あじさい

二色燕𠀋

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第四話

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 着替えを終えて一度家に帰り、夕飯を作って家を出た。

 待ち合わせ場所に行くと、みんな集まっていた。なんだか大輔がすっげぇガン見してきてたので遠目でもすぐに集団の場所がわかった。

 隣に料理長がいるせいか、猫背のせいか、案外大輔が小さく見える。そういえば料理長、確か180以上あったかな。

 まだまだ店に馴染めてないのか一人ポツンとしている。他の連中は男女関係なく話したりしているのに。たまに料理長が話を振ってあげているのが見えた。

 なのに何故か俺たちをガン見してるもんだから、流石にちょっと、違和感がある。

「光也さん」
「ん?」
「俺、ちょっと敵が出来たかもしれん」
「何が?」

 やっと合流したとき、「お待たせ」と俺が言うのと同時に真里は、目もくれないまま大輔の顔面を手の平で鷲掴みし後ろへぶん投げるように軽く力を入れた。が、真里はそれに知らんぷりしてる。

「ガン見してんじゃねーよ」と真里が言ったのを聞き取ったのは多分俺と大輔だけだ。

「場所は?」
「すぐ近くだけど真里?大輔が」
「あー、ごめんごめんスキンシップだよ」

 いや笑顔怖いんですけど。
 どうやら真里は大輔のことが嫌いらしい。

「大丈夫か?」

 と大輔に声をかけると、「はい、」と言って真里のせいでズレてしまった眼鏡をかけ直した。
 まあ、大丈夫そうかな。

 そのままみんなで居酒屋まで歩いて移動。
 そう言えば松村がいない。

 色んなヤツと話ながら歩いて情報収集した結果、松村はなんかよくわからんが遅れて来るとのこと。
 「愛人宅じゃね?」とかみんなで言っていたが、リアルすぎて想像するのがなんか怖いのでやめる。

 ふと真里に肩を叩かれる。真里が視線で俺の後ろを合図。大輔だ。

「あいつさっきからずっとくっついてるぜ?」

 真里にそう耳打ちされる。
 実は気付いていたが正直どうして良いか扱いがわからなくて声を掛けずにいた。取り敢えず真里に頷く。

「たまたまだろ」

 多分、大輔はコミュ障なんだろう。コミュ障にはありがちだ、一人特定のやつを見つけるとそいつだけにいってしまうというのは。まぁはっきり言ってしまえばちょっとうざったいんだけど。

「早く馴染めるといいな、あいつ」

 そう無難に返したのだが真里は何故か俺に溜め息を吐く。

「胃が痛くなるわあんた」

 なんでだ。

 和食居酒屋についた。座敷席で、みんななんとなく仲良い者同士といった感じで座る。俺は大体の場合、こんなときは端の席に座るのだが、生憎先に女の子達が座ったようだった。

 まぁどうせ若い子は席替えするからいいや。俺は一番席替えしなさそうな、料理長とか古株がいる席に座ることにする。真里もそこについてきた。そこそこ、端の方の席だった。

 どうやら今回の主催は料理長らしい。料理長は始める前に集金を済ませた。
ちょっと席間違えたかな。まぁいいや、すぐ帰るし。

 集金中に気付いた。

 いる。

 俺の右には真里が座っているんだが、左に何故か大輔がいた。
 いくらなんでもこの席順だと馴染めなくね?俺と真里以外、おっさん連中しかいないのに。
 まぁでも料理長もいるし、なんとかなるかな。

 松村が不在のまま店長&新人歓迎会がスタートした。
 とは言っても最初に挨拶するはずの店長はいないし、新人コミュ障だしであまり歓迎会の雰囲気でもなく、最早ただの飲み会になりつつあり。

