降りそそぐ灰色に

二色燕𠀋

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降りそそぐ灰色に

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 なるほど、そっか。

「あ、いや。事故で。
 えっとシンバルも…そんな感じでダメなのかもって、ついさっきわかって…ちょっとそれで雰囲気悪くなって」
「なるほど、それでカホンか。良い案じゃないか」
「それがまぁ受け入れてもらえず…なんか頭来て俺が勝手に連れて来たんすよ、すません」
「あー、それは解散するやつだな」

 あっさりと高峯竜二がそう言った。

 それに合わせるように「それな」だの「そうだなぁ」だのと…そうだったこの人達、そうして今ここにいるんじゃん。

「まぁなぁ…」
「曽根原さん、そーいやそのへんのことなんだかんだ俺聞き損ねてましたが」
「あーそうだね。多分亀ちゃんにしか言ってないよね」
「のんちゃんはわりと良い別れ方でしたよね。ドラムだった人が故郷帰ったっていう」

 のんちゃんとか……。

「そう、親の介護で。元気らしいよ。そんでベースも、まぁ考えってあるっしょ。抜けて、俺一人になったけど」
「あたしその頃その話ですっご泣いたの……ファンだったから」

 親問題、確かに深刻だな、誰もどうにも出来ないやつ…。
 辞める人って、本当に様々なパターンがあると見てきたけども、それは歯痒かっただろうな。
 なるほど、そういうパターンもあるのか…。

 「あ、そうだったんすか」「俺も初めて聞いた…ウチと違うわ…」だなんて、もう何もかも息ぴったりだった。
 ちょっと、話しやすいのもわかるかも。

「でも…子供はウチ誰も得意じゃないよね、ノリトくらい?」
「あ、まぁでも、なんてゆーか」
「一ついるなぁ。子連れバンド」
「子連れバンドぉ!?」

 そんなのもいるのか!?と思ったが「いや語弊があるような」「確かにそうだけど」「いや違う気がする」とそれぞれ言っている。

 そんな、ゆりかごから墓場までみたいな…。守備範囲広すぎんだろ。

「次の対バン、あ、crashの前ね、俺ら一件あるんだけどさ再来週。呼んでみっか。多分東京いるよね」
「…どこっすか」
「でんにじでんにじ」

 間があってから「でんにじ!?」とシンジが言い、学がビクッとした。
 「あぁ悪ぃ悪ぃ…」と言いながらあたしを見たので「降ろせば」と言っておく。

 でんにじも先輩だな……やったことすらないけどあそこは確かにインディ…なのか?いや、一応違うのか…?まぁ、フェスで見る人達だ。
 女みてぇなボーカルがいるとこ。絶対聴いたことくらいはある。

 あれを「子連れバンド」というか……?

 タイプは確かにここと似てなくもないから、仲は良いのかもしれないけど…子供とか「ファック」なんて言いそうな場所じゃないか、あそこ…。

 多分あそこはボーカルの見た目とか、…そうだ、ジャズベースだとか。一瞬おしゃれそうなメロディーだけど、なんか病んでるヤツが好きそうな歌詞とかで入ってみるんだ、多分。
 結果「ファック」と言われて帰ってくるって、誰かファンのサブカルクソ女子が言ってた、高校のころ。

 それが、「子連れバンド」だなんて…流石曽根原先輩というかなんというか…。

 曽根原さんが「あ、もしもしあまちゃん?」と早速電話を掛け始めた。

「ねーねーいま東京おる?
 ん?あんさー、あ、まぁ打ち合わせもしたいんだけど遊びこん?まぁあまちゃんはどっちでもいいけど、ところでナトリンの娘ちゃんって何歳だっけ?……あぁ、7歳か!
 ん?ああ今チャミズのbsp。
 あ?近いの?んじゃー、みんな一緒やろーよ。金はゲスト持ちだし。うん、じゃね!」

 ピッと通話を切り「来るってさ!」と嬉しそうに言った。

「…凄いっすね曽根原さん…あんなとこ電話一本で呼べるなんて」
「あー、途中いた事務所一緒なんだよね。インディ排出のとこ。ま、俺あんまいなかったけどさ。当時はそーゆーとこ、あんま無かったし」
「へー…。
 曽根原さんって今年何年目で何歳なんですか」
「22で43だね」

 22…まさに再バンドブームの頃ぐらいじゃん。すげえ。43…見えねぇような気がしなく…30後半くらいだと思ってた。

「でもでんにじもそんくらいじゃないかなぁ、あいつら高校から福岡でやってたらしいし」
「あ、そーなんだ。あれ?でもサイドギターは」
「ゲンジはエルグラ2年しかいなかったんだよ」

 ……ああそう言えばそうだったかも。あの超有名バンドエルグラのギターが移動したからあたしも知ってんのかもな…。なんせ世代だ、当たり前に聴いている。

「…たまに思わね?」
「ん?」

 ふと、シンジが耳打ちしてくる。

「ウチ、狭ぇよな…たまにこういうの目の当たりにすると凹む…」
「…さっき似たようなことあたし言ったけど。でも確かにここは広い方……」

 ゆりかごから墓場まで…てゆうかそりゃぁ…22年やってる人がいるんだもんな……。
 確かに、全部脱帽かも…。

「…やめっかぁ、crash」
「はは、在り来たりな理由だねそれ」
「いやマジで勝てる気がしねぇ」
「んーまぁ……」

 バンドは一人が弱気になるとマジで潰れるからなぁ。
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