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Hydrangea
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遥子お姉ちゃんの声が届かなくなった頃、病室からガシャーンという物音が聞こえて振り向いた。はっと三人で顔を見合わせ、みっちゃんを一人にしてしまったことに気が付き、病室に戻ると真っ先に目に入ったのは倒れた点滴の台と滴る薬品、いないベット。
そしてベットの手すりに掴まって蹲りながらも窓の鍵を開けようとするみっちゃん。私たちに気付くと、その場にさっき転がしてしまったありとあらゆるものをぶん投げてきた。
「くるなっ…!」
「光也、」
近寄ろうとすると渾身の力を振り絞って、ベットに備え付けられているテーブルのようなものまでこっちに倒してきて。
壁に凭れるように立ち上がったみっちゃんはよく見ると傷口が開いてしまったようで少し血が滲んでいた。
「みっちゃん!」
「うるせぇ!」
怒鳴られてすくむ。
「もう…いいんだ…」
「お前、何考えてんだよ!」
「…みんなといれて楽しかったよ。それだけは伝えとく」
「なんで、なんでそんな」
「光也さん」
そんななか一人冷静にマリちゃんの声が響いて。ゆっくりと歩み寄るマリちゃんは少し狂気を帯びているような気がした。
「くんな…」
「…あんたさ、あん時、刺されに行ったよね。俺、遠目に見ててもわかった。あんたさ、小夜を押し飛ばした後、逃げるのやめてちょっとさ、あの女に頷いたよね」
「…え?」
「あの女動揺してたけどさ。まぁ確かにあの場だとあんたが刺されないとちょっと…でもさ、あんたも小夜もホントは助かったのに、あんた…」
「…ふっ、ははっ」
力が抜けたかのようにみっちゃんは壁に凭れたまましゃがみこんだ。マリちゃんはテーブルを治し、みっちゃんの前まで来てしゃがんだ。
「そんなにだめ?ねぇだめ?」
そしてマリちゃんはそのままみっちゃんの首を締めて馬乗りになって押し倒した。
「マリちゃん!」
「真里やめろよ!」
二人で止めに入る。だけどマリちゃんはやめない。泣きながらみっちゃん首を絞めている。
だけどみっちゃんは苦しそうにしながら一切抵抗をしなかった。反射的にマリちゃんの手に自分の手を伸ばすも添える程度に弱々しい。
「ねぇねぇ…そんな死にたい?そんなに?ねぇその方があんた幸せなの?
だったら俺あんたを殺すから。殺してやるから。だからさ…!」
「やめろよ真里!」
柏原さんが羽交い締めにしてようやく腕は離した。咳き込むみっちゃん。脱力してマリちゃんは涙を拭った。
「あんなんだよぅぅ!
俺がっ…みんなが…どれだけ…あんたの幸せ願っても、生きてて…欲しくても!それ…幸せじゃねぇのかよぉ!」
「落ち着け、真里」
「墓場まで持ってくつもりだったんだ。姉ちゃん、あんなの耐えられるかな…」
そう言うみっちゃんの声はなんだか弱々しくて。
「…俺なんていない方が、消えた方が…お前も、朱鷺子さんも、小夜も、ねぇちゃんもおっさんも…こんな思いしねぇんだよ!」
今度はみっちゃんも泣き始めた。
「小夜…ここまで…縛り付けてごめんな。俺わかってたの。言葉ひとつで小夜がここまで生きるだろうって。辛くなるだろうってわかってたの。でも言ったんだあの時。
ごめんね、小夜。
真里、言ってあげなくてごめんね。お前をここまで辛い思いさせてごめんね。玩んだの、俺は。
こんな厄介事の面倒見させてごめんねおっさん。優しさに甘んじてずっとずっと…」
「うるさいうるさいバカ!!」
なんなのこの人なんなの。
なんでそんなこといままで。
「ねぇなんで言ってくれなかったの?何で抱えちゃったの?私何も知らなかったよ?誰も何も知らなかったよ?なんでなの?」
こんなにずたぼろになるまでなんなのこの人。
「みんな持ってくれるのに、なんで?
