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第四話
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翌日バイトに行って早々、事務所にお偉いさんが来ていた。俺は、まるで事情聴取みたいな尋問を30分ほどしてあっさり村山店長は解雇。しばらくの間は同じエリアどっかの店長が掛け持ちでウチの店を見ることになった。
しかしその新店長(仮)が、
「あいつ何?新宿二丁目店から来たのか?」
みたいな人なのである。最近流行りのオネェなんてもんじゃない。ガッチリライザップ、結果にコミットするような身体付きのくせに、本人はソレを隠してるつもりみたいだがどうも内股だしどう頑張ってもマスカラずれてるし、ホントにどこで店長やってんの?と聞きたくなるような人だった。
「今日からぁ、短い間ですがぁ、よろしくお願いしまぁす」
揺るぎない。
早速みんなはヤツのことを「松村」という影のあだ名をつけた。
本名は五反田紀之と言う、全然似合ってない名前だ。
五反田って。それ源氏名だろうよ。
ギャグ要素満載のそいつに握手(一応全員にしてます)されたとき、気持ち手が滑ってたのにも嫌だったのに、「あらあなた、可愛い顔してる」なんて言われちまったら背筋がぞわっ、血の気が引いたのは言うまでもない。
バイトを辞めようかなとか考えてしまった今日この頃だった。
復帰早々わりと暇なランチ。厨房を覗くと料理長がヤンキー座りでタバコを吸いながら紙と睨めっこしていた。暇だしいいやと思って俺は料理長の隣に座り、タバコに火をつける。
「おお、光也!」
「新しいメニューっすか」
「そうそう。ちょーどそろそろお前呼ぼうかと思ってたんだよ。ここ最近お前居ねぇからはかどらなくてな」
パッと紙を見るとディナーのコースメニューのようだ。どうやら料理長はメインディッシュで悩んでいるらしい。
「秋からのメニュー。どーすっかなぁ」
とか言っていたらオーダーが入ってきた。チビ券をみると洋風チャーハン。料理長が立ち上がろうとするので「あー、いいっすよ」と制して俺はフライパンに火を掛けた。そんな俺の姿を見て、新人達が一瞬ざわついたのもわかったが、気にしないことにする。
「こっちがメイン肉なんだよなぁ。しかも牛」
洋風チャーハンを作りながら料理長が手にしている紙を覗いてみる。
「こっち魚にするとしても前菜にマリネ出してんのかー。いっそ逆にしてみたらどうです?」
「問題は値段設定なんだよな」
「あー…そっか。秋だと関サバは?こいつならすぐ死ぬから意外と安く行けるんじゃないですか?
はいチャーハン。
その辺の居酒屋でも出してるくらいだし、なんだったら捌いてシメてその日のうちなら意外といけちゃったりするし。てか刺身イメージ強いけど焼いちゃえば案外いけるっしょ。こいつ宴会ウケも良いし知ったかぶりのリーマンは無駄に食いたがるじゃん」
途中新人にチャーハンを渡しながら会話。新人がめっちゃ唖然としてる。まぁそりゃそっか。普段俺ホールだからな。
「関サバかぁ…ただリスクも高いなぁ」
「まぁ確かに…」
「あれぇ?志摩くんいないのぉ?」
「あ、やべ。松村だ。
おっさんすまん、戻るわ」
「おぅそうだな、ありがと」
少し隠れがちにこっそりホールに戻った。ちらっと厨房を覗くと、今度は真里を捕まえて会議していた。
料理長、なかなか相談しない質だからなー。たまにああしてこっちから話を振ってやらんとメニュー決まらないんだよなぁ。やっと誰かに話す気になってくれたかな。
真里が抜けたお陰で刺身場がいなくなっている。
おっさんとは呼んでるが料理長、若く見えるんだよなぁ。まぁ実際おっさんだけど。確か45歳だったかな。10歳は若く見える。
45歳にしちゃ爽やかだし。なんだろ、やる気がない一般的な福山って感じだろうか。
「あ、いたいたぁ!」
「はいはい、すみません」
「あっち、手伝ってくれる?」
「はーい」
「あのぅ」
ふと後ろから声が掛かって振り向く。厨房のカウンター、俺の真後ろに見慣れない長身のオタクっぽい眼鏡が立っていて一瞬心臓が止まるんじゃないかってくらいびっくりした。
「あ、あれ?君…」
こんなヤツいたっけな。
目の前のカウンターにサラダが置かれている。
あぁこいつ、新人かな?
