気の毒なのは間違いないのかもしれないけど、考える。こんなのは一時的な感情でこの先までやっていけるわけじゃない。
場合によっては、もっと酷くなる。
おばさんが回復してくれるまで…それだって、あたしも持つかどうか。
おばさんの「ごめんね」に期待はしたいが、出来るわけではない。
取り敢えず今日はと…スタジオ前のコンビニで、腹が減っているだろうかと思い付いて立ち寄った。
学はぼんやり弁当を眺めているのだが、どうも、何を考えているかはわからない。
「…お菓子?」
そう聞くと、顔は上げるがまた俯く。
…いっそ喋れたら良いんだけどな。多分違うんだろう。
そもそも…コンビニ弁当なんて子供の量でもないし…。
その辺をちらちら眺めると、カップラーメンの棚があった。
思い付き、味噌汁などの棚を見てみる。
学も着いてきて、ぼんやりと下の方を眺めた。
コーンスープ。
この二日あまり食ってもいないとしたら、そもそも「唐揚げが食いたい」と言われたところで多分、ダメだよなぁ。
コーンスープを手に取ると、学は少しだけ首を横に振った。
「え?」
じーっと眺めて指を差す。
コーンスープの上にあった、ワンタンスープだった。
「あ…、」
これ。
高校のとき、たまにあいつ、食ってた。
お湯を耐熱性の水筒に持参して、まぁそれが若干冷めている日もあり「堅いなっ、ワンタン」と言いつつも。
流石にこれだけじゃなぁと思ったので……フルーツっぽい野菜ジュースも一緒に入れ、あたしはタバコと飲み物を買った。
タバコも少しは控えなければならないだろうか……。
そもそも、これからスタジオか。
出入り口にあるポットからワンタンに湯を注ぎ、スタジオに向かう。
強く匂いは残らないけど…ここ、飲食可能だったっけな…酒は飲めるけど。
スタジオの横にそれた道端で「悪いんだけど」と、しゃがんで学にワンタンを渡した。
「ここ、飲食ダメだったかもしれない。
まだ熱いけど…ここで食って」
あまり環境はよくない。居心地も悪くてタバコが吸いたくなる。
受け取った学はしゃがんで蓋を開けるが、湯気で熱いと判断したらしい、また閉じてしまった。
環境はよくないかもしれないが、「あー開けときな」とだけ助言して立ち、出来るだけ煙を掛けないようにタバコを吸った。
「タバコ吸ってから行くから。ゆっくりでいい」
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