私が子供だっていうなら、ちっちゃい荷物だって全然よかった…」
自分を痛め付けないで欲しかった。
ならば私も。
みっちゃんをぎゅっと抱き締めた。血がついてしまっても関係ない。
「あなたが死ぬなら私も死ぬから。これで半分こしよ?」
呪縛を、創る。
「…小夜…」
「それなら死ねないでしょ?」
取り敢えずみっちゃんのお腹から少し滲む血を止められたらいいなと思って少し触ってみる。まだ温かかった。
「みっちゃん…初めて泣いたね。みっちゃんも不細工だよ」
「うぅ…」
頭を撫でてくれるその手も、全部好きなのに。
「光也、確かに面倒だよお前。だけど、俺はお前のこと気に入ったから店にも誘ったし、面倒見てんだよ。もはや趣味だからお前らの面倒見んのなんて。
皆きっとそうなんだよ。だから別に無理矢理死ぬことねぇじゃん?まぁ、それが嫌でもお前のことなんて死なしてやらん。
お前だけ楽するなんてずるいからな。俺らやっとお前のことちょっと知れたんだよ。お前は俺らのこと知ってるくせに。なんかずるいよな。そのまま墓場になんて行かせないわ」
柏原さんもしゃがんでみっちゃんの頭をがしがしなでて。マリちゃんは泣きすぎて喋れなくなったのか抱きついて。
「ふっはっは…!」
そんな私たちを見てみっちゃんからは自然な笑いが溢れたみたいで。優しく私の涙を左手で拭い、右手ではマリちゃんの頭を撫でてあげてた。
「あー、めんどくせぇなぁ…」
そのまま倒れて、私の涙を拭った手を額に当てて笑った。
「生きてなくちゃいけないね」
そう、言ったのに。
そしてベットの手すりに掴まって蹲りながらも窓の鍵を開けようとするみっちゃん。私たちに気付くと、その場にさっき転がしてしまったありとあらゆるものをぶん投げてきた。
「くるなっ…!」
「光也、」
近寄ろうとすると渾身の力を振り絞って、ベットに備え付けられているテーブルのようなものまでこっちに倒してきて。
壁に凭れるように立ち上がったみっちゃんはよく見ると傷口が開いてしまったようで少し血が滲んでいた。
「みっちゃん!」
「うるせぇ!」
怒鳴られてすくむ。
「もう…いいんだ…」
「お前、何考えてんだよ!」
「…みんなといれて楽しかったよ。それだけは伝えとく」
「なんで、なんでそんな」
「光也さん」
そんななか一人冷静にマリちゃんの声が響いて。ゆっくりと歩み寄るマリちゃんは少し狂気を帯びているような気がした。
「くんな…」
「…あんたさ、あん時、刺されに行ったよね。俺、遠目に見ててもわかった。あんたさ、小夜を押し飛ばした後、逃げるのやめてちょっとさ、あの女に頷いたよね」
「…え?」
「あの女動揺してたけどさ。まぁ確かにあの場だとあんたが刺されないとちょっと…でもさ、あんたも小夜もホントは助かったのに、あんた…」
「…ふっ、ははっ」
力が抜けたかのようにみっちゃんは壁に凭れたまましゃがみこんだ。マリちゃんはテーブルを治し、みっちゃんの前まで来てしゃがんだ。
「そんなにだめ?ねぇだめ?」
そしてマリちゃんはそのままみっちゃんの首を締めて馬乗りになって押し倒した。
「マリちゃん!」
「真里やめろよ!」
二人で止めに入る。だけどマリちゃんはやめない。泣きながらみっちゃん首を絞めている。
だけどみっちゃんは苦しそうにしながら一切抵抗をしなかった。反射的にマリちゃんの手に自分の手を伸ばすも添える程度に弱々しい。
「ねぇねぇ…そんな死にたい?そんなに?ねぇその方があんた幸せなの?
だったら俺あんたを殺すから。殺してやるから。だからさ…!」
「やめろよ真里!」
柏原さんが羽交い締めにしてようやく腕は離した。咳き込むみっちゃん。脱力してマリちゃんは涙を拭った。
「あんなんだよぅぅ!
俺がっ…みんなが…どれだけ…あんたの幸せ願っても、生きてて…欲しくても!それ…幸せじゃねぇのかよぉ!」
「落ち着け、真里」
「墓場まで持ってくつもりだったんだ。姉ちゃん、あんなの耐えられるかな…」
そう言うみっちゃんの声はなんだか弱々しくて。
「…俺なんていない方が、消えた方が…お前も、朱鷺子さんも、小夜も、ねぇちゃんもおっさんも…こんな思いしねぇんだよ!」
今度はみっちゃんも泣き始めた。
「小夜…ここまで…縛り付けてごめんな。俺わかってたの。言葉ひとつで小夜がここまで生きるだろうって。辛くなるだろうってわかってたの。でも言ったんだあの時。
ごめんね、小夜。
真里、言ってあげなくてごめんね。お前をここまで辛い思いさせてごめんね。玩んだの、俺は。
こんな厄介事の面倒見させてごめんねおっさん。優しさに甘んじてずっとずっと…」
「うるさいうるさいバカ!!」
なんなのこの人なんなの。
なんでそんなこといままで。
「ねぇなんで言ってくれなかったの?何で抱えちゃったの?私何も知らなかったよ?誰も何も知らなかったよ?なんでなの?」
こんなにずたぼろになるまでなんなのこの人。
「みんな持ってくれるのに、なんで?
私が子供だっていうなら、ちっちゃい荷物だって全然よかった…」
自分を痛め付けないで欲しかった。
ならば私も。
みっちゃんをぎゅっと抱き締めた。血がついてしまっても関係ない。
「あなたが死ぬなら私も死ぬから。これで半分こしよ?」
呪縛を、創る。
「…小夜…」
「それなら死ねないでしょ?」
取り敢えずみっちゃんのお腹から少し滲む血を止められたらいいなと思って少し触ってみる。まだ温かかった。
「みっちゃん…初めて泣いたね。みっちゃんも不細工だよ」
「うぅ…」
頭を撫でてくれるその手も、全部好きなのに。
「光也、確かに面倒だよお前。だけど、俺はお前のこと気に入ったから店にも誘ったし、面倒見てんだよ。もはや趣味だからお前らの面倒見んのなんて。
皆きっとそうなんだよ。だから別に無理矢理死ぬことねぇじゃん?まぁ、それが嫌でもお前のことなんて死なしてやらん。
お前だけ楽するなんてずるいからな。俺らやっとお前のことちょっと知れたんだよ。お前は俺らのこと知ってるくせに。なんかずるいよな。そのまま墓場になんて行かせないわ」
柏原さんもしゃがんでみっちゃんの頭をがしがしなでて。マリちゃんは泣きすぎて喋れなくなったのか抱きついて。
「ふっはっは…!」
そんな私たちを見てみっちゃんからは自然な笑いが溢れたみたいで。優しく私の涙を左手で拭い、右手ではマリちゃんの頭を撫でてあげてた。
「あー、めんどくせぇなぁ…」
そのまま倒れて、私の涙を拭った手を額に当てて笑った。
「生きてなくちゃいけないね」
そう、言ったのに。
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