「あーそっか、お前いなかったもんな。こいつ先週入ったんだよ」
料理長がふと、そんな俺を見て言った。
「ほら、挨拶!」
料理長が肩を叩くとそいつは、「あああの、た、高田大輔です…」と名乗る。
「おー、悪い、気付かなかった。
志摩光也です。よろしく」
取り敢えず新人には優しくしておこうと営業スマイル。あがり症なのか照れて俯いてしまった。見たところまだ高校生くらいだしな、仕方ない。
「高校生?」
「は、はい!大学2年です、あ、あの…」
大学生かよ。初バイトかな。
「ん?」
「す…スゴいですね!し、仕事…とか…」
「君も慣れるといいな」
とか油を売ってると真里が、「おい大輔!」と魚場から怒鳴るように大輔を呼んだ。
「はいぃ!」と、かなりビビって返事をし、振り返ると、「これも光也さんに渡して!」と刺盛りを指差す。
なんか真里、イライラしてる。
両手で慎重に持って大輔が運ぶと、「ったくどんくせぇな」と悪態を吐く始末。まぁまぁ、と真里を宥めるも、まだイライラしているようだった。
なんだろ、珍しいな。
その日一日を通すと、どうも真里はその新人に対してイライラしているようだった。
その日は、ランチで店を閉めて店長&新人の歓迎会を開くことになった。
ふと控え室で真里と一緒になったとき、俺は直接聞いてみることにした。
「今日どうしたよ?」
「ん?」
「何か、イライラしてねぇ?」
「あー、うん、大輔にね」
「あ、てか一回家に帰る?」
「そーだな。小夜の飯作ってから行くか」
しかしその新店長(仮)が、
「あいつ何?新宿二丁目店から来たのか?」
みたいな人なのである。最近流行りのオネェなんてもんじゃない。ガッチリライザップ、結果にコミットするような身体付きのくせに、本人はソレを隠してるつもりみたいだがどうも内股だしどう頑張ってもマスカラずれてるし、ホントにどこで店長やってんの?と聞きたくなるような人だった。
「今日からぁ、短い間ですがぁ、よろしくお願いしまぁす」
揺るぎない。
早速みんなはヤツのことを「松村」という影のあだ名をつけた。
本名は五反田紀之と言う、全然似合ってない名前だ。
五反田って。それ源氏名だろうよ。
ギャグ要素満載のそいつに握手(一応全員にしてます)されたとき、気持ち手が滑ってたのにも嫌だったのに、「あらあなた、可愛い顔してる」なんて言われちまったら背筋がぞわっ、血の気が引いたのは言うまでもない。
バイトを辞めようかなとか考えてしまった今日この頃だった。
復帰早々わりと暇なランチ。厨房を覗くと料理長がヤンキー座りでタバコを吸いながら紙と睨めっこしていた。暇だしいいやと思って俺は料理長の隣に座り、タバコに火をつける。
「おお、光也!」
「新しいメニューっすか」
「そうそう。ちょーどそろそろお前呼ぼうかと思ってたんだよ。ここ最近お前居ねぇからはかどらなくてな」
パッと紙を見るとディナーのコースメニューのようだ。どうやら料理長はメインディッシュで悩んでいるらしい。
「秋からのメニュー。どーすっかなぁ」
とか言っていたらオーダーが入ってきた。チビ券をみると洋風チャーハン。料理長が立ち上がろうとするので「あー、いいっすよ」と制して俺はフライパンに火を掛けた。そんな俺の姿を見て、新人達が一瞬ざわついたのもわかったが、気にしないことにする。
「こっちがメイン肉なんだよなぁ。しかも牛」
洋風チャーハンを作りながら料理長が手にしている紙を覗いてみる。
「こっち魚にするとしても前菜にマリネ出してんのかー。いっそ逆にしてみたらどうです?」
「問題は値段設定なんだよな」
「あー…そっか。秋だと関サバは?こいつならすぐ死ぬから意外と安く行けるんじゃないですか?
