あじさい

二色燕𠀋

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第二話

10

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 真里が焦ったようについて来る。だが、後ろからついて来るだけで特にお節介は何もない。
 確かに、これじゃ身が持たないのも事実だ。

 控え室に戻る途中、薬局に寄って鎮痛剤とスポーツ飲料もう一本を購入。
 薬局を出ると真里はいない。飯でも買いに行ったかなと思えば、ちょうど隣のコンビニから出てきて、無言で俺の隣を歩いている。

 そのまま二人で控え室まで戻り、俺はソファをベット代わりにして寝転んだ。真里もソファに座り、自分の膝をとんとんと叩く。何かの合図だろうがわからん。

「なんだよ」
「鈍いなぁ。枕。あともし食えるなら」

 真里はあんパンをテーブルに置いた。いま、冗談言ってる余裕も飯食ってる余裕もないんだけど。

「…ありがとう。ちょっと寝る」
「光也さん」

 真里は頬や額に触れながら言ってくる。

「今日俺もう上がりだから、送ってく。上がろ?あんたの家の近く病院とかクリニックないの?」

 そんなにやばそうに見えるのか?

「大丈夫だって…」
「大丈夫じゃねぇから言ってんだよ」
「大丈夫だから寝かせてくれ」
「あーもーうっせぇな、バカ。
 あんたが帰らねぇなら俺が代わりに残業しちまうぞ。それは嫌なんだろ、ダメなんだろ?素直に言うこと聞けや」

 ちょうどその時、ドアが開く音がした。真里で誰が入ってきたか見えない。

「あ、ちょうどいいや。嶋田さん、この人ダメだ」
「え、ど…どうしたの!?」
「いやいや大丈夫」
「なんかこの人熱いし。熱あるかね?まぁここ最近この人連勤だし無茶なことやってるから」
「…あ、うん」
「俺上がりだし送って行きます。てかこの時期は熱中症とかもあるから病院に連れてって一応受診したなんか証拠的なの持ってきますんで」
「いや、ちょっと待ってちょっと待って」
「真里、いいよ…」
「あんたは寝てなさい。
 え?嶋田さんこの人こっから今日働けると思ってる?無理ですよ。歩いててもふらっふらだからね?あんたがいる時間にぶっ倒れたプラスその時間残業させちゃってたってよりかは、受診した証拠残して早退させたっていう方があのクソ女落とす切り口になりやすいでしょ。
 今日のシフトももう出ちゃってて昨日と今日、この人のシフトプラスあの女のシフト、あと受診履歴見せたら一目瞭然でしょ?上も」

 嶋田さんに見えないところで真里の拳が強く握られていた。だが、貧乏揺すりはどうも隠せないらしかった。

「…神崎くん」
「あぁ、逆にぶっ倒れてみる?救急車呼んじゃう?」

 真里は嘲笑うかのように嶋田さんに言った。一緒にやってきたから顔を見なくてもわかる。真里は嶋田さんを睨んでいるだろう。

「…志摩くん、大丈夫かい?」
「あぁ、はい…」

 起き上がって見ると頭がずきずき痛んで目眩に近い間隔に襲われた。急に来たので思わず、顔をしかめてしまった。

「…後半4時間でしたっけ」
「…うん」

  一週間分のスケジュールが書いてあるファイルを棚から取って見てみる。明日は休みだ。ならばあと4時間やれば大丈夫だ。

「あと4時間やれば明日休みだし。休憩でちょっと寝ますよ」
「はぁ?あんた何言ってんの?ダメだっつってんだろ」

 嶋田さんと目が合うと、一度頷いて、

「うん、志摩くん。今日はありがとう。大丈夫。あとはなんとかするから」

 と言われた。

「志摩くん有給全然消化してないし、どうせだったら使っとこうか?」
「え、いや、大丈夫…です…」

 まさか、そこまで言われるとは…予想外だ。

「ちなみに志摩くんの業務実績だと10日はあるよ」
「え、嘘」
「君長いからね。てかそんなことも店長は伝えてないのか。消化されないまま減ってるだろうな、これ」

 マジか。驚きだ。

「バイトがそんなもらっていいのか…」
「君は長いからこれだけあるんだよ。最早社員になっちゃえば?
 まぁ、今日はそれはいいとして。お大事にね。
 神崎くん、上がった後にごめんね、よろしくお願いします」
「はぁーい」

 少しややこしくなったが一件落着。真里も納得したらしい。すぐに着替えた。

 真里が更衣室で着替えているのを見計らい、嶋田さんは、「明後日も有給で考えとくけどまぁ、どうするかはまた連絡ください」と小声で言った。こちらも小声で礼を言う。

 真里は着替え終わると、嶋田さんへ挨拶もあまりせず先に控え室を出てしまった。仕方なく軽く会釈をして俺も控え室を後にすると、出てすぐのところに真里は立っていた。

「ほら、行きましょ。でもまずタバコ吸ったら倒れる?」

 ちょっとおどけて真里は言う。
 「そんな貧弱じゃないよ」そう返すと笑いながら、「どうだか」と憎まれ口を叩く。

 さっきまでのピリピリした空気は和らいだ。
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