 しかし、古株と久しぶりに飲んだ。こーゆー機会じゃないとなかなか飲めないメンツだ。
 色々と過去話や今回の騒動の話で大いに盛り上がった。

「光也いると助かるけど、お前無理するからなー。でもあのデブいなくなってマジ清々したわ」

 すっかり新人が横にいることを忘れてブラックジョークまでかましていた。

 存在を思い出したのは、大輔がメニューを取った時だった。まるで俺を横切るように端のメニューを取ったので、やっと思い出したのだった。

「あ、ごめんごめん!言ったら取ったのに!」
「あ、はい、なんかすみません」

 なんか蔑ろになっちゃったのも申し訳ないので、他の連中が盛り上がってる最中、二人でメニューを眺める。

「あ、ここ鳥飼とりかい置いてあるわ。俺これ飲むわ」
「美味しいんですか?」
「飲みやすい!大輔は?」
「あ、じゃぁ同じので…」

 それから俺はしばらく鳥飼を飲み続け、また話に盛り上がっていた。

「入った当時の真里はホントにどうしようかと思ったよ」
「えぇ?俺そんな酷かったっすか?」

 他の古株も苦笑い。確かに凄かったなぁ。

「だって俺にさ、『あんたに言われるくらいなら辞めるわ』とか言ってたよ?」

 先輩であり真里の教育係りを勤めた古株の、髭面な橋本はしもとさんが笑った。確かにそんなこともあった。

「あー、言ったわ。そのあとニンジンで叩かれたから家帰ったよね俺」
「でも俺も橋本にキレた。ニンジン一本なに無駄にしてんだバカ!って」

 厨房メンツめっちゃ大ウケ。
 やっぱり仲良いな、なんだかんだで。

「俺覚えてるわそれ!ホールから止めに入って、けどホールみんな新人しかおらんで戻ったらなんかえらい大惨事になっとったわ!」
「出た!光也の京都弁!」
「おっさんそれからかわんといてぇな」
「自覚ないらしいよ、光也さん」
「光也さん、京都の人なんですか?」

 そして忘れかけてた大輔が喋りだす。なんかこいつそんなタイミング。

「そやで」
「へぇ!どおりで!」

 今までで一番なんじゃないかなってくらい大きな声を出されて少しびっくりした。どおりでってなんだ。

「なんかそこら辺の人と雰囲気違うなーと思ってました…」

 なんだそりゃ。

「なんて言うんですかね?品がある?」
「おいおいそれ失礼だろー」

 料理長が少しおどけて言えば、大輔は目に見えて動揺。

「あ、あの、そういうことじゃなくて…」
「てか饒舌になったな?ええやん、もうちょいこっち入ってきぃや」

 だがまぁ、せっかくだから仲間に入れてやらんとな。

 ついでに鍛高鐔たんたかたんのロックと、大輔用に水をオーダーした。

「あぁ、はい…」

 来た水を前に置いてやり、俺は鍛高鐔を一気飲み。

「いつも思うけど酒強いよね光也」
「そうですかね?」
「たまに飲み過ぎて大変なことになってるけどね」

 真里、よくわかってるねぇ。

「光也さん何飲んでんの?」
「鍛高鐔。おっさん、ここ酒チョイスええわ。西のもんに好かれる店や」
「つか飯食ってねーなぁ。お前の胃いつも感心するわ。光也、食わないと太れないぞ」
「はーい」
「光也さん俺もそれ飲む」
「はいよ」

 仕方なく、ならばとちょっと刺身を食ってまた酒を飲む。

 ちょっとのアルコール休みでタバコに火をつけてしばらく煙を眺めていると、妙に視線を感じた。

 なんかなぁ、真里が嫌うのもわかるかも。こいつの視線、ちょっと苦手かもな。

「吸う?」
「い、いえ」
「あ、そう」

 って言っても見てくんだよな。なんだろ。やっぱり話に入りにくいのかな。

 ふと、大輔は眼鏡を外して拭き始めた。
 うーん。別に汚れてないし退屈なのかな。
 俺がオーダーした酒が来た瞬間、急に大輔はそれを一気に飲み干してしまった。

 なんだ、こいつ。

「それ、俺の…」

 そして言い終わる前に唇を塞がれた。

え?

 状況把握までに時間がかかったが、これはあれだ、完全に俺、大輔にキスされた。

 わかった瞬間右手で大輔の胸辺り何発か殴るが、びくともしない。左手で殴ろうかと思ったらなんか手を掴まれてしかもごっつ力強くてびくともしねぇ。

 やっと離れたと思えば大輔、向こう側にぶっ倒れてて真里が肩を怒らせながら立ち上がっていた。どうやら、真里がすっ飛ばしたらしい。

「あ…え、えぇ!?」

 今にも殴りかかろうとする勢いの真里。ヤバイ。キレている。

「おい誰か本出刃借りてこい…」

 いやいやいやいや。

「待った、落ち着け、俺なんともないから!」
「なんともなくねぇよ、おら大輔ぇ!てめぇ卸すぞこの野郎」
「いや怖い怖い怖い!」

 と言ってる自分、さっきの思い出し吐き気。

「ちょっと待った俺もタイム…ちょ、真里、鞄からウェットティッシュ取って思い出したらちょっと…」

 みんな唖然。中には「ウェットティッシュ!?」とそっちに驚いてるやつもいる。ごく一部は知っているだろうが、わりと俺は潔癖症なのだ。
 真里はごく自然な動作で鞄からウェットティッシュを取り、渡してくれた。

 これで口拭いて良いのだろうかとかもはや関係ない。結構念入りに拭いてなおかつ押さえたまま。

 やべぇトイレ行こうかな。

 他の席で飲んでたやつらも何事かと大注目。
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