はいチャーハン。
その辺の居酒屋でも出してるくらいだし、なんだったら捌いてシメてその日のうちなら意外といけちゃったりするし。てか刺身イメージ強いけど焼いちゃえば案外いけるっしょ。こいつ宴会ウケも良いし知ったかぶりのリーマンは無駄に食いたがるじゃん」
途中新人にチャーハンを渡しながら会話。新人がめっちゃ唖然としてる。まぁそりゃそっか。普段俺ホールだからな。
「関サバかぁ…ただリスクも高いなぁ」
「まぁ確かに…」
「あれぇ?志摩くんいないのぉ?」
「あ、やべ。松村だ。
おっさんすまん、戻るわ」
「おぅそうだな、ありがと」
少し隠れがちにこっそりホールに戻った。ちらっと厨房を覗くと、今度は真里を捕まえて会議していた。
料理長、なかなか相談しない質だからなー。たまにああしてこっちから話を振ってやらんとメニュー決まらないんだよなぁ。やっと誰かに話す気になってくれたかな。
真里が抜けたお陰で刺身場がいなくなっている。
おっさんとは呼んでるが料理長、若く見えるんだよなぁ。まぁ実際おっさんだけど。確か45歳だったかな。10歳は若く見える。
45歳にしちゃ爽やかだし。なんだろ、やる気がない一般的な福山って感じだろうか。
「あ、いたいたぁ!」
「はいはい、すみません」
「あっち、手伝ってくれる?」
「はーい」
「あのぅ」
ふと後ろから声が掛かって振り向く。厨房のカウンター、俺の真後ろに見慣れない長身のオタクっぽい眼鏡が立っていて一瞬心臓が止まるんじゃないかってくらいびっくりした。
「あ、あれ?君…」
こんなヤツいたっけな。
目の前のカウンターにサラダが置かれている。
あぁこいつ、新人かな?
「あーそっか、お前いなかったもんな。こいつ先週入ったんだよ」
料理長がふと、そんな俺を見て言った。
「ほら、挨拶!」
料理長が肩を叩くとそいつは、「あああの、た、高田大輔です…」と名乗る。
「おー、悪い、気付かなかった。
志摩光也です。よろしく」
取り敢えず新人には優しくしておこうと営業スマイル。あがり症なのか照れて俯いてしまった。見たところまだ高校生くらいだしな、仕方ない。
「高校生?」
「は、はい!大学2年です、あ、あの…」
大学生かよ。初バイトかな。
「ん?」
「す…スゴいですね!し、仕事…とか…」
「君も慣れるといいな」
とか油を売ってると真里が、「おい大輔!」と魚場から怒鳴るように大輔を呼んだ。
「はいぃ!」と、かなりビビって返事をし、振り返ると、「これも光也さんに渡して!」と刺盛りを指差す。
なんか真里、イライラしてる。
両手で慎重に持って大輔が運ぶと、「ったくどんくせぇな」と悪態を吐く始末。まぁまぁ、と真里を宥めるも、まだイライラしているようだった。
なんだろ、珍しいな。
その日一日を通すと、どうも真里はその新人に対してイライラしているようだった。
その日は、ランチで店を閉めて店長&新人の歓迎会を開くことになった。
ふと控え室で真里と一緒になったとき、俺は直接聞いてみることにした。
「今日どうしたよ?」
「ん?」
「何か、イライラしてねぇ?」
「あー、うん、大輔にね」
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