心中 Rock'n Beat!!

二色燕𠀋

文字の大きさ
2 / 74
卯月と紅葉

2

しおりを挟む
「でね、亀ちゃん」

 着替えろと言ったはいい。

 どうやら話したかったことを思い出したらしい依田は着物は脱いだが、パンツ一丁で寝室からリビングに現れた。

「ほら変態じゃねぇかバカちんが」

 茄子の頭をヤツにぶん投げてやった。

「痛っ。
 ちょっと食べ物粗末にしちゃいけないんだよ!ねぇ!」
「うるせぇそれは生ゴミだわバーカ!いいから服着ろよ変態!」
「でさぁ、」
「いや聞け。人の話」

 うるさいなぁ。

 そう言いながらその場でソファに脱ぎっぱなしの黒い七分Vネックと長袖のジャージを履く依田。

 どうかと思う。夏なのに。半ズボンじゃないとかよくわかんない。

「で?」
「うん。亀ちゃん俺さぁ。
 バイセクシャルかもしれない」
「はぁ、で?」
「うん。そんだけ」

 依田は満足したように一人頷いてソファに座り、ぶん投げるように置いてあった三味線に手を伸ばすのだから、あたしは流石に「おい待て」を掛けるしかない、ないじゃないか、だってさぁ…。

「え?なに?」
「なんだそれは」
「だから、太棹の猫皮だって何回」
「違ぇよ相棒の話じゃねぇよ」
「あ、相棒?穂咲ほさき兄さんでしょ?」
「違ぇよ相棒の話じゃねぇよ」
「え何?よくわかんないんだけど」

 ポイズン?とか言ってやがる。投げる物がない。

「じゃなくて!
 なんで突然のカミングアウトなの?」
「かみんぐあうと」
「告白!」
「え、俺別に穂咲兄さん好きくないよ。話が飛んじゃったなぁ嫌だなぁ。
 あ、いや好きよ声とか。けど違うあれは商売で、
あいやぁ、でもどうかなぁ」
「うっせぇよどうでもいいよ」
「ゆくーぅ、そらぁぁのぉ、」

 ぽん、ちゃらん。

「あぁぁ、うるさい!
 何?言いたくないの言いたいの?」
「え、聞きたいの?聞きたくないの?」

 なにこいつ。

「うぜぇぇぇ!」
「はははー、よく言われるー♪今日もししょーに言われた」
「で、話が進まない。
 ししょー曰く、『雀次が只事じゃない』そうですがそれとは関係」
「ありますな。はっはー」

 なんなんだこいつ。
 とても素敵すぎる笑顔で振り返る泣き黒子。あぁ、これ普通の女だったら落ちてるよ。普通の女だったらね。

 依田はまぁ、わりと男前なんでしょう。あたくし沢山の男に一応会ってきましたが、まぁ、10番目くらいにはかっこいいよ多分一般的にね。一般人でね。二重だし鼻高いし、笑いエクボとかね。

 けどこいつそう。

「てか、ししょーにそう言われたかぁ。俺もう終わりじゃん、人として終わりじゃん。
 いや待て認められたのかな?ねぇどうかな?ねぇ?」

 史上最大級にして変人であり。

「だったらスゴい。明日ヤバイ。言いふらしてしまおうかな。乃崎のざき一門にまで言いふらしてしまおうかな」
「やめとけ多分左腕へし折られるよ、ししょーに。あと多分違うから口が裂けても言うんじゃないよ」

 史上最大級のポジティブクソ野郎である。
 諭してやればポジティブクソ野郎、「だよねぇ、」とそれでも笑顔。

 なんだろう、一度誰かに捻り潰されればいいのにこのバカは。

「で、何を持ってしてお前はゲイだと?芸道の鬼鷹沢雀次よ」
「いやゲイじゃないよ多分。多分」

 何故二回言った。

「だって俺君のこと抱けるでしょうが君ってなんでそうヘタクソなの表現が」
「昔過ぎて忘れてたじゃねぇかクソッタレぇ!じゃあれか衆道しゅうどうか、あ?」
「それ意味微妙に違うけど一緒!
 じゃなくて!お前ってなんでそう色気がないの!?あり得ない、お亀を見習えよ」
「悪かったな、これでもSMバーでは人気3位だわ」
「知ってるわぁ!そーゆーとこが色気ないヤダもうホント」

 そうなんです。
 あたくし、亀田かめだ卯月うづきは、とあるバンドのベース担当をしつつ。
 食っていけないのでキャバクラを引退しいまや3年ほどSMバーでバイトをしております。

 依田紅葉とはそのSMバーで出会いました。
 意気投合したきっかけは、楽器でした。

 三味線奏者鷹沢雀次、ベース奏者亀田卯月。

 彼は出会ってすぐの頃、あたしに言いました『卯月の紅葉みたいだ』と。
 よくわかりません、いまだに。

 初めて彼が店に来たときはもう、

「えすえむばー?」

 状態でした。
 何故来たか。

 ご師匠、鷹沢雀生様様、彼の性癖の問題でした。ちなみにジャクソンくん(雀三くん)もご一緒だったと、さっき思い出しました。
 彼はその時確か、「けいこが」と言ってししょーとこいつとその他太夫を置いて帰ったので、あたくしてっきりそれは彼女の名前かと思ってましたが、違ったようですね、納得。

 一人馴染めぬこいつに、あたしは仕方なく営業トークをしまくり、挙動不審のこいつ、しかし見込みがありそうだとどうにか頑張った結果。

 その日酔っぱらいまくったこいつに襲われ、レズビアンだとあたしが泣き喚いたら「責任持ちます」と家を与えられ今に至り。

 確かに、才能あったらしい。
 しかし、まさかの3年目にして発覚、しかもこのパターン。あたしはこれ、どないせーっちゅーねん。

「んで、何、誰」
「なんでそーゆーときだけ女子目線なのホント。まぁいいよ恋バナ恋バナ。焼酎と麻婆茄子持ってきて」
「あっ」
「えなに」
「切ってたの忘れてた」
「えぇぇぇ!
 それってさぁ、」
「うん黒い」
「うわぁ、まぁ、食べられるけど…ホントにそんな女子いるんだ」
「うるさいな、お前作れし」
「手切ったら殺される。あと水に晒したら音ブレる殺される」
「めんどいだけだろ」
「バレた。わかったよ、はい座って。ギターでも弾いたら?」
「うぇーい」

 麻婆茄子選手交代。
 女子力はあたしよりも高いクソ野郎、依田紅葉。一人暮しが長いとか、なんとか。

 ビールを冷蔵庫から取り、女子力皆無なあたしはそそくさと退散。大体、麻婆茄子に焼酎なんてこいつの気が知れない。
 「うわっ、マジか」と茄子を見て言うのを尻目に、あたしはソファに座る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます! 神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。 美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者! だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。 幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?! そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。 だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった! これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。 果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか? これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。 *** イラストは、全て自作です。 カクヨムにて、先行連載中。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと - 〇  

設楽理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡ やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡ ――――― まただ、胸が締め付けられるような・・ そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ――――― ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。 絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、 遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、 わたしにだけ意地悪で・・なのに、 気がつけば、一番近くにいたYO。 幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい           ◇ ◇ ◇ ◇ 💛画像はAI生成画像 自作

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/13:『ものおと』の章を追加。2025/12/20の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/12:『つえ』の章を追加。2025/12/19の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/9:『ひかるかお』の章を追加。2025/12/16の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/8:『そうちょう』の章を追加。2025/12/15の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/7:『どろのあしあと』の章を追加。2025/12/14の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

処